連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第179回
中華圏を代表する映画賞・金馬奨で主演女優賞に輝き、第96回米アカデミー賞国際長編映画賞香港代表作品にも選ばれている香港映画『燈火(ネオン)は消えず』。
映画『燈火(ネオン)は消えず』が、2024年1月12日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開されます。
本作は、ネオン職⼈だった夫亡き後、彼がやり残した最後のネオンを完成させようとする妻の物語です。
⾹港の夜景の象徴だったネオンは、2010年の建築法等の改正によって9割も消えています。そんな中で、CGはもちろんのこと、職⼈が新たに作り直すなどして、かつての観光名物だったネオンを再現しました。
ネオンに夫との夢をかける妻の愛情あふれる物語『燈火(ネオン)は消えず』をご紹介します。
映画『燈火(ネオン)は消えず』の作品情報
【日本公開】
2024年(香港映画)
【英語題】
A Light Never Goes Out
【中国語題】
燈火闌珊
【脚本・監督】
アナスタシア・ツァン
【キャスト】
シルヴィア・チャン、サイモン・ヤム、セシリア・チョイ、ヘニック・チャウ
【作品概要】
『燈⽕(ネオン)は消えず』の脚本と監督を務めたのは、アナスタシア・ツァン。『過ぎゆく時の中で』(1989)や『呉清源〜極みの棋譜』(2006)の名⼥優シルヴィア・チャンと、ジョニー・トー作品や『イップ・マン 序章』(2008)のサイモン・ヤムが夫婦役を演じました。
『返校 ⾔葉が消えた⽇』(2017)で⼈気スターとなったセシリア・チョイが⼆⼈の娘役、本作で⾹港電影⾦像奨新⼈賞にノミネートされたヘニック・チャウが物語の鍵になる⻘年を演じています。
映画賞・⾦⾺奨の主演⼥優賞に輝き、第96回⽶アカデミー賞国際⻑編映画賞の対象となる⾹港代表作品にも選出されました。
映画『燈火(ネオン)は消えず』のあらすじ
香港のある町で、腕ききのネオン職⼈のビル(サイモン・ヤム)が亡くなりました。
ビルは古き佳き時代のガラス管ネオンを愛し作り続けた、昔気質の職人でした。
夫との思い出に浸る毎日のビルの妻メイヒョン(シルヴィア・チャン)ですが、夫がやり残した最後のネオンを完成させようと決意します。
ある⽇、夫のネオン⼯房へ⾏ってみると、そこには⾒知らぬ⻘年(ヘニック・チャウ)の姿がありました。
⼀⽅、メイヒョンのひとり娘(セシリア・チョイ)からは、⾹港を離れて海外へ移住すると打ち明けられます。
夫のようにネオンが作れないメイヒョン。夫を亡くし、愛娘さえ自分から離れていこうとしている現状ですが、寂しさを抱えながらも、ネオンを作ろうとします。
映画『燈火(ネオン)は消えず』の感想と評価
『燈火(ネオン)は消えず』は、ネオン職⼈だった夫の死後、妻は夫がやり残した最後のネオンを完成させようと決意して行動しますが、思いもよらぬ展開がまっています。
夫の夢を叶えようとする妻は、夫のようなネオン作りの技術がないのに、なんとも健気な決意をします。
気落ちしてしまいそうな状況から彼女を振るいたたせたのは、ネオンに纏わる言い伝えでした。それは、ネオンに向かって願い事を言い、すぐにネオンが瞬けば、その願い事は叶うというものです。
夜空に輝く色とりどりのネオンは、街が繁栄している象徴でもあり、人々の希望の光……。美しいネオンが視界いっぱいに広がる様子を目にすれば、落ち込んでいても何となく晴れやかな気分になるのではないでしょうか。
美しい夜景は「100万ドルの夜景」と称されます。香港の夜景も例外ではなく夜空に煌めくネオンは有名ですが、実は2010年の建築法等の改正以来、2020年までに9割ものネオンサインが姿を消しました。
本作の撮影にあたり、過去の記録映像を使⽤したり、CGを使ったり、さらにはネオン指導の職⼈が新たに作り直したりと、すでに撤去された数々のネオンがスタッフの努力のかいあって再現されました。
再び蘇った香港のネオン! スクリーンの中とはいえ、昔の香港のネオンの再現は⼤きな⾒どころです。
今はほとんどが消えたネイザンロードのネオンや、2016年に⽔没したJUMBOのネオンも登場し、⾹港ファンの胸を熱くすることは間違いないでしょう。
ネオン職人たちが自分の半生をかけて挑んだネオンがたっぷり映し出されますので、「100万ドルの夜景」を存分にお楽しみいただけます。
まとめ
ネオン職⼈だった夫亡き後、夫がやり残した最後のネオンを完成させようとする妻の物語『燈火(ネオン)は消えず』をご紹介しました。
夫の職人魂を称え、消えゆくネオンを必死で守ろうとする健気な妻。美しいネオンの煌めきと共に、夫婦愛もまた見事に描かれています。
ネオンに捧げた職人たちの人生も、その輝きとともにいつまでも後世に語り継がれてほしいものです。
映画『燈火(ネオン)は消えず』は2024年1月12日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。