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Entry 2023/04/21
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『ライク&シェア』あらすじ感想と評価解説。大阪アジアン映画祭グランプリ作は“リベンジポルノ”と“インドネシアの法律”に切り込む|大阪アジアン映画祭2023見聞録10

  • Writer :
  • 西川ちょり

第18回大阪アジアン映画祭・グランプリ作『ライク&シェア』!

2023年3月10日(金)より10日間に渡って開催された「第18回大阪アジアン映画祭」。16の国・地域の合計51作品が上映されました。

今回ご紹介するのは、同映画祭のコンペティション部門で上映され、グランプリ(最優秀作品賞)に輝いたインドネシア映画『ライク&シェア』です。

デビュー作『Dua Garis Biru』では高校生の妊娠を取りあげ、数々の賞を受賞したことで知られる女性監督ギナ・S・ヌールが手がけた本作。

17歳の2人の女子生徒の友情の物語を中心に、デートレイプ、リベンジポルノ問題に真摯に切り込んだ作品です。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2023見聞録』記事一覧はこちら

映画『ライク&シェア』の作品情報

【日本公開】
2023年(インドネシア映画)

【原題】
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【監督】
ギナ・S・ヌール

【キャスト】
オーロラ・リベロ、アラウィンダ・キラナ、オーリア・サラ、ジェローム・クルニア、ケヴィン・ジュリオ

【作品概要】
デビュー作『Dua Garis Biru』で高校生の妊娠を取りあげ、数々の賞を受賞したことで知られるインドネシアの女性監督ギナ・S・ヌールが手がけた作品。

17歳の2人の女子生徒の友情の物語を中心に、デートレイプ、リベンジポルノ問題に真摯に切り込んだ本作は、第18回大阪アジアン映画祭にてグランプリ(最優秀作品賞)受賞を果たしました。

映画『ライク&シェア』のあらすじ

17歳のリサとサラは、ジャカルタに住む同じ学校の同級生で親友同士。二人は将来、ASMRの世界で起業しようと考えていて、YoTuberとしてその世界を追求しながら資金を稼ごうと奮闘していました。

ある日、二人はネット上で「拾い物」というタイトルでアップされていたある動画をクリックします。それは実際の性行為を撮ったものでしたが、女性の顔はモザイクもかけられず晒され、知っている人が観れば誰だかすぐに分かるようなものでした。

学校では、体育の水泳の成績は生徒自身が動画を撮って提出することになっていましたが、それを授業中にクラスメイトの前で公開され、二人は憤ります。

リサは母親が再婚してイスラム教に改宗し、新しい夫に気に入られることばかりを考えているのが嫌でたまりません。ストレスが溜まっていく中、リサはあの動画が気になってしょうがなくなり、いつの間にか「ポルノ依存症」になっていました。

一方のサラは両親を事故で亡くし、兄と兄のガールフレンドと一緒に暮らしていました。兄からはオーストラリアへの移住話を聞かされ、戸惑いを隠せません。そんな中、彼女は10歳も年上のデヴァンという男性と知り合い、付き合い始めます。

リサはサラが、デヴァンに要求されるままに際どい写真を送っているのを知り、心配して警告します。しかしサラは「彼がそれを他の人に見せるわけがない」ととりあいません。

リサとサラの間には微妙な距離が生まれ、二人の心はすれ違います。またサラは、デヴァンに対し「まだ早い」と大人の交際を断っていましたが……。

映画『ライク&シェア』の感想と評価

親友のリサとサラは、ASMRの世界でキャリアを築くという夢を持っており、YouTubeチャンネルを開設し「芸術的で官能的な動画」を公開しています。

その彼らが制作したASMR動画に代表されるように、本作のプロダクトデザインは実にお洒落で、そのカラフルで大胆な映像にすっかり目を奪われてしまいます

しかし本作で提起されるテーマはデートレイプ、リベンジポルノ問題という非常にシリアスなものです。映像もいつの間にかダークな雰囲気となり、最初から最後まで入念に考え抜かれた色合いで作品が構成されていることがわかります。

ネットの世界でも現実の生活でも、自分を十分コントロールできていると思い込んでいても、まだまだ彼女たちは未熟です。家庭では抑圧や不安を感じるばかりで、まともに相談できる大人がいないのも問題です。

サラの10歳年上の恋人はそんな彼女の未熟さ、ナイーブさにつけ込みます。

昨今は、性暴力を主題にした女性監督の作品で暴力シーンをあえて描かないというケースが増えていますが、本作ではインティマシー・コーディネーターを導入して、いかに女性が自らの性に対して主導権を持てず、男性に搾取されてしまうかを被害者の視点から描いています。また映画の冒頭、性暴力のシーンの注意喚起がされるなど、非常に繊細な配慮がなされています。

さらにデジタルタトゥーの暴力性や、被害者ばかりが軽んじられる現状が激しい怒りを込めて綴られます。その怒りは、インドネシア国内における法の不整備の指摘にまで及んでおり、それは検閲が厳しいとされるインドネシアにおいて、非常に勇気のある行動と言えるでしょう。

この現状を変える突破口のようなものは簡単に見つかるものではありませんが、リサとサラの深い友情と、女性軽視に対して「NO!」と叫ぶ女性同士の連帯に希望を見出しています

またSNSに関して、ただ危険性を投げかけるだけでなく可能性もあるとみなしたり、「性」に関しても女性が性に好奇心を持つことを肯定するなど、多面的な視点が存在しているのも本作の魅力です

まとめ

映画上映後に登壇したギナ・S・ヌール監督


(C)Cinemarche

2023年3月18日(土)のABCホールでの上映後には、ゲストとして本作を手がけたギナ・S・ヌール監督が登壇しました。

「インドネシアでも、女性監督や女性スタッフが増えている」「これまでは完璧な女性像を追い求める傾向のある作品が多かったものの、昨今は現実の世界を生きる女性を描く作品が増えて来ている」と語ったヌール監督。本作も、その延長線にある作品といえるでしょう。

『ライク&シェア』ではキャストのメンタルに配慮し、インティマシー・コーディネーターをインドネシア映画界で初めて採用したこと。また制作前には現在のインドネシアの法制度や関連記事を収集するなど様々なリサーチを行い、実際の高校生にもインタビューも敢行したヌール監督。

「編集が終わった後はグループディスカッションなどを重ね、公開まで慎重を期した」とも明かした上で、最後にヌール監督は「性に対する認識をより広げていくことを目指しています」と力強く語っていました。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2023見聞録』記事一覧はこちら



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