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映画『年少日記』あらすじ感想と評価解説。少年の日記を通して生きることに苦しむ人々に寄り添う光を描く感涙作

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『年少日記』は2025年6月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開

映画『年少日記』が2025年6月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開されます。

“痛み”と“後悔”を背負い続けた、ある教師の少年時代の記憶を辿る感涙作です。監督は本作が長編デビューとなるニック・チェクで、第60回金馬奨で観客賞と最優秀新人監督賞を、第17回アジア・フィルム・アワードでは最優秀新人監督賞を受賞しました。

主演は監督としても活躍するロー・ジャンイップが務めます。

ある家族の苦しみを描き、そこから社会全体に通じる人間関係の愚かな構図まで感じさせる秀作です。深く心に刺さる傑作の魅力をご紹介します。

映画『年少日記』の作品情報


ALL RIGHTS RESERVED (C)2023 ROUNDTABLE PICTURES LIMITED

【公開】
2025年(香港映画)

【監督・脚本】
ニック・チェク

【キャスト】
ロー・ジャンイップ、ロナルド・チェン、ショーン・ウォン

【作品概要】
痛みと後悔を抱える高校教師が少年時代の日記をきっかけに記憶をたどっていく姿を描くドラマ。苛烈な競争社会において子どもが受けるプレッシャーや家庭内暴力など社会問題に切り込み、痛切な現実と苦しみを浮き彫りにします。

監督は本作が長編デビューとなるニック・チェク。巧みな脚本と構成が高く評価され、第60回金馬奨で観客賞と最優秀新人監督賞を、第17回アジア・フィルム・アワードでは最優秀新人監督賞を受賞しました。

主演は『ある殺人、落葉のころに』(2021)などに出演し、監督・撮影監督としても活躍するロー・ジャンイップ。

映画『年少日記』のあらすじ

高校教師のチェンが勤める学校で、自殺をほのめかす遺書が見つかります。そこに書かれていた「私はどうでもいい存在だ」という言葉は、幼少期の日記に綴られたものと同じでした。

彼は遺書を書いた生徒を捜索するうちに、閉じていた日記をめくりながら自身の幼少期の辛い記憶をよみがえらせていきます。それは、弁護士で厳格な父のもとで育った兄弟の記憶でした。

勉強もピアノも何ひとつできない兄と優秀な弟。親の期待に応える弟とは違い、出来の悪い兄は家ではいつも叱られていました。しつけという体罰を受ける兄は、家族から疎外感を感じ…。

映画『年少日記』の感想と評価


ALL RIGHTS RESERVED (C)2023 ROUNDTABLE PICTURES LIMITED

ただただ胸を引き絞られるような悲しみに満ちた作品です。

父親は体罰こそが子供をしつける正しい方法だと信じ込み、たった10歳の少年を悪い成績をとるたびに殴りつけます。その責は妻にもあると考え、彼女にも手をあげていました。妻は常に夫に怯えています。

一方で父親は、頭がよく、ピアノも上手な弟の方をかわいがり、彼と比較しては尚更兄を厳しく折檻しました。

父への恐怖に加え、兄を軽んじる気持ち。保身が先立った母親と弟は、兄がどんなにひどい目に遭って苦しんでいても見て見ぬふりをしていました。兄にとっては、生きながらにして葬られるような気持ちだったことでしょう。学校や職場でのイジメでも成り立つ構図です。

子供または部下のためだといって権力を振るう者、自分が傷つくことを恐れて目をつぶり口をつぐむ周囲の者。そんな中、どんどん追い詰められていく力弱き者。

やがて時が経ち、関係する者すべてが負った大きな傷が、じくじくと痛み始めます

トラウマの酷さを通して、その時に声をあげて助けを求める大切さに気づいていくチェン。苦難の先に彼が見つけた光に救われる作品です。

まとめ

主人公教師の苦しみと後悔に満ちた思いがヒリヒリと伝わってくる作品です。幼い少年がすがるように見つめる瞳が、目に焼き付いて離れません。

大人は子供よりも大きな力を持つ側の者です。私達自身、知らず知らずに小さな魂を追い詰めていないか、あるいはそんな境遇にある子を見逃していないかと、不安にかられてしまいます。

家族のことは外の人間に決して話してはいけないと思い詰めている子も多いはずです。「困ったことがあったら相談して」と言い続ける必要がある一方で、いつでも手を差し伸べる気持ちを私達一人ひとりが持ち続けることが何より大切だと改めて思わされます。

映画『年少日記』は2025年6月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開です。


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