村上春樹の短編小説『ハナレイ・ベイ』を、映画『トイレのピエタ』や『オトトキ』の松永大司監督が映画化。
キャストに母親サチ役を吉田羊が演じ、息子タカシ役に佐野玲於(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、そのほか、村上虹郎が出演しています。
これまでにない母親役を演じた吉田羊の女優としての新境地のともいえる役柄とは。
映画『ハナレイ・ベイ』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【原作】
村上春樹
【監督】
松永大司
【キャスト】
吉田羊、佐野玲於、村上虹郎、佐藤魁、栗原類
【作品概要】
原作は村上春樹の短編小説『ハナレイ・ベイ』で、演出は『トイレのピエタ』『オトトキ』の松永大司監督。
キャストは『ラブ×ドック』の吉田羊が息子を亡くした母親サチ役を演じ、共演に『虹色デイズ』の佐野玲於、『二度めの夏、二度と会えない君』の村上虹郎、『お江戸のキャンディー2 ロワゾー・ドゥ・パラディ(天国の鳥)篇』の栗原類が務めています。またプロサーファーの佐藤魁の出演も。
映画『ハナレイ・ベイ』のあらすじ
サチの息子タカシは、19歳のときにカウアイ島のハナレイ湾でサーフィンを楽しんでいましたが、突然、サメに右脚を食いちぎられてしまい、そのまま亡くなりました。
ホノルルの日本領事館から知らせを受けたサチは、直ぐにタカシのいるハワイに向かいます。
サチは悲しみにくれるなか、現地で息子タカシの火葬をすませた後、ハナレイの町に1週間ほど滞在することにしました。
それ以来、サチは毎年おとずれる息子タカシの命日は、ハナレイに行き、3週間ほど滞在するようになります。
サチは、毎年10年以上続けていました。
ある日、車を運転していたサチは、ヒッチハイクをしている日本人の若者2人を乗せました。
その後、しばらくしてサチは、ハナレイのレストランでピアノを弾いていました。
すると、あのヒッチハイクの2人がやって来て、彼らはサチに、片脚の日本人サーファーを2度見かけたと告げますが…。
映画『ハナレイ・ベイ』の感想と評価
息子を失ったシングルマザーの母サチ
村上春樹原作の短編小説『ハナレイ・ベイ』は、2005年に新潮社から出版された短編集『東京奇譚集』に収められた一編。
思わぬことで1人息子が命を落としたハワイのハナレイ・ベイを訪れた母親サチ、彼女の揺れる心境を通して再生する姿を描いた作品です。
この映画化にあたり、母親サチを人気で引っ張りだこの吉田羊が演じています。
2018年の吉田羊は、女優として、さらなる新境地に挑む映画が目白押しに続いています。
吉田羊の女優の新境地
5月11日公開の『ラブ×ドック』では、鈴木おさむの“良い意味で往年のコント劇”のような作品の主演を果たし、今話題の真っ最中。
また、9月公開の『コーヒーが冷めないうちに』では、老舗旅館に生まれた姉妹で妹の役で、妹に先立たれた姉を演じています。
さらに、秋公開の『母さんがどんなに僕を嫌いでも』では、LGBTの息子を持ったチョッと“嫌な母親役”にも挑んでいます。
コミカルな役から心情の揺れる役柄、そして難しい役まで幅の広い演技に挑戦しています。
それなら「これまでも吉田羊は演じてきた」と、思うのは少し気がはやいですよ。
何が新境地といえば、母親役を演じている点です。
女優が年齢を重ね、プライベートで結婚している有無に関係なく、母親役を見事に演じきれことで息の長い女優になるのものです。
しかし、これが非常に難しい飛躍のステップだと言えるでしょう。
女優の年齢よりも若い層の新しいファンをつけること、そして、母親という自分以外の身内を大切に生きるという女性の姿。
主演や脇役ということに関係なく、母親役ができることで女優の評価は変わってきます。
近年ではそれが上手くいった女優に小泉今日子は、『毎日かあさん』(2011)と『ふざけんな過去』(2016)。
宮沢りえは『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)など、それぞれインパクトの強い母親を演じています。
本作で吉田羊が演じた母親サチは、「息子は、ここハナレイ・ベイで大きな鮫に襲われて死んだ」というモノローグがあり、女優としての新境地である吉田羊の演技に注目です。
まとめ
母親サチの息子タカシを俳優の佐野玲於が演じた本作。
女優の吉田羊はサチ役をどのように理解し、演じたのでしょうか。
吉田は本作『ハナレイ・ベイ』に、このようなコメントをしています。
「読書が苦手だった私が、初めて一気に読んだ本が「ノルウェイの森」でした。頁を手繰る手ももどかしかったあのムラカミハルキの作品世界にしかも映画で自分が生きられる、これ以上の幸せはありません。予てよりご一緒したいと切望していた松永監督の現場は、厳しさと真剣さと愛で溢れていて、文字通り、監督と一緒に闘い作り上げた主人公サチは、もはや本の中の登場人物にとどまらず、ありありとした痛みを伴い実在する非常に生々しいヒロインになりました。恐らく、私がこれまで演じてきたどの役にもない生命力をサチは持っています。静謐ながら雄弁なカウアイ島の自然の中で「喪失」と向き合い、もがき苦しみながらも声をあげることすらままならない彼女の深い悲しみの先の、ふっと小さく生まれる救いのような希望のような何かを、日本そして世界中の皆様と共有したいと願っています。村上春樹さん、松永大司監督、この映画に関わった全ての皆様に感謝をこめて」
吉田羊の演じた息子を失った母親サチは、“ありありとした痛みを伴い実在する非常に生々しいヒロイン”だと自負しています。
再生への希望を見せる母親、あるいは女性の姿は、あまりに理不尽な出来事と哀しい運営をどのように立ち直ったのか。
女優の新境地に挑んだ吉田羊に注目ですね。
映画『ハナレイ・ベイ』は、10月19日より全国で公開、お見逃しなく!