1980年から90年代にかけて多発し、全米をパニックに陥れた「悪魔崇拝儀礼虐待」を描いたサスペンス映画『リグレッション』。
実際の事件を基に、人間の奥底にある闇を描く本作をご紹介します。
映画『リグレッション』の作品情報
【公開】
2018年9月15日(スペイン・カナダ合作映画)
【原題】
Regression
【監督】
アレハンドロ・アメナーバル
【キャスト】
イーサン・ホーク、エマ・ワトソン、デビッド・シューリス、ロテール・ブリュトー、デビッド・デンシック、ピーター・マクニール、デボン・ボスティック、アーロン・アシュモア
【作品概要】
映画『アザーズ』のアレハンドロ・アメナーバル監督が、社会問題にもなった悪魔崇拝を描いたサスペンス。
小さな街の悪魔崇拝に挑む刑事、ブルース・ケナーをイーサン・ホークが演じ、共演には映画『 ハリー・ポッター』シリーズのエマ・ワトソン。
映画『リグレッション』あらすじとネタバレ
1990年、ミネソタ。
刑事のブルース・ケナーは、自分の娘を虐待し、連行されたジョーの取り調べを行います。
まともに記憶が残っていないにも関わらず、自らの罪を認めるジョー。
ブルースは心からジョーを軽蔑し、捜査の為、保安官のジョージと共にジョーの自宅を捜査します。
その際、ジョーの自宅にある廃工場に、ブルースは不気味な雰囲気を感じます。
ジョーの自宅から警察署に戻る途中、車のラジオから、悪魔崇拝に関するニュースが流れます。
ジョージは「悪魔崇拝なんか聞きたくない」と、ラジオを切ります。
警察署に戻ったブルースは、ジョーの失われた記憶を呼び起こす為、所長から協力要請を受けた心理学者、ケネス・レインズと会います。
レインズはジョーに退行催眠をかけて、事件当日の記憶を蘇らせます。
事件当日にジョーが見た光景、それはジョーの娘、アンジェラに刃物を持って馬乗りになっている、保安官のジョージで、ジョーは側で写真を撮影していただけでした。
ブルースはジョージを殴り、その場で逮捕します。
次の日、ブルースはレインズと共に、教会に保護されているアンジェラを訪ねます。
精神的なショックを受けて取り乱すアンジェラ。
アンジェラの気持ちが落ち着くのを待っていたブルースは、教会の神父に話を聞きます。
神父は、ジョーの持っていたメモに逆十字架の印が描かれている事を伝え、ブルースは悪魔崇拝の影を感じます。
ジョーとレインズは、アンジェラの兄、ロイを訪ねます。
家族と離れて、廃墟で生活しているロイを不審に感じたブルースは、ジョーがアルコール依存症で、母親はそのせいで事故死したと聞かされます。
悪魔崇拝の情報を引き出す為に、レインズはロイに退行催眠をかけます。
ロイが過去に見た光景、それは自宅にいたロイの部屋に、黒いフードを着て、白塗りの化粧をした数人の信者が入って来るというものでした。
ブルースは、ジョーとジョージが悪魔崇拝をしていた事を確信し、再度ジョーの自宅を家宅捜査しますが何も出て来ません。
自宅に戻ったブルースは、テレビで放送されている悪魔崇拝のニュースを見ながら、異常な時代の空気を感じます。
後日、ブルースはあらためてアンジェラから、悪魔崇拝の情報を聞き出します。
アンジェラが過去に見た光景、それはアンジェラの部屋に黒いフードを着て、白塗りの化粧をした数人の信者が入って来る所から始まります。
信者の1人はアンジェラの祖母、ローズ。
アンジェラはローズに手を取られ、自宅の廃工場へと導かれます。
廃工場には多数の信者がおり、水差しを持った女が「これは夢だ」と語りながら、信者に水を配っています。
そして廃工場では、赤ん坊を生贄として殺害し、ジョーの自宅の敷地内に死体を埋めていたのでした。
また、ブルースはアンジェラに、ジョージによって腹部に刻まれた逆十字の印を見せられます。
そして、アンジェラはブルースに「この事を知ると、警告と勧誘を意味する無言電話がかかってくる」と伝えます。
ブルースは、廃工場とジョージの自宅敷地内を徹底的に調べさせますが、証拠は何も見つかりません。
その夜、ブルースは自宅で悪魔崇拝について調べていると、何者かから無言電話がかかってきます。
その後、激しい雷雨により停電が発生、ブルースはそのまま就寝しますが、物音に気付き目を覚まします。
目の前には、悪魔崇拝者と思われる黒いフードの人物が数人立っており、ブルースの部屋に侵入してきた様子でした。
ブルースは抵抗しようとしますが、手錠で繋がれて身動きがとれなくなり、信者の1人である老婆が、笑顔でブルースの様子を見ています。
信者の女性と無理やり性交をさせられ、その様子を撮影されるブルース、ですが全ては夢でした。
一方、ローズは自宅で黒豹の幻覚を見た事で、恐怖から逃れようと2階の窓から飛び降り、重症を負います。
神父とレインズと共に、ローズの病院を訪れたブルースですが、ロイに追い返されます。
別れ際に「純粋な悪は存在する」と神父から忠告され、十字架を渡されたブルース。
レインズは、非科学的な悪魔の存在を受け入れ始めた、ブルースを軽蔑します。
映画『リグレッション』感想と評価
1980年から1990年代にかけて、アメリカで実際に多発していた「悪魔崇拝儀礼虐待」をテーマにした本作。
この作品の特徴は、観客が、登場人物を誰も信じられないという点です。
「誰が真実を語っているのか?」が、作品の核になるのですが、主人公であるブルース・ケナーでさえ、刑事である事以外は、何も作中で語られていません。
特に、ブルースが見る悪魔崇拝の夢は、夢の中で落とした電話の受話器が、目覚めた後でも落ちたままになっていたり、眠る時は夜の場面だったのが、目覚めると朝になっており、時間の経過を現しています。
悪魔崇拝に関わった者が、全員記憶を欠落させている事を考えると「ブルースも同じじゃないか?」と、物語が進んでいくにつれて、観客もブルースという人間を信じられなくなるのです。
バックグランドが一切語られないブルースを演じたイーサン・ホークは「こんな役は初めてだ」と語っています。
これは、監督のアレハンドロ・アメナーバルの意向で「事件以外の関係ない部分は、極力語らない」という、狙った演出となっています。
また、アンジェラを演じたエマ・ワトソンが素晴らしく、複雑な内面を抱えた役柄を見事に表現しています。
エマ・ワトソンの美しい容姿が、天使のような悪魔であるアンジェラの存在に説得力を与えており、作品全体の完成度の高さに繋がっています。
まとめ
悪魔崇拝を、神父と心理学者の協力を得ながら、解明していくブルース。
無神論者で、科学も疑うブルースは、一般の人間に一番近い感覚を持っています。
それは、オカルトと科学の間に人間が存在しており、人間の心の奥底を解明する事は、どちらに偏っても不可能という事です。
人間はそれだけ難解で、時には悪魔より恐ろしい存在なのです。
実際の「悪魔崇拝儀礼虐待」事件も、神父と心理学者、刑事で事件の解明に挑みましたが、解決できず長期化する事も多かったようです。
また、タイトルの『リグレッション』は、「退行」を意味しており、心理学において抑制された人の記憶を呼び起こす「退行理論」という意味でもあります。
監督のアレハンドロ・アメナーバルは、本作を撮影する際に、自身の原点でもあるサスペンスやミステリーへ、再び挑戦する事をテーマにしており『リグレッション』は「原点回帰」の意味も込められています。
派手な恐怖は無いですが、ジワジワと迫る人間の奥底にある恐怖を、味わってみては如何でしょうか?