Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/10/24
Update

『アポストル 復讐の掟』感想と考察。映画における「宗教」の描かれ方を考える|SF恐怖映画という名の観覧車20

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile020

『ザ・レイド』(2011)の監督として世界で有名になったギャレス・エヴァンスによるNetflixオリジナル映画『アポストル 復讐の掟』(2018)が先日公開されました。

この作品は宗教団体が支配する島で、「宗教」に複雑な想いを抱える男が妹を救うため奮闘する「サスペンス」&「ホラー」な作品で、宗教と言うものの「光」と「闇」を描いています。

今回は『アポストル 復讐の掟』の魅力を紹介しつつ、映画から見る「宗教」のあるべき姿を考えてみようと思います。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

『アポストル 復讐の掟』のあらすじ


Netflixオリジナル映画『アポストル 復讐の掟』

身代金目的で誘拐された妹のジェニファー(エレン・リズ)を取り戻すため、単身で宗教団体が支配する「島」に忍び込んだトーマス(ダン・スティーヴンス)。

「島」を実質的に支配する予言者のマルコム(マイケル・シーン)は、長年の不作により自給自足での暮らしが難しく、この「島」での生活にジェニファーの身代金を当てにしていて…。

作りこまれた世界観と人物

今作は、ジャンルとして「ホラー」と類される事が多い作品です。

物語としても序盤は不可解な出来事や驚かせる描写が複数あり、「ホラー」としての世界観を演出していますが、作品全体を見るとこの映画を「ホラー」と属するには少々疑問が残ります。

それは、「サイコホラー」と属するにはあまりにも人間の描写が作りこまれているからであり、「カルトホラー」と属するには「超常現象」が人に悪意をもたらす描写が少ないからです。

閉塞的な空間での人間関係

主人公が「島」へ訪れる最序盤を除き、劇中では「島」以外の場面がほとんど存在しません。

このことで、主人公のトーマス以外が同じ宗教観を持つ人間たちに囲まれる「サイコホラー」が描かれている、と思いきや今作は一味違った展開を迎えます。

「島」では、必ずしも全員が全員、予言や奇跡を信じているわけではありません。

家族の関係で仕方なくこの「島」にいる者や、家族のためにこの「島」を離れようと考える者など、様々な人間関係が「島」の内部で発生していて、それが時にはトーマスの助けになります。

敵であるマルコムたちも一枚岩ではなく、それぞれがお互いに「不満」を持ちあい、ギリギリのところで繋がっているなど、誰のシーンでも目を離せないほどの人間模様が、理解の出来ない心理を描く「サイコホラー」とは違い、とてつもない「人間らしさ」を放っています。

視覚的、精神的にもグロテスクな描写

しかし、完全に「ホラー」でないわけでもありません。

全体を漂う宗教色を前面に出した雰囲気や、不気味な「女神」の彫刻、「島」の深層部にいる人のデザインなど数々の美術面での恐怖感は心の奥底にある「恐怖」をしっかりと味わうことになります。

刃物による殺傷描写も多く、視覚的にもグロテスクな作品ではあるのですが、一方で作中で行われるあまりにも「残虐なシーン」は敢えてその部分を映さず、何が起きているのかを「音」のみで伝え、それが逆に想像力を引きたてさせられます。

前述したとおり、多少ではありますがびっくりとさせるシーンもあり、「ホラー」や「グロテスクな描写」に耐性のない人にオススメ出来る映画ではありませんが、『バイオハザード7』のように、海外を舞台にした「ホラー」ゲーム等が好きな人には間違いなくハマる世界観の作品です。

『アポストル 復讐の掟』と「宗教」

予言者マルコムは、序盤こそ自分たちに不利益を成す人物を殺害しようとする「危険な教祖」として描かれていますが、物語が進行するに連れ、彼が「島」の人間の犠牲を嫌う様子も見え始めます。

身代金目的で誘拐されたジェニファーを除き、この「島」での生活は希望制です。

そのため、この「島」に来た人間は、心の「救い」を求め訪れた人たちであり、マルコムは「島」の秘密を使い彼らと自身の生活を永遠に続けようと考えていました。

誘拐や殺人のような行動は許される行為ではありませんが、マルコムの行動は「島」の人間を守るための行為に終始していると言えます。

しかし、マルコムの側近のある人物はトーマスと言う「異物」の侵入で揺れるマルコムに漬け込み、「島」の秘密を私利私欲へと使い始め、「島」に混沌が訪れます。

今作から見ることが出来るのは「宗教」が、何かに追い詰められた人間の最後の行き場であり、生きるための「導き」となり得る一方で、使う人間次第ではその存在が他人を追い詰める「危険」な存在にもなりかねないと言う、「宗教」の「光」と「闇」の部分です。

新興宗教との戦いを描いた「トリックTRICK」シリーズ


(C)2010「劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル」製作委員会

およそ4分の3の人間が「無宗教」とも言われる日本では、今作のような「宗教観」があまり馴染み深くありません。

一方で、阿部寛と仲間由紀恵が主演をし、大ヒットとなったシリーズ「トリックTRICK」のように、エセの新興宗教のトリックを見破る物語を描きつつも「宗教」の「役割」に注目した作品も存在します。

「TRICK」のいくつかのエピソードでは、主人公たちが崩壊させた宗教団体の信仰者が絶望の底に落ち、泣き叫んでいるという後味の悪いラストが描写されます。

仮にその「宗教」がエセであったとしても、その存在に「救い」を見ていた人間がいるとするなら、その存在を一概に「悪」と決めつけることが出来るのか。

現代の日本と言う立ち位置から「宗教」の「光」と「闇」を描く視点として「TRICK」シリーズも一見の価値がある作品です。

まとめ

海外ドラマ「ダウントン・アビー」にレギュラー出演し、「X-MEN」シリーズのドラマ版である「レギオン」では主演を勤めるなどドラマでの活躍で話題を集めるダン・スティーヴンスや、確かなキャリアと演技力のあるマイケル・シーンなどが出演した『アポストル 復讐の掟』。

手に汗握る「サスペンス」としても、閉塞的な雰囲気の中で行われる猟奇的な「ホラー」としても、そして「宗教」と人との「距離感」を描いたメッセージ作品としても頭に強く刻まれる作品であり、全ての物は結局、使う「人」次第で「善」にも「悪」にもなるのだと痛感させられる作品でした。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile021では、11月3日公開の最新SFオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(2018)のエピソードの1つ「PLAN75」を題材に、作品の魅力と世界が抱える問題を類似映画と共に考えていこうと思います。

10月30日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

『恋を知らない僕たちは』あらすじ感想と評価解説。実写キャストの⼤⻄流星と窪塚愛流が主題歌にのせて”恋と友情を等身大に”演じる|映画という星空を知るひとよ216

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第216回 ⽔野美波の漫画『恋を知らない僕たちは』が、映画化に。なにわ男子の⼤⻄流星が主役の英二役に抜擢され、映画初主演を飾っています。 青春真っ只中の6人の高 …

連載コラム

韓国映画『メタモルフォーゼ 変身』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。やばいガチ怖ホラーでエクソシストを描く|未体験ゾーンの映画たち2021見破録1

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第1回 映画ファン毎年恒例のイベント、今回が10回目の開催となる「未体験ゾーンの映画たち2021」が、2021年も1月22日(金)よりヒューマントラス …

連載コラム

『朝が来る』原作小説ネタバレと結末までのあらすじ。映画で母としての女性の生き方はどう描かれるか考察|永遠の未完成これ完成である7

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第7回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは、2020年10月23日(金)よりTOHOシネマズ日比谷 …

連載コラム

映画『ペリカン・ブラッド』あらすじと感想評価レビュー。心理サスペンスとミステリーの手法で社会問題に提起|2020SKIPシティ映画祭11

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020エントリー・カトリン・ゲッベス監督作品『ペリカン・ブラッド』がオンラインにて映画祭上映 埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにておこなわれるデジタ …

連載コラム

【短編映画無料配信】修羅とラップ|あらすじ感想評価レビュー。サスペンスで絶体絶命のヒロインの“コミカルな”戦いを描く《松田彰監督WEB映画12選 2023年4月》

「月イチ」短編WEB映画・第4弾『修羅とラップ』が無料配信中! 『つどうものたち』(2019)、『異し日にて』(2014)、『お散歩』(2006)などの作品で数々の国内外の映画賞を受賞してきた松田彰監 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学