アメリカの移民政策で生じた“隙間”に落ちた青年の運命
映画『ブルー・バイユー』が、2022年2月11日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショーとなります。
本作は、移民政策の法律の隙間に突き落とされた韓国生まれの青年の家族と引き離されそうになる危機を描いたヒューマンドラマです。
監督・脚本・主演を務めるのは、韓国系アメリカ人のジャスティン・チョン。
養子としてアメリカに移住するも、書類不備により強制送還の危機に見舞われる韓国人青年を描くヒューマンドラマ『ブルー・バイユー』の見どころをご紹介します。
映画『ブルー・バイユー』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Blue Bayou
【監督・脚本・製作】
ジャスティン・チョン
【共同製作】
チャールズ・D・キング、キム・ロス、ポッピー・ハンクス
【製作総指揮】
ニック・メイヤー、ゼブ・フォアマン、エディ・ルービン
【撮影】
マシュー・チャン、アンテ・チェン
【キャスト】
ジャスティン・チョン、アリシア・ヴィキャンデル、マーク・オブライエン、リン・ダン・ファン、シドニー・コワルスケ、ヴォンディ・カーティス=ホール、エモリー・コーエン
【作品概要】
養子としてアメリカにやってきた韓国生まれの青年が、移民政策の法律の隙間に突き落とされ、家族と引き離されそうになる危機を描いたヒューマンドラマ。
監督・脚本・主演を務めるのは、映画「トワイライト」シリーズ(2009~12)に出演し、監督としても数々の賞を受賞している韓国系アメリカ人のジャスティン・チョン。
共演は、『リリーのすべて』(2015)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデル、『マリッジ・ストーリー』(2019)のマーク・オブライエンほか。
第74回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品され、8分間に及ぶスタンディングオベーションで喝采を浴びました。
映画『ブルー・バイユー』のあらすじ
韓国で生まれ、わずか3歳で遠くアメリカに養子に出された青年アントニオは、シングルマザーのキャシーと結婚し、7歳の娘ジェシーと貧しいながらも仲睦まじく暮らしていました。
キャシーの妊娠により、タトゥーアーティストの仕事だけでは収入が足りないとして職を探すアントニオでしたが、アジア系であることと過去のバイク窃盗の前科がネックとなり、上手くいきません。
そんなある日、ちょっとしたいざこざからアントニオとキャシーがスーパーマーケット内で口論していると、そこへ警官でキャシーの前夫エースと相棒のデニーが介入し、アントニオを逮捕してしまいます。
キャシーが保釈金を払って留置場に迎えに行くも、アントニオは移民局へと引き渡されていました。それは彼自身も知る由もない、アメリカの移民政策で生じた法律の“すき間”があったのです…。
映画『ブルー・バイユー』の感想と評価
移民大国アメリカに潜む移民問題
世界最大の移民国であるアメリカは昨今、その移民事情で大きく揺れ動きました。言うまでもなくそれは、2016年からのドナルド・トランプ政権が発端です。
テロ対策の一環とする中東の国々などからの入国制限や不法移民の摘発など、その強固な政策が国内外で物議を醸したのは記憶に新しいところでしょう。
本作『ブルー・バイユー』も、そんな移民大国アメリカの知られざる問題を鋭く突いたヒューマンドラマとなっています。
本作の監督、脚本、主演は、「トワイライト」シリーズのジャスティン・チョン。
『リベンジ・オブ・ザ・グリーン・ドラゴン』(2014)で主演を務める一方、監督としても活躍するチョンは、数年前に読んだという国外退去処分を受けた韓国系アメリカ人の養子の記事をヒントに、自身も韓国系アメリカ人という出自を重ね、脚本を執筆しました。
チョン演じるアントニオは、韓国で生まれるも家庭の事情で3歳でアメリカに養子に出されて育った青年。
シングルマザーのキャシーと結婚し、連れ子のジェシーと幸せに暮らしていたものの、アジア系であることと過去の前科がネックとなり、新たな職を見つけられません。
多民族国家ならではの差別、偏見に追い打ちをかけるように、警官であるキャシーの前夫エースにより不当逮捕されてしまったアントニオは、30年以上前の書類不備により、自分にアメリカの市民権がないことを初めて知ります。
突如として訪れた危機に直面するアントニオ、キャシー、そしてジェシーの姿をエモーショナルに描きます。
観る者の感情に訴えかける映像と楽曲
チョン監督は、本作では1970年代の映画に多く見受けられた腹の底に響くようなリアリティと、観る者の感情に訴えかける映像を目指したと語ります。
撮影においては、通常の16ミリよりも画角が広いスーパー16ミリフィルムを使用することで、自然発生的で活き活きとした映像と、アントニオの心情を映し出すような映像を心がけたそう。
また、タイトルの「ブルー・バイユー」とは、1963年にロイ・オービソンが発表し、77年のリンダ・ロンシュタットのカバーバージョンがアメリカで大ヒットを記録したナンバーです。
この曲は、物語の舞台であるルイジアナ州を含む南部メキシコ湾岸一帯の地域バイユー・カントリーで生まれた者の故郷への思いを歌にしたもの。
本作では、辛いながらも家族で幸せに生きたいと願うアントニオの妻キャシーと、おぼろげな実母の記憶に揺れるアントニオそれぞれの思いがこもった曲となっており、キャシー役のアリシア・ヴィキャンデルによる熱唱シーンは、見どころ(聴きどころ)の一つです。
なお、スウェーデン人のヴィキャンデルが南部訛りのアメリカ人を演じるという点も、移民がテーマの本作において外せない要素となっています。
まとめ
難民として移住し、後に全米のドーナツビジネスで成功したカンボジア人を追ったドキュメンタリー『ドーナツキング』(2021)でも分かるように、かつてのアメリカは、生きていこうとする者への門戸を広く開放していました。
しかしながら、本作『ブルー・バイユー』プロデューサーのチャールズ・D・キングは警鐘を鳴らします。
「私たちは現在、アメリカの将来と自由のために戦っている。アメリカは人種のるつぼで、どんな生い立ちの人も温かく迎え入れてきた。でも現在のアメリカは、そうではなくなり始めている」
アントニオが直面する、移民政策の不備による国外退去の危機は、フィクションではなく現実に起こっているということに、驚きを隠せません。
移民として、アメリカ人として、そして家族を愛する者として生きていく――観る者の心を揺さぶる一作にご期待ください。
映画『ブルー・バイユー』は、2022年2月11日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー。