日本未公開作品や「イタリア映画祭」で上映された人気作品を紹介する特集上映「Viva! イタリア」。
その第4弾が、6月23日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで始まります。
本稿では傑作三本の中から、巨匠マルコ・ベロッキオ監督の2006年の作品『結婚演出家』をご紹介します。
映画『結婚演出家』の作品情報
【公開】
2018年(イタリア・フランス映画合作)
*制作年:2006年
【原題】
Il regista di matrimoni
【監督】
マルコ・ベロッキオ
【キャスト】
セルジオ・カステリット、ドナテッラ・フィノッキアーロ、サミー・フレイ、マウリツィオ・ドナドーニ
【作品概要】
イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオが2006年に手がけ、カンヌ国際映画祭のある視点部門に出品されるなど、注目を集めた作品。
シチリアを訪れた映画監督は、ある公爵と知り合い、彼の娘の結婚式の演出を頼まれるが…。緊張感とユーモアが同居した奇妙な味わいの問題作。
映画『結婚演出家』のあらすじ
映画監督のエリカ・フランコは、「巨匠」と称されるほどの高名な映画監督です。
貴族出身の小説家、マンゾーニ原作の『いいなずけ』の映画化を準備している彼のもとには、続々と売り込みの女優が現れます。
一人の女性がオーディションにやってきますが、助監督は彼女にフランコに猥褻な行為をすることを勧め、女性は怪訝な顔をして席を立とうとしました。
すると廊下が騒がしくなり、女は突然、机の下に隠れました。
男二人がドアを開け、部屋を見渡して出ていったあと、女も部屋を出ていきました、
驚いた助監督はこのことをフランコに伝えるのでした。
そんな中、セクハラの噂が広がり、フランコのプロダクションに警察がやってきます。
疑惑から逃れようとフランコは列車に乗り、シチリアに辿り着きました。
海を観ていると、砂浜で新婚カップルを撮影していたエンツォという男が近づいてきました。
彼はフランコのファンであると告げ、こんなチャンスはめったにない、監督ならどう演出をされますかと熱心に質問を始めました。
フランコがとっさに考えた案を口にすると、エンツォはその大胆なプランに戸惑いつつ、その独創性に感心し、彼を自分の家に招き入れました。
フランコの案を採用して撮ったプロモーションビデオを二人で観ていた時、「公爵」と呼ばれる男が訪ねてきました。
エンツォがフランコのことを口にし、偉大な映画監督だと称すると、「公爵」は「彼は巨匠のうちの小物だ。イタリアだけでの評価だ」と辛辣に言い放ちます。
フランコは聞き耳をたてていました。後日、作品を見る約束をして公爵は帰っていきました。
公爵は怪物屋敷で有名なパラゴニアに住んでいるが、公爵とは名ばかりで既に没落している、可愛そうなのは彼の娘だ、と公爵家の事情をエンッオは話し始めました。
父を恥じた娘がもう結婚はしないと誓った矢先に、大富豪の跡取りに見初められたのです!エンツォは興奮気味に語り、娘のことを絶賛するのでした。
フランコはその娘に興味を持ちます。
公爵がフランコに娘の結婚式の映画を撮ってほしいと依頼してきました。「昔のような真の映画を」と公爵は言うと「サティの『幕間』を使ってほしい」と注文をつけました。
パラゴニアに行き、娘のポーナと出逢ったフランコ。ポーナは屋敷にやってきた彼の行動をすべて観ており、「勇気があって、繊細なあなたが、あのような行為を強要するはずがないと確信しました」と彼に語りかけました。
オーディションに来て机の下に隠れた女は彼女だったのです。
フランコはたちまち彼女に恋してしまいます。
そんな彼の心を読んだかのように、公爵はポーナを修道院に隠してしまいます。
公爵はセクハラの噂を聞きつけ、あなたは常習犯だと言い放ちます。
誤解だと主張するフランコに「明日は結婚式のリハーサルだ。私とポーナの乗った車が現れたら、初めて会うように振る舞え。一切があなたの演技にかかっている」と命じるのでした…。
フランコは映画を撮ることができるのでしょうか!? そしてポーナとの恋の行方は?
映画『結婚演出家』の感想と評価
マルコ・ベロッキオ監督といえば、デビュー作『ポケットの中の握り拳』(1963)を始め、『肉体の悪魔』(1986)、『蝶の夢』(1994)、『眠れる美女』(2012)、『甘き人生』などの作品で我が国でもよく知られているイタリアの巨匠です。
中でも『眠れる美女』は、17年間昏睡状態の女性を巡る尊厳死をテーマに、三組の人々を見つめた重厚な傑作でした。
そのような鋭い社会的視点と、研ぎ澄まされた人間観察がベロッキオ作品の特徴といえるかと思いますが、本作『結婚演出家』は、実に不思議な作品で、こんな作品も作れるんだ!とちょっとした驚きでした。
結婚式の場面から映画は始まります。拍手と音楽に溢れたイタリア式の結婚式は物珍しく、画面に魅入っていると、一人だけ、しかめっ面をした男がいて、なにやら不穏な雰囲気が漂っています。
男はカメラを渡され、花嫁に近づいていくのですが、カメラのモノクロ映像が時折はさまれ、少々、奇怪なイメージを与えます。
一瞬即発の場面となって男が花嫁の父であることがわかり、普通にキスをしてこの結婚式のシーンは終わるのですが、なんだか人を喰ったような展開で、奇妙な可笑しさがあります。
この調子は次のオーディションシーンにも続き、時折挟まれるモノクロ画面や、古い映画のBGMのようなセンセーショナルな音楽が鳴り響き、一体何が起こるのか、先が見えない不安にかられます。
しかし、一方で、とぼけたユーモアも炸裂しており、実にユニークで、かつて観たことがないマリオ・ベロッキオを堪能することができます。
中盤になると、一種のセルフパロディー的に「映画監督とは何か?」「優れた映画とはいかなるものか」といった命題が扱われていきます。
昨今、ハリウッドを中心に話題となっている映画界のセクハラ問題、評価されることへの執着、飽くなきミューズ(女神)の探求など、「映画監督」を取り巻く様々な事象が登場します。
ベロッキオ監督はこうした問題を扱いながら、映画を撮るという行為自体をユーモアを込め、軽やかに描き出しています。
スリルとサスペンスに溢れ、ユーモアとロマンスに満ち、人々を驚かせ、喜ばせる映画とはどのようなものか!?
ずばり、そうした問いから生まれたのがこの作品なのではないでしょうか!?
鬼才・ベロッキオ監督が描く自在な世界がたっぷり楽しめること請け合いです!
まとめ
本作はイタリアのゴールデン・グローブ賞最優秀作品賞、最優秀撮影賞他、多数の賞を受賞しています。カンヌ国際映画祭のある視点部門にも出品されました。
日本では「イタリア映画祭2017」にて上映されました。
マルコ・ベロッキオ監督の新たな一面が観られる作品の貴重な再映です。この機会を是非お見逃しなく!
本作を含む三本の傑作イタリア映画を集めた「Viva!イタリアVol.4」は、2018年6月23日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで開催されます!