映画『メイド・イン・バングラデシュ』は2022年4月16日(土)より岩波ホールにて公開、以後順次全国ロードショー!
繊維産業で世界的急伸を遂げたバングラデシュ。その裏に潜む影を、底辺で苦しみながら戦う女性たちの姿を通して描いた映画『メイド・イン・バングラデシュ』。
繊維産業で躍進を遂げたバングラデシュのとある縫製工場で働く女性労働者たちが、搾取や伝統に捉われもがきながらも自身の権利を勝ち取るべく組合の結成に奔走する姿を描きます。
『Meherjaan』(2011)『Under Construction』(2015)が各国の映画祭で高評価を得たバングラデシュのルバイヤット・ホセイン監督が、10代半ばからバングラデシュの労働闘争に関わってきた労働者ダリヤ・アクター・ドリさんの実話を元に本作を作り上げました。
また本作は3月に大阪市で開催された「大阪アジアン映画祭」で上映され、同イベントにはダリヤさんもゲストとして日本を訪れました。
CONTENTS
映画『メイド・イン・バングラデシュ』の作品情報
【日本公開】
2022年(フランス・バングラデシュ・デンマーク・ポルトガル合作映画)
【英題】
Made in Bangladesh
【監督、脚本】
ルバイヤット・ホセイン
【出演】
リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマン
【作品概要】
バングラデシュの労働闘争に長く関わってきたという現地の女性ダリヤ・アクター・ドリの実話を元に、バングラデシュの底辺に暮らす人々の姿を描き、国の抱える問題を問う物語。
バングラデシュ独立戦争下に敵兵と恋に落ちた女性を描いた『Meherjaan』(2011)、タゴールの詩を背景に葛藤する女性を描いた『Under Construction』(2015)などの作品が、各国の映画祭で高く評価されたルバイヤット・ホセイン監督が作品を手がけました。
またマノエル・ド・オリヴェイラ監督の『アンジェリカの微笑み』(2010)の撮影などで知られるサビーヌ・ランスランが撮影監督を担当、陰影のある印象深い映像で独特な世界観を演出しました。
映画『メイド・イン・バングラデシュ』のあらすじ
大手アパレルブランドの工場が集まるダッカのとある衣料品工場。劣悪な職場環境の中で多くの女性がミシン掛けに勤しむ中、突然火事の警報が。急いで工場をあとにする従業員たち。
しかしこの事故で女性作業員の一人が死亡。悲しみに暮れる同僚たち。次の日に工場に行くと場内は立ち入り禁止となっており、工員は門前払いを食らわされます。
その様子に憮然とした表情を見せる工員の一人、シム。彼女はとあるきっかけで「労働組合」という仕組みを知り、厳しい労働環境にあえぐ同僚たちと組合を結成すべく立ち上がります。
しかし組合の結成までには工場幹部からの脅し、夫や仲間の反対などさまざまな障壁が彼女らの前に立ちはだかります……。
映画『メイド・イン・バングラデシュ』の感想と評価
女性の社会的地位事情
発展途上国の底辺社会の実情を描いた物語あるいはドキュメンタリー作品はこれまでも多く描かれている中、本作の主題はいわゆる発展途上国での搾取という問題に言及していますが、この物語で女性にスポットを当てていることは、現代において重要なポイントとなっています。
国際労働機関(ILO)のエコノミスト、サミール・カチワダによる英文論評 「A quiet revolution: Women in Bangladesh(バングラデシュの女性たちが展開する男女平等に向けた静かな革命:2014年1月にリリース)」によると、バングラデシュという国は女性国家元首の在任期間が世界で最も長いという事実があります。
また全国会議員における女性国会議員比率も上昇傾向にあり、「政治的エンパワーメントにおける男女格差が少ない国」というランキングで世界第8位、開発途上国の中で男女格差における取り組みにおいてはトップを走っている国であるとされています。
この作品で描かれている国の一面からは、実はこの国のことを人はよく知らないという強いショックとともに、メディアなどから知り得る海外の情報に疑いすら感じられるかもしれません。
さまざまな要因とともに
さらに本作は、単に物語の主人公らが大きな問題を抱えているという単一的な視点ではなく、この問題を引き起こすさまざまな要因を浮き彫りにしています。
搾取は、単にモノを買い取る側の強引な態度に問題があるとされがちではありますが、本作ではさらに「要求を受け入れてしまう側」、すなわち国側の問題にも言及しています。
それは「雇ってやっている」と認識する工場、「面倒を見てやっている」と思い込んでいる男性などさまざまな立場があり、さらに女性の視点としても、ある人からは「家族が大事。それを差し置いて仕事とは何事か」と、女性が会社や男性にたて突くことを否定します。
物語ではこのような関係が、巡り巡って結果的には法律すら役に立たず、物語の女性たちを苦しめ、ひいては社会の底辺の人たちを苦しめるという構図に導かれていることを示しています。
社会が未成熟の発展途上国では、そういうこともあり得ると認識されるかもしれません。
しかし一歩間違えればこの物語の一部は日本の社会においても、再現される恐れもあるかもしれません。その意味では意外に普遍的なテーマを扱っているとみることもできるでしょう。
まとめ
女性を主体にした作品だけに、とても印象的なのはそのファッション。サロワ・カミューズと呼ばれるもので、いわゆるバングラデシュの民族衣装的なものですが、みな一様に原色系の非常に彩りの華やかなデザインを施されており、強く目を引きます。
しかし見方を変えれば、どちらかというと粗末な空気感すら見えるバングラデシュの風景とのギャップも強く感じられ、そのギャップこそが物語における女性という存在を指し示す隠喩であるといえるでしょう。
物語のエンディングで、主人公シムは組合結成のためにかなり大胆な行動に打って出ます。それは見る人によって賛否が分かれるものでもあります。
その結果をもって彼女らは自分たちの望む方向に進んだのか? 物語の行く末は見る人の人生にもどこか重なり、自身の人生を改めて考えさせられる展開まで見えてきます。
映画『メイド・イン・バングラデシュ』は2022年4月16日(土)より岩波ホールにて公開、以後順次全国ロードショー!