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Entry 2023/08/21
Update

『夜明けのすべて』映画化原作のあらすじネタバレと感想評価。瀬尾まいこが描きキャストが演じる‟病気を抱える者同士の微妙な関係”

  • Writer :
  • 星野しげみ

瀬尾まいこの小説『夜明けのすべて』が映画化決定!

そして、バトンは渡された』(2019)で本屋大賞を受賞した瀬尾まいこ。本作『夜明けのすべて』は、受賞後の第一作目の小説です。

PMS(月経前症候群)の美紗とパニック障害の山添。同じ職場ですが友達でも恋人でもない2人に、似たような病気を抱えていると知ってから、‟同士”のような感情が芽生えます。


(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

瀬尾まいこ発のハートフルな小説を映画化したは、『ケイコ 目を澄ませて』(2022)の三宅唱監督。キャストは上白石萌音と松村北斗(SixTONES)で、W主演を果たしています。

映画『夜明けのすべて』は2024年2月9日(金)公開予定。映画公開に先駆けて、原作小説をネタバレありでご紹介します。

小説『夜明けのすべて』の主な登場人物

【藤沢美紗】
PMS(月経前症候群)を抱えるOL

【山添孝俊】
藤沢の会社の後輩

小説『夜明けのすべて』のあらすじとネタバレ

中小企業の「栗田金属」で働く藤原美紗。学生時代からPMS(月経前症候群)で悩んでいます。

生理前になるとイライラが止められなくなってしまい、周囲の人たちに当たり散らします。新卒で入社した会社もPMSが原因で辞めましたので、現在の職場では病気のことを話し、理解を得て助けられながら働いています。

ある日のこと。3カ月前に転職して入社した25歳の全くやる気のないような若者・山添孝俊に、美紗は病気の発作ともいえる‟怒り”が爆発してしまいました。

生理の貧血と戦いながら、またヒステリーを起こして周囲の人々に迷惑をかけてしまったと反省した美紗は、その後、山添に謝罪します。

11月の下旬の寒い日のこと。勤務終業時間後に、美紗は担当だったトイレ掃除をしていて、床に薬が落ちているのを発見。どこかで見た薬と思ったら、それは昔PMSで通院していた頃に病院でもらったことのあるソラナックスという薬でした。

拾い上げて事務所に戻ると、社長たちが山添のそばにいるのが見えました。山添はとても気分が悪そうに見えます。貧血を起こしているような様子で、しゃがみ込み、一生懸命にポケットや鞄を探っています。

手元も足元もおぼつかないほど気分が悪そうなのに、彼は何を探しているのかと、不思議に思った美紗ですが、薬を探しているのではないかと気が付きます。美紗はトイレで拾った薬を山添に握らせると、コップに水を注いで渡しました。

実は山添もパニック障害という病気を抱え、苦しんでいたのです。

パニック障害はある日急に山添の身に襲い掛かり、緊張する場や狭い場所にいると苦しくなるため、人混みが嫌になり、電車にも乗れなくなりました。山添は、通勤できなくなったため、当時勤めていた会社に勤務できなくなり退職していたのです。

美紗が渡した薬のおかげで少し気分がよくなった山添は、歩いて帰ることにします。山添のことを心配した美紗は、自宅まで送ろうとついてきました。

ひとりでいたい山添は美紗のことが迷惑でしたので、アパート近くで「もう大丈夫だから」と美紗に帰ってもらいました。

やっとアパートに帰って一息つくと、美紗が自分に何も聞かないでソラナックスを渡したことが不思議思われました。

そこへ美紗がコンビニで差し入れを買って戻って来ました。驚く山添ですがこれ幸いとばかりに、薬がなぜ自分のだとわかったのかを尋ねました。

美紗は「私はパニック障害ではないんだけど、自分も飲んだことがある薬だから」と答えます。山添は自分のことをパニック障害と美紗が知っているのかと驚きますが、何も言えません。

「私はPMSよ。お互いに無理せず、頑張ろう。じゃあね」

いとも簡単に病名を告げて去っていく美紗。いつ起こるかわからないパニック障害と、月経の前だけにくるPMSとを同じように考えるなと、山添は思います。

これをきっかけに、お互いがなかなか他人には言えない病気で悩んでいると知った2人。彼らの距離は縮んでいきます。

美容院にも行けず、伸び放題になっている山添のぼさぼさ頭が気になった美紗は、100均でカットばさみとくしやケープなどを買いそろえ、山添のアパートを訪ねます。

押しかけ美容師に驚く山添を説き伏せ、カットを始めた美紗ですが、やはり素人は素人。見事なこけしヘアになり、鏡を見た山添は、大笑いします。それは病気になって以来初めての笑いで、山添は病気以前の毎日を思い出したほどでした。

あくる日、山添は少し落ち着いた髪型で出社しました。昼休みに美紗の何気ない様子の中に、いつもと違うものを感じます。

そろそろPMS? 誰かが美紗の病気のはけ口にならない前にと、山添は美紗を外へ連れ出し、温かい飲み物を飲んで、気分をすっとさせるために空き地の雑草をするように言いました。

「山添君はどこか変」という美紗に、山添は「ぼくはこの頭で会社に来るのに勇気がいりました」と言います。「ぼくの髪の毛を切ってみたいという藤沢さんの身勝手な好奇心の犠牲者です」とも。

「そうですね」と少し落ち込んだ様子の美紗はその日、貧血で退社しました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『夜明けのすべて』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『夜明けのすべて』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

会社がお正月休みになりました。両親にパニック障害になっていることを知らせていない山添は、病気になって以来2年ほど実家に帰っていません。

今年も1人でお正月を迎えています。1人で神社に出かけ、「パニック障害が治りますように」と祈りました。

アパートに帰ると郵便受けにお守りが3つ入っていて驚きました。1つは心当たりがあるのですが、あと2つはまるでわかりません。

休みがあけて出勤すると、山添はさっそく美紗にお守りのことを尋ねました。案の定、1つは美紗が買ってきたものでしたが、あと2つは知らないと言います。

2人はお守り授け人をそれぞれ探します。そのうち美紗が1人は見当がつくと言い出しました。

「すごく身近な人」と話し出す美紗に、山添はここまで自分に突っ込んでくる美紗をホラーだと言い、挙句の果てに「ぼくのこと好きなのですか?」と言い出します。

自分のことになるとあまりにも世話をやく美紗に対して、山添は不思議でたまりません。美紗は美紗で、なぜ世話を焼きたくなるのかわからないまでも、山添を元気にすることがなぜか楽しくなってきていました。

結局、山添に届いた2つのお守りの1つは、栗田金属の社長が持ってきたものでした。残りの1つも、その後の調べで、山添が以前勤めていた会社の上司からのものだとわかりました。

それからも2人のつかず離れずの関係は続きます。映画を観た美紗が、山添のアパートに押しかけ、『ボヘミアン・ラプソディ』の話を熱心に山添に聞かせたり、サントラ盤を一緒に聞いたりして楽しみました。

ある日、美紗が虫垂炎で会社を休みました。心配した山添は、会社の同僚からのお見舞いの言葉を届けに美紗の入院する病院へ向かうことにしました。しかし、電車で3駅乗る病院へ電車に乗れない山添はどうやって行こうかと迷います。

パニック障害なので、タクシーにも乗れないし、徒歩ではこの距離は無理です。迷った挙句にレンタル自転車で病院へ行き、病室にいた美紗を驚かせます。

それから自転車を購入し、美紗が入院している間、毎日のようにお見舞いに行っていました。

美紗の退院の日、山添は荷物を自転車で美紗のアパートまで運びます。活発に動けるようになった山添の変化に美紗は嬉しくなりました。

3月下旬、美紗と山添は退社後、並んで歩いていました。山添は会社のイメージアップになるようなことを社長に提言するつもりだと言います。少しは変わったような山添ですが、それでも自分が嫌いだと言いました。

そんな悲観することないと言う美沙に、山添は「悲観はしていない。自分を好きでないだけ。でも、藤沢さんを好きになることはできる」と言いました。

可能形で言う山添に「それ失礼なのか、ありがたいのか、よくわからない」と美紗。「そうですか、悪口言っているつもりはないですけど」と山添。美紗も、好きになりそうではなく好きになれる。そんな気がしていました。

3月最終日。山添の月に一度の心療内科の受診日です。問診だけで体調を探られ、薬を渡されるのですが、今日は問診で医師から「少しずつ落ち着いてきているんじゃないか」と言われ、薬の量が少し減りました。

薬を減らせば、パニック障害の発作回数も増えるかも知れない。それを考えると怖いのですが、いつ来るのかわからないものにおびえているのも、もっと恐ろしいことなのかもしません。

山添は夕日が沈む町を自転車に乗って、家路につきました。以前は夕日が沈む前に急いで家に帰っていました。でも、夕日は必ず朝日になることを、今の山添は知っているのです。

小説『夜明けのすべて』の感想と評価

PMS(月経前症候群)という病気を抱える藤沢美紗と、パニック障害の山添孝俊。この小説では、小さな会社の同僚がふとしたことでお互いの病気を知ることになり、物語は進展します。

2人は、自分の持っている病気の経験から、相手におせっかいを焼くようになり、次第に親しい関係になっていきました。

健康に毎日を過ごしている人には絶対に理解できないような日常的な悩みやストレスを、主人公の2人はなんと多く抱えていることでしょう。

病気を理解してくれない人たちからは忌み嫌われ、美紗も山添も一度はそれで務めていた会社を辞めています。

傍から見ただけではわからない困難な病気の苦しさとやっかいさを、十分に分かり合う2人。2人に仲間意識が生まれるのは当然と言えます

小説では、恋愛感情はないと言い切りながらも、お互いを気にする2人のやりとりが微笑ましく続きます。「友だち以上恋人未満」または「仲間同士」と言うべき繋がりが羨ましくなりました

辛い病気も前向きな考え方でいつか治るのではと思える明るいラストには、温かなものが溢れています。

映画『夜明けのすべて』の見どころ

『夜明けのすべて』の主演は2人。PMS(月経前症候群)という病気を抱える藤沢美紗と、パニック障害の山添孝俊です。

映画では、普段はおおらかな性格ですが、PMS(月経前症候群)に悩む藤沢美紗を上白石萌音、山添孝俊を「SixTONES」の松村北斗が演じます。

仕事も恋も順調だったのに、パニック障害を患ったことで人生が一変し、電車や美容室などせせこましい場所に行けなくなった山添。

PMS(月経前症候群)は月に一度ですが、パニック障害は毎日の日常でその苦しみを味わうことになりますから、演じる松村北斗の演技に注目です。

松村北斗と上白石萌音は、2021年のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で夫婦を演じています。本作では映画初共演ながら、再共演を果たしたことになります。

2人の息のあった、‟ちょっと気になる同士”ぶりが今から楽しみです。

映画『夜明けのすべて』の作品情報


(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
瀬尾まいこ:『夜明けのすべて』(水鈴社刊)

【監督】
三宅唱

【脚本】
三宅唱、和田清人

【キャスト】
松村北斗(「SixTONES」)、上白石萌音

まとめ

瀬尾まいこの『夜明けのすべて』をネタバレありでご紹介しました。

世間からは理解しにくいPMS(月経前症候群)とパニック障害を持つ2人を主人公にしたハートフルな物語です。

社会との関わり方や病気との接し方など、2人の抱える病気のこともよくわかる作品でした。

映画化の主演は、上白石萌音と松村北斗(「SixTONES」)が務めますが、監督・共同脚本を手がけるのは、『ケイコ 目を澄ませて』(2022)の三宅唱監督です。

『ケイコ 目を澄ませて』は、第72回ベルリン国際映画祭ほか21の映画祭に出品され、第77回毎日映画コンクール(日本映画大賞、監督賞)、第96回キネマ旬報ベスト・テン(日本映画作品賞=ベスト・テン第1位)などで受賞を重ねました。

映画『夜明けのすべて』は2024年2月9日(金)公開予定。ノリに乗っている三宅監督の作品としても、映画化の期待は高まります。




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