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Entry 2018/10/17
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『ウルトラマンガイア』考察と評価。平成三部作の中で異彩を放った「正義の味方か、悪魔の使者か」の設定|邦画特撮大全18

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第18章

今回取り上げる作品は放映から20周年をむかえた特撮テレビ作品『ウルトラマンガイア』(1998~1999)です。

『ウルトラマン80』(1980)から16年ぶりに、平成の世に復活したウルトラシリーズ。その第3弾が『ウルトラマンガイア』なのです。

前々作『ウルトラマンティガ』(1996~1997)、前作『ウルトラマンダイナ』(1997~1998)など、他のウルトラシリーズと比較しながら『ウルトラマンガイア』の魅力を紹介しましょう。

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『ウルトラマンガイア』のあらすじ

世界各地に現れた若い天才たちは、地球規模のネットワーク“アルケミー・スターズ”を形成しました。

彼らはそれぞれの能力を結集し光量子コンピュータ“クリシス”を開発します。

しかしクリシスは、やがて“根源的破滅招来体”という脅威が現れ地球と人類に破滅をもたらすと予言するのです。

破滅招来体の脅威に備えるためにアルケミー・スターズと国連は、防衛システムG.U.A.R.D.(ガード)と精鋭部隊XIG(シグ)を設立しました。

そして世紀末……。東京上空にワームホールから宇宙戦闘獣・コッヴが現れ町を襲撃!!

XIGが応戦するもののコッヴの力に圧倒され苦戦を強いられます。

破滅招来体の脅威に憤るアルケミー・スターズ日本代表の大学生・高山我夢。彼は地球からウルトラマンの力を授かり、ウルトラマンガイアとなって破滅招来体と闘うのです。

我夢はアナライザーとしてXIGに入隊しますが、ガイアの正体が自分であることを隠しています。

ウルトラマンとなって戦う我夢の前に藤宮博也という青年が現れます。彼は失踪していたアルケミー・スターズの一員で、クリシス開発の中心メンバーでした。

藤宮も我夢同様に地球から選ばれたウルトラマン、“アグル”だったのです。しかし考え方の違いから、我夢=ガイアと藤宮=アグルは対立し……。

地球から生まれたウルトラマン

ウルトラマンガイアのという名前は、ギリシア神話に登場する大地の女神・ガイアに由来しています。

第1話「光をつかめ!」(脚本:小中千昭・監督:村石宏實)で主人公・高山我夢は地球からウルトラマンの力を授かるのです。

ウルトラマンというと、M78星雲・光の国から地球にやって来たという設定を想像すると思います。

『帰ってきたウルトラマン』(1971)の放映中、ウルトラマンたちをグループ化した“ウルトラ兄弟”という設定も登場しました。しかし旧来のウルトラマンとは違い、ガイアは地球出身のウルトラマンです。

M78星雲とウルトラ兄弟の設定は前々作『ティガ』と前作『ダイナ』でも使用されませんでした。

そのためウルトラマンやウルトラセブンが客演することもなければ、バルタン星人やレッドキングなどの過去の人気怪獣の再登場もありませんでした。

つまり『ティガ』と『ダイナ』、そして『ガイア』はそれまでのシリーズの世界観や設定を引き継がず、独立した物語となっているのです。

さらに『ガイア』の場合は『ティガ』『ダイナ』とも世界観を共有しません。

『ティガ』の時代設定は2007年~2010年、『ダイナ』はその7年後の2017年、放映当時の未来が舞台でした。作風は違いますが、『ダイナ』は『ティガ』の正式な続篇で、この2作は世界観を共有しています。

一方『ガイア』の時代設定は近未来ではなく放映年と同じで、リアルタイムの物語だったのです。

『ウルトラマンガイア』は上記の2作と共に“平成ウルトラ三部作”(もしくは“90年代ウルトラ三部作”)と言われますが、この3作の中で唯一独立した作品なのです。

もう1人のウルトラマン

参考映像:『新ウルトラマン列伝』 第41話「天使降臨 ガイア最終決戦!」予告

『ウルトラマンガイア』の魅力のひとつが藤宮博也の変身するウルトラマンアグルです。

シリーズ序盤は考え方の違いから我夢と対立しますが、後半からは共に戦う仲間となります。

ウルトラ兄弟でもなければ偽物のウルトラマンでもないアグルの登場は当時斬新でした。また“大地”の女神の名を冠したガイアに対し、アグルの力の根源は“海”の光です。

藤宮がアグルに変身するバンクシーンでは、モーゼの十戒のように海が裂ける背景が合成されます。

またアグルは海や水のイメージから、従来のウルトラマンのような銀と赤の配色ではなく、青を基調とした色合いのウルトラマンになりました。

ライバル作品である“仮面ライダー”シリーズでは『仮面ライダーアギト』(2001)から、仮面ライダー同士の戦いや対立が描写されはじめます。

中でも13人の仮面ライダーによる『仮面ライダー龍騎』(2003)は放映当時、賛否両論となりました。しかしヒーロー同士の対立や戦いは、すでにウルトラシリーズの方で行われていたのです。

大河ドラマ的な魅力

『ウルトラマンガイア』は連続ドラマ形式で制作されました。

従来通りそれぞれのエピソードに怪獣が出てきますが、シリーズ全篇を通しての謎や伏線が『ティガ』や『ダイナ』以上に用意され、物語が複雑化しました。

例えば敵である“根源的破滅招来体”の設定です。根源的破滅招来体は宇宙から襲来する人類の滅亡を望む存在で、ワームホールから尖兵の怪獣を地球へ送り込んできます。

設定としては『ウルトラマンA』(1972)に登場する敵・異次元人ヤプールに近いと言えます。それぞれシリーズを通しての敵である点、超獣や怪獣を尖兵として召喚する点が両者に共通しています。

しかし根源的破滅招来体は第47話で使者が登場するものの、実体を持って現れることはなく人類滅亡を望む意味も理由も明かされることはありませんでした。

破滅招来体の設定は怪獣や物語のバリエーションを豊富にするために、わざと具体的に設定されなかったのです。

これによってガイアと戦う怪獣たちは幅の広いものとなり、実態の掴めない不穏さが強調されています。

そのほか本作の設定にはガイア理論や量子物理学、風水などが用いられています。

そのため“ワームホール”や“反物質(アンチマター)”、“シュレーディンガーの猫”などの専門用語が頻出するのも特徴です。

このような設定や表現から『ウルトラマンガイア』は、ウルトラシリーズの中でも独特な魅力を持っているのです

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は、堺正章・主演のテレビドラマ『西遊記』(1978)を特集します。

お楽しみに。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

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