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Entry 2018/10/30
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歴代ピーター・パーカーの違いを解説!『スパイダーマンホームカミング』の評価をメインに紐解く|最強アメコミ番付評12

  • Writer :
  • 野洲川亮

こんにちは、野洲川亮です。

今回は映画『スパイダーマン ホームカミング』を考察していきます。

本作のあらすじや魅力を、歴代のスパイダーマンの個性の違いなども交えて探っていきます。

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

紆余曲折を経て、アベンジャーズに還ってきたスパイダーマン

(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved.

元々、原作コミックでのアベンジャーズには、スパイダーマンも、X-MENも、ファンタスティック・フォーも、デッドプールもいました。

同じマーベルコミックが作品の権利を持つ、ヒーローたちが作品の枠組みを超えて共演する「アベンジャーズ」は、1963年から出版されはじめたシリーズでした。

ちなみに『バットマン』『スーパーマン』などの「ジャスティスリーグ」シリーズは、DCコミックが権利を持つ映画化作品です。

そんなアベンジャーズが“分断”されて映画化されたのは、『スパイダーマン』をソニー・ピクチャーズ、『X-MEN』、『ファンタスティック・フォー』、『デッドプール』を20世紀フォックス、残りの主要作品をマーベルスタジオ(ディズニー子会社)という形で、映画化権がバラバラに売られてしまったことによるものです。

トビー・マグワイア主演「スパイダーマン」シリーズや、ヒュー・ジャックマンを一躍スターダムへと押し上げた「X-MEN」シリーズが、2000年代初頭から世界中で大ヒットを飛ばす中で、原作コミックを知らない観客は、元々のアベンジャーズのことを知る由もなく作品を堪能していました。

しかし、2008年から始まった「アベンジャーズ」シリーズを成功させたマーベルスタジオが、アンドリュー・ガーフィールド主演「アメイジング・スパイダーマン」シリーズが思ったほど興行成績を伸ばせていなかったソニーに接触し、スパイダーマンのMCUへの加入を打診したことで、状況は一変します。

ソニーは当初予定されていた『アメイジング・スパイダーマン3』などの製作を中止し、新たにトム・ホランドを主演にしたシリーズの製作を発表しました。

そして『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』(2016)において、キャプテンアメリカとアイアンマンの対立に参戦する形でMCU作品に初登場、原作ファン待望の「アベンジャーズ」帰還を果たすことになりました。

未熟で幼稚、見守りたくなるピーター・パーカー

(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved.

これまでのスパイダーマンの中の人、ピーター・パーカーのキャラクターはシリーズによって全く毛色の違うものでした。

一言でそのキャラクターを要約すると、トビー・マグワイア版が“オタク”、アンドリュー・ガーフィールド版が“リア充”ということになります。

そして今作のトム・ホランド版はと言うと、“未熟”であり“幼稚”な部分が強調されたキャラクターとなっています。

『シビルウォー キャプテン・アメリカ』では、アイアンマンことトニー・スタークに導かれる形で参戦したピーターでしたが、トニーからは“親愛なる隣人”として、身の丈に合ったヒーロー活動を促されます。

しかし、より大きな活動に憧れを抱きアベンジャーズへの参加を熱望するピーターは、お目付け役であるハッピーに執拗にくらいつきます(既読スルーされても永遠にメールを送り続けるなど)。

そんなピーターが戦うことになる本作のヴィランは、解体業の仕事をトニー・スタークに奪われた腹いせに、チタウリ(アベンジャーズが戦った異星人)の残骸から、ハイテク兵器を開発し売りさばいている中小企業の社長、バルチャーです。

この空を飛ぶヴィラン役を担うのは、かつてバットマンを演じたマイケル・キートンとあって、昔からのアメコミファンにとってはたまらないキャスティングとなっています。

さらに、バルチャーが決して私利私欲のためだけでなく、あくまで家族や従業員の生活を守るために犯罪に手を染める様は、普通の自営業のオジサンを観ているようで、多くの観客の感情移入を誘うようなキャラクターとなっています。

そして、この一見してスケールの小さく映るヴィランは、まだ“スーパーヒーロー途上”にあるピーターにとって身の丈に合った相手であり、強さのインフレが止まらない「アベンジャーズ」シリーズにおいて、新鮮な目線で見られるように作れらています。

これは「アントマン」シリーズにも言えることです。

能力こそスーパーヒーローと同等のものを持つピーターも、精神面は普通の高校生並であり、その能力を最大限に生かすことが出来ないでいます。

糸を飛ばし引っ掛けて、スイング移動するのはスパイダーマンおなじみのアイコン的アクションですが、ゴルフ場で引っ掛ける場所が無く、高速移動が出来ずに必死でダッシュしている様は、そんな未熟さが分かりやすく描かれたシーンです。

しかし、“未熟”で“幼稚”なヒーロー未満のピーターですが、終盤のあるシーンで“自らの都合や感情を押し殺しても戦わなければいけない時がある”ことを実感し、幼稚なヒロイズムを脱却して、真の意味でのスパイダーマンとなっていきます。

全体的にコミカルな演出が目立つ本作において、このシーンは思わぬトリックが使われたサスペンス感あふれる演出がなされており、トム・ホランドの表情が少年から漢へと変わっていくことがよく分かります。

このシーンの詳細は書きませんが、ここでは人種的な思い込みを利用したトリックとだけ申し上げておきます。

本作は身近で親しみやすい描写を積み重ねていくことで、ラストで一歩スーパーヒーローへの歩みを進めるピーター・パーカーがたまらなく可愛く、成長する嬉しさを観客が得られるようになっているのです。

『スパイダーマン ホームカミング』を観た人へオススメ作品

本作を観た人へオススメの作品とくれば、言うまでもなくトビー・マグワイア版「スパイダーマン」シリーズ全3作、アンドリュー・ガーフィールド版「アメイジング・スパイダーマン」シリーズ全2作は外すことが出来ません。

前述しましたが、ピーター・パーカーのキャラクターが演じる俳優、演出した監督、または時代性によって、全く違う感触の人物像となっているのは、大変興味深い比較となります。

同時にそれぞれのシリーズを見比べ、どの作品に魅力を感じるか、どのピーター・パーカーにより感情移入するかで自分が映画に何を求めるかの自己診断にも繋がる、という意味でもオススメです。

そして、本作のトム・ホランド版がお気に入りとなった方には、『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』、『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』も、本作の“前と後”の変化を楽しめることが出来るでしょう。

また、本作の監督を務めたジョン・ワッツの前作であるケヴィン・ベーコン主演の『COP CAR/コップ・カー』は一風変わったスリラー映画として、スーパーヒーローものとは一線を画す楽しさに満ち溢れています。

次回の「最強アメコミ番付評」は…

いかがでしたか。

次回の第13回戦では『ヴェノム』を考察していきます。

お楽しみに!

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

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