連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第223回
2020年に『佐々木、イン、マイマイン』で、新人賞を総なめした内山拓也監督の商業長編デビュー作『若き見知らぬ者たち』。
本作に描かれているのは、あらゆる理不尽にまみれても、自分の正義を守り懸命に生きようとする、“名もなき者たちの魂の叫び”です。
父親の残した借金返済のため、病気の母の介護をしながら昼も夜も働く主人公彩人を磯村勇斗。そんな彩人を支えるのは、岸井ゆきの演じる恋人の日向や福山翔太演じる弟の荘平や親友たちでしたが、ある日彩人の身に理不尽な不幸が襲い掛かります。
磯村勇斗と福山翔大が共演する本作は、内山監督が脚本も兼ねるオリジナル作品です。
映画『若き見知らぬ者たち』は、2024年10月11日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開!
映画『若き見知らぬ者たち』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本・フランス・韓国・香港合作映画)
【原案・脚本・監督】
内山拓也
【キャスト】
磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太、伊島空、長井短、東龍之介、松田航輝、尾上寛之、カトウシンスケ、ファビオ・ハラダ、大鷹明良、滝藤賢一、豊原功補、霧島れいか
【作品概要】
『若き見知らぬ者たち』は、内山拓也監督が身近な見聞にインスパイアされた自身のオリジナル脚本による、今を生きるすべての人たちに送る物語。
2020年の『佐々木、イン、マイマイン』で評判となった内山拓也監督が日本、フランス、韓国、香港合作で手がけた商業長編デビュー作で、フランス・韓国・香港・日本の共同制作作品です。
主役の彩人役を『正欲』(2023)『月』(2023)などの磯村勇斗、日向役には『ケイコ 目を澄ませて』(2022)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した岸井ゆきの。壮平役を福山翔大、大和役を染谷将太がそれぞれ演じるほか、霧島れいか、滝藤賢一、豊原功補らが脇を固めています。
映画『若き見知らぬ者たち』のあらすじ
風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父の借金を返済し、難病を患う母、麻美(霧島れいか)の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いています。
彩人の弟・壮平(福山翔大)も同居し、同じく、借金返済と介護を担いながら、父の背を追って始めた総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れています。
息の詰まるような生活に蝕まれながらも、彩人は恋人の日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいと考えていました。
しかし、彩人の親友の大和(染谷将太)の結婚を祝う、つつましくも幸せな宴会の夜、宴会の席に向かおうとする彩人にある出来事がおこります。
彼らのささやかな日常は、思いもよらない暴力によって奪われてしまい……。
映画『若き見知らぬ者たち』の感想と評価
『若き見知らぬ者たち』は、内山拓也監督の身近に起こった事件からインスパイアされた題材をもとにして誕生したそうです。
人間の力ではどうしようもない熾烈な運命に、徹底したリアリティさを追求したオリジナル脚本による作品です。原案、脚本、監督はすべて内山拓也が担いました。
また、企画段階から、海外配給会社の注目を集め、フランス、韓国、香港、日本の4つの国と地域で共同製作されたのも、大きな特徴と言えます。
本作では、国内外に向けて発信するためのインターナショナルビジュアルも作られました。そのコンセプトは、<苦悩/葛藤/貧困/意思/肉体/優しさ>。内山監督が作品で描きたかったすべてのものが詰まっていると言えるでしょう。
理不尽な出来事に押しつぶされそうになりながらも懸命に生きる彩人。そして彩人をささえる恋人や弟、周りの友人たちが迷い込む社会の落とし穴に愕然とします。
こんなことが本当にあっていいのか、いやこれが現実なのだと思わざるを得ないストーリーに、行き場のない怒りが沸き起こります。
ですが、終始重苦しく切ない雰囲気の劇中で、唯一相手と‟闘う姿勢”にだけは、運命に負けない闘志を感じることができ、一縷の望みを感じます。
まとめ
『佐々木、イン、マイマイン』(2020)で、若者から圧倒的な支持を得た内山拓也監督の『若き見知らぬ者たち』をご紹介しました。
借金返済と親の介護に明け暮れる毎日に、打ちのめされそうになっている一人の青年が、自分の中にある“最後の砦”と向き合って生きていますが、そこへさらに襲い掛かる理不尽な社会の悪に怒りを覚えることでしょう。
一生懸命に生きているだけなのに、なぜ彼がをそこまで追い詰められなければならないのか……。
世知辛い世の中でもささやかな喜びを見出し、地道な幸せを築こうとする若者たちへ襲い掛かる理解できない暴力が、これでもかと苛烈に描かれています。
自分の持つ正義を貫こうともがく若者の姿を、どうぞ劇場で見届けてください。
映画『若き見知らぬ者たち』は、2024年10月11日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開!
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。