連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第221回
映画『じょっぱり 看護の人 花田ミキ』は、青森県で「保健と看護の職」に命を捧げたひとりの女性の物語。
戦中戦後の激動期に保健と看護に尽力し、「青森のナイチンゲール」と評された実在の人物・花田ミキ(1913~2006)の生涯を描いています。
『二宮金次郎』(2019)『島守の塔』(2022)の五十嵐匠監督が、実力派の大ベテラン木野花を主役に迎えて取りまとめました。
自身も花田の看護に助けられた経験を持つ青森県出身の五十嵐監督が、医療に尽力を尽くす花田の姿から、たくましさと、優しさ、そして命の尊さを伝える作品となっています。
2024年9月14日(土)より大阪シアターセブンにて公開される『じょっぱり 看護の人 花田ミキ』をご紹介します。
映画『じょっぱり 看護の人 花田ミキ』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本映画)
【脚本・監督】
五十嵐匠
【キャスト】
木野花、王林、伊勢佳世、相馬有紀実、丸山燈大、半覚醒、松本実、舞の海秀平 ほか
【作品概要】
『じょっぱり 看護の人 花田ミキ』は、「青森のナイチンゲール」と評された実在の人物・花田ミキ(1913~2006)の生涯を、『二宮金次郎』(2019)『島守の塔』(2022)の五十嵐匠監督が映画化したヒューマンドラマ。
ベテラン俳優の木野花が花田役で主演を務め、青森県出身のタレント・王林がちさと、舞台を中心に活躍する伊勢佳世が若き日の花田を演じました。
戦中戦後の激動期に保健と看護に尽力した花田ミキ。幼い頃に、列車内でハシカによる高熱に倒れ、同じ列車に乗り合わせていた花田によって命を救われたという過去を持つ五十嵐監督が、花田の波乱万丈の人生を描き出します。
映画『じょっぱり 看護の人 花田ミキ』のあらすじ
スーパーで働きながら息子リクの子育てに追われるシングルマザーのちさとは、ある日職場の常連客である花田ミキと知り合い、親しくなります。
近所からは人嫌いの偏屈な老人として知られる花田でしたが、ちさとやリクとの交流を通して人のぬくもりに触れ、心を通わせていきます。
ちさととリクに心を許した花田は、かつて看護師だったことをはじめ、ちさとに当時の社会情勢や自身の人生について語りはじめます。
若い頃、花田は八戸赤十字病院で看護に携わり、集団感染が起きたポリオの治療法を広めました。また、地域の人々の命を救うために奔走。
1950年には、青森県庁に創設された衛生部看護係の係長に着任し、貧しい漁村の妊婦に対する医療活動などに励みました。
ちさとは幼い頃に亡くした母も看護師であったことから、花田にますます親近感を抱くのですが……。
映画『じょっぱり 看護の人 花田ミキ』の感想と評価
シングルマザーのちさとが親しくなった‟認知症の偏屈婆さん”花田ミキは、実はとんでもなくバイタリティあふれるスーパーガールでした。
偏屈婆さんが、自分の過去を娘のような年齢のちさとに語る形で、物語は展開。本作の主人公・花田ミキは、青森のナイチンゲールと呼ばれた実在の人です。
花田ミキは、盛岡赤十字看護婦養成所を卒業後、日本赤十字社青森県支部の看護婦となり、戦争時、三度の召集を受け、従軍看護婦として戦場に赴き負傷兵の看護にあたる。終戦後は青森県で、看護教育の基礎を築き上げるため尽力し続けたという経歴の持ち主です。
1949年のワクチンなき時代に流行したポリオと戦い、全国一と言われる乳児死亡率を持つ青森県の現状を覆そうと、保健婦不在の町村をなくす「派遣保健婦制度」設立に奔走しました。
映画では、晩年の花田ミキは大ベテランの木野花が温かみ味あふれる包容力のある演技で挑み、若い頃の花田ミキは舞台を中心に活躍する伊勢佳世が演じています。
乳児死亡がとても多い現状に「もったらころすな」と叫びをあげる伊勢佳世の鬼気迫る演技に、目を見張ることでしょう。
タイトルの「じょっぱり」は、青森県津軽地方の方言で頑固者という意味です。‟看護の人”花田ミキは、人の命を助けるため、立ちはだかる難問にも屈せず、頑固に看護人の姿勢を貫いたヒロインでもあったのです。
充分な看護や保健の普及とならない地域格差や貧困の厚い壁は、現在も立ちはだかっています。花田ミキの活躍と看護医療に捧げた生涯を知り、新たにその想いを未来に繋げていきたいものです。
まとめ
「青森のナイチンゲール」と呼ばれた実在の人物・花田ミキ(1913~2006)の生涯を描いた、映画『じょっぱり 看護の人 花田ミキ』をご紹介しました。
シングルマザーの母子と心を通わせて、自分の辿ってきた看護の道を語り出す花田ミキ。
彼女は子どもにはとても優しい。それは病に苦しむ人々や乳幼児を死から救ってきた実績があるからかもしれません。
映画化された、‟青森県の伝説の看護の人”の看護に命をかけた波乱万丈の生きざまから、戦争の悲劇、命を守る保健師の原点、そして「この時代を生きる」ことの大切さが見えてくることでしょう。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。