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映画『天使の欲望』あらすじ感想と評価解説。痴漢狩りを始めたふたりの女子高生の悲劇的な出会いと別れを描く衝撃作

  • Writer :
  • 谷川裕美子

許し合えない少女たちが迎える戦慄の結末

映画美学校フィクション・コース第13期高等科助成金作品。監督・脚本を磯谷渚が務め、痴漢狩りをするふたりの女子高生の欲望が暴走するさまを衝撃的に描きます。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014 オフシアター・コンペティション部門、第8回田辺・弁慶映画祭 コンペティション部門などに正式出品されました。

男性不信の百合子を本間玲音、クールな沙織を柳英里紗が演じます。

痴漢に怒りを持ち、自ら囮になって痴漢狩りを始めるお嬢様学校に通う女子高生たち。彼女たちの運命は、思いもよらない方向へと転げ落ちていきます。予測不可能な本作の魅力をご紹介します。

映画『天使の欲望』の作品情報

【公開】
2013年(日本映画)

【監督・脚本】
磯谷渚

【編集】
冨永圭祐

【キャスト】
本間玲音、柳英里紗、中谷仁美、相馬有紀実、中田暁良、榎本桜、外間旭、高尾勇次

【作品概要】
映画美学校のフィクション・コース第13期高等科助成金作品。”痴漢狩り”を始めるふたりの女子高生を主人公に描くピンキー・バイオレンスです。

監督・脚本を新鋭女性監督・磯谷渚が務め、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014 オフシアター・コンペティション部門、ニッポンコネクション2014、レインダンス国際映画祭2014、第8回田辺・弁慶映画祭 コンペティション部門に正式出品されました。

『ローリング』(2015)で大胆な演技を魅せた柳英里紗と、『旧支配者のキャロル』(2011)で存在感を残した本間玲音がダブル主演。暴走する女子高生という難役を熱演しています。

共演は中谷仁美、相馬有紀実、中田暁良ほか。

映画『天使の欲望』のあらすじとネタバレ

痴漢電車と呼ばれる花川線で痴漢にあった女子高生の沙織。彼女は見知らぬ女子高生に助けられます。彼女は、沙織が通う山城学園高校の転校生でした。

“親殺し”の噂をもつ百合子に誘われて、沙織と仲間たちは花川線で囮を仕掛けて痴漢狩りを始めます。

しかし、捕まえた犯人は金を渡して逃げ出しました。金を受け取った級友らに百合子は怒りを見せ、痴漢をもっと痛い目に合わせた方がいいと言い捨てます。一方の沙織は、痴漢をどうするかは囮が決めればいいと言いました。

不良の高校生たちに遭遇した沙織たちは、振り払って逃げます。百合子の昔なじみで、不良の一行に混じっていたコウスケは、不安そうにそのさまを見つめていました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『天使の欲望』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『天使の欲望』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

過去の出来事から、百合子は男性に対する絶対的な不信感に支配されていました。 一方、クールな眼で世の中を見る沙織には、人には言えないある秘密がありました。

百合子は、自分を犯そうとした母親の再婚相手を殺した過去を沙織に話します。夫に捨てられることを恐れた母が、娘を生け贄にしたために起きた悲劇でした。

囮の番になった百合子は、赤いカバーをした文庫本を沙織から借りて花川電車に乗り込みます。捕まった痴漢が、赤い本を持っているのは痴漢を呼ぶサインだと言おうとすると、その前に沙織が男を線路に突き落としました。

電車が通過して一同は一瞬固まったものの、男は線路の隅にいて無事でした。

百合子は自分で痴漢を呼んでいた沙織を糾弾しますが、沙織は友人らも自分と同じだと言い返します。

百合子は見せしめに、沙織に「痴女」と書いた紙をつけて、駅に縛り付けて放置しました。しばらくしてから不良高校生がやってきて、彼女を縛っていたひもを解きます。沙織は彼の後をついて行き、自ら抱かれました。

一方、コウスケから電話を受けた百合子は彼を誘いますが、抱かれる直前に彼を拒みます。

沙織は普通の性行為には痛みしか感じられず、痴漢とでないと快感を感じられませんでした。彼女は自分を抱いた高校生にそのことを話し、自分の友人らをめちゃくちゃにしてほしいと頼みます。

その後、クラスメイトのひろみが電車内で高校生らに暴行されたのを知った百合子は、彼らのもとに単身で乗り込みます。

不良たちに混じってコウスケの姿がありました。不良らに渡すくらいなら、と捨て鉢になったコウスケは自ら百合子を襲います。百合子の頬に涙が流れました。

続いて自分に襲いかかってきた別の不良の喉元に、百合子はカミソリを当てました。彼らに指示したのが沙織だったことを聞いた百合子は、容赦なく男の喉をかっ切ります。

外煮出ると、沙織が待っていました。百合子の足には一筋の血が流れていました。

そのまま百合子は線路に向かおうとします。沙織は必死で止めようとしますが、目の前で百合子は電車に轢かれてしまいました。

沙織は血を浴びた線路に頬を寄せた後、百合子の方へとふらふらと歩き出しました。

映画『天使の欲望』の感想と評価

他者を決して受け入れることのできない若く青い少女たちが、破滅へとまっしぐらに転げ落ちていくさまを描く衝撃作です。

まず冒頭、昭和の映画作品を思わせるレトロで激しい赤字のタイトル表記にビビッとさせられます。

お嬢様学校の生徒たちは、痴漢電車と呼ばれる花川線に乗ることを禁止されていました。ひと昔前を思わせるこの設定にも驚かされます。

主人公の沙織は、禁じられているにも関わらずひとりで花川線に乗って痴漢に合い、転校生の百合子に助けられました。しかし、礼を言うこともなく、沙織は逃げ出してしまいます。

沙織に何か秘密の匂いを嗅ぎ取りながらも、百合子は痴漢への怒りから、沙織を含む友人たちに痴漢狩りをしようと持ちかけます。

車内ですり寄ってくる男への恐怖や、女をモノ扱いする男たちへの怒りそれらの負の強い感情と対比して、痴漢の囮をじゃんけんで決める少女たちのあどけなさが浮き彫りになり、やるせない思いにとらわれます。

自分を暴行しようとした義父を殺した過去を持ち、男性に強い不信感を持つ百合子と、正常な性行為に苦痛しか感じられず痴漢に快感を求めるいびつな精神状態の沙織

ふたりは互いを許し合い受け入れることが出来ず、悲劇へと突き進んでいきます。融通の利かない青春期の堅い魂に、悲しみとともに共感を覚えずにはいられません。

まとめ

痴漢という犯罪性行為を挟んで、まったく異なる立場に立つふたりの女子高生を描いた『天使の欲望』。一方は男そのものを心底から憎み、もう一方は痴漢にしか快感を覚えることができないという性癖に苦しんでいます。

どちらも性犯罪に苦しめられていることに変わりはありません。さらに、彼女たちを食い物にしようとする男たちが、途切れることなく襲いかかるさまに恐怖を覚えます。

百合子がカミソリを持つほどに男を憎まずに生きられたなら、沙織が快感に左右されず心を預けられる男性に巡り会えていたならと思わずにはいられません

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