無実の黒人は、なぜ白人警官に殺されなければならなかったのか?
2011年にニューヨークで起きた、無実の黒人が白人警官に射殺されるまでの90分間を描いた映画『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』が、2023年9月15日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開となります。
名優モーガン・フリーマンが製作総指揮を務めた、観る者に戦慄を与えるサスペンスの見どころをご紹介します。
CONTENTS
映画『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』の作品情報
【日本公開】
2023年(アメリカ映画)
【原題】
The Killing of Kenneth Chamberlain
【製作・監督・脚本】
デヴィッド・ミデル
【共同製作・編集】
エンリコ・ナターレ
【製作総指揮】
ロリー・マクレアリー、モーガン・フリーマン、クリス・パラディーノ、ゲイリー・ルチェッシ、ミラン・チャクラボルティ
【音楽】
スティーブン・“キング・ラック”・ウィリアムズ、ギャレット・ビーロウ
【キャスト】
フランキー・フェイソン、スティーブ・オコネル、エンリコ・ナターレ、ベン・マーテン、ラロイス・ホーキンズ、アニカ・ノニ・ローズ
【作品概要】
2011年11月にアメリカ・ニューヨークで発生した白人警官による無実の黒人射殺事件を、2021年に映画化。
オスカー俳優のモーガン・フリーマンが、『インビクタス/負けざる者たち』(2010)のプロデューサーと共に製作総指揮を担当。自らも自閉症スペクトラムを抱え、自閉症の兄弟を描いた長編デビュー作『NightLights』(2014、日本未公開)が高く評価されたデヴィッド・ミデルが監督を務めます。
主演のフランキー・フェイソンはアカデミー賞の前哨戦であるゴッサム賞で、最優秀主演男優賞を受賞しました。
映画『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』のあらすじ
2011年11月19日午前5時22分。双極性障害(躁うつ病)を患う黒人のケネス・チェンバレンは、就寝中に医療用通報装置を誤作動してしまいます。
その後まもなく、数名の白人警官が到着。ケネスは緊急事態ではなく間違いであると伝えたにも関わらず、警官には聞き入れてもらえません。
やがて家のドアを開けるのを拒むケネスに対し、警官は不信感を抱くようになり、ついに到着から90分後の午前7時、最悪の事態が…。
映画『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』の感想と評価
さまざまな誤解と偏見が生じた悲劇
2011年11月、アメリカ・ニューヨーク市のホワイト・プレインズに暮らしていた、元海兵隊員のアフリカ系アメリカ人のケネス・チェンバレン・シニア(68歳)が、自宅アパートで白人警官に射殺される事件が発生。
早朝の就寝中に医療用通報装置を誤作動させてしまったケネスは、なぜ安否確認に訪れた警官に殺されなければならなかったのか? 本作『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』は、その顛末を映画化したものです。
ケネスと救急医療センターのライフガードとの会話録音や、彼の自宅の医療用警報器に録音された警官との会話、さらには警官に取り付けられた証拠用カメラなどの素材をベースに、事件当日を忠実に再現しました。
躁うつ病と心臓に疾患を抱えていたケネスは、心臓の異常を察知した際に自動的に救急医療センターに通報される装置を常備していましたが、眠っている間に無意識にそれを外してしまいます。
装置が身体から外れたことで、医療センターから安否の確認を求められた白人警官隊がケネスの部屋をノック。ところがノック音で無理やり起こされた上に、躁うつ状態で被害妄想にとらわれたケネスは、ドアを開けることを拒否。
膠着状態が続くうちに、警官たちは心神喪失者であるケネスが危険人物なのでは…と思い込んでいくようになります。
事件が発生した町ホワイト・プレインズは、ニューヨークの中でも高級住宅街が軒を連ね、治安もマンハッタンに比べると良いとされています。しかしすべてがそうとは限らず、ケネスが暮らすアパートがある地区では犯罪が多発していたことも、警官たちの誤解に拍車をかけます。
ケネスから「自分は何も問題はない」と伝えられた医療センターは、警官に安否確認の依頼を取り消すよう要請するも彼らは止めず、ついには黒人で元海兵隊員であることを蔑視、恫喝するまでに。
事件が発生した2年後の2013年には、全米で黒人に対する暴力や人種差別の撤廃を訴えるムーヴメント、ブラック・ライヴズ・マターが起こりました。しかしながらこの事件に関しては、人種以前に、社会的弱者への誤解と偏見が露呈していきます。
もしケネスが白人だったら事件が起こらなかった…とは断言できない怖さが、克明に描写されます。
ケネス・チェンバレン殺害事件を報じるCNNニュース
まとめ
殺されたケネスの息子ケネス・チェンバレン・ジュニアは、葬儀の場で「胸に2発の弾丸跡が残った父の遺体を目にし、一体何が起きてしまったのが理解できなかった」と涙ながらに語り、本作プロデューサーのモーガン・フリーマンは、「警察は裁判官、陪審員、死刑執行人ではないのに、現実ではそうなってしまっている」と、アメリカの今日(こんにち)を憂いています。
銃社会ではない日本では無関係な事件だから…と決めつけてはいけません。冷静な判断ができない者がもたらす悲劇は、銃の有無を問わず万国共通で起こり得ること。
事件の“その後”がどうなったかも含めて、その目で確認してください。
映画『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』は、2023年9月15日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。