連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第194回
巨大な手で敵レスラーの顔をわしづかみにする必殺技‟アイアンクロー(鉄の爪)”を得意技としたアメリカの伝説的なプロレスラー、フリッツ・フォン・エリック。彼を父に持ち、プロレスの道を歩むことになった兄弟の実話をベースに描いたドラマが上映されます。
映画『アイアンクロー』は、2024年4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
プロレス界の頂点を目指すフォン・エリック家ですが、ある時から次々と悲劇に見舞われ、いつしか「呪われた一家」と呼ばれるようになっていきます。
本作の監督は『不都合な理想の夫婦』(2020)のショーン・ダーキン。「呪われた一家」と呼ばれながらもプロレスを生業とし続けた、ある家族の物語。映画『アイアンクロー』をご紹介します。
映画『アイアンクロー』の作品情報
【日本公開】
2024年(アメリカ映画)
【原題】
THE IRON CLAW
【監督・脚本】
ショーン・ダーキン
【製作】
テッサ・ロス ジュリエット・ハウエル アンガス・ラモント
【キャスト】
ザック・エフロン、ジェレミー・アレン・ホワイト、ハリス・ディキンソンほか
【作品概要】
本作『アイアンクロー』は映画ファンを魅了する気鋭スタジオ「A24」の作品で、『不都合な理想の夫婦』(2020)のショーン・ダーキン監督が、プロレス界の伝説“鉄の爪”フォン・エリック一家の衝撃の実話を映画化したものです。
「呪われた一家」と呼ばれ、栄光を築き上げながらも相次ぐ悲劇によって引き裂かれていく兄弟の壮絶なドラマを、次男ケビンの視点から描き出しました。
主演は『炎の少女チャーリー』(2022)のザック・エフロン。そのほか、『逆転のトライアングル』(2022)のハリス・ディキンソン、大ヒットドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』(2022)のジェレミー・アレン・ホワイトなどが出演し、驚異の肉体改造を披露しています。
映画『アイアンクロー』のあらすじ
元AWAヘビー級王者のフリッツ・フォン・エリック(ホルト・マッキャラニー)は必殺技“アイアンクロー=鉄の爪”を生み出し、一世を風靡したプロレスラーです。
1970年はじめ頃、悪役レスラーとしてドサ回りに参加していたエリックは、妻と子どもたちを養うために自らのプロレス団体を設立し、息子のケビン(ザック・エフロン)を花形レスラーに育てあげようとしていました。
ケビンに続いて、三男デビット(ハリス・ディキンソン)のデビューが決まり、陸上競技のオリンピック選手を目指していた大学生の四男ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)も、アメリカ政府がモスクワオリンピックをボイコットしたため、陸上競技を断念し、プロレスラーになることを決意しました。
息子たち全員をプロレスラーに育て上げることになったエリックは、、苛烈な競争が繰り広げられる世界で“史上最強の一家”となる野望を燃やします。
厳格な父を敬愛する息子たちは、レスラーとしての才能を開花させ、次男ケビン(ザック・エフロン)、三男デビッド(ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)が大活躍した1980年代に絶頂期を迎えます。
ですが、その後、最強への道に悲劇が立ちはだかり始めます。
映画『アイアンクロー』の感想と評価
プロレス界の頂点をめざす、エリック一家の物語です。
アイアンクローの必殺技を持つ花形レスラーの父・エリック。次男ケビン(ザック・エフロン)、三男デビッド(ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)と、兄弟そろってプロレス界でその名を馳せます。
ですが、強さの絶頂期の中で悲劇が次々とこの一家に襲い掛かります。「呪われた一家」と噂されるのもこんなところからです。
本作はそんなエリック家の実話を基に、息子である次男のケビン目線で事実に沿った物語を作り上げました。
父の厳しいトレーニングに耐え、弟たちとのケンカやすれ違いも体験する次男のケビン。そこにあるのは父を敬い、弟たちを大切に思う、優しい兄の姿です。プロレス一家にある家族愛を語るのには、やはりこのケビンをおいてほかにはいないのでしょう。
ダーキン監督は、幼少期の自分について「プロレス狂」だったと言います。子どもの頃からプロレスに夢中で、フォン・エリック・ファミリーの悲劇に衝撃を受けた一人だったそうです。
監督は長年憑りつかれていた驚きの実話を、見事に家族の愛情と葛藤のドラマに仕立てたと言えます。プロレスに纏わる栄光と挫折を掘り下げ、新たな価値観を誕生させました。
悲劇に見舞われる一家ですが、作品ではそれを嘆き悲しむ暗いムードは感じられません。栄光にも運命にも立ち向かっていく強い家族愛がそこにあるからに違いありません。
エリック家の栄光と悲劇をドラマ化するにあたり、プロレスラーを演じるザック・エフロン、ハリス・ディキンソン、ジェレミー・アレン・ホワイトらは、みな肉体改造を試みました。
彼らは本物のプロレスラーのような強靭な鋼の筋肉を纏う肉体でリングに立ち、迫力あるレスリングの試合をしています。
製作総指揮の米プロレス団体AEWのマクスウェル・ジェイコブ・フリードマン、プロレスシーンのコーディネーターを務める元WWE王者のチャボ・ゲレロ・Jr.らが、それぞれレスラー役で劇中にも登場し、白熱した試合を再現しているのも、見どころのひとつです。
まとめ
かつて、「アイアンクロー(鉄の爪)」の必殺技を持ち、アメリカプロレス界にその名を轟かせたフリッツ・フォン・エリックを題材にした作品『アイアンクロー』。“最強”を追い求めたエリックとその家族が織りなす真実の家族愛の物語でした。
事実に基づき、本格的なプロレスシーンが随所にみられる本作では、キャスト陣は見事な肉体改造の成果を披露しています。
またその一方では、栄光を目の前にして悲劇が訪れる兄弟の常に支え合う愛も丁寧に描かれ、単なる悲劇で終わらないエモーショナルな作品です。
プロレス界の出来事を扱った映画ですが、当事者の家族愛に心が温まることでしょう。
映画『アイアンクロー』は、2024年4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。