連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第292回
“最も知られていない偉⼤な映画監督”と言われるチャールズ・バーネット。ハリウッド映画とは異なる視点から黒⼈コミュニティの⽇常を描き、⽶インディペンデント映画に新たな地平を拓いた映画作家です。
このたび、彼の伝説的傑作『キラー・オブ・シープ』と、再評価を経て甦った『マイ・ブラザーズ・ウェディング』が、最新の4K修復版として⽇本劇場初公開。
特集上映「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」と題し、2026年2⽉シアター・イメージフォーラムを⽪切りに、4月は大阪と名古屋で上映し、5月以降には神戸・京都・東京など、全国順次公開中です。
本記事では、ロサンゼルス・ワッツ地区を舞台に、屠殺場で働く男性とその家族の⽇常を詩的に描いた初⻑編映画『キラー・オブ・シープ』をご紹介します。
映画監督チャールズ・バーネットについて

写真提供: Milestone Film & Video
1944年、チャールズ・バーネットはミシシッピ州に⽣まれ、ロサンゼルスのワッツ地区で育つ。
1960年代末にUCLA芸術学部(現・UCLA演劇・映画・テレビ学部)で映画制作を学んだバーネットは、アフリカ系アメリカ⼈を中⼼とする学⽣仲間たちと協⼒し合いながら、ハリウッドがステレオタイプに描いてきた黒⼈像に対して新しい視点を提⽰する映画を制作。
このUCLA発の潮流はのちに「L. A. Rebellion」と呼ばれ、その精神を体現した代表作『キラー・オブ・シープ』は、黒⼈コミュニティの⽇常を⽣活者の視点から描いた先駆的作品として国際的に⾼く評価されている。
2017年にはアカデミー名誉賞を受賞。彼の作品はバリー・ジェンキンスやエイヴァ・デュヴァーネイといった現代の映画作家に⼤きな影響を与え、ショーン・ベイカーをはじめとする多くの監督からも深い敬意を集めている。
映画『キラー・オブ・シープ』の作品情報

(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP
【日本公開】
1977年(アメリカ映画)
【原題または英題】
Killer of Sheep
【監督・脚本・製作・編集】
チャールズ・バーネット
【キャスト】
ヘンリー・ゲイル・サンダース、ケイシー・ムーア、チャールズ・ブレイシー、アンジェラ・バーネット、ユージーン・チェリー、ジャック・ドラモンド
【作品概要】
『キラー・オブ・シープ』は、UCLA映画学部の大学院生だったバーネット監督が卒業制作として1977年に製作した作品です。1981年・第31回ベルリン国際映画祭フォーラム部門にて国際批評家連盟賞を受賞。
音楽著作権の問題で長らく公開できませんでしたが、2007年にアメリカで劇場公開が実現しました。
2025年に完成した4Kレストア版では、ラストシーンを彩る楽曲が、バーネット監督が当初望んでいたダイナ・ワシントンの楽曲『Unforgettable』に差し替えられました。
映画『キラー・オブ・シープ』のあらすじ
(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP
ワッツ暴動の爪痕が残る1970年代初頭のロサンゼルス、ワッツ地区。
スタンは妻と2人の子どもたちを養うため羊の屠殺場で働きながら、空虚な毎日を送っています。
毎日の労働と貧困のせいで肉体的にも精神的にも疲れ果てている彼は、次第に自分の殻に閉じこもるようになり、妻は孤独を募らせていきます。
そんな日々の中、スタンを犯罪計画に巻き込もうとする知人や、自分の店で働くよう誘う白人女性が現れます。
また、車のエンジンを購入しようとするスタンと友人のブレイシーとの出来事も起こりますが、スタンは自分の境遇を変える力がないと感じて……。
映画『キラー・オブ・シープ』の感想と評価
(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP
屠殺場でただ黙々と働く黒人男性の日常生活を描いた『キラー・オブ・シープ』。
大きな事件も起こらず、何の変化もない日々の中で、貧困と閉塞感に押しつぶされそうになりながらも、家族のために働く男性の姿が映し出されます。
これまで日本ではイベント上映のみであったこの初期代表作が、新たに完成した4K修復版の鮮やかな映像で蘇りました。
コンセプトはアフリカ系アメリカ人の経験や日常を雰囲気豊かに描き出すことにあると言え、モノクロ映像が、ある意味ユーモラスで情緒的な映像を魅せてくれています。
日々の生活で疲れ切った主人公・スタン。自宅回りを飛び回る無邪気な子供たち。そして、頻繁に現れる羊の群れ。
羊たちは自分たちの運命を知りません。動き回りながらもじっとカメラを見据えます。ポーカーフェイスを気取ったような顔が大写しになるのですが、それすらも美しく見えます。
「キラー・オブ・シープ」の意味は、「羊殺し」。タイトルとは裏腹のまったりとした内容の本作には、労働者階級の生活のリズム、子供時代の無邪気さ、そして都市環境の構造的な不満が盛り込まれていると言えます。
(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP
まとめ
(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP
最新の4K修復版として⽇本劇場初公開となるチャールズ・バーネットの特集上映「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」。
上映されるのは、多くの批評家から「アメリカで最も知られていない偉⼤な映画監督にして、最も才能ある黒⼈監督」と称される彼の伝説的傑作『キラー・オブ・シープ』と、再評価を経て甦った『マイ・ブラザーズ・ウェディング』です。
今回は、チャールズ・バーネットの初⻑編作の『キラー・オブ・シープ』をご紹介しました。
特集上映「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」は、2026年2⽉シアター・イメージフォーラムを⽪切りに、4月は大阪と名古屋で上映し、5月以降には神戸・京都・東京など、全国順次公開中です。
本作では、1970年代の黒人労働者階級のリアルな現実がありのままスクリーンに登場。最新の4K修復版で、真実のアメリカの姿をご堪能ください。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。


































