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Entry 2021/05/20
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【永瀬正敏インタビュー】映画『名も無い日』写真がうつす心という“真”、己に問い続ける“永遠”になってしまった目標

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『名も無い日』は2021年5月28日(金)よりミッドランドスクエアシネマほか愛知県・三重県・岐阜県の東海三県での先行ロードショー後、6月11日(金)より全国順次公開予定。

愛知県名古屋市を舞台に、ある三兄弟の数奇な運命を描いた映画『名も無い日』。

本作の監督を務めカメラマンとしても活躍する日比遊一の実体験に基づき、三兄弟をそれぞれ演じる永瀬正敏、オダギリジョー、金子ノブアキをはじめ、真木よう子、今井美樹、木内みどりらキャスト陣が物語を紡いでいきます。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念し、地元を離れ海外で写真家の仕事を続けてきた三兄弟の長男・達也役を務めた永瀬正敏さんにインタビュー。

日比監督が投影された主人公を演じるにあたって感じとったもの、自身も写真家として活動を続けてきたがゆえの作品への想い、そして図らずも“永遠”となってしまった役者としての目標と現在など、貴重なお話を伺いました。

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“伝える力”を持った映画『名も無い日』


(C)2021「名も無い日」製作委員会

──映画『名も無い日』は日比遊一監督の自伝的作品でもあります。本作の制作の中を通じて、永瀬さんの眼には日比監督がどのような映画監督にみえましたか?

永瀬正敏(以下、永瀬):日比監督は映画監督の活動を始める前から単身海外へ渡り、カメラマンのお仕事をバリバリされてきた、まさしくクリエイターとして生きてこられた方です。だからこそ物語の見つめ方が独特で、他の映画監督とは異なる視点を持っている方だと思いました。

──日比監督の独特な物語の見つめ方とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?

永瀬:今回携わらせていただいた本作に関していえば、決して説明過多ではない点ですね。セリフはもちろん、映像や音などさまざまな演出における情報量のバランスが、日比監督にはピンポイントで見えているんだと感じられました。それゆえに物語の本質がストレートに伝わるといいますか、伝える力を持った映画を撮れるんだと思います。

無論それらは、本作の物語が日比監督ご自身の体験と記憶に基づいていることも深く関わっているでしょうし、そもそも本作は日比監督の生まれた名古屋市の熱田で撮影されています。そうしたある種の土地勘も、本作の物語の描かれ方に強く影響しているかもしれません。

日比遊一監督と記憶との対話を通じて


(C)2021「名も無い日」製作委員会

──永瀬さんは本作にて、日比監督ご自身が投影された主人公・達也を演じられました。彼を演じられるにあたって、「モデル」にあたる日比監督とはどのようなことをお話しになられたのでしょうか?

永瀬:クランクイン前に作品や役についてお話をする機会を幾度か設けていただけたので、その際には多くのことを日比監督にお訊きしました。

どのような幼少期をご家族とともに過ごされたのか、どのような想いを胸にニューヨークへと行かれたのか、弟さんの訃報をお聞きになった際には何を思われたのか……美化されたものではなく、ストレートな言葉でもって、ご自身のさまざまな記憶やその当時の想いを話していただけませんかとお願いしました。その対話の時間があったから、達也を最後まで演じられた気がします。

また撮影現場においても、「家族や親戚と食卓を囲んだ時、あるいは旧友との食事や酒の席で、達也はどのような仕草をするのか」など、些細だけれど重要な細かな仕草について迷いが生じた際にも、日比監督というモデルその人が身近にいてくださったのはありがたかったです。そういう意味でも、なかなかない貴重な体験ができた現場でした。

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“そこ”にあり続ける記憶を感じとる


(C)2021「名も無い日」製作委員会

──次男・章人役のオダギリジョーさん、三男・隆史役の金子ノブアキさんをはじめ、共演者の方々とお芝居についてお話しをされた場面などはあったのでしょうか?

永瀬:本作に関しては、実はそこまで深く役者同士で相談をすることはありませんでした。ただそれは撮影にあたって、役者それぞれが持ち寄ってきたものが全て完璧だったからでもあります。

また演じる以上、その行為が「演技」であることには違いないんですが、本作の撮影における役者全員の眼差しとそこから生み出されていった行為は、「演技」とは違うところがあったように感じています。

その理由は物語が日比監督が体験された出来事に基づいていることもそうですが、映画劇中で登場する小野家の実家が、実際に日比監督が暮らしていたご実家であったことも関わっています。そこで監督は弟さんを亡くされているので、撮影に際しても役者たちがその場所でさまざまなものを感じとり、“いただく”ということが多々ありました。そのためワイワイガヤガヤという現場というよりは、一種の緊張感が存在する現場だった気がします。

──「演じる」というよりも、「“そこ”にあり続ける記憶を感じとる」という感覚だったということでしょうか?

永瀬:そうだと思いますね。その場所に残る記憶の断片を、とにかく見つめ続けたといいますか。特に小野家の三兄弟を演じたオダギリくんや金子くん、僕はそういう状態だった気がします。

改めて再認識させられた写真の在り方


photo by 田中舘裕介

──劇中では写真家である主人公・達也の姿を通じて、「写真」という存在、或いは行為の意味にも触れています。ご自身も写真家として活動されている永瀬さんですが、本作を経て写真に対する認識に変化などはありましたか?

永瀬:写真は“写す真(まこと)”と書きますが、それは“写す心”があるから成り立つのだと改めて感じましたね。

昔は「写真を撮られると魂を抜かれる」なんて言葉もあったわけですが、撮る人間自身が心を持ち、被写体である誰かや自分自身の心を写そうとした写真こそが、撮影された写真を見た人の心にも響くんだと。そして誰よりも、日比監督はそれを信じて写真を、映画を撮り続けているんだと思います。

──そもそも、永瀬さんがご自身で写真を撮られるようになったきっかけを改めてお教えいただけませんか?

永瀬:自分はやはり写真を撮ってもらう機会が多く、自然とカメラマンさんと知り合う機会が多いんです。そして知り合った方々のお家にお邪魔して、それぞれの過去の写真を見ていく中で「写真っていいな」と改めて感じたんです。

ただそれだけがきっかけではなく、いろいろなことが重なった結果だと思っています。写真集や画集が好きだったことはもちろん、自分の祖父が写真館を営んでいたことなど、本当に多くの出会いや記憶が重なったおかげで、写真を撮るようになったんです。

それに僕らが若い頃、世間ではカテゴライズをしたがる風潮が非常に強かったんです。例えば僕がなけなしのお金で買った革ジャンを着て、映画やテレビドラマのオーディションに行くと「バンドマンみたいだ」という理由だけで落とされてしまった。他にも仲間の一人でアイドル活動をしていた女の子が自分で詩作もしていて、その詩作について取材を受けたはずなのに、結局終始「ニッコリ笑って」という言葉ばかりをかけられたなんてこともありました。そんなことが普通にある、理不尽なカテゴライズが当たり前の時代だったんです。

ですが写真に関しては、プライベートでも「写真、好きだったよね」「こういうの撮ってみてよ」と気軽に声をかけられるなど、カテゴライズをしたがる世間とは異なる世界があるように感じられました。それは写真がカテゴライズという枠を超えて、“他者”という存在を再認識できるものだからなのかもしれません。

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“永遠”となってしまった役者としての目標


photo by 田中舘裕介

──社会における「カテゴライズをしたがる風潮」は、その形は変化しながらも2021年現在まで根深く残っています。その中でも永瀬さんはご自身の思う表現を追い求め、中でも“役者”というお仕事は39年もの間続けられてきました。

永瀬:やばいですね、時間ばかりが経っちゃって(笑)。

ただ、僕は永遠に“まあまあな役者”です。それは役者としての目標と関わっているんですが、実は『ションベンライダー』(1983)に出演した時、僕はその撮影の中で相米さん(相米慎二:映画監督/1948-2001)に一回も「OK」と言われたことがないんです。

当時の僕はいつも、相米さんには「まあ、そんなもんだろう」「まあ、それでいいだろう」といった言葉を「OK」の代わりにかけられていました。彼は僕が初めて出会った“映画監督”であり、僕をこの世界に導いてくれた映画監督であったので、それから“相米さんに思わず「OK」と言わせるような役者になりたい”と思うようになったんです。

けれども相米さんは先に天国に行ってしまったので、その目標は永遠のものになってしまった。ですから、自分はずっと“まあまあな役者”のまま役者人生が終わっていくんだろうとも思っているんですが、それでも今回の『名も無い日』はもちろん、さまざまな作品に出るたびに自分自身に問いてはいますね。「今回の作品はどうだった?」と。

──相米監督からの「OK」という俳優としての目標と、それが“永遠”となってしまった現在も対峙し続ける永瀬さんの姿は、亡き弟との記憶と向き合い現在をどう生きるかを自らに問う達也の姿と重なります。

永瀬:それを消すことはできないですからね。忘れることは、一生できない。

ただその想いを抱え続けながらも、どう一歩を踏み出すのかという物語が『名も無い日』でもありますし、その物語は映画を観た方の元にも必ず伝わり、届くものだと感じています。

インタビュー/河合のび・出町光識
構成/河合のび
撮影/田中舘裕介
ヘアメイク/勇見勝彦(THYMON Inc.)
スタイリスト/渡辺康裕
衣装協力/YOHJI YAMAMOTO

永瀬正敏プロフィール

1966年生まれ、宮崎県出身。1983年、相米慎二監督作『ションベン・ライダー』でデビュー。その後、1989年の『ミステリー・トレイン』、1991年の『息子』を含む国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。またカンヌ映画祭では2015年『あん』、2016年『パターソン』、2017年『光』と出演作が3年連続で出品された他、2018年には芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞した。

近年の出演作は2019年の『赤い雪』『ある船頭の話』『カツベン!』『最初の晩餐』、2020年の『ファンシー』『二人ノ世界』『ホテルニュームーン』『星の子』『Malu 夢路』『BOLT』、2021年の『茜色に焼かれる』など。

映画『名も無い日』の作品情報

【日本公開】
2021年(日本映画)

【監督】
日比遊一 

【音楽】
岩代太郎

【キャスト】
永瀬正敏、オダギリジョー、金子ノブアキ、今井美樹、真木よう子、井上順、藤真利子、大久保佳代子、中野英雄、岡崎紗絵、木内みどり、草村礼子

【作品概要】
愛知県名古屋市を舞台に、ある三兄弟の数奇な運命を描いた長編映画作品。物語は本作の監督でありカメラマンとしても活躍する日比遊一が経験した出来事に基づいている。

主人公長男・達也役を演じるのは、『』(2017)『カツベン!』(2019)『パターソン』(2016)など国内外で活躍する永瀬正敏。次男・章人役を『ある船頭の話』(2019)で監督としても期待が集まるオダギリジョー、三男・隆役を大河ドラマ『麒麟がくる』の金子ノブアキが務め、本作にて永瀬との初共演を果たした。

NHK『龍馬伝』、映画『さよなら渓谷』『海よりもまだ深く』など数多くの作品で強烈な印象を残す真木よう子、本作が13年ぶりの映画出演となった歌手・女優の今井美樹も出演を果たしたほか、音楽を『レッドクリフ』『殺人の追憶』など数多くの映画音楽を努めた作曲家・岩代太郎が担当する。

映画『名も無い日』のあらすじ


(C)2021「名も無い日」製作委員会

名古屋市熱田区に生まれ育った自由奔放な長男の達也(永瀬正敏)は、ニューヨークで暮らして25年。自身の夢を追い、写真家として多忙な毎日を過ごしていた。

ある日突然、次男・章人(オダギリジョー)の訃報に名古屋へ戻る。

自ら破滅へ向かってゆく生活を選んだ弟に、いったい何が起きたのか。圧倒的な現実にシャッターを切ることができない達也。三男・隆史(金子ノブアキ)も現実を受けとめられずにいた。

「何がアッくんをあんな風にしたんだろう?どう考えてもわからん。」「本人もわからんかったかもしれん。ずっとそばに、おったるべきだった。」

達也はカメラを手に過去の記憶を探るように名古屋を巡り、家族や周りの人々の想いを手繰り始める……。




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