Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/10/04
Update

『ヘルボーイ』感想と評価。ギレルモ・デル・トロのアカデミー賞の原点とは|最強アメコミ番付評9

  • Writer :
  • 野洲川亮

連載コラム「最強アメコミ番付評」第9回戦

こんにちは、野洲川亮です。

今回はギレルモ・デル・トロ監督の映画『ヘルボーイ』を考察していきます。

後に映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)でアカデミー賞を受賞した、デル・トロ監督の原点とも言うべき作品から、その作風である“異形への偏愛”を探っていきます。

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

原作愛を貫いた執念の『ヘルボーイ』映画化

(C)2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

『ヘルボーイ』の原作コミックは、1994年にダークホースコミックスから刊行されました。

第二次世界大戦の時代、ナチス・ドイツが行った儀式により、地上へと召喚された悪魔の赤ん坊、ヘルボーイが人間に育てられ、エージェントとして魑魅魍魎たちと戦っていくというストーリーです。

この原作、及び作者であるマイク・ミニョーラのファンであったのが、誰あろうギレルモ・デル・トロでした。

元々オタク気質であり、日本の特撮やアニメも愛するデル・トロは、並々ならぬ執念と妥協を許さぬ姿勢で『ヘルボーイ』の映画化を進めます。

スター俳優をヘルボーイ役に据えることを望む映画会社に対し、ロン・パールマンを起用することを譲らず、映画化に至るまで7年以上の月日を要することになりました。

さらにその執念は、『ヘルボーイ』製作への“経験値”を得るためという理由で、同じアメコミ原作のダークヒーロー映画『ブレイド2』(2002)の監督を務めるほどに燃え上がっていきます。

この『ブレイド2』ではデル・トロ憧れの存在である、『ヘルボーイ』作者のマイク・ミニョーラが美術監督を務め、『ヘルボーイ』でもミニョーラはモンスター、背景のデザインに携わります。

万全の態勢を整えたデル・トロは、2004年に念願の『ヘルボーイ』映画化にこぎつけ、全世界で予想を超えるヒットをもたらしました。

それを受けて続編『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』(2008)の製作が決定。

第1作以上の製作費を得て、世界観をスケールアップさせたこの続編は、前作超えのヒットを記録します。

これらの「ヘルボーイ」シリーズは、後にデル・トロにオスカーをもたらすこととなる映画『シェイプ・オブ・ウォーター』へと連なる、あるキャラクターが登場していました。

『シェイプ・オブ・ウォーター』へと繋がる“美しき化け物”造形

shareyourwallpapers.com

ヘルボーイとコンビを組み、サイコメトリー能力を使い活躍するエイブ・サピエンは“青い半魚人”というキャラクターで、正に『シェイプ・オブ・ウォーター』で登場する“不思議な生き物”を連想させるものでした。

『シェイプ・オブ・ウォーター』の“不思議な生き物”も、『ヘルボーイ』のサピエン同様に、半魚人のごとく水中での活動を基本としており、どちらも卵が好物(サピエンは腐った卵)であり、そして演じているのは両方ダグ・ジョーンズという通底したイメージを持つキャラクターなのです。

ここで浮かび上がってくるのが、デル・トロが持つクリーチャー、“化け物”へのこだわりと揺るぎない愛情です。

ダグ・ジョーンズの起用は、この2作品のみならず全6作品に及びます。

デル・トロにとっては単なるスーツアクターではなく、異形のものが持つ未知の身体性を表現することが出来る役者として、代えのきかない存在と考えていることが伝わります。

興味深いのが、デル・トロがダグ・ジョーンズの役作りに関して、『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』でジョーンズが演じたシルバーサーファーの名前を口にしたことです。

全身銀色で、高い頭脳と力を併せ持つシルバーサーファーを念頭に置くということから、“不思議な生き物”が単なる野獣、動物とは一線を画す、奥行きを持つキャラクターとして描写しようとしていることが分かります。

このようなクリーチャーへのこだわりは、人間サイズのキャラクターだけではなく、やはりデル・トロが愛する特撮作品の怪獣にも現れてきます。

その際たる例が『パシフィック・リム』(2013)でしょう。

究極に私的な作品『パシフィック・リム』

日本の特撮アニメ、映画の影響を強く感じさせる『パシフィック・リム』ですが、そこで登場するロボット、怪獣のビジュアルは、ひと際デル・トロの偏愛を感じさせるものでした。

執拗なまでにロボットの一挙手一投足、怪獣のビジュアル(鱗の一つひとつに至るまで)を画面に収めるカメラワーク。

デル・トロの過剰なまでのフェティシズムを包み隠さず、そのまま演出として表現してみせた、ある意味では“究極に私的”な作品と言っても過言ではありません。(監督が代わった続編の『パシフィック・リム:アップライジング』と見比べると、演出の違いは明らかです。)

このようなデル・トロの“異形への偏愛”と、ジャンル映画への不変なる思いが、2018年アカデミー賞にて、『シェイプ・オブ・ウォーター』の作品賞、監督賞など4部門受賞と実を結び、世界中の特撮ファン、映画ファンが歓喜しました。

残念ながら、デル・トロが企画していた「ヘルボーイ」シリーズ第3弾は頓挫してしまいましたが、最近になり2019年公開予定のリブート版『ヘルボーイ』の一部ビジュアルが発表されました。

デル・トロは直接関わることはないそうですが、その偏愛っぷりがどのような形でリブート版に影響を及ぼしているのか、今から大変気になるところです。

次回の「最強アメコミ番付評」は…

いかがでしたか。
次回の第10回戦では、『スパイダーマン3』から新作公開を控える”ヴェノム”というキャラクターを考察していきます。

お楽しみに!

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

トルコ映画『湖上のリンゴ』あらすじと感想レビュー。吟遊詩人の少年が忘れることのできない存在|TIFF2019リポート29

第32回東京国際映画祭・コンペティション部門『湖上のリンゴ』 2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間 …

連載コラム

映画『死体語り』あらすじと感想。ラストまで考察させる心理的ホラーの魅力|SF恐怖映画という名の観覧車72

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile072 大好評開催中の「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」。 当コラムでは今週もイベント内で上映される作品のご紹介をさ …

連載コラム

『ユンヒへ』あらすじ感想と評価解説。韓国映画おすすめラブストーリーを中村優子×キム・ヒエで秀逸に描く|映画という星空を知るひとよ83

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第83回 韓国映画『ユンヒへ』は、日本の北海道と韓国で暮らす2人の女性が心の奥に封じてきた恋をミステリアスに描いたラブストーリー。 韓国のある都市で高校生の娘・ …

連載コラム

『キネマの神様』原作ネタバレと結末までのあらすじ。映画愛を志村けんの代役で沢田研二が追求する|永遠の未完成これ完成である23

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第23回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは人気小説家・原田マハの小説『キネマの神様』です。松竹映 …

連載コラム

【アカデミー作品賞の歴代一覧おすすめ】感動泣ける洋画の名作傑作を発表(2021年予想のために振り返る)|映画という星空を知るひとよ46

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第46回 映画芸術科学アカデミー(AMPAS)が主催するアカデミー賞。2020年の映画から各賞のノミネート作品は、2021年3月15日に発表されます。 2019 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学