『東のエデン』『攻殻機動隊S.A.C』の神山健治監督が4年の歳月をかけたオリジナル脚本で贈る、知らない“ワタシ”と“夢”の物語…
神山監督が自身の愛娘に寝物語を話していた経験を、誰でも楽しめるエンターテイメントな最新作に仕上げました!
夢と現実の世界が見事に交錯するロードムービー『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』をご紹介します。
CONTENTS
映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』の作品情報
【公開】
2017年(日本)
【監督】
神山健治
【キャスト】
高畑充希、満島真之介、古田新太、釘宮理恵、高木渉、前野朋哉、清水理沙、高橋英樹、江口洋介
【作品概要】
『東のエデン』、『攻殻機動隊S.A.C』などを手掛けた神山健治監督が自ら原作・脚本も兼務した長編アニメーション映画。
主演に高畑充希さんを迎え、主人公・森川ココネ名義で主題歌「デイ・ドリーム・ビリーバー」も担当している。共演は満島真之介さん、江口洋介さんなど豪華キャストが勢揃い。
2017年3月18日より全国ロードショー開始。
映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』のキャスト一覧
森川 ココネ / 高畑充希
主人公森川ココネを演じるのは、今回がアニメーション映画初作品となる高畑充希さん。
舞台『ピーターパン』で8代目のピーターパンを務めたことをきっかけに、次々に舞台で主演を飾り、2007年に映画『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』で映像媒体にも進出し、その勢いは留まることを知りません。
最近ではNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で主役の小橋常子を演じるなど、テレビドラマや映画、CMなどで彼女を見ない日はないほど大活躍していますね。
意外にもアニメーション映画は初挑戦ということですが、声優経験について調べてみると、『カルルとふしぎな塔』(2010~2011、キッズステーション)、『花は咲く 東北に咲く』(2014、NHK総合)、劇場アニメの『ルイスと未来泥棒』(2007)では日本語吹き替えを担当しており、全くの初挑戦ということでもなさそう。
そんな高畑さんが演じるのは主人公の森川ココネは、岡山在住で父親と二人暮らしの女子高生で、勉強は苦手だけども活発で父親思いという役どころ。
注目すべきは高畑さんの可愛らしい岡山弁でしょう!方言やココネの役柄についてご本人はこうコメントされています。
大阪生まれなので、岡山弁のイントネーションは、関西のイントネーションと微妙に異なるので、難しかったです。私が演じるココネという役は、さっぱりしていて、強い少女なのですが、とてもチャーミングな役です。(公式サイトより抜粋)
監督の神山さんは当初、ココネというキャラクターはもっと“強さ”のある声をイメージしいていたようですが、高畑さんのふわっとした声を聞いているうちに考えが変わったのだとか。
そんな彼女の声は主題歌にも活かされてこちらも注目ポイントですね!ミュージカルで培ったその美しい歌声を持つ高畑さんは歌手としても大人気!
今回は、高畑充希名義ではなくあえて森川ココネ名義で歌う「デイ・ドリーム・ビリーバー」(モンキーズの名曲を忌野清志郎さんがカバーしたことでも有名な曲)にも要注目です!
佐渡 モリオ / 満島真之介
どちらかというと満島ひかりさんの弟というイメージが強かった満島真之介でしたが、飯塚健監督作の映画『風俗行ったら人生変わったwww』(2013)で主演を務めたことをきっかけに大ブレイク。
2016年には映画『オーバーフェンス』、さらには2017年公開予定の『無限の住人』や『忍びの国』にも出演している他、バラエティー番組やCMなどでも引っ張りだこといった感じで、その人気は高まるばかりです。
声優としてはフジテレビアニメ『僕だけがいない街』(2016)で主人公・藤沼悟(成人期)ですでに経験済。
そんな満島さんの『ひるね姫』での役柄は、ココネの幼馴染のモリオ。幼馴染の男女間に生まれるドキッとするような関係性を絶妙に演じているのだそう。
現在27歳の満島さんですが、高校生のモリオの淡い気持ちを声だけでどう表現しているのか、その辺りに注目して見ていきたいですね。
森川 モモタロー / 江口洋介
『ひとつ屋根の下』や『救命病棟24時シリーズ』、『白い巨塔』(全てフジテレビドラマ)などでおなじみの江口洋介さんは意外にも声優初挑戦。
アフレコについては…
初めてアフレコに挑戦しました。セリフがない瞬間の間の取り方や、岡山弁に苦戦しましたが、やっていくうちに慣れてくると、どう発声するか、シーンによって声の圧を変えてみたりと、アフレコの面白さが分かった気がしました。(公式サイトより抜粋)
…とコメントされています。アフレコ自体の難しさに加えて、岡山弁という慣れない方言がプラスされて、さらに苦労したようですね。
『ひるね姫』で江口さんが演じるのはココネの父親モモタロー。元ヤンキーで今は小さな自動車修理工場を営んでいるものの、普段は車の改造ばかりに勤しむ毎日を送っているというキャラクターのよう。
寡黙で男気溢れるといった人物像のように思えますので、江口さんなら完璧に演じてくれることは間違いありません!
渡辺 一郎 / 古田新太
江口さんとは違って声の仕事の経験が豊富なのが個性派俳優の古田新太さん。
近年では劇場アニメ『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』(2013)や『ONE PIECE FILM GOLD』(2016)に声優として参加し、『ルドルフとイッパイアッテナ』(2016)のデビル役は記憶に新しいですよね。
今回古田さんが演じるのは、巨大自動車会社“ 志島自動車” の取締役にしてモモタローを陥れようとたくらむ渡辺一郎役。
「アニメーションの絵によって、何にでもなれるところが楽しいですよね。」(公式サイトより抜粋)とアニメーションの醍醐味を語っていた古田さんが、果たしてどのような悪を演じてくれるのでしょうか?!
志島 一心 / 高橋英樹
時代劇を中心にバラエティー番組やCMでも露出が多い高橋英樹さん。言わずと知れた日本を代表する名優がアニメに参戦ということで、大変話題となっていますね!
意外にもアニメ好きのようで…
アニメーションというのは、実写ではあり得ないアングルを映せる、憧れのようなショットが撮れるので個人的に好きなジャンルです。監督にも娘さんがいらっしゃるので、監督とは娘の話をしたりして、役柄に共感しながら演じました。(公式サイトより抜粋)
…とのコメントを残しています。そんな高橋さんが演じるのは、“ 志島自動車” の会長・志島一心。いかにも貫禄たっぷりといった感じの風貌ですから、高橋さんの低くて威厳のある声がピッタリ当てはまりそうですね!
雉田 / 前野朋哉
『剥き出しにっぽん』(2005)で映画デビューを飾り、俳優だけでなく監督も務めるというマルチな才能の持ち主の前野朋哉さん。
最近ではauの三太郎シリーズCMでの、一寸法師役が非常に印象深い前野さんですが、声優は初挑戦なのだそう。
物語の舞台である岡山県倉敷市は前野さん自身の出身地でもあるということのなので、方言はバッチリといったところでしょうか。
彼が演じるのはモモタローの親友で地元の警察官を務める雉田。見た目は結構いかつい感じ(モモタローと同じく元ヤンかな?)なので、ほんわかした前野さんとは少しイメージが違いますが、前野さんがどう声だけで演じるのかに注目です!
ジョイ / 釘宮理恵
『金色のガッシュベル!』のティオや『鋼の錬金術師』のアルフォンス・エルリック、『銀魂』の神楽など、少年役も少女役も起用にこなす超人気声優の釘宮理恵さん。
『ひるね姫』で彼女が演じるのは少年でも少女でもなくぬいぐるみ?!
どうやらココネが肌身離さず持ち歩いている柴犬のぬいぐるみ・ジョイを演じるのだそうですが、おそらく夢の世界では話すことが出来るということなんだと思います。
演技の幅が広い釘宮さんがどう演じるのかに注目ですね!
佐渡 / 高木渉
声優としては大ベテランの高木渉さん。『名探偵コナン』の元太君や『ゲゲゲの鬼太郎』(2007年リメイク版)のねずみ男など、おそらく誰もが一度は耳にしたことがある声の持ち主ですよね。
最近では、NHK大河ドラマ『真田丸』やTBSドラマ『IQ246〜華麗なる事件簿~』など、俳優としても高い評価を得ています。
そんな高木さんが『ひるね姫』で演じるのは、モモタローの親友でモリオの父親役。変幻自在の声を持つ高木さんは、今回どんな声で表現してくれるのか、楽しみです!
森川 イクミ / 清水理沙
元々劇団ひまわりに所属していた声優の清水理沙さん。『進撃のバハムート』(2014)のヒロイン・アーミラ役など、多数のアニメ作品に加え、洋画や海外ドラマの吹き替えなど、28歳と若手ながら数々の作品に出演する売れっ子声優さんですね。
今回彼女が演じるのは、主人公・ココネの亡くなった母イクミ。物語の鍵を握りそうな人物なだけに、清水さんの演技には否が応でも注目が集まるでしょう!
映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』の監督紹介
『ひるね姫』の監督を務めるのは、『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズや『精霊の守り人』に『東のエデン』、アニメーション映画の『009 RE:CYBORG』(2012)でおなじみの神山健治さん。
2016年のサイボーグ009の映像化50周年を記念して制作されたフル3DCGアニメーションの3部作『CYBORG009 CALL OF JUSTICE』では総監督を務めるなど、いまや日本を代表するアニメーション監督としてその名を轟かせていますね。
こういった作品群からも良く分かりますが、神山監督の憧れは言わずと知れた巨匠・押井守監督なのだそうです。やっぱりそうだったかと思うくらい作品の方向性が非常に近いと思います。
神山監督は直接チームには入ったことはないものの、押井監督がフリーで参加していたProduction I.Gで企画した「押井塾」に参加しており、そこで政治的なテーマ性をアニメにどう持ち込むかなどについて学んだんだそう。
塾生時代の神山監督について、「こんなに売れるとは思わなかった。もっと早い時期につぶしておけばよかった。」とジョークを込めて語っていたことから、当時からその才能を開花させていたようですね。
今回の『ひるね姫』は神山監督のこれまでの作品群からすると少し意外ともとれる雰囲気。この企画の発端について神山監督はこう語っています。
日本テレビの奥田誠治プロデューサーから「自分の娘に観せたい映画を作ったらどうだろう」と声をかけられたのがきっかけです。自分がこれまで手掛けてきたSFアクションやハイファンタジーの企画を持ちかけられることが多い中、違うものを作ったらどうだろうという奥田さんの一言はとても新鮮で、そこから「キャラクターの個人的な物語」にフォーカスした企画を練り始めました。(公式サイトより抜粋)
こういった形での企画立案だったために、今までのイメージとは異なる作品に仕上がっているようです。また今作で初めて原作・脚本も兼務したという点も非常に注目です!
さらには、どんな方にこの作品を観てもらいたいのかという問いに対し…
まずココネと近い年代の人ですね。いまは個人主義が当たり前になっていますけれど、個人の意識の中には、実は他人がいるんですよね。たとえば、家族の心のなかにいる自分、自分の心の中にある家族。普段は意識していなかったそんな心の中の他人を意識すると、ココネのように、それまで自分が気づいていなかった宝物がそこに眠っていることに気づけるんじゃないかと思います。それはココネの世代の人だけではなく、ココネのお父さん(森川モモタロー)の世代も同じでしょう。映画をあまり見ないといわれている、その世代の男性にも楽しんでいただければと思います。(公式サイトより抜粋)
…とコメントをされています。これまでとは異なる方向性を打ち出すことで、男女問わず幅広い年齢層に楽しんでほしいという監督の想いが伝わってきますね!
映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』のあらすじ
平凡な女子高生の森川ココネは、岡山県倉敷市で父とふたり暮らし。勉強は苦手な彼女の唯一の特技はどこでも眠れる昼寝でした。
しかし、不思議なことに彼女の見る夢は「ハートランド」と呼ばれる国の夢ばかり、いつも同じ夢なのです。
ココネは王様の娘エイシェンとなり、魔法のタブレットを手にして魔法少女になっていました。
2020年夏、東京オリンピックが3日後に迫った終業式の朝も、ココネはその夢の途中で目を覚まします。寝坊してしまった彼女でしたが無事に卒業式を終えました。
しかし、ココネに父親モモタローが警察に逮捕されたという知らせが入ります。
日常会話のやり取りもSNSを通してするほどの無愛想なモモタローだが、犯罪に手を染めるような人ではないと彼女には信じられません。
元ヤンキーでどうしようもない父親であるのは承知していたものの、彼がそこまでの悪事を働くとは、どうしても思えなかったココネ。
心配したココネは慌てて帰路の途中、母親の墓前に置かれたぬいぐるみのジョイの中に隠されたタブレットを発見。それはモモタローが彼女に託したものでした。
タブレットには何か重要なデータ情報が入っていて、それを大企業の志島自動車の役員である渡辺一郎が手に入れようと狙っていたのです。
映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』感想と評価
この作品は、神山健治監督が愛娘がまだ小さかった頃に寝物語を即興で聞かせた体験が大きく根底にあるようです。
娘が大きくなるにつれて嘘の物語を信じなくなってしまったが、小さい頃はそれを夢中になって聞いてくれたと語っています。
とはいえ、それをノスタルジイに描いた作品ではありません。
そのようなことが知らず知らずに、自分の現実に影響を及ぼしていた経験があった神山監督といいます。潜在意識に刻まれた夢物語が生き方に影響を与えると感じているようです。
また、娘にもそんな体験をしてくれたらいいという感じたことが夢をテーマにした要因だったそうです。
なぜ、そのような感覚的なこと神山監督がアプローチしたかといえば、311震災の以前と以後に思考の変化を意識することがあったようです。
震災前は無邪気になって、使命感を持って作れていたようですが、震災以後は現実が困難の時に難しい問題提起をしても空々しいとも感じた自身の感覚があったようで、自身が制作するものともズレを覚えたそうです。
そのことを軌道修正を行おうと、今回は理屈からではなく感覚からアプローチする作品にしたそうです。
それが「愛娘との寝物語」や「嘘の物語」、または「潜在意識に刻まれた夢物語」に感じた感覚なのかもしれません。総じてそこに神山監督の希望の種子があるのではないでしょうか。
今回は3つのポイントを取り上げてみましょう。は1つ目は「夢と現実の設定に見えてくること」。
2つ目は「ぺワンの呪文とは何か?なぜ燃え上がったのか?」。
3つ目は「声優として参加した俳優からの一言」と分けて考察を広げてみたいと思います。
1:夢と現実の設定に見えてくること
神山健治監督が“夢の世界”と“現実の世界”の二重構造で、今作の構成を立てました。この行き来を主人公の女子高生である森川ココネを起点にして、物語は現在から過去、そして未来への希望を結びにしました。
はじめに登場人物たちの“夢の世界”と“現実の世界”を対比させてご紹介します。
《夢の世界の人物を数字、現実の世界の人物をアルファベットで表記》
1エイシェン(王様の娘、魔法を使うことが可能)
A森川イクミ(事故によって若くして亡くなっている。物語前半では、森川ココネは自身だと思い込んでいる。)
2ピーチ(鬼の襲撃の際に、エイシェンと出会い行動を共に戦う)
B森川モモタロー(倉敷で小さな自動車整備工場を営む)
3ジョイ(魔法の力で動いたり話したりできるぬいぐるみ)
Cジョイ(母の形見のぬいぐるみ)
4ハートランド王(鬼の襲撃に頭を悩ませている)
D志島一心(志島自動車の会長)
5ぺワン(王の座を奪おうと企む)
E渡辺一郎(会長の座を乗っ取ろうとする男)
6佐渡モリオ
F佐渡モリオ(都内の工業系大学に通う大学生。夢の世界でもモリオはモリオです)
7 ウッキー(ピーチの仲間)
G佐渡(佐渡船舶の社長でモリオの父親で、モモタローの親友)
8タキージ(ピーチの仲間)
H雉田(地元警察官でモモタローの親友)
ここから見えてくる幾つかのポイントを解説をすると、この“夢の世界”は、幼い頃のココネに父親モモタローが寝物語で聞かせていた物語です。
そのベースには日本の昔話「桃太郎」と森川モモタローが体験した出来事を合わせて出来たお話であることがわかります。
ピーチは桃太郎。そのお供の3匹の動物はジョイは柴犬のぬいぐるみ、ウッキーは猿、タキージは雉ということは一目瞭然ですね。
また、ハートランドに海から出現する鬼という存在が登場しましが、これは自動車だけを食い荒らす生き物。
メタファーを想像するならアメリカからの自動車産業に対する外圧や、自動車産業の新たなる発展を拒む“旧態依然の体質(固執や執着)”と読み取ることを可能ではないでしょうか。
つまり、ハートランド王自身の存在と対の鏡写しの存在が鬼となります。
その鬼を全自動運転機能を持ったエンジンヘッドやハーツで鬼と戦おうとしているのが、エイシェン(森川イクミ)とピーチ(森川モモタロー)ということです。
この物語は社会の構造変化や企業改革を、親子対立や許されない結婚と合わせて描いた点はとても興味深いです。
さらに、佐渡モリオが“夢の世界”と“現実の世界”姿が変わらないのは、彼はリアリストだからと述べていましたが、モモタローがココネの物語に登場させなかったことが理由です。
ではなぜ、モリオが“夢の世界”にアクセスでき登場できたのかは、ココネとの幼馴染みの関係としての存在感があるからです。
しかも、その姿は久しぶりに再会した大学生になったモリオの姿。今の彼にココネが憧れや好意があっても不思議ではありません。
他にもう1つ取り上げたいのは、森川イクミが大人の女性の姿ではなく、エイシェンという小さな少女であることです。
モモタローとSNSのグループで繋がっていた志島自動車の社員たちも“夢の世界”では身の丈が小さな存在でした。このことからハートランド王(志島会長)の率いた志島自動車という会社ではイクミ支持派であった少数派の存在だからでしょう。
神山監督は徹底した“夢の世界”と“現実の世界”は、他にも楽しむべき要素は徹底して描かれています。ここで少し話を飛躍させて、他の映画と比較してみましょう。
参考映画①:『劇場版ソードアート・オンライン オーディエル・スケール』(2017)
現在大ヒット公開中の『劇場版 ソードアート・オンライン』は時代設定が2026年になっていました。『ひるね姫』は2020年ですから、6年後の物語になっています。
『ソードアート・オンライン』の大学講義のシーンで、VR(仮想現実)は古く、これからはAR(拡張現実)の時代ではないかというやり取りがあります。
そのように考えれば、『ひるね姫』の“夢の世界”での行動を VR(仮想現実)と仮に読み、“現実の世界”に登場した自動運転機能やロボットは、AR(拡張現実)のように、当てはめて見ることを仮説してみましょう。
すると、神山監督のテーマにした「潜在意識に刻まれた記憶」が、母イクミの残した言葉の【ココロネひとつで人は空も飛べるはず】という、キーワードもとに行動を促します。
ココネの特技である昼寝を起点に、現実が仮想へ行き、仮想から現実が来るという相互行為をする想像力が、日常の辛い現実にだって希望を見い出せると神山監督は作品にメッセージを込めたのではないでしょうか。
2:ぺワンの呪文とは何か?
ハートランドの王の座を奪うことが出来ず、兵士に囚われの身となったぺワンが放った瓶詰めの呪文には、どのような意味のメタファーがあるのでしょうか。
ぺワンが呪術を瓶詰めにする際にした行動は、何かの文字を打ち込みました。文字や言葉は言霊と言われるように呪文と見ることができるでしょう。
先に紹介した森川自動車工場に貼られていた、母親イクミの残した言葉の【ココロネひとつで人は空も飛べるはず】もモモタローやココネにかけられた言霊の呪文です。
ぺワン(渡辺一郎)の場合は、“現実の世界”から読み取ると分かりやすいと思うのですが、志島自動車のオリンピック事業の全自動運転機能の自動車開発を自ら物にするか、計画の失敗こそが会長失脚の要因になると考えていました。
つまりあの呪術は、SNSなどで志島自動車の内部告発という形で、負の情報を拡散した行為だったのでしょう。Twitterで行なったといえば分かりやすいでしょうか。
そこで一方の“夢の世界”では、言霊はネット世界に拡散されて広がり、まるで“黒い念のような鳥”となって世界中に駆け巡り、全自動運転機能のある新型エンジンヘッドを呑み込んで阻止して、失敗させようとします。
しかし、それも上手くいかず、ぺワンは“自己炎上”してしまったのです。
神山健治監督のネット社会に言霊を視覚化してみせた演出は、現実の今を鋭く見抜いた視点とともに、実写には出来ないアニメーションらしいい醍醐味を見せてくれた秀逸なシークエンスです。
3:声優として参加した俳優からの一言
祖父である志島一心会長は、「人生は思うより短い」とココネに語りかけます。それは娘イクミとすれ違いを打ち解ける間も無く亡くしてしまった後悔です。
しかし、神山健治監督はその記憶や思いも誰かの心のなかで物語として生き続けると強く信じているようです。
そのように登場人物たちに心(言霊)を入れたのが今回の声の出演者たちです。そのいくつかに触れておきましょう。
高畑充希は、主人公の森川ココネを演じる際に、「めまぐるしく状況が変わる中でも、ぶれないココネでいることを大切にしました」と述べています。
神山監督は当初に抱いていたココネの人物像を変えてまで、高畑のキャラクターや話し方(方言)を気に入ったそうでそうです。
また、高畑は「小さなお子さんでも単純にワクワクと胸が踊り(中略)同世代の方にはストレートにな目線で楽しんでいただける」とぜひ作品を楽しんでもらいたいと述べています。
満島真之介は、佐渡モリオ役を演じながら、「ココネとモリオが一切データ上でおしゃべりしていない」と2人の関係性の大切なところを見事に捉えて役を果たしました。
また、神山監督について「人間の本質的な何かが隠されている気がする夢。監督はそこに迫ろうとしてるんだと思ってゾックとしました」とも述べています。
満島ひかりの弟としてのイメージがまだまだ強いようですが、俳優としての鋭い資質を持った注目の存在ですね。
江口洋介は声優初挑戦で森川モモタローを演じました。神山監督からは「江口さんのままの感じでいいですから」と告げられると、「僕のままの感じ」ってなんだろうと笑ってしまったようです。
その江口は物語の終盤でモモタローがココネを助ける場面について、「娘と奥さんのイメージがダブっていて、どこか奥さんへのプロポーズのように思えました」と語っています。
すでに亡くなった妻イクミへの愛情が胸に響き、あふれていて愛で温かくなるも切なさがあると述べています。この江口押しの場面をお見逃しなく!
古田新太は“現実世界”の渡辺一郎と、“夢の世界”のぺワンを繊細に演じています。映画を見ていると気が付かれると思いますが、決して単純な悪党を演じてはいないのです。
そのことについて古田は「ちゃんとした人を意識しました」と述べています。その自制の効いた雰囲気が先品に良いバランスを与えています。
渡辺とぺワンは憎めないヒゲ男ですよ。
高橋英樹は志島一心会長役とハートランド王を演じましたが、「芸能生活56年にして初の王様役を最高に気に入っています!」と述べています。
また、声優の声のみの演技については、「伝える技術として役者の原点です。声の使い方、出し方、息の使い方、全てが勉強になります」と感謝を伝えています。初の王様役注目です!
最後に森川イクミ役の清水理沙。彼女は「イクミは自由人でかっこいい女性。常に時代の先を見据えている人であり、変化を恐れず、前向きにどんな物事にも挑戦していた人(中略)そして母であり、妻であり、娘でもあります」と述べています。
清水はそこ意識して親子の愛や夫婦の愛を大切にして演じたそうです。
このように神山監督率いた制作スタッフに、声を提供した俳優や声優の素晴らしい演技は、映画館で画面狭しと、あなたに心にも伝わってくるはずです。
まとめ
2016年は『君の名は。』や『聲の形』の大ヒットで、昨今アニメーション映画への期待がますます高まっています。
そんな中で公開されている神山健治監督、高畑充希さん主演によるアニメーション映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』は、最高のスタッフとキャストが集結しており、必ずや、あなたの期待に応えてくれるでしょう!
注目の劇場公開は2017年3月18日(土)から公開始!ぜひ劇場に足を運んでみて下さい!!!