人類の未来は「侵略者」そのものだった?
「侵略者」が地球に突如出現し、人類の滅亡が近づく世界の「日常」を描いた浅野いにおの同名漫画を、前後編でアニメーション映画化した『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』。
人類滅亡の運命とともに現れれた侵略者たちですが、実は人間に対して侵略者が破壊・殺戮を行う描写はほとんど存在せず、あくまでも人間側の被害は「人間側の行動への不可抗力」として描かれていました。
今回は『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』(2024)で明かされた侵略者の正体について考察・解説。
作中で明らかになった侵略者の設定から見える、本作に秘められたメッセージを探っていきます。
CONTENTS
映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本映画)
【原作】
浅野いにお
【アニメーションディレクター】
黒川智之
【脚本】
吉田玲子
【キャスト】
幾田りら、あの、種﨑敦美、島袋美由利、大木咲絵子、和氣あず未、白石涼子、入野自由、内山昂輝、坂泰斗、諏訪部順一、津田健次郎、竹中直人
【作品概要】
『ビッグコミックスピリッツ』にて2014年から2022年まで連載された、浅野いにおによる人気漫画を前後編に分けてアニメーション映画化。
『ぼくらのよあけ』(2022)の監督を務めた黒川智之がアニメーションディレクターを務め、『猫の恩返し』(2002)『リズと青い鳥』(2018)など多くのアニメ映画で脚本を務める吉田玲子が脚本を担当しました。
映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』で明かされる「侵略者」の正体
『後章』作中、その正体は「元地球人」であることが明言された侵略者。彼らは地球に再度住むことを目的として、地球に現れたことが分かります。
さらに侵略者の言語で会話が進む場面では、「ツトム」といった日本人のような名前を持つ侵略者もいることも分かり、過去の地球にも現在の日本と同じような文明があったことを匂わせています。
そして、ついには「侵略者が被っている宇宙服の防護ヘルメットの内部の素顔は、人間と瓜二つである」という事実も描かれ、彼らが数千年以上前の地球人であることはもちろん、現在の地球人とも遺伝子上のつながりがある可能性が高いことも判明しました。
そもそも、元地球人であるはずの侵略者は、どのような経緯で地球を離れたのか。そして彼らは「善」の存在なのか「悪」の存在なのか。明言はされていなかったこれらの疑問の答えも、作中の細かなセリフから考察することができます。
今の地球と昔の地球の「滅亡」
侵略者が地球を離れる原因となったのは、かつての地球で起こった「滅亡」でした。そして登場人物のセリフからも、その滅亡は『後章』終盤にも出現した「光=高次元の存在」がきっかけであったことが窺えます。
侵略者の一人・大葉の奮闘によって、作中の世界線の地球は滅亡という未来を迎えることはなかったものの、「光の介入による地球の滅亡」というあり得たかもしれない未来自体は、小比類巻が見てしまった「人類の未来」そのものでした。
仮に、もし滅亡が予想通り作中の世界線上で訪れていた場合、生き残るのは地上のごく少数の人類と、新国立競技場の地下で建造されていた「方舟」によって大気圏外へと逃亡した人類の2種類だけだったはずです。
宇宙への避難船である方舟に搭乗し、地球から離れる現住人類。その姿からは、かつて地球で暮らしていた侵略者たちが「滅亡」と相対した時にどのような決断に至ったのかが想像できます。いわば侵略者は、方舟に搭乗し地球から逃亡した現住人類の「未来」の姿なのです。
「侵略者」は「善」なのか「悪」なのか
当初、人類を「知能を持たない生物」と捉えていた侵略者は、人類を地球で住む上での労働力としてしか考えていませんでした。
しかし人類に知能があることが判明し、膠着状態に陥った「侵略者」たちは戦いを望まないがゆえに、人類による一方的な殺戮に晒されることに。
人類と同様に「知能を持たない生物」への無自覚な差別感情はあるものの、作中の描写では侵略者は基本的に争いを好まず、まともに戦闘手段すらも持たずに地球へとやって来たかのように描かれています。
その姿は一見友好的にも感じられますが、のちに作中で登場した母艦に乗る侵略者たちは、彼らはそもそも地球への移住を願う「一般人」に近い存在であることも言及されていました。
侵略者たちの政府が置かれているであろう「本国」は、母艦が崩壊し未曾有の被害が生じることを見越した上で船を地球へと送り込んでおり、そこには人類と同族であるはずの「一般人」への悪意を感じさせます。
それは「一般人」に多くの被害が出ることが分かっていながらも情報を隠匿し、最終的には方舟に乗り込んで逃亡した人類側の政府高官たちと瓜二つであり、二つの種族はともに「善」にも「悪」にも立場によってなり得ると考察することができます。
まとめ
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』で描かれた侵略者は、見た目や文明レベルこそ異なれど「未来の人類」といっても過言ではないほどに同じ存在でした。
「本国」の企みによって地球に現れた「一般人」の侵略者たちは、人類の政府高官たちによる身勝手な攻撃の犠牲となり、人類の侵略者たちへの対応は「新たな滅亡」を早めていきます。
並行世界や「侵略者」との対峙といった壮大な物語の裏には、「上層部の行動により一般人が割を食う」という、人類が「社会」という概念を生み出して以来、絶えることのない不条理を皮肉っていた本作。
何も知らないからこそ、日々を楽しむことができるのか。何も知らないからこそ、突如として理不尽な目に遭うのか。侵略者の正体を深掘りすることで、作品の見方すらも大きく変わるような重要な要素であったといえます。
崩壊へと向かう前編を描いた映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』ネタバレ解説記事はコチラ→
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