連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第122回
『祖谷物語 おくのひと』(2014)の蔦哲一朗監督が、自然エネルギーをフル活用し、自給自足生活する主人公たちを描いた映画『雨の詩』。
主人公は、都会から移住してきたジンと地元民テラ。彼らは「アースシップMIMA」という、環境への負担軽減が期待されるオフグリッドハウス(公共のインフラを必要としない建物)で、自然と一体化した日々を過ごします。
デジタルが主流になった映画製作現場でフィルム撮影にこだわる蔦哲一朗監督。
彼が贈る全編モノクロのノスタルジックかつ四次元的な映像が、観る者を神秘的な自然界へ導いてくれます。
映画『雨の詩』は、2022年11月12日(土) ポレポレ東中野ほか全国順次公開予定。
映画公開に先駆けて、映画『雨の詩』をご紹介します。
映画『雨の詩』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【英題】
Song of Rain
【製作総指揮・監督・編集】
蔦哲一朗
【プロデューサー】
増渕愛子
【撮影監督】
青木穣
【録音技師】
佐々井宏太
【制作進行】
辻秋之
【助監督】
久保寺晃一
【出演】
須森隆文、寺岡弘貴
【作品概要】
『祖谷物語 おくのひと』(2014)の蔦哲一朗監督が「昨今のSDGsでも注目されている持続可能なライフスタイルとは一体なんなのか」というテーマと、「アースシップMIMA」を結びつけて企画した『雨の詩』。
環境への負担軽減を考慮する「アースシップ」最大の特徴は、屋根に溜まった“雨水”をろ過して生活用水として使用した後、それらの排水が床下を通って室内の植物を自動的に育ててくれること。
雨が重要な役割を果たすアースシップで、循環型スローライフを送る主人公たちの日常をおさめた、45分の16mm白黒フィルム作品が完成。詩人・山尾三省の詩を織り交ぜ、ノスタルジックかつどこか異世界の空気感が漂います。
映画『雨の詩』のあらすじ
自然に配慮した生活をするジンとテラ。
彼らは、雨水をろ過し生活用水に変える循環機能をもった「アースシップ」という家に住みながら、自給自足の生活に挑んでいます。
都会から移住してきたジンは、地元民のテラから狩りなど田舎での暮らし方を教わり、文学や詩を楽しむように自然を理解していきます。
自分たちで野菜を作り、自然の中で生きることに意義を感じていた2人でしたが、次第に関係がギクシャクし始めてきます。
映画『雨の詩』の感想と評価
映画の始まりは雨のシーン。
絶え間なく降り続けるどしゃ降りの雨の音を聞きながら、大きなガラス戸のある家の中で、1人の男性・ジンがテーブルで本を読んでいます。
そして、もう1人の男性・テラも現れ、一緒に生活する様子が次々と描かれていきます。
彼らの住む家は、雨水をろ過し生活用水に変える循環機能を持った特別な家でした。
天の恵みの雨で生活が成り立つと言え、本作においてその家の存在は重要です。
『雨の詩』を手がけたのは、監督の蔦哲一朗。
彼は、徳島県の山奥で暮らす人々と四季折々の表情を記録した長編叙事詩『祖谷物語 おくのひと』(2014)を完成させ、映像を通して自然の美しさを伝えることをテーマに活動をしています。
『雨の詩』でもそのテーマは十分に反映され、白黒フィルムならではの自然界の陰影の美しさに驚きます。
一方、不器用ながらも自給自足生活をするジンを見ると、彼はなぜこの生活をしようと思ったのかと疑問もわきます。ポツリポツリと語る彼の言葉に注目!
また、作中では、監督が敬愛する詩人・山尾三省の詩『火を焚きなさい』が絶妙なタイミングで朗読されます。
詩の内容とオーバーラップするその生活に、ジンの本心と監督の狙いが描き出されていると言えます。
まとめ
蔦哲一朗監督が追い求めるテーマと「アースシップMIMA」を結びつけた『雨の詩』。
アースシップとは缶や瓶、廃タイヤなどで建築され、太陽や雨といった自然エネルギーを循環させ自給自足する家のことです。
エコともいえる家を始め、自給自足生活のノウハウをリアルに描いた『雨の詩』には、喧噪の多い都会を離れ、鳥の声が響く自然の中でおくる生活がありのまま描かれています。
自然と共存して生きるとはどんなことか、考えてみてはいかがでしょうか。
映画『雨の詩』は、2022年11月12日(土) ポレポレ東中野ほか全国順次公開予定。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。