ブルース・ウィリスが主演を務めた『デス・ウィッシュ』
ブルース・ウィリスがアクション完全復活!愛する者を失った善良な外科医が復讐の鬼と化し、悪党を成敗していく。
70年代の名作『狼をさらば』を現代バイオレンスホラーの名手イーライ・ロスが見事に現代版にアップデートさせた快作です。
痛快アクションというだけでなく銃社会アメリカへの警鐘にもなっている今見るべき映画です。
映画『デス・ウィッシュ』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【監督】
イーライ・ロス
【原作】
ブライアン・ガーフィールド
【キャスト】
ブルース・ウィリス、ヴィンセント・ドノフリオ、エリザベス・シュー、カミラ・モローネ、ボー・ナップ、ジャック・ケジー、カービー・ブリス・ブラントン、ディーン・ノリス、キンバリー・エリス、レン・キリオー
【作品概要】
善良に暮らしてきた外科医一家を襲う悲劇。警察は犯人を捕まえられず、痺れを切らした主人公は自分で工夫を凝らして武装して犯人を追い詰めていく。
ブライアン・ガーフィールド原作『Death Wish』を、1974年のチャールズ・ブロンソン主演作『狼よさらば』に続いて再映画化。
主人公ポール・カージーは言わずと知れたアクションスター、ブルース・ウィリス。
その弟役で『フルメタルジャケット』の”ほほえみデブ”で有名なヴィンセント・ドノフリオが名演を見せています。
監督は名作ホラー『食人族』『メイクアップ』をそれぞれ『グリーンインフェルノ』『ノックノック』にリメイクし、現代風にアップデートさせた実績のあるイーライ・ロス。
しっかり現代的設定を盛り込み、主人公の職業を建築士から医者に変え、よりリアルな話となっている点にも注目です。
映画『デス・ウィッシュ』のあらすじとネタバレ
2016年、過去最悪の犯罪件数を記録しているシカゴ。
名外科医ポール・カージーは妻のルーシー、娘のジョーダンと郊外の邸宅で幸せに暮らしていました。
高校生のジョーダンはNYの希望大学に合学、ルーシーも努力を認められてポールと同じく医師の資格を手に入れ、一家揃って順風満帆。
同じくシカゴに暮らすポールの弟フランクも駆けつけて母子の合格を祝います。フランクは失業中で高給取りのポールにお金を借ります。
フランクがタクシーを呼ぶと、腕にMJという刺青を入れた怪しい男が運転手としてやってきます。
運転手はカージー家の住所を携帯でどこかに送りました。
数日後、ポールの誕生日。ルーシーとジョーダンは家でバースデーケーキを作っていました。
そこに覆面をかぶった強盗3人組が銃を持って乗り込んできます。
ジョーダンは隙を見て男の顔をナイフで切りつけ、男は痛みで覆面を外します。
顔を見られてしまったので彼女たちを銃撃する強盗。
ポールの病院に妻子が運ばれ、ポールは家族のもとに駆けつけますが、ルーシーは胸を打たれ既に死亡、ジョーダンは頭に銃弾を受けて昏睡状態になっていました。
悲しみに暮れるポールのもとに、シカゴ警察の刑事のレインズとジャクソンがやってきて、半年で6件も強盗が起きている事を話します。
ジョーダンはいつ昏睡状態から目が覚めるかわかりません。
ポールはルーシーの遺体を彼女の故郷テキサスに連れて行きます。
葬儀後、近くの草原で密猟者を発見した義父は車にあったショットガンを持ち出し、逃げ出す密猟者たちに向けて発砲します。
義父は「警察が来るのは事件の後、自分の身は自分で守るしかない」と言います。
シカゴに戻ってからもポールは絶望と不安に苛まれ、ろくに睡眠も取れていませんでした。
レインズに捜査状況を尋ねますが、犯罪者が多すぎて捜査は難航。わかっているのは犯人が3人組という事だけとレインズは言います。
ある夜、女性が暴漢に襲われそうになっているのを見てポールは声をかけます。女性は隙を見て逃げましたが、ポールは男達に暴力を振るわれてしまいます。
翌日近所の銃専門店に行くポール。購入の手続きを聞くと書類を書いてから最速で72時間以内に銃が手に入るとのことでしたが、監視カメラが気になり買うのは止めました。
数日後、銃撃戦による負傷者が運ばれてきた際に、患者のポケットから拳銃が床に落ちます。
それを拾い持ち帰るポール。
YouTubeの解説を見ながら扱いを覚え、射撃訓練をします。
ある夜、ポールは暴漢たちがカップルの車を襲っているのを見て暴漢らに向けて発砲。カップルは無事逃げ出し、暴漢たちは銃撃戦の末射殺します。
通りがかった女性がその様子をYouTubeにアップし、一気に話題になりました。
ポールはフードを被っていたので、動画を見たレインズたちにも正体はわかりません。
しかし、銃撃戦の最中に銃のスライドで手を怪我している様子を見て、銃の扱いに慣れていない素人だということは分かりました。
フードの男は犯罪者を始末する「死神」としてニュースでも話題になります。
服は病院で廃棄された物を着込み、フードをかぶっているので警察も犯人像を掴みきれません。
ネットでも「死神」を支持する声が強まっていますが、個人の法を超えた自警行為を疑問視する流れもありました。
ある日、病院に瀕死の患者が送り込まれてきます。
血まみれのその男は腕に「MJ」の刺青があり、ルーシーと同じ腕時計をつけていました。MJはそのまま死亡。
不審に思ったポールが遺体安置室に忍び込みMJの携帯を確認すると、カージー家の住所をとある男に送った痕跡がありました。
MJに成りすましてその男に連絡すると「店に来い」と言われます。
ポールは家族を奪った犯人たちへの復讐を決意します。
映画『デス・ウィッシュ』の感想と評価
アップデートの名手、イーライ・ロス
イーライ・ロス監督は『食人族』(1981)から『グリーンインフェルノ』(2014)への改変が大成功したように、過去の名作を現代風にアップデートする名手です。
今回もSNSやYouTubeなどの現代的要素も加え、また主人公の職業を原作の建築士から外科医に変え、善良で平和主義のエリート男性がビジランテに変わっていく様をしっかりと説得力持って描いていました。
特に主人公を外科医にしたことで手先が器用で銃が上達していくことや、犯行の服を病院の廃棄から調達するなど設定がリアルになっています。
負傷した犯罪者が病院に運び込まれるので銃も犯人への手がかりも手に入るというストーリーも自然です。
そして年輪を重ね渋みを増したブルース・ウィリスと弟フランク役のヴィンセント・ドノフリオは素晴らしい演技を見せてくれています。
特にヴィンセント・ドノフリオが、ダメだけど憎めない弟をしっかりと演じてくれているお陰で、主人公が暴力の世界に行き過ぎないようつなぎとめる“くさび”になっているのも効果的です。
娘のジョーダン役のカミラ・モローネの美貌と愛らしさにも注目。
「この娘に手を出されたら俺も復讐の鬼になるな」と納得の美しさ。
そして『ホステル』を撮ったロス監督お得意のホラー演出や拷問描写も冴え渡っています。
最初の母子襲撃シーンは犯人登場までしっかりとサスペンスを盛り上げてくれますし、ポールが犯人達を追い詰めていく時の拷問描写も容赦なし!
特に脚の神経を切ってエンジンオイルをかける描写はバイオレンス映画マニアには垂涎でしょう。
ラストもチャールズ・ブロンソン版と同じく、手で銃を作って撃つ真似をしてバシっと終わり、AC/DCの名曲「Back In Black」が流れてエンドロールに突入します。
非常に気持ちよくて格好いい締めくくりになっており、スカッとして劇場を出られます。
監督の問題提起
「暴力に暴力でやり返す話でこのスカッと感はどうなのか」という疑問を抱いてしまうのも事実で、一部から批判を受けているように、本作はアメリカ銃社会を肯定しているようにも見えてしまいます。
アメリカでは今年高校生による銃規制デモがあったばかりで非常にセンシティブな問題です。
そんな中で「銃がなければ自分や家族を守れない」という何百回も言われてきたような主張を描けば批判は免れません。
しかしイーライ・ロスはただホラーやバイオレンスを描くだけでなく、常に自分の問題意識を盛り込んでくる作家です。
『ホステル』では人を人と思わない上流社会の人間たちを、拷問を楽しむ組織として戯画化して描いていますし、『グリーンインフェルノ』ではジャングルを切り開く文明人への警鐘や、薄っぺらい正義感で偽善的な行動を取る人間を批判的に捉えた描写を盛り込んでいました。
本作『デス・ウィッシュ』でも彼の問題意識はしっかり盛り込まれています。
主人公ポールは自警行為によって英雄扱いされ、復讐もしっかり果たし、娘も回復、弟との関係を改善させて、逮捕されることもなく最後は医者として仕事に戻り、街の治安も回復します。
ポールが自警行為を始めたことによって彼が何か代償を払う描写がほとんどないんです。
しかしこれは敢えてそういう話にしている事で問題提起をしているのではないでしょうか。
そう考えると主題歌のAC/DC『Back In Black』にも意味が込められていると感じてきます。
景気のいい曲調ですが『Back In Black』には次のような歌詞があります。
This guy came back wearing clothes of the color of black
(彼は黒い物を身につけて帰ってきた)
This guy come back into the darkness
(彼は暗闇から帰ってきた)
主人公ポールは一時的に暴力の世界に身を置き、最後はそこから足を洗ったように見えますが、最後は彼がまた自警行為をすることが示唆されています。
また単に復讐目的だけでなく主人公が暴力の行使で心の平穏を得ているような描写もあり、批判的な目線はしっかりと盛り込まれています。
本作を見て「これでいいのか」とちょっとでもモヤッとしたら監督の術中にはまっているといってもいいでしょう。
またフィッシュとの戦いで、ボーリング玉が落ちてくるというただの偶然で勝つ場面がありますが、あそこもまるで神までポールの行動を後押ししているかのように見えます。
これも監督が観客に判断を委ねたシーンと言えます。
また肝心の銃社会への問題提起もされています。
主人公が銃専門店に行くシーンではアメリカの銃購入手続きがあまりに簡単すぎる事、そして2回目に店に行くと店主がポールのことを覚えていなかった事。
おまけにユーチューバーが銃の扱いの動画を流して稼いでいる様子まで見られます。
こんなお手軽な社会の恐ろしさを感じさせてくれます。
まとめ
スカッとすることもできますし、疑問を持ち帰ることもできる多層構造の映画です。
ブロンソン版「狼よさらば」には4つの続編があり、本作も続編が期待できる終り方になっています。
アクション映画ファンとしては、シネコンにブルース・ウィリスが戻ってきてくれただけでも本当に嬉しい限りです。
ブルースのキャリア後期の代表作になるでしょう。