Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2026/04/27
Update

映画『キラー・オブ・シープ』あらすじ感想と評価解説。チャールズ・バーネットの黒人社会の現実を描いた伝説的傑作|映画という星空を知るひとよ292

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第292回

“最も知られていない偉⼤な映画監督”と言われるチャールズ・バーネット。ハリウッド映画とは異なる視点から黒⼈コミュニティの⽇常を描き、⽶インディペンデント映画に新たな地平を拓いた映画作家です。

このたび、彼の伝説的傑作『キラー・オブ・シープ』と、再評価を経て甦った『マイ・ブラザーズ・ウェディング』が、最新の4K修復版として⽇本劇場初公開

特集上映「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」と題し、2026年2⽉シアター・イメージフォーラムを⽪切りに、4月は大阪と名古屋で上映し、5月以降には神戸・京都・東京など、全国順次公開中です。

本記事では、ロサンゼルス・ワッツ地区を舞台に、屠殺場で働く男性とその家族の⽇常を詩的に描いた初⻑編映画『キラー・オブ・シープ』をご紹介します

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画監督チャールズ・バーネットについて


写真提供: Milestone Film & Video

1944年、チャールズ・バーネットはミシシッピ州に⽣まれ、ロサンゼルスのワッツ地区で育つ。

1960年代末にUCLA芸術学部(現・UCLA演劇・映画・テレビ学部)で映画制作を学んだバーネットは、アフリカ系アメリカ⼈を中⼼とする学⽣仲間たちと協⼒し合いながら、ハリウッドがステレオタイプに描いてきた黒⼈像に対して新しい視点を提⽰する映画を制作。

このUCLA発の潮流はのちに「L. A. Rebellion」と呼ばれ、その精神を体現した代表作『キラー・オブ・シープ』は、黒⼈コミュニティの⽇常を⽣活者の視点から描いた先駆的作品として国際的に⾼く評価されている。

2017年にはアカデミー名誉賞を受賞。彼の作品はバリー・ジェンキンスやエイヴァ・デュヴァーネイといった現代の映画作家に⼤きな影響を与え、ショーン・ベイカーをはじめとする多くの監督からも深い敬意を集めている。

映画『キラー・オブ・シープ』の作品情報


(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP

【日本公開】
1977年(アメリカ映画)

【原題または英題】
Killer of Sheep

【監督・脚本・製作・編集】
チャールズ・バーネット

【キャスト】
ヘンリー・ゲイル・サンダース、ケイシー・ムーア、チャールズ・ブレイシー、アンジェラ・バーネット、ユージーン・チェリー、ジャック・ドラモンド

【作品概要】
『キラー・オブ・シープ』は、UCLA映画学部の大学院生だったバーネット監督が卒業制作として1977年に製作した作品です。1981年・第31回ベルリン国際映画祭フォーラム部門にて国際批評家連盟賞を受賞。

音楽著作権の問題で長らく公開できませんでしたが、2007年にアメリカで劇場公開が実現しました。

2025年に完成した4Kレストア版では、ラストシーンを彩る楽曲が、バーネット監督が当初望んでいたダイナ・ワシントンの楽曲『Unforgettable』に差し替えられました。

映画『キラー・オブ・シープ』のあらすじ

(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP

ワッツ暴動の爪痕が残る1970年代初頭のロサンゼルス、ワッツ地区。

スタンは妻と2人の子どもたちを養うため羊の屠殺場で働きながら、空虚な毎日を送っています。

毎日の労働と貧困のせいで肉体的にも精神的にも疲れ果てている彼は、次第に自分の殻に閉じこもるようになり、妻は孤独を募らせていきます。

そんな日々の中、スタンを犯罪計画に巻き込もうとする知人や、自分の店で働くよう誘う白人女性が現れます。

また、車のエンジンを購入しようとするスタンと友人のブレイシーとの出来事も起こりますが、スタンは自分の境遇を変える力がないと感じて……。

映画『キラー・オブ・シープ』の感想と評価

(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP

屠殺場でただ黙々と働く黒人男性の日常生活を描いた『キラー・オブ・シープ』

大きな事件も起こらず、何の変化もない日々の中で、貧困と閉塞感に押しつぶされそうになりながらも、家族のために働く男性の姿が映し出されます。

これまで日本ではイベント上映のみであったこの初期代表作が、新たに完成した4K修復版の鮮やかな映像で蘇りました。

コンセプトはアフリカ系アメリカ人の経験や日常を雰囲気豊かに描き出すことにあると言え、モノクロ映像が、ある意味ユーモラスで情緒的な映像を魅せてくれています。

日々の生活で疲れ切った主人公・スタン。自宅回りを飛び回る無邪気な子供たち。そして、頻繁に現れる羊の群れ。

羊たちは自分たちの運命を知りません。動き回りながらもじっとカメラを見据えます。ポーカーフェイスを気取ったような顔が大写しになるのですが、それすらも美しく見えます。

「キラー・オブ・シープ」の意味は、「羊殺し」。タイトルとは裏腹のまったりとした内容の本作には、労働者階級の生活のリズム、子供時代の無邪気さ、そして都市環境の構造的な不満が盛り込まれていると言えます。

(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP

まとめ

(C)1977 Charles Burnett(C)2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP

最新の4K修復版として⽇本劇場初公開となるチャールズ・バーネットの特集上映「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」。

上映されるのは、多くの批評家から「アメリカで最も知られていない偉⼤な映画監督にして、最も才能ある黒⼈監督」と称される彼の伝説的傑作『キラー・オブ・シープ』と、再評価を経て甦った『マイ・ブラザーズ・ウェディング』です。

今回は、チャールズ・バーネットの初⻑編作の『キラー・オブ・シープ』をご紹介しました。

特集上映「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」は、2026年2⽉シアター・イメージフォーラムを⽪切りに、4月は大阪と名古屋で上映し、5月以降には神戸・京都・東京など、全国順次公開中です。

本作では、1970年代の黒人労働者階級のリアルな現実がありのままスクリーンに登場。最新の4K修復版で、真実のアメリカの姿をご堪能ください。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。




Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/demachi2026/cinemarche.net/public_html/wp-content/themes/stinger8-child/single.php on line 150

関連記事

連載コラム

映画『家族にサルーテ!』評価と感想レビュー。ムッチーノ監督が故郷イタリアで描く人生への讃歌|シニンは映画に生かされて13

連載コラム『シニンは映画に生かされて』第13回 はじめましての方は、はじめまして。河合のびです。 今日も今日とて、映画に生かされているシニンです。 第13回にてご紹介する作品は、『幸せのちから』で有名 …

連載コラム

映画『ノー・ウェイ・アウト』ネタバレ結末あらすじと感想考察。ラストまでアメリカの社会問題とアステカ文明を織り交ぜた恐怖は続く|Netflix映画おすすめ58

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第58回 今回ご紹介するNetflix映画『ノー・ウェイ・アウト』は、イギリスのファンタジー作品に与えられる、オーガストダーレス賞(2015 …

連載コラム

台湾映画『成功補習班』あらすじ感想と評価解説。男子高生3人が“多様性な生き方”と直面する思春期回顧録|TIFF東京国際映画祭2023-13

映画『成功補習班』は第36回東京国際映画祭・ワールドフォーカス部門で上映! 台湾ドラマ『ショコラ』で長澤まさみと共演した俳優ラン・ジェンロンが監督した『成功補習班』が、第36回東京国際映画祭ワールドフ …

連載コラム

【ネタバレ感想】シークレット・チルドレン 禁じられた力|ティモシー・シャラメ主演のSF青春スリラー|未体験ゾーンの映画たち2019見破録22

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第22回 今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」では、珍作・怪作から見逃すには惜しい佳作まで …

連載コラム

映画『木樵』あらすじ感想と評価解説。ドキュメンタリーで見せる‟山の護り人”が雄々しく生きる姿|映画という星空を知るひとよ114

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第114回 現代の木樵である林業に焦点をあて、山と生きる「護り人」である彼らに密着したドキュメンタリー映画『木樵』。 岐阜県下呂市で林業をする実家を離れていた映 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学