連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第80回
今回紹介するのは、2023年10月6日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町ほかで全国公開の映画『リバイバル69 伝説のロックフェス』。
「ウッドストック」とも並び称される奇跡の音楽フェスティバル「トロント・ロックンロール・リバイバル」の知られざる舞台裏に迫った、音楽ファン必見の一作です。
1969年9月13日、チャック・ベリー、リトル・リチャード、ジーン・ヴィンセント、ジェリー・リー・ルイス、ドアーズ、ジョン・レノンといった錚々たるロックスターが一堂に会した「トロント・ロックンロール・リバイバル」。
ロック史を大転換させた歴史的音楽フェスは、なぜ実現したのでしょうか。
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CONTENTS
映画『リバイバル69 伝説のロックフェス』の作品情報
【日本公開】
2023年(カナダ・フランス合作映画)
【原題】
REVIVAL69:The Concert That Rocked the World
【製作・監督】
ロン・チャップマン
【共同製作】
トリッシュ・ドールマン、サリー・ブレイク
【製作総指揮】
ヘンリー・レス、マーク・スローン、カーク・ダミコ、ドン・アラン・ペネベイカー、クリス・ヘジダス、フレイザー・ペネベイカー
【出演】
ロビー・クリーガー、ジョン・レノン、オノ・ヨーコ、ゲディ・リー、シェップ・ゴードン、クラウス・フォアマン、ダニー・セラフィン、チャック・ベリー、ボ・ディドリー
【作品概要】
新旧のロックミュージシャンが集結した1969年開催の音楽フェスティバル「トロント・ロックンロール・リバイバル」の裏側に迫ったドキュメンタリー。
関係者たちの証言をベースに、フェスの舞台裏や半世紀にわたって未公開のままであったバックステージ風景やコンサート映像を交えて構成。
トロントを拠点に活動し『The Poet of Havana(原題)』(2015)、『The For bidden Shore(原題)』(2016) など、ミュージシャンに特化したドキュメンタリーを多数手がけてきたロン・チャップマンが監督しました。
映画『リバイバル69 伝説のロックフェス』のあらすじ
ザ・ビートルズらの“新世代のロック”やフラワー・ムーヴメントによるフォークソングが大人気を博していた1969年。
“ロックンロール復活”を謳い、チャック・ベリー、リトル・リチャード、ジーン・ヴィンセント、ジェリー・リー・ルイス、ボ・ディドリーらのレジェンドが一堂に会した音楽フェスティバル「トロント・ロックンロール・リバイバル1969」が9月13日にトロントで開催されました。
レジェンドたちだけでなく、ジョン・レノンや、シカゴ、ドアーズといった当時人気絶頂のミュージシャンも参加し、新旧ロックスターたちの圧巻のパフォーマンスが12時間も繰り広げられたフェス。
フェスの仕掛け人・参加者たちの口から明かされる驚きのエピソードが、今明かされます。
若気の至りが起こした伝説のロックフェス
1969年9月13日にカナダ・トロント大学構内のヴァーシティ・スタジアムで開催された「トロント・ロックンロール・リバイバル」。
ジョン・レノン&ザ・プラスティック・オノ・バンド、ドアーズ、シカゴ、アリス・クーパー、チャック・ベリー、ジェリー・リー・ルイス、ボ・ディドリー、リトル・リチャード、ジーン・ヴィンセントといった錚々たるミュージシャンが大挙出演した一大フェスです。
その模様は『スウィート・トロント』(1971)、2007年発売の『ジョン・レノン:スウィート・トロント~プラスティック・オノ・バンドfeat.エリック・クラプトン』などでソフト化されているため、一度は目にした方もいると思われます。
『リバイバル69 伝説のロックフェス』は、アーカイブ映像を基にアリス・クーパー、ロビー・クリーガーら存命の出演ミュージシャンを含めた関係者たちへの証言を交え、このフェスがいかにして企画され、さまざまな困難を経て実現できたのかをひも解いていきます。
フェスを企画・主催したのは、当時わずか22歳だったプロモーターのジョン・ブラウワー。すでに同年6月にトロントで開催した「トロント・ポップ・フェスティバル」を成功させた実績があったとはいえ、大物ミュージシャンを招聘してフェスを企画するエネルギーには、ただただ驚くばかりです。
当初はチャック・ベリー、ジェリー・リー・ルイスといった、1950年代に人気を博したレジェンドを集めたセットリストでチケットを販売するも、これがまったく売れません。そこでブラウワーは間口を広げ、当代人気のミュージシャンの獲得へ乗り出すことに。
ドアーズへの出演交渉の駆け引き、「ラジオ局にフェスの告知を依頼しても、出演メンバーが豪華すぎて信じてもらえなかった」など、プロモーターとしての苦労を回顧するブラウワー。ほんの少し「“盛って”語っているのでは?」と思わなくもないものの、それでもフェス実現に至った彼の執念と熱意に圧倒されます。
復活と再生、2つのリバイバル
あらゆる宣伝を駆使してもチケットの売れ行きが伸びず、ついには出資者からも手を引くと言われたブラウワーは、一発逆転を狙ってロンドンにいるジョン・レノンへの電話を決意。フェス最大の目玉ともいえる彼へのコンタクトから参加に至るまでの経緯は、本作の要でもあります。
同年1月にスタートした「ゲット・バック・セッション」が頓挫し、ザ・ビートルズとしての活動に限界を感じていたレノンは、久々の観衆の前でのライブ演奏を快諾。妻のオノ・ヨーコ、クラウス・フォアマン、アラン・ホワイト、エリック・クラプトンら豪華メンバーが集った「プラスティック・オノ・バンド」を結成。フェスで『平和を我等に』を初演奏することとなります。
演奏時を振り返るフォアマンやホワイトの証言には「ああ、やっぱり彼らもそう思っていたのか……」と感じてしまいますが、レノンはその約2週間後にザ・ビートルズとして『アビイ・ロード』を発表し、実質的な解散状態に。
ロックンロールの“復活”を謳ったトロント・ロックンロール・リバイバルに参加したレノンが、翌年の1970年12月に発表したソロアルバム『ジョンの魂』で“再生”を果たしたのです。
その身消えてもロックは不滅
“再生”したのはレノンだけではありません。それまで過去の人扱いされていたレジェンドたちも、フェスの参加により若い世代のファンの脚光を浴びました。
チャック・ベリーは2017年に90歳で亡くなる直前に40年ぶりのアルバム『Chuck』を発表し、AC/DCのアンガス・ヤングは「ダックウォーク」と呼ばれる彼のギター奏法を模倣するように。
リトル・リチャードが1996年のアトランタオリンピック閉会式でピアノを演奏すれば、ジェリー・リー・ルイスも2006年発表のアルバム『ラストマン・スタンディング』でキャリア史上最大のヒットを飛ばすなど、彼らが晩年まで精力的に活動を続けた一因に、トロント・ロックンロール・リバイバルもあったと言っても過言ではないでしょう。
また本作『リバイバル69 伝説のロックフェス』が日本公開される10月6日の3日後となる9日は、レノンの83歳の誕生日にあたります。
レノンを含め、フェスに参加したミュージシャンの多くは身罷ってしまいましたが、彼らの遺したロックは不滅。奇跡の歴史的瞬間を、あなたも追体験してみてはいかがでしょうか。
観ながら、ついリズムを刻んでしまう自分がいるはずです。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューのほか、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)