連載コラム「キャラクター映画史」第1回
今ではアメコミ映画って何って聞くと、頭に思い浮かぶ存在となったスパイダーマンですが、実は映画化までは一筋縄にはいきませんでした。
2002年にサム・ライミ監督の『スパイダーマン』が公開されますが、実はそれ以前にもスパイダーマンの映画化は、1970年頃から何度となく企画されてきました。
しかし、映像技術による表現の限界や難しいキャラクター設定などの問題で、実現にはいたりませんでしたが、日本人に限ってはスパイダーマンは映画館で観たことがあったのです。
1978年の東映まんがまつりで、『スパイダーマン(東映版)』の劇場版が公開されています。さらに1977年のドラマシリーズの編集版が劇場公開され、ビデオとLDが発売されています。
そのため、70年代に映画館でスパイダーマンを観たという日本人は少なくなかったのですが、2002年までの間に「映画」として制作されたことはありませんでした。
連載コラム「キャラクター映画史」の第1回目は、親愛なる隣人であるスパイダーマンの映画の歴史についてご紹介します。
CONTENTS
幻のジェームズ・キャメロン版『スパイダーマン』
スパイターマンの映画化に最も近づいたのは、1990年代後半です。
この当時の監督候補に挙がっていたのは『ターミネーター』や「アバター」シリーズのジェームズ・キャメロン監督でした。
実は『タイタニック』の制作の前から注目していたレオナルド・ディカプリオをピーター・パーカー役に、ヴィランのドクター・オクトパス役にはアーノルド・シュワルツェネッガーを考えていました。
ジェームズ・キャメロン監督が『スパイダーマン』を制作するというニュースは、各種メディアも大きく報道するなど、実現に一番近い企画でしたが、これも実現には至りませんでした。
企画が再浮上!監督はサム・ライミ
『スパイダーマン』(2002)
2000年に入り、CGの技術も整ったことから映画『スパイダーマン』の企画は再浮上しますが、このときに候補に挙がったのはサム・ライミ監督でした。
ライミ監督といえば、「死霊のはらわた」シリーズなどで知られるカルトホラー映画のイメージが強かっただけに、そんなライミ監督がヒーロー映画を演出するということを信じない人も多く、今回の企画も実現しないだろうとも言われていました。
しかし、サム・ライミは見事に映画『スパイダーマン』を完成させます。
ピーター・パーカーことスパイダーマン役に起用した、『カラー・オブ・ハート』(1998)や『ワンダー・ボーイズ』(2000)のトビー・マグワイアの熱演も合わさり、映画は大ヒットを記録します。
それでも、やはり完成までには様々な問題に直面していました。
一番ネックだったのは、原作の設定でした。
ライミ監督の『スパイダーマン』の英断とは
原作のスパイダーマンの糸はウェブシューターという、ピーター自身が発明した人口糸を作り出す機械を付けているのですが、ライミはこの原作の設定に疑問を投げかけました。
「高校生がそんなものを作れるはずがない…」
誰もがファンの多いコミックヒーロー映画は、原作に忠実にしなければならないという考えでいたため、コミックだからという暗黙の了解には触れないつもりだったのが、このライミ監督の発言で一変します。
そこでライミ監督は、クモに噛まれたピーターが体内から糸が出せる体になったという設定にしたのです。
正に発想の転換です。この思い切った設定変更は見事に成功しました。
それだけではなく、のちにスタートするコミックシリーズ『アルティメット・スパイダーマン』の設定自体がライミの映画の設定に寄せてきたのです。
この勇気ある行動は、のちのアメコミ映画界を大きく変えるきっかけとなったと言っても過言ではないでしょう。
ライミ版『スパイダーマン』シリーズ化と空中分解
ライミ版『スパイダーマン』は、もともと3部作構成の企画でした。
1作目の興行成績が良かったため、続編のゴーサインはすぐに出されました。
ヴィランにはドクター・オクトパスが決定し、『タヴィンチ・コード』(2006)のアルフレッド・モリーナが起用されました。
このドクター・オクトパス役にはアーノルド・シュワルツェネッガーや竹中直人の名前も挙がっていましたがシュワルツェネッガーはヴェノムことエディ・ブロック役の候補でもあったことが判明します。
配給元であるソニー・ピクチャーズ側は、ライミ版『スパイダーマン』にどうしても原作での人気が高いキャラクターのヴェノムを登場させたかったのです。
結果的に『スハイダーマン2』にはヴェノムは登場しませんでした。
『スパイダーマン3』のヴェノム登場の影で
3作目でついにヴェノムが登場します。しかし、ライミの本心はヴェノムをシリーズに登場させたくなかったのです。
その理由は、ヴェノムというのは地球外生命体であるシンビオートとの合体によって生まれる存在であるため、リアル路線で進めていたシリーズには合わないキャラクターであると考えていたのです。
さらに『スパイダーマン3』は、サンドマンというメインヴィランに加え、今までの伏線からハリー・オズボーンがニューゴブリンになることが決定していたため、ヴィランが3人というのは作品にまとまりがなくなるという不安もあったのです。
しかし、ソニー・ピクチャーズ側は意見を押し通し、待望のヴェノムを登場させます。
その結果、メインヴィランであったサンドマンの印象が薄れてしまい、作品自体にも、まとまりがなくなってしまうというライミの恐れていたことが現実となってしまったのです。
作品としては失敗しましたが、ソニー・ピクチャーズはスパイダーマンというメガブランドを野放しにするつもりもなく、『スパイダーマン4』の企画も進行していて、新3部作が加わり、全6作を制作することが発表されました。
さらにヴェノムのスピンオフ企画も発表されました。
ライミ監督も前回の失敗を挽回すべく、『スパイダーマン4』の制作に取りかかりました。
ヴィランのヴァルチャーにはジョン・マルコヴィッチ、ブラックキャット役にはアン・ハサウェイがキャスティングされましたが、実現にはいたりませんでした。
ライミ監督とソニー・ピクチャーズ側での作品展開の意見が食い違い、衝突したのです。
結果的に『スパイダーマン4』の企画は空中分解し、ソニー・ピクチャーズが並行して進めていたリブート企画が『アメイジング・スパイダーマン』として実現することになりました。
リブート版『アメイジング・スハイダーマン』
『アメイジング・スハイダーマン』(2012)
ライミ版『スパイダーマン4』が白紙になったことで、『(500)日のサマー』(2009)のマーク・ウェブ監督、主演に『ソーシャル・ネットワーク』(2010)のアンドリュー・ガーフィールドを起用して制作されたのが、『アメイジング・スパイダーマン』でした。
続編ではなく、リブートということから、ピーター・パーカーも設定が高校生に戻されました。
しかし、ピーターがスパイダーマンになる経緯は、ライミ版で観客も知っているだろうということから、ざっくりと描かれ、ウェブシューターはピーターが発明したという原作の設定に戻されました。
ヴィランには、ライミ版の企画の中でもヴィラン候補に挙がっていた、リザードことカート・コナーズを起用されました。
さらに『アメイジング・スパイダーマン2』も制作され、『アメイジング・スパイダーマン3』とヴィランたちを主人公にした『シニスター・シックス』も企画されました。
『アメイジング・スパイダーマン』ではライミ版では触れられていなかった、ピーターの両親のことも描かれていたことに注目が集まりました。
原作ではピーターの両親はシールドのメンバーであり、レッドスカルに殺されるというエピソードがあったため、ついに『アイアンマン』や『キャプテン・アメリカ』シリーズのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に合流するのではないかとファンを騒がせました。
『アメイジング・スパイダーマン』でニューヨークの街中にトニー・スタークのタワー、『アベンジャーズ』にオズコープタワーを登場させるという企画も実際にあったそうですが、実現はしませんでした。それでもMCUに合流するという噂が絶えなかった作品でした。
事実として、マーベル・スタジオ側もスパイダーマンを何とかMCUに参加させたいと思っていたのです。
しかし、ここで問題となるのが「権利」でした。
「アメイジング・スパイダーマン」シリーズを存続させたかったソニー・ピクチャーズと、MCUに登場させ『アベンジャーズ』に参加させたいと考えていたマーベル・スタジオは意見が衝突。
結果的にソニー・ピクチャーズ側が折れる結果となり、2015年に業務提携というかたちで決着がつきます。
ソニー・ピクチャーズとの業務提携
ディズニーはマーベルを2009年に買収して以降、ディズニーの子会社となったマーベル。
ディズニーは他にも2012年にルーカスフィルム、2017年20世紀FOXを買収するなど勢いが止まりません。
ソニー・ピクチャーズの場合は、買収されるぐらいなら「業務提携」というかたちで落ち着いたのかもしれません。
実際にソニー・ピクチャーズが持っていた、マーベル作品の映画化の権利は、『スパイダーマン』『ゴーストライダー』『パニッシャー』と多くはありませんが、パニッシャーは2016年に放送されたドラマ『デアデビル』シーズン2から登場、2017年にはスピンオフも制作されました。
ゴーストライダーは『エージェント・オブ・シールド』のシーズン4に登場します。
そしてスパイダーマンはついにMCUに『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』から参加するに至ったのです。
MCU版「スパイダーマン」シリーズ始動
『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)
ソニーとの業務提携により、MCUの一員となったスパイダーマンことピーター・パーカー役には、『白鯨との闘い』(2016)のトム・ホランドを起用しました。
設定もMCUの作品に合わせたものに変更され、誕生秘話や両親のエピソードは大幅にカットされましたが、トニー・スタークと師弟関係を持たせることで、「高校生がそんなものを作れるはずがない…」という疑問もカバーされ、独自のストーリーラインによって、単独映画『スパイダーマン:ホームカミング』も制作されました。
単独映画2作目となる『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』も2019年に公開が決定しています。
ソニー・マーベル・ユニバース始動
業務提携によって、スパイダーマン自体がMCU内に存在している間は使えないソニー・ピクチャーズが考えた打開策は「ソニー・マーベル・ユニバース」でした。
この企画はスパイダーマンのスピンオフであっても、スパイダーマンとは交じわることがないという独特の距離感を保った企画であり、すでに2018年8月の段階で『ヴェノム』『ブラックキャット』『シルバーセーブル』『シルク』『モービウス』『ジャックポット』『ナイトウォッチ』『クレイヴン・ザ・ハンター』の8作が公開予定。
これらの企画の主人公のすべてが「スパイダーマン」シリーズのキャラクターなのです。
ソニー・ピクチャーズは、スパイダーマンを使用できないということを逆手にとって、スピンオフ大量生産計画を始動させました。
スパイダーマン不在のスパイダーマン・ワールドには最終的にスパイダーマンは合流できるのでしょうか…。
次回の『キャラクター映画史』は…
次回は、男女ともに人気の高いキャラクター『ワンダーウーマン』をご紹介します。
お楽しみに!