連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第40回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第40回は、2023年公開の『イコライザー THE FINAL』。
アカデミー賞俳優デンゼル・ワシントン演じる元CIAエージェントのロバート・マッコールこと、世の悪を抹消する“イコライザー”の活躍を描く大ヒットシリーズ完結編を、ネタバレ有でレビューします。
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CONTENTS
映画『イコライザー THE FINAL』の作品情報
【日本公開】
2023年(アメリカ映画)
【原題】
The Equalizer 3
【製作・監督】
アントワーン・フークア
【共同製作】
トッド・ブラック、ジェイソン・ブルメンタル、デンゼル・ワシントン、スティーブ・ティッシュ、クレイトン・タウンゼント、アレックス・シスキン、トニー・エルドリッジ、マイケル・スローン
【脚本】
リチャード・ウェンク
【撮影】
ロバート・リチャードソン
【編集】
コンラッド・バフ
【キャスト】
デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、デヴィッド・デンマン、カール・ランドグレン、ガイヤ・スコデッラーロ、レモ・ジローネ、エウジェニオ・マストランドレア、アンドレア・スカルドゥッツィオ
【作品概要】
デンゼル・ワシントンが製作・主演を務める大ヒットアクション「イコライザー」シリーズ3作目にして完結編。デンゼル扮する元CIAトップエージェントのロバート・マッコールが、世の悪を完全抹消する“仕事人”の活躍を、スタイリッシュに描きます。
前2作同様、監督のアントワン・フークア、脚本のリチャード・ウェンクが続投し、ワシントンとは『マイ・ボディガード』(2004)で19年ぶりの顔合わせとなるダコタ・ファニングの共演も話題に。
本国アメリカでは9月1日に全3965館で公開され、9月3日までの3日間で3450万ドル(約50億円)を稼ぎ、初登場1位を記録しました。
映画『イコライザー THE FINAL』のあらすじとネタバレ
イタリア、シチリア島のとあるワイナリーに多くの死体が転がっていました。殺したのはロバート・マッコールで、ワイナリー主のロレンゾを待っていました。
盗まれた物を取り返しに来たと語るマッコールは9秒で全員を始末し、目的物をリュックに詰めてその場を離れます。しかし、ロレンゾの幼い息子に背後から撃たれ重傷を負います。
なんとか島内の小さな町アルトモンテまでたどり着くも車内で意識を失ったマッコールでしたが、カラビニエリ(イタリアの国家憲兵)のジオに発見され、町医者エンゾの治療を受けます。
警察沙汰にしないエンゾの庇護下で療養に専念することにしたマッコールは、CIA専用のコールセンターに連絡し、応対したエマ・コリンズにロレンゾのワイナリーに関する情報を伝えます。ロレンゾはナポリを拠点とする巨大マフィア、カモッラの一味で、ワイナリーに大量のドラッグや現金を隠し持っていました。
シチリアに着いたコリンズが、ドラッグが国際テロリストの活動資金源になっているとして捜査を開始した一方、「ロベルト」と名乗るマッコールは愛用のスントの腕時計を寝室の小棚にしまい、カフェ店員のアミーナや鮮魚店のアンジェロといったアルトモンテの町民たちと親しくなっていきます。
しかしこの町では、マフィアのヴィンセント・クアランタとその弟マルコらが、巨大リゾート地を建設すべく強引な地上げを行っていました。アンジェロを脅してショバ代を奪うマルコ一味を、遠くから見つめるマッコール。
後日、アンジェロの店が放火される事件が発生。監視カメラ映像で犯人を追っていたジオでしたが、マルコ一味に暴行され、捜査を止めるよう脅されます。
カモッラの捜査を続けるコリンズは密かにマッコールに接触するも、すでに彼はお見通し。捜査をする上でのアドバイスを授けます。
夕刻、マッコールが夕食を摂ろうと入った店には偶然ジオ一家も。そこへマルコ一味が現われ、ジオにドラッグの取引をスムーズに進めるために警備を緩くするよう脅します。
背後からそのやり取りを見ていたマッコールに近づき因縁をつけるマルコ。しかし瞬く間に動きを封じられ、店から追い出されることに。激高するマルコ一味の前にすぐさま現われたマッコールは、全員を一掃します。
後日、シチリアのバレラ署長を訪ねたコリンズは、マッコールの助言をヒントに収監されているマフィアとの面会を要請、テロリストとの癒着に関する有力情報を得ます。
そのバレラは、マルコの葬儀中のヴィンセントを訪れ、コリンズに用心するよう忠告。小間使い扱いしていたバレラの態度に激怒したヴィンセントは、彼の手を切り落とします。
情報を元に捜査を進めるコリンズはマッコールから連絡を受けるも、乗り込もうとした車を爆破されケガを負います。
世捨て人が見つけた安住の地
『イコライザー THE FINAL』冒頭シーン
世の悪人たちを完全抹消する必殺仕事人“イコライザー”として暗躍する元CIAのロバート・マッコールを描いた2014年の『イコライザー』。
実直なホームセンター職員として同僚の信頼も厚いマッコールさんが、悪事を働く者を見つけるとあっという間に始末するという、その痛快無比なキャラクターが評判を呼び大ヒットとなり、続編『イコライザー2』(2018)も作られました。
人目を避ける世捨て人のような生活をしながら、困っている人につい救いの手を差し伸べてしまう――そんな世を捨てきれないマッコールさんですが、本作『イコライザー THE FINAL』ではさらに世捨て人の雰囲気を醸し出しています。それは冒頭で、不意を突かれてマフィアの子どもに撃たれた直後、銃で自決しようとするシーンからも察せます。
妻を亡くした喪失感を引きずり、悪徳警官に対し正義を問い続けてきた彼も、前作で最大の理解者だったスーザンを失い、人生に疲れピリオドを打とうとした…と考えられなくもありません。
しかし、負傷経緯や素性を問わず、善意で命を救い温かく迎え入れてくれたイタリアのアルトモンテの町民たちとの出会いが、マッコールさんを変えます。
これまでにロシアンマフィアに虐待される娼婦、悪事の片棒を担がされた高校生を善意で救ってきた彼は、町民たちからの善意のお礼とばかりに、マフィアの脅しに屈しない勇気を彼らに授け、ついには勝利に導きます。
安住の地と多くの良き理解者を得たマッコールさんは、生きながらにして、ついに世捨て人を止めることができたのです。
最恐で最凶で最狂の後始末
普段は物静かなのに、一度怒らせると裏の顔を発動させて敵を恐怖のどん底に叩き落とす…そんなマッコールさんと近しい人物といえば、昨今だとジョン・ウィックがその筆頭でしょう。
奇しくも日本では、最新作にして(おそらく)完結編の『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023)が本作とほぼ同時期に公開されましたが、襲い来る敵をスタイリッシュに始末するジョン・ウィックに対し、マッコールさんはひたすら冷静かつ陰惨に抹消します。
悪人が酷いことをしまくるという“前フリ”が効けば効くほど、マッコールさんの仕事人ぶりが際立つというもの。手の正中神経を押しながら「お前の今のタイミングは悪い。私はこの町の人々が好きになり始めているんだ。他でやれ」と脅すシーンは、彼の最恐ぶりを如何なく表しています。
今回は前2作で見られた、コルク抜きやグラス、クレジットカードといった身近な物を殺傷道具に変えるスキルは鳴りを潜めたものの、その代わりに銃・ナイフという最凶道具を手にしたマッコールさんを止められる者はいません。
手下たちはあっさりと瞬殺するのに、ボスはジワジワと痛めつけ苦しませて息の根を止める――「ホラー映画のテイストを目指した」とアントワン・フークア監督が語るように、マッコールさんは下手なホラーキャラよりも最狂なのです。
『イコライザー』は終わらない?
テレビドラマ版『イコライザー』シーズン1(2021)
マッコールさんが良き理解者と安住の地を見つけ、まさに大団円となった「イコライザー」シリーズですが、もっと彼の仕事人ぶりを見たいという欲が高まった方もいるはず。かくいう筆者もその1人で、エンドクレジット後に「ロバート・マッコールは帰ってくる」というMCUのようなメッセージが出てくれないかと期待したぐらい、これで完結というのが実に惜しまれます。
ただ、ラストでマッコールさんが、スーザンの娘でCIAのコリンズに第1作でも使っていた黒手帳を送ったのは、イコライザーを引退するという意思表示である一方で、彼女を次の後継者=イコライザーに任命した…とも解釈できます。
また、シングルマザーが主人公の(名前はロビン・マッコール)テレビドラマ版『イコライザー』には、娘やハッカーといった仲間たちが存在していることを鑑みれば、マッコールさんにだって良き相棒がいても罰は当たりません。
「もしまた(脚本家の)リチャード・ウェンクがすばらしい脚本を携えて、『もう一本やろうよ』と言ってきたら…」、「デンゼルがまだ興味を持っていれば、前編もしくは続編も…」と“もしも”の可能性を匂わせているフークア監督。我々はロバート・マッコールの復帰をいつまでも待っています。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)