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Entry 2025/11/07
Update

【ネタバレ考察】爆弾|ミノリは実在?伊勢が文系の理由は?スズキの想像力に仕掛ける“物語”の罠ד嘘であってほしい嘘”という嘘《のび編集長のシニン妄想考察録:2》

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『のび編集長のモヒカン・シニン考察録』第2回

映画サイト「Cinemarche」編集長、映画配給レーベル「Cinemago」宣伝、そしてモヒカン詩人(シニン)な河合のびが、映画・ドラマ・アニメ・漫画あらゆるエンタメ作品を飛躍・妄想まみれで考察・解説する連載コラム『のび編集長のモヒカン・シニン考察録』。

第2回は第1回に引き続き、2025年10月31日(金)全国公開を迎えた山田裕貴×佐藤二朗のリアルタイム・サスペンス映画『爆弾』です。

本記事では映画『爆弾』のネタバレ言及を交えながら、スズキが伊勢に語り聞かせた「恋した女性・ミノリの殺人」という《罠》の意味を考察・解説。

スズキが伊勢に「大学は文系か?」と確認した理由と人間の想像力に対する《物語》という罠、嘘である可能性が高いミノリの死の物語から垣間見えてくる「嘘であってほしい嘘」という疑念を探っていきます。

連載コラム『のび編集長のモヒカン・シニン考察録』記事一覧はこちら

映画『爆弾』の作品情報


(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会

【日本公開】
2025年(日本映画)

【原作】
呉勝浩『爆弾』(講談社文庫)

【監督】
永井聡

【脚本】
八津弘幸、山浦雅大

【主題歌】
宮本浩次

【キャスト】
山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、片岡千之助、中田青渚、加藤雅也、正名僕蔵、夏川結衣、渡部篤郎、佐藤二朗

【作品概要】
呉勝浩の同名ベストセラー小説を『キャラクター』『帝一の國』などの永井聡監督が実写映画化。

『ゴジラ-1.0』『木の上の軍隊』の山田裕貴が天才肌の刑事・類家役として主演を務め、『新解釈・三國志』などのコメディから『あんのこと』『さがす』などのシリアスまで演じ分ける佐藤二朗が謎の男・スズキタゴサクを怪演。

伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、片岡千之助、中田青渚、加藤雅也、正名僕蔵、夏川結衣、渡部篤郎と豪華キャストが共演。さらに主題歌を「エレファントカシマシ」の宮本浩次が担当した。

映画『爆弾』のあらすじ


(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会

東京都中野区・野方署で事情聴取を受ける、身元不明の中年男。

偽名にしか思えない「スズキタゴサク」を名乗る男は、酔った勢いで酒屋の自動販売機を蹴り飛ばし、止めに入った店主を殴るなどの乱暴を働いたことで逮捕され、野方署に連行された。

聴取する刑事・等々力に「逮捕される以前の記憶がない」「自販機の弁償代と酒屋店主の治療代を払いたいが、金がないので貸してくれ」と語る中、スズキは急に「刑事さんの役に立ちますから」「自分には霊感があり事件の予知ができる」と言い出す。

「今日の午後10時に秋葉原辺りで、何か事件が起きる」……等々力は当初、スズキの《予知》を全く信じていなかったが、その時刻通りに秋葉原で爆破事件が発生した。

さらにスズキは「あと3回、1時間ごとに爆発が起こる」と新たに予告する……。

映画『爆弾』伊勢に仕掛けられた《罠》を考察・解説!


(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会

《裏切る出世欲》を見透かされた伊勢

正体不明の爆破予告犯・スズキタゴサクの見張り役を任されるも、彼の悪魔的な心理操作術に絡め取られ、その果てに自らの代わりに同期・矢吹が重傷を負うきっかけを作ってしまった野方署の刑事・伊勢。

「紛失した場所を思い出したスマホを回収し、記録されている《恥ずかしい》写真を消してくれたら、全てを告白する」というスズキの言葉に対し、見張り役の仕事もある伊勢は同期・矢吹に回収を依頼。その判断には、矢吹の手柄を横取りしてしまったために彼より先に出世したことへの伊勢の罪悪感が秘められていました。

映画作中、伊勢はその心中に潜む自らの出世に対する罪悪感を、直接スズキに明かしてはいません。

しかしながら「職務規定に反するのに、スズキの身元判明につながり得る過去の記憶を誰にも報告しなかった」という強い出世欲が垣間見える行動を伊勢がとった時点で、スズキは「伊勢は過去にも、大切な何かを裏切る形で出世した経験がある」と容易く見抜いていたはずです。

想像力に仕掛けられた《物語》の罠


(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会

スズキは伊勢と2人きりになった際、彼に「学生時代に恋した女性・ミノリが教師に陵辱・殺害され、自らは冤罪にかけられた」という《罠》を仕掛け、その心を捕えることに成功しました。

罠を仕掛ける直前、スズキは伊勢に「大学は文系か?」と尋ね、彼が文系であることを確認していますが、原作小説では伊勢が文芸部の出身であることも明かされ、それが映画終盤に登場する石川啄木の短歌にもつながっていきます。

スズキはなぜわざわざ、伊勢が文系であることを確認したのか。それは「伊勢という人間が、物語から《想像》しやすいタイプか?」を確認した上で、《伊勢専用》の罠を仕掛けたかったからに他ありません。

「その物語が真実か虚構かを判断するよりも早く、想像が膨らんでいく」……それは文系と呼ばれる人々の多くが持つ《性質》であり、そうした性質を持っているからこそ物語をより深く楽しめることも多々あります。

しかし「その物語が真実か虚構かを判断するよりも早く」という言葉通り、そのたくましい想像力は「物語に自らの想像力を翻弄されやすい」と危うさも併せ持っていることも否定できません。ずば抜けた心理操作術を持つスズキは、その危うさを理解していたのです。

物語にその想像力を翻弄されやすい伊勢に、スズキは「学生時代に恋した女性・ミノリが教師に陵辱・殺害され、自らは冤罪にかけられた」という物語を……「人生の落伍者というべきクズ男に秘められた、残酷で不条理な過去」という単純明快な物語をチラつかせた。それこそがネズミ取りでいう《チーズ》であると気づくことなく、伊勢は罠に掛かってしまったのです。

まとめ/スズキは「嘘であってほしい嘘」を語るか?


(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会

映画作中、矢吹が重傷を負ったという報せに動揺する伊勢が問い詰めた際に「ミノリって誰ですか?」とスズキが発言した通り、彼が《罠》のために伊勢に語り聞かせた物語は全て虚構である可能性は非常に高く、その残酷な事件の内容からも「むしろ、そうあってほしい」とさえ感じられます。

しかしながら、ひどく無邪気ゆえにひどく邪悪な人間であるスズキは「むしろ、嘘であってほしい」と思えるような嘘を、他者に語ることなどあるのでしょうか。

「『現実であってほしい』と思えることほど、この現実には存在しない嘘」……ホームレス時代に出会った明日香に心を救われたような描写が仄めかされるも、結局は「明日香の自分に対する優しさは、全て自らの娘・美海を守るという利益のための行動だった=全てが嘘だった」と感じ絶望の境地に至ったスズキ。

そんな彼は「『現実であってほしい』と思えることほど、この現実には存在しない嘘」という現実の不条理さに対する意趣返しとして、「『嘘であってほしい』と思える出来事ほど、この現実に存在する真実」を象徴する出来事を、あえて明かすこともあったのではないか。

しかし、他者を永遠に愚弄し続けるためにも「嘘であってほしい真実」が真実であることは、他者に明かすなど断じてない……そんな無邪気と邪悪が混ざり合った果ての《天邪鬼》なスズキの心理が、ミノリの真実にも嘘にも見える《煙に巻いた話》に秘められているのかもしれません。

新たなる“モヒカン・シニン”の考察をお楽しみに……

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編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身。2019年に日本映画大学を卒業。映画評を寄稿する一方、映画配給レーベル「Cinemago」宣伝担当として、『ザ・エクソシズム』『Kfc』のキャッチコピー作成なども行う他、『獄舎Z』『トレジャー・アイランド』の字幕監修を手がける。2025年公開のタン・チュイムイ監督・主演作『野蛮人入侵(原題)』では、日本公開版タイトル『私は何度も私になる』を命名した(@youzo_kawai)。


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