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スーパー戦隊はマンネリなのかを考える⑤【再生期】ゴーゴーファイブからゴセイジャー|邦画特撮大全10

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第10章

1990年代に行われた大胆な改革によって、シリーズ存続の危機を回避した“スーパー戦隊シリーズ”。

今回はスーパー戦隊の“再生期”にあたる『救急戦隊ゴーゴーファイブ』から『天装戦隊ゴセイジャー』までの作品について分析していきます。

玩具の売上や作品自体の評価も高いこの時期の作品群。“敵と味方”の関係を中心に、それらの作品を検証していきましょう。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

新たな時代の幕開け『救急戦隊ゴーゴーファイブ』『未来戦隊タイムレンジャー』

『救急戦隊ゴーゴーファイブVSギンガマン』

1999年世紀末のスーパー戦隊は『救急戦隊ゴーゴーファイブ』。

本作のモチーフに選ばれたのは“救急”です。1995年に発生した阪神・淡路大震災、99年と“救急”という語呂合わせからモチーフが選定されました。

そのため本作はレスキュー隊員や消防士、看護師などに務める5人兄弟が変身し敵と闘う物語です。

また“世紀末”という時代性が反映され、敵は人類に災いをもたらす魔の一族“災魔”、太陽系の惑星が十字状に並ぶ“グランド・クロス”など、「ノストラダムスの大予言」などを意識した設定も特徴です。

『未来戦隊タイムレンジャーVSゴーゴーファイブ』新番予告集

翌年2000年、記念すべきミレニアム戦隊は『未来戦隊タイムレンジャー』。

現代に生きる浅見竜也と西暦3000年の未来からやって来た4人がタイムレンジャーとなり、未来の犯罪者集団ロンダーズファミリーとの戦いを描いた作品です。

浅見竜也/タイムレッドとユウリ/タイムピンク、ドモン/タイムイエローと森山ホナミといった未来人と現代人の恋愛描写。

第3勢力的な立ち位置の追加戦士タイムファイヤー/滝沢直人の登場、真の黒幕が味方側にいたなど高年齢層を意識した物語が描かれました。

また敵を倒さず逮捕するのも、この作品の大きな特徴です。

力強い仲間たち『百獣戦隊ガオレンジャー』『炎神戦隊ゴーオンジャー』ほか

『百獣戦隊ガオレンジャー 火の山、吼える』

記念すべきシリーズ第25作目の『百獣戦隊ガオレンジャー』(2001)。

金子昇、玉山鉄二といったイケメン俳優の出演、王道的なストーリーから老若男女問わず人気になりました。

本作で興味深かった点は、ガオレンジャーが搭乗する巨大ロボット・ガオキングに合体する“パワーアニマル”です。

設定上メカではなく精霊であり、人の言葉を話しませんが意志を持った存在です。

そのためガオレッドとガオライオン、ガオブルーとガオシャークといったように、ガオレンジャーたちとパワーアニマルたちはそれぞれ共に戦うパートナーとして描かれます。

『爆竜戦隊アバレンジャー DELUXE』新番予告集

ガオレンジャーとパワーアニマルの設定はその後、『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003)の爆竜、『炎神戦隊ゴーオンジャー』(2008)の炎神に発展継承されました。

パワーアニマル同様、爆竜と炎神は共に戦隊たちのパートナーとして描かれる上、巨大ロボに合体変形します。

Vシネマ『炎神戦隊ゴーオンジャー 10 YEARS GRANDPRIX』 60秒予告編

ただし爆竜と炎神はよりキャラクター性を強調するため、声優がキャスティングされ人の言葉を話すのです。

敵と味方の境界線『忍風戦隊ハリケンジャー』『爆竜戦隊アバレンジャー』

『忍風戦隊ハリケンジャー 10 YEARS GRANDPRIX』

2000年代以降のスーパー戦隊シリーズの大きな特徴として、“敵・味方とは何なのか”を再考しているという点があると思います。

まず忍者がモチーフの『忍風戦隊ハリケンジャー』(2002)に登場する“電光石火ゴウライジャー”。

彼らは流派の違いからハリケンジャーの3人と対立しますが、途中で仲間となるキャラクターです。

仲間になると言っても彼らはあくまで“ゴウライジャー”であり、ハリケンジャーの一員になる訳ではありません。

『爆竜戦隊アバレンジャー』新番予告集

『爆竜戦隊アバレンジャー』の第17話から登場する仲代壬琴/アバレキラーは更に複雑です。

いわゆる追加戦士と同じ扱いをされるにもかかわらず、彼は基本的にアバレンジャーの敵。彼がアバレンジャーと手を組むのは、何とシリーズの終盤の数話だけなのです。

“ゴウライジャー”と“アバレキラー”。この両者の設定を上手く料理したのが、カンフーモチーフの『獣拳戦隊ゲキレンジャー』(2007)に登場する黒獅子・理央です。

理央は元々主人公たちと同じく“激獣拳”を学んでいましたが、さらなる強さを求め“臨獣拳”へ寝返り、敵組織・臨獣殿の首領となります。

つまりアバレキラー同様に主人公の敵であり、ゴウライジャーのように対立する流派という設定もなされています。

ネタバレになりますが、最終的に理央はゲキレンジャーと和解し、強大な敵と共に戦う点も共通しています。

敵の巨大化を考え直す『特捜戦隊デカレンジャー』『魔法戦隊マジレンジャー』

『特捜戦隊デカレンジャー 10 YEARS AFTER』予告

戦隊版刑事ドラマ『特捜戦隊デカレンジャー』(2004)には、彼らが1年間通して戦う敵の組織が登場しません。

1話完結の刑事ドラマ的な展開を採用したため、毎回ユニークな宇宙の犯罪者“アリエナイザー”が登場します。

敵組織の代わりにエージェント・アブレラというキャラクターが1年間通して登場。彼は各話に登場するアリエナイザーに、犯罪の斡旋や武器の販売・レンタルを行う武器商人。

アリエナイザーたちは基本的に自ら巨大化することが出来ないので、アブレラから購入・レンタルした“怪重機”という巨大な破壊兵器に搭乗するのです。

『魔法戦隊マジレンジャー THE MOVIE』

次作『魔法戦隊マジレンジャー』(2005)では、シリーズ終盤の第35話から冥府十神という強敵が登場します。その名の通り10体の悪しき神々で、彼らは初めから巨大です。

『デカレンジャー』と『マジレンジャー』。この2作の作風は大きく違いますが、「敵怪人が等身大から巨大化する」という戦隊シリーズのお約束を再考している点は共通しているのです。

悪の組織・複数登場『轟轟戦隊ボウケンジャー』『天装戦隊ゴセイジャー』

『轟轟戦隊ボウケンジャー THE MOVIE 最強のプレシャス』

『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)には敵の組織がゴードム文明、ジャリュウ一族、ダークシャドウ、クエスターと4つ、それも同時並行して登場します。

この4つの組織は場合に応じてそれぞれ手を組んだり、敵対したりします。

実はボウケンジャーの使命は劇中に登場する“プレシャス”という危険な秘宝の回収であり、敵を倒すことではありません。

あくまで敵組織もプレシャスを狙っているため、ボウケンジャーは彼らと戦っているという異色の設定なのです。実際一部の敵組織は最終回でも生き残っており、完全には倒されていないのです。

『天装戦隊ゴセイジャー』記者発表会見

敵組織が複数登場するアイディアは『天装戦隊ゴセイジャー』(2010)でも採用されています。

ただしこちらは大体15話ペースで敵組織が変わるスタイルで、『ボウケンジャー』のようにそれぞれの敵組織が同時に登場する訳ではありません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

駆け足となりましたが、“スーパー戦隊シリーズ”の分析は今回で一旦最後となります。

一見マンネリに思えますが、毎年毎年様々なアイディアが導入されている事が判ります。

そもそも大人の視点で見ているから、“マンネリ”だと思うのではないでしょうか。

いくら大人が“マンネリ”と言おうと、初めて“戦隊もの”に触れる子どもの目には決してマンネリには映らないはずです。

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は、平成ライダー20作目『仮面ライダージオウ』を取り上げます。

お楽しみに。

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