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Entry 2023/08/03
Update

『こんにちは、母さん』あらすじ感想と評価解説。山田洋次映画で女優・吉永小百合が‟知られざる母”の一面を魅せる|映画という星空を知るひとよ165

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第165回

時代とともに家族の姿を描きつづけてきた山田洋次の90本目の監督作品『こんにちは、母さん』。

日本の誇る名女優吉永小百合が主演、その息子役に映画やドラマでの好演が続く大泉洋を迎え、令和の時代を生きる等身大の親子を心情豊かに描いています

仕事と家庭のいざこざで疲れはてている主人公が、久しぶりに東京の下町にある実家に顔を出すと、‟おひとり様”の母はボランティア活動を始め、生き生きとした毎日を過ごしていました。おまけに両親とは口もきかない大学生の娘が、そんな祖母の家でくつろいだ様子で泊まり込んでいました。

“恋する”母親、“波乱万丈”な息子、さらには“悩める”孫娘!? 前途多難に見えるこの家族の辿る結末がとても気になります。

映画『こんにちは、母さん』は2023年9月1日(金)より全国公開です。

映画公開に先駆けて、『こんにちは、母さん』の見どころをご紹介いたします。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『こんにちは、母さん』の作品情報


(C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督】
山田洋次

【脚本】
山田洋次、朝原雄三

【原作】
永井愛

【キャスト】
吉永小百合、大泉洋、永野芽郁、寺尾聰、宮藤官九郎、田中泯、YOU、枝元萌、加藤ローサ、田口浩正、北山雅康、松野太紀、広岡由里子、シルクロード(フィッシャーズ)、明生(立浪部屋)、名塚佳織、神戸浩

【作品概要】
東京の下町で現代を生きる等身大の家族を描いた、劇作家・永井愛の戯曲『こんにちは、母さん』を、山田洋次監督が映画にしました。

主演は、2021年の『いのちの停車場』などを始め、122本の映画に出演し、監督と共に映画界を牽引し続けてきた吉永小百合。123作目となる本作は、『母べえ』(2008)『母と暮せば』(2015)に続く「母」3部作として、日本を代表する名女優の集大成ともいえる作品となりました。

共演には、『騙し絵の牙』(2021)や『月の満ち欠け』(2022)などの映画に出演している大泉洋や、『キネマの神様』(2021)に続き二度目の山田組参加となる永野芽郁をはじめ、寺尾聰、宮藤官九郎、田中泯、YOU、枝元萌ら豪華俳優陣が集結。

映画『こんにちは、母さん』のあらすじ


(C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

大会社の人事部長として働く神崎昭夫(大泉洋)。勝ち組として称される華々しい役職についている昭夫ですが、実は日々会社の人事問題で神経をすり減らしています。

おまけに妻とは別居中で離婚を検討しています。大学生のひとり娘・舞(永野芽郁)は父はおろか母にも心を開かず、その関係に頭を悩ませていました。

ある日、昭夫は大学の同窓会の場所を母・福江(吉永小百合)に相談するため、久しぶりに東京下町で暮らす母を訪ねました。

昭夫の母はたび職人の夫を亡くし、一人でほそぼそとたび屋を営んでいます。昭夫は、「こんにちは、母さん」と声をかけて、店兼住居の実家ののれんをくぐりました。

「あら、昭夫」と驚きながらも笑顔で迎えてくれた母ですが、その様子がどうもおかしい…。

亡くなった父親の写真を飾り、静かに暮らしているはずの母親が、艶やかなファッションに身を包み、イキイキと生活していました。

おまけにホームレスに物資を支援するボランティアを近所の人たちとしていると言い、家には次々とボランティアの人々がやってきます。

久々の実家にも自分の居場所がなく、早々と退散した昭夫。ひとりわびしく自宅にいた夜、別居中の妻から電話があり、父の家を出て妻の元にいるはずの舞が家に帰っていないことを知りました。

お婆ちゃんのところかな……と、心当たりはそこしかなく、昭夫は再び福江の家に行きます。

そこには、福江と仲良く暮らす舞がいました。舞は下町の暮らしが気に入っていると言います。そして近頃の母のことも、「好きな人がいるようだ」と言いました。

会社の人事に悩み、家庭のいざこざに疲れ果てている昭夫は、ビックリ仰天。「これ以上、悩みのタネを増やすな」と怒鳴りますが、「なぜお婆ちゃんが恋愛しちゃ、だめなの?」と舞は不思議そうです。

昭夫は、これまでとは違う“母”と‟娘”に新たに出会い、次第に見失っていたことに気付かされてゆきます。

映画『こんにちは、母さん』の感想と評価


(C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

こだわりの老若男女の人生を描く

『こんにちは、母さん』の舞台は、東京隅田川沿いの下町です。古びた家並みの向こうにスカイツリーがそびえる「向島」で、たび屋を営む母親とエリートサラリーマンの息子におこる出来事を描いています。

母と息子はしばらく会えておらず、久しぶりに実家に帰った息子が自分の知らなかった母親の一面に出会うところから物語は始まります。

地域の人々のボランティア活動に参加し、なぜか生き生きと楽しそうな母。どうやら恋をしているらしいのです。

一方の息子は大会社の人事部長という仕事に心を痛め、妻とは不仲になり、大学生になった娘の反抗的な態度に疲れ切っています。

母親の人生を楽しんでいるようなハツラツとした様子に驚き、生まれ育った町の人々の温かな繋がりに触れて、息子は幸せとは何かと考えました

自分の娘から母の恋を知らされ、ショックを隠し切れない息子の心境を大泉洋が好演。また、母を演じる吉永小百合が、母と息子の‟近くて遠い関係”を、自身の持つ包容力と優しい眼差しで表現しています。

老後の恋を楽しむ母、仕事に疲れ切った中年の息子、将来を悩む孫娘と老若男女を登場させて、山田洋次監督がこだわる「家庭」「地域」「時代」の要素をたっぷりと盛り込んだ作品でした。

息子視線で展開する物語ですが、母親の心情も山田洋次監督らしい細やかな配慮で散りばめられています。

観客は自分の母の老後は、どんな風に過ごして欲しいかなと考えることでしょう。そして、故郷にお母さんがいるのなら、きっと会いたくなるに違いありません。

題名に因んで、吉永小百合も「母の日」に寄せるコメントを出していますので、ご紹介します。

吉永小百合コメント~母の日に寄せて~

紫色が好きだった母の写真の前に、今日つりがね草の花を飾りました。母親経験のない私を、三部作で“母さん”に、起用して下さった山田監督に、感謝の思いでいっぱいです。そして、「母と暮せば」で素晴らしい音楽を創って下さった坂本龍一さん、ありがとうございました。全国のお母さん達、どうぞお元気で佳い一日をお過ごし下さい!

まとめ


(C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

「男はつらいよ」シリーズ、『幸せの黄色いハンカチ』(1977)で知られる山田洋次監督が、昭和から平成を経て変わゆりく令和の時代において、いつまでも変わらない「親子」の有り様をスクリーンに映し出します。

映画『こんにちは、母さん』は2023年9月1日(金)より全国公開!

91歳の山田洋次監督が、登場人物が日常の中で抱える悩みと葛藤する姿を温かな眼差しで捉え、その心情をこと細かく描き出しています

大会社の人事を担当しプライベートでも家庭内に不協和音が漂う昭夫を通して、‟世知辛い世の中で幸せとは何か”と考えさせられることでしょう。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。






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