映画『あとがき』は2023年3月1日(金)よりシモキタ-エキマエ-シネマ「K2」他で全国順次ロードショー!
ショートフィルム『僕とぼくとカノジョ』がさぬき映画際2021・グランプリを受賞するなど、注目を集め続ける玉木慧監督によるオリジナル青春映画『あとがき』。
監督自身の友人でもある、実在した「路上で一人芝居をする役者」「吃音を持つアーティスト」の二人をモデルに、若者たちの東京・下北沢での8年間を描き出した作品です。
今回の劇場公開を記念し、映画『あとがき』で吃音を持つアーティスト・レオ役を演じられた俳優の遠藤史也さんにインタビューを行いました。
レオのモデルとなった人物との出会いと対話を通じて、遠藤さんが知った「表現」と「感謝」の関係性。そして「自由さとの戦い」だという俳優のお仕事など、貴重なお話を伺えました。
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一番納得できるし、後悔しない役作り
──レオ役を演じられることが決まった当初は、どのような想いを抱かれたのでしょうか。
遠藤史也(以下、遠藤):実在の方をモデルに描かれている人物ということもあって、人間としてのリアルは演じる上で一番大事だとまず感じました。だからこそ、ギターに触れたことのない自分が数ヶ月後の撮影までに「ミュージシャン」に見えるようになるのかと少し不安になりましたし、何より吃音について一から学ばなくてはと考えました。
またレオの内面は純粋な部分が強く、いろんな葛藤を抱きながらも夢を追いかけることに迷いがない人間でもあり、自分とは正直正反対な彼を撮影までに演じられるようになるのかは、役作りで特に悩んだところですね。
──本作における実際の役作りは、どのように進められていったのでしょうか。
遠藤):吃音については文献を読んだり資料映像を観続ける中で「吃音」と一言にいっても様々な種類や症状の例があることを知ったんですが、その上でレオのモデルとなった方がどのような種類の吃音で、どのような症状を持つのかは把握できていませんでした。
その後、初めてギターを貸していただいた際にモデルとなった方とお会いし、とにかく彼を徹底的に見つめることで、レオという人間のリアルがどこにあるのかを探りました。それが自分の一番納得できる、完成した映画を観た時に一番後悔をしない役との向き合い方だと感じたんです。
モデルとなった人物の「軸」に触れる
──そのような役作りの方向性を決められた中で、最終的にはどのようにレオという人間を演じられることにしたのでしょうか。
遠藤:自分は当初、吃音に対し全く偏見を持っていないと思っていたんですが、レオのモデルとなった方とお会いしお話をする中で実際の吃音の症状を目にした際、「吃音を気にしていないふり」をしている自分がいることを痛感しました。
「自分は『気にしていないふり』という嘘を吐いている」と悩むようになった僕は、レオのモデルとなった方ご本人に「気にしていないふり」をどう感じているのかと尋ねました。それはレオを演じる上でどうしても必要だったとはいえ、正直嫌な質問だったと思います。
ただ、ご本人は「しょうがないことだと思うし、それは吃音以外でも起こることだよ」と答えた上で「でも吃音は自分のアイデンティティの一部で、もし吃音がなくなったら、自分自身の生き方が分からなくなるかもしれない」と明るい口調で答えてくれました。
その言葉を聞いた時、「これだ」と思いました。
吃音を武器だと考えていて「吃音がないと歌詞も書き始めなかっただろうし表現も始めなかっただろうね」という彼の、何かを表現したくて仕方ない、どこまでも表現のエネルギーが止まらない姿は、自分のギター練習に付き合ってくれた際にもひしひしと伝わってきました。そうやって触れることのできた彼の「軸」さえあれば、レオを演じ切れると感じました。
クランク・イン中も、レオのモデルとなった方が撮影現場に訪れてくれたので、そこで言葉を交わす中で彼が持つエネルギーを受け取り、それを自分自身の中にチャージした上で、芝居の時に放出するように演じていきました。
「エネルギー」を受け取り、伝える仕事への感謝
──遠藤さんにとっての俳優というお仕事、あるいは表現そのものにおける「軸」は何でしょうか。
遠藤:正直、まだ自分自身では分からないんですよね。あるのかどうかも怪しいんですが、だからこそ『あとがき』を通してレオのモデルとなった方に出会い、彼の表現に対する想いの言葉を聴き続ける中で、彼の「軸」の強さに羨ましさを感じました。
役作りと現場での撮影という本当に短い期間ではありましたが、表現と向き合う時間も得られたこと、その上で自分自身の表現における軸の強さがまだ足りないと実感できたことは、本当に良かったと思っています。
──表現と向き合われた本作を通じて、ご自身の中ではどのような変化が生じましたか。
遠藤:僕は今まで、あまり他者に対して感謝の表現を向けられない人間だったんですが、本作の打ち上げの時に自然と「本当に感謝しています」と口にしていました。本当の意味で、感謝を覚えられたように感じたんです。
撮影の際に、僕はレオのモデルとなった方から「活力」「元気」とも言い換えられる、生きるためのエネルギーを受け取りました。だからこそ本作でレオを演じることができましたし、僕も同じように他者へエネルギーを伝えられる表現を続けていきたいと感じています。
打ち上げの時に口にした言葉は、仕事を通じて出会った方からエネルギーをもらえたこと、そうやって受け取ったエネルギーを、芝居を通じて別の人に橋渡しする役目を任されたことへの感謝だったのかもしれません。
俳優という仕事の「自由さ」と戦う
──遠藤さんは俳優というお仕事をどう捉えられているのか、改めてお聞かせください。
遠藤:『あとがき』の撮影現場でもそうでしたが、今の仕事をするようになってから一番「自分は自由に生きている」と感じるようになったんです。
例えば現場では、あまり「ああしなさい」「こうしなさい」とは言われません。むしろ「演じる上で何を選び、表現するのか」という個性を問われる仕事だと思いますが、サッカー部の活動と勉強に明け暮れていた学生時代には、その個性と向き合うことはほぼありませんでした。
スタートからカットがかかるまでの瞬間だけは、何をしてもいい。選択肢は無限に存在していて、あまりにも自由な時間がそこにあります。
今まで言われたことをやったらなんとなく生きてこれた僕は、芝居における「選ぶセンス」に正直自信がないんです。自分自身の個性と向き合う時間が少なかった学生時代は、ある意味今の自分自身の表現につながっているといえます。
ただ、それでも自分自身で選び、その選択を演技として表現することは楽しいんです。俳優という仕事の自由さと戦えることが、今どうしようもなく楽しいんですよ。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
遠藤史也プロフィール
1995年生まれ、静岡県出身。
GirlsAwardとavexが運営するオーディションプロジェクト「BoysAward Audition 2016」でグランプリ・MEN’S NON-NO賞をダブル受賞し、2016年4月より『MEN’S NON-NO』専属モデルとしてデビュー。現在は俳優として映画、ドラマ、広告を中心に活動。
主な出演作品に映画『甲州街道から愛を込めて』『アリスの住人』『賭けグルイ 双』『Bittersand』、ドラマ『アイゾウ 警視庁・心理分析捜査班』(フジテレビ)『賭けグルイ 双』(Amazon Prime Video)『きのう何食べた?』(テレビ東京)など。
映画『あとがき』の作品情報
【公開】
2024年(日本映画)
【監督】
玉木慧
【脚本】
佐藤寿洋、玉木慧
【キャスト】
猪征大、遠藤史也、向里祐香、松本ししまる、山田キヌヲ、橘花征志郎、尾台彩香、大高洋子、木村知貴、髙橋雄祐、細井学、山本桂次
【作品概要】
ショートフィルム『僕とぼくとカノジョ』がさぬき映画際2021・グランプリを受賞するなど、注目を集め続ける映画監督・玉木慧によるオリジナル青春映画。監督自身の友人でもある、実在した「路上で一人芝居をする役者」「吃音を持つアーティスト」の二人をモデルに、若者たちの東京・下北沢での8年間を描く。
路上で一人芝居を行い役者の夢を追う⻘年・春太役は『ストロベリーナイト・サーガ』『HOTEL-NEXT DOOR-』の猪征大、春太が出会う吃音を持つアーティスト・レオ役は『甲州街道から愛を込めて』『アリスの住人』『賭けグルイ 双』の遠藤史也。
また『愛なのに』『福田村事件』の向里祐香をはじめ、橘花征志郎、松本ししまる、尾台彩香、山田キヌヲ、大高洋子、木村知貴、髙橋雄祐、細井学、山本桂次など、若手俳優から実力派俳優まで幅広いキャスト陣が名を連ねる。
映画『あとがき』のあらすじ
染井春太は居酒屋でアルバイトをしながら役者を目指しているが、来る仕事はエキストラばかり。
ある日、路上で一人芝居をしている途中に出会ったアニキと東京・下北沢にあるバーを訪れる。そこで吃音のアーティスト・レオと出会う。
レオはアメリカから帰ってきたばかりで家が無く、気付けば春太の家に住み着くようになる。
目指すものは違うが、お互い夢を追う者として気付けばかけがえのない存在となっていく。そして2人はある約束を交わし、お互い約束を果たす為に日々努力する。
しかし次第に春太を取り巻く環境に変化が訪れ、春太の夢に対する気持ちも揺らいでいく……。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。