連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第47回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第47回は、2024年8月23日(金)より新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン池袋、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開される『ポライト・ソサエティ』。
怪しい男から大好きな姉を守るべく立ち上がった妹の奮闘を、カンフー✕ボリウッド✕シスターフッドのスクラムで描いた、痛快青春バトル・アクションの見どころをご紹介します。
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映画『ポライト・ソサエティ』の作品情報
【日本公開】
2024年(イギリス映画)
【原題】
Polite Society
【監督・脚本】
ニダ・マンズール
【製作】
ティム・ビーバン、エリック・フェルナー、オリヴビエ・ケンプファー、ジョン・ポコック
【撮影】
アシュリー・コナー
【編集】
ロビー・モリソン
【音楽】
トム・ハウ
【キャスト】
プリヤ・カンサラ、リトゥ・アリヤ、セラフィーナ・ベー、エラ・ブルッコレリ、ショナ・ババエミ、ニムラ・ブチャ、アクシャイ・カンナ、ショーブ・カプール、ジェフ・ミルザ、ユーニス・ハサート
【作品概要】
怪しき陰謀に巻き込まれた姉を救おうとするスタントウーマン志望の妹を描く、イギリス製青春バトルアクション。
本作が長編映画デビューとなるプリヤ・カンサラが主人公の妹リア、『バービー』(2023)やテレビドラマ『アンブレラ・アカデミー』のリトゥ・アリヤが姉リーナを演じます。
テレビドラマ『絶叫パンクス レディパーツ!』で評価された新鋭ニダ・マンズールが長編初の監督・脚本を担当。バラク・オバマ元米大統領の「お気に入り映画」にも選出され、英国インディペンデント映画賞最優秀新人脚本家賞を受賞しました。
映画『ポライト・ソサエティ』のあらすじ
ロンドンのムスリム家庭に生まれた高校生のリア・カーンは、スタントウーマンを目指し日々鍛錬に励んでいます。
しかし学校では変わり者扱いされ、両親からも将来を不安視されていました。
そんなある日、リアの姉リーナが大富豪の息子サリムと結婚して海外へ移住することに。
謎めいた彼の一族に不信感を抱いたリアが独自に調査を進めると、結婚の裏には驚くべき陰謀が……。
大好きな姉を救うため、リアはイケてない友人たちとともに、結婚を阻止するべく立ち上がります。
ダメダメ女子高生が活躍する青春アクション
イギリスで暮らすムスリム女性たちで編成されたパンクバンドの活躍を描く2021年製作のドラマ『絶叫パンクス レディパーツ!』(日本ではスターチャンネルで放送)で監督・脚本を務め、英国アカデミー賞テレビ部門で6部門ノミネートされ、最優秀脚本賞(コメディ部門)を受賞し注目を浴びた新鋭、ニダ・マンズール。
そんな彼女の長編映画デビュー作『ポライト・ソサエティ』は、自身が20代の頃から構想していたというアクションコメディです。
主人公の女子高生リアは、自分と同じパキスタン系イギリス人のスタントウーマン、ユーニス・ハサート(アンジェリーナ・ジョリーのダブルなどを務めた実在の人物)に憧れ、日々アクションの鍛錬に余念がありません。
しかし、学校のクラスメートたちからは、“スクールカースト”の最下層に扱われ、父母からも夢を諦めるよう説かれる始末……。
そんなリアを理解してくれていた実姉のリーナの前に、突如プレイボーイの御曹司サリムが出現。サリムに見初められたリーナとの結婚が決まります。
時にステゴロなケンカもするけれど、慕っているお姉ちゃんを取られてしまう……。リアは同じくスクールカースト最下層な友だちのクララとアルバらと共に、結婚を破談にすべく調査を開始。すると、結婚の裏に隠されていたとんでもない陰謀に気づくことに。
お姉ちゃんを救え!シスターフッドあふれる展開が繰り広げられます。
映画の“脇”に追いやられる南アジア系俳優の逆襲
マンズール監督が本作を作りたかった一番の理由として挙げたのが、「南アジア系の10代の女の子がアクションヒーローになるのを見たかったから」
アクション、コメディ、ホラーなどジャンルを問わず、映画に登場するパキスタンやインド、バングラデシュら南アジア系の人物は、とかく悪役や脇役のポジションに収まりがち。そんな「どこか取り残されたような気持ちを抱いていた」という思いが、自身もパキスタン系である監督の作品づくりの原動力となっています。
『絶叫パンクス レディパーツ!』では、厳しい戒律を余儀なくされているというイメージで見られがちなムスリム女性たちの本音をパンクロックでさらけ出したように、リアもまた、自分がなりたいスタントウーマンへの道を進もうとします。
リア役のプリヤ・カンサラが、「こんなクレイジーな脚本を読んだことはありませんでした。色んな要素が詰め込まれているので、まるで映画7本分に出演したような気分」と振りかえるように、監督が少女時代から楽しんで観てきた一連のジャッキー・チェン作品や、「マトリックス」シリーズ(1999~2003)に代表されるハリウッド作品などにリスペクトを捧げたアクションが満載。
特筆すべきはボリウッド作品へのオマージュ。カラフルな伝統衣装を身にまとい、ダンサーのように舞いながらリアが闘う姿は、シャー・ルク・カーン、サルマーン・カーン、アーミル・カーンら“3大カーン”主演のインド映画を思わせます。
本作が長編映画デビューにして初主演のプリヤが、アクションのコレオグラフィやダンス、大半のスタントも自らこなしたことにも注目です。
劇中で使用される曲も、ショパンの『華麗なる大円舞曲』にケミカル・ブラザーズの『Free Yourself』、さらには“アンダーグラウンドの女王”浅川マキの『ちっちゃな時から』などなど、マニアックかつバラエティに富んでいる点も聞きのがせません。
映画では脇役のスタントウーマン。それでもリアにとっては憧れの立派な主役。
「ムスリム女性は自由がなさそう」、「南アジアの俳優って端役ばかり」…そんな「ポライト・ソサエティ=凝り固まった社会」を、アクション大好き女子高生がぶっ壊す!痛快青春エンターテインメントにご期待ください。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)