Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

『ゾンビ』以後の生ける死体映画の感想と考察。SF的状況下における人間闇とは|SF恐怖映画という名の観覧車19

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile019

突如、地球の侵略を始めた宇宙人と人類の壮絶な戦いを描いたSF映画最新作、『スカイライン 奪還』(2018)が劇場で公開され、「立場の垣根を越え人類が未知の敵に協力して戦う」映画の熱さが、日本中に広まりつつあります。


(C)2016 DON’T LOOK UP SINGAPORE, PTE. LTD

「共通の敵」を前に人類が様々な問題を乗り越え団結する様子は、世界平和の希望であり、映画ならではの夢でもあります。

『バトルシップ』(2012)や『パシフィック・リム』(2013)など異生物との戦いを描いた「SF」映画にはこの傾向が多く、映画を観た際の「熱さ」に貢献しています。

しかし、一方で「モンスターパニック」を代表する「ゾンビ映画」と言うジャンルには、異生物との戦いを描いた「SF」映画に対する「影」のように人間の「裏の部分」が描かれていることが多々あります。

今回は、そんな「ゾンビ映画」から窺い知ることの出来る「人間の闇」について考えていきたいと思います。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

名匠ジョージ・A・ロメロ監督『ゾンビ』

参考映像:70年代の金字塔的名作『ゾンビ』(1979)

ゾンビ映画の第一人者として有名なジョージ・A・ロメロが監督し、「ゾンビと言えばショッピングモール」と言う概念を世に広めた伝説的映画『ゾンビ』。

現代風にアレンジを加えた『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)が公開され成功を収めるなど、今もなおそのプロットは色あせることがありません。

参考映像:『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)

数少ない物資を略奪する人間

この作品では、ショッピングモール内のある程度の危険(ゾンビ)を完全に排除しきり、安全地帯となったショッピングモールに、物資を奪うためなら殺人すら厭わないギャング集団が来襲する終盤が物語のピークとなります。

警察機能が麻痺し、犯罪を取り締まることが出来ない状況下で発生する暴徒たちにより、「聖域」となったはずの場所が崩壊していく。

その理不尽な暴力と略奪はゾンビ以上の脅威であり、人間の秘めたる暴力性が未知の生物に対する「恐怖」をも越えることが分かります。

ダニー・ボイル監督の『28日後…』

参考映像:『28日後…』(2003)

『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)でアカデミー監督賞を受賞したダニー・ボイルが手掛けたゾンビ映画『28日後…』。

ダニー・ボイルによる映像表現が評価を受ける今作は、実際に無人の状態を作り出したロンドンで撮影した冒頭シーンや特徴的な色彩が印象的で、世界中で根強い人気を持っています。

ロバート・カーライル、ジェレミー・レナー、イドリス・エルバなど、多くの有名俳優が出演し話題となった続編『28週後…』を含めたシリーズでは、「レイジ」と呼ばれる謎のウイルスにより凶暴化した人間が人を襲うと言う設定なため、正しく分類するとゾンビ映画ではありませんが、脚本やそのメッセージはゾンビ映画そのものであると言えます。

歪んだ理想を掲げる人間


(C)2002 TWENTIETH CENTURY FOX
安全な場所を提供してもらえるという放送を頼りに主人公たちが訪れた場所には、武装した軍人たちによるコミュニティが築かれていました。

多くを失った主人公たちは、その場所でつかの間の休息を得ますが、彼らの目的は市民の保護ではなく、男性を殺し女性を強姦することで人口を増やすと言う大義名分の下で行われる、非人道的な行為でした。

物腰穏やかに見えて何を考えているのか分からない軍人のリーダーと、「武器」と言う「力」を持つがゆえに尊大かつ粗野な態度を取る軍人たち。

敵なのか味方なのかもわからない「不気味さ」と自分たちの行為を正当化する「悪意」が、凶暴化した人間による直接的な暴力よりもよほど恐ろしく思えます。

ヨン・サンホ監督の『新感染 ファイナル・エクスプレス』

参考映像:『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017)

公開されるや否や全世界で話題と評価を集めた韓国産ゾンビ映画、『新幹線 ファイナル・エクスプレス』。

ゾンビ映画としての基礎をしっかりと踏襲しつつも、「電車」によるロードムービー感や様々な社会風刺を取り入れた今作は、社会における人間の「裏側」を描いた作品としても観ることが出来ます。

社会的立場を勘違いした人間


(C)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved.

主人公たちが、身を挺して娘や妊娠した妻を守ろうとする中で、大手バス会社の重役であるヨンソクは自分の身を守るために平然と他人を蹴落とし、「自分だけが助かる方法」を選択します。

恫喝しわめきたて、自分では何もできないにも関わらず主体性の無い人間をより集め指示し、異を唱えるものを排除するエゴの塊のように描かれるヨンスク。

「ゾンビ」と言う存在がもたらした誰もが平等に危険な状況下において、「社会的地位」を「人間の価値」だと断定する愚かさと、そんな人物の言葉に心を惑わされる人間の弱さが浮き彫りになっている作品でした。

まとめ

危機的な状況下において「人間」による「恐怖」が出来上がってしまう映画は「SF」にも多くあります。

それは『マッドマックス』(1979)や『ザ・ウォーカー』(2010)のように荒廃する世界を描いた「ポスト・アポカリプス」と呼ばれるジャンルに多く、多くの「ゾンビ映画」もこのジャンルに類します。

「数少ない資源を生き残るために奪い合う」、実は現実の社会でも大災害の際における略奪行為はどのような国であれ存在します。

「友情」や「優しさ」で生き残ることが出来るとも限らず、一見非道な行為にも思える行為が最善の道であることも少なくはありません。

「創作物だから」、「安全な状況下にいるから」それらの行為が疎ましく不快に感じることも事実であり、そのような行為をただただ批難するわけにもいかないように思えます。

しかし、死の際で友情を確かめ合った『ゾンビ』や、命を賭してでも大事な人を守ろうとした『28日後…』や『新感染 ファイナル・エクスプレス』のように、危機的状況だからこそ他人を思いやる力で何かを成せることもあるのではないかと思えます。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile020では、Netflix公開映画最新作『アポストル/復讐の掟』から観る、新興宗教と「スリラー」映画の繋がりと、宗教のあるべき正しい姿を考えていこうと思います。

10月24日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

『正欲』あらすじ/キャスト/公開日。朝井リョウ原作を稲垣吾郎×新垣結衣で映画化。キャストコメント&新場面写真が到着!|TIFF東京国際映画祭2023-1

第36回東京国際映画祭・コンペティション部門への正式出品が決定! 朝井リョウによる小説『正欲』を監督・岸善幸×脚本・港岳彦のもと、稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香を迎えて映画化した『正 …

連載コラム

映画『シン仮面ライダー』内容予想考察。原作ネタバレ有で庵野秀明の“ライダー像”を読み解く【邦画特撮大全91】

連載コラム「邦画特撮大全」第91章 今回の邦画特撮大全は『シン・仮面ライダー』を紹介します。 2021年4月3日、「仮面ライダー」生誕50周年企画発表会見での庵野秀明監督による映画『シン・仮面ライダー …

連載コラム

『ブラッド・ファーザー』ネタバレ結末あらすじと感想評価。メル・ギブソンがサバイバルアクションで“元犯罪者のアウトロー”を演じる|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー98

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第98回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

映画『バーヌ』あらすじ感想と評価解説。夫婦対立と交差する複雑な国事情で描く“争いの不条理”|2023SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集1

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023国際コンペティション部門 ターミナ・ラファエラ監督作品『バーヌ』 2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業の変革の中で …

連載コラム

映画『同じ下着を着るふたりの女』あらすじ感想と評価考察。韓国社会の女性たちの対立と葛藤を描く|東京フィルメックス2022-1

東京フィルメックス2022『同じ下着を着るふたりの女(原題)』 2022年で23回目を迎え、10月29日(土)から11月6日(日)まで開催された東京フィルメックス。コンペティション部門に2021年の釜 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学