南極基地に現れた“地球外生命体”の獰猛を描く映画『遊星からの物体X』
映画『遊星からの物体X』は、短編小説『影が行く』を忠実に実写化したジョン・カーペンター監督の作品。
本作の最大の特徴とも言える特殊効果は、当時22歳だったメイクアップアーティスト、ロブ・ボッティンが担当しました。
真冬の南極大陸という陸の孤島を舞台に、地球の存亡を懸けた命のやりとりが行われる『遊星からの物体X』。
隊員たちの心に小さくくすぶっていた恐怖や懐疑心が、物語を最悪の展開に転がしていきます。
2018年10月にデジタルリマスター版でリバイバル公開もされた本作を、ネタバレ付きで解説していきます。
映画『遊星からの物体X』の作品情報
【公開】
1982年(アメリカ映画)
【原題】
The Thing
【原作】
ジョン・W・キャンベル『影が行く』
【監督】
ジョン・カーペンター
【キャスト】
カート・ラッセル、A・ウィルフォード・ブリムリー、ドナルド・モファット、キース・デイヴィッド
【作品概要】
1982年に公開されたジョン・カーペンター監督のSFホラー作品。極寒の南極、緊迫した心理状態で繰り広げられる攻防戦は侵略系SFの古典と言っても良いでしょう。
主演は『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(2021)でミスター・ノーバディを演じているカート・ラッセルです。
映画『遊星からの物体X』のあらすじとネタバレ
約10万年前、宇宙空間にある“円盤”は地球に引き寄せられ、大気圏で焼かれながら南極に落下しました。
1982年、極寒の南極大陸を1匹のハスキー犬が駆けています。低空でその犬を追いかけるノルウェー観測隊のヘリは、器用に弾を避けるたった1匹のハスキー犬にしつこく銃撃を続けていました。
アメリカの観測隊員たちは、この異様な光景を困惑しながら見守っています。
ノルウェー観測隊のヘリは手榴弾の投下ミスで爆発、墜落してしまいます。ひとりのノルウェー隊員がなんとか生き残りましたが、何事かを叫びながらなおも銃を乱射する彼をアメリカの隊員が射殺。
九死に一生を得たかわいそうなハスキー犬は、アメリカ観測隊の飼育係・クラークに保護されました。
この異常事態を外部に知らせようとする隊員たちでしたが、雪深い南極ではもうすでに2週間も交信不能の状態です。
ノルウェー基地で一体何が起きたのか、閉鎖的な環境で気が狂ったのか、残りのノルウェー隊員の様子を確認するべく、一行はノルウェー基地に向かいます。
ノルウェー基地は黒い煙をあげ、凄惨な有様でしたが、遺体は自殺者と見られる一人のものしかなく、ほかの隊員の姿はありません。
基地を探索していると、異様な「何か」が凍りついているのが見つかりました。「何か」とはいくつもの人間が重なって癒着し、苦悶の表情を浮かべながら溶けている“かたまり”です。
一行はこれを自分たちの基地に持ち帰り、解剖を行います。すると、この“それぞれの人間たち”は、内臓はきちんと揃っており健康、さらにアルコールやドラッグさえ検出されないクリアな状態であることがわかりました。
心身ともに健全な人間たちが、異形の一塊になった理由とは……。「何か」が放つ臭気に顔を歪めながら、アメリカ観測隊員たちは困惑します。
助けてもらったハスキー犬も、この人間たちのやりとりを真っ直ぐに見つめているのでした。
映画『遊星からの物体X』の感想と評価
極寒の陸の孤島である南極基地において、「俺は間違っていない」の連鎖によって隊員たちは緩やかに破滅に向かっていきます。
現代のように作り込まれたCG技術はありませんが、絶対に観る人を怯えさせてやるという気概が感じられるクリーチャーの姿はいくら賞賛しても足りぬ、SFホラーの金字塔です。
『遊星からの物体X』公開の1982年は、SFホラー豊作の年でもあります。『E.T.』『ブレードランナー』『ポルターガイスト』『バスケットケース』など、趣向を凝らした映画美術と、丁寧に練られた脚本のマリアージュが楽しめる当たり年と言えるでしょう。
雪の中を歩いたことのある方はわかるかもしれませんが、雪深い場所というのはとても静かなものです。そこに持ってきて活きの良いクリーチャーのコントラストが秀逸。
ストーリーにおいては、「『それ』の存在を疑っては次々とハズす」というのがポイントではないでしょうか。
あまりに予測が外れすぎた隊員たちは、最終的に「それ」と同じくらい自分自身の判断にも不安を覚え始めます。
いちばん早くに状況の深刻さを知った生物学者のブレアは、とにかく外部との繋がりを遮断し、全て殺してしまうのが得策と考えていたようです。しかしそれも“自分を除いて”という前提があってのこと。
「自分以外は殺してしまった方が良いのではないか?」という保身と恐怖心が、物語を最悪の方向に導きます。
ちなみラストシーンで向かい合った二人の“どちらか”の吐く息が白くないことから、「それ」と同化しているという説があるのですが、この説は、ジョン・カーペンター監督が否定しています。
確かに先に登場した物体は、雪の中で白い息を吐いているんですね。
最後、マクレディが生き残った隊員に「そこにいて、見るんだな」と放って不敵に笑いますが、これを見てしまうとまさか主人公が!?という印象も受けますよね。
まとめ
映画『遊星からの物体X』は、短編小説『影が行く』を実写化したジョン・カーペンター監督の作品。
監督は幼少期に1951年のアメリカ映画『遊星よりの物体X』を見て感銘を受けていたと言います。
本作はそれのリメイク版ということになるのですが、恐怖や懐疑心を丁寧かつ大胆に描写した本作はSFホラー映画の金字塔と言えるでしょう。