父親の最後の瞬間に立ち会うはずだった姉弟が、正体不明の恐怖に遭遇する
危篤状態になった父親の最後を看取る為に、故郷に戻った姉弟が、生家に潜む謎の恐怖に遭遇する映画『ダーク・アンド・ウィケッド』。
本作の大半は「嫌な予兆」が続く、精神的に追い込まれたような恐怖を感じる作品です。
母親の死後に、姉弟が遭遇する恐怖の連鎖を描いた本作は、あまりにも意外な終わり方を迎えます。
人によっては、唐突に感じるエンディングですが、それまでの姉弟の会話などから、本作で描かれている「本当の恐怖」を考察していきます。
映画『ダーク・アンド・ウィケッド』の作品情報
【公開】
2021年公開(アメリカ映画)
【原題】
The Dark and the Wicked
【監督・製作・脚本】
ブライアン・ベルティノ
【キャスト】
マリン・アイルランド、マイケル・アボット・Jr、ザンダー・バークレイ、ジュリー・オリバー・タッチストーン、マイケル・ザグスト
【作品概要】
父親の最後を看取る為、故郷のテキサスに戻ったルイーズとマイケルが、謎の恐怖に遭遇するホラー映画。
ルイーズを演じるマリン・アイルランドは、2016年の『最後の追跡』、2019年の『アイリッシュマン』などに出演している、実力派の女優です。
ルイーズの弟、マイケルを演じるのは、2019年に公開された『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』で主演を務めた、マイケル・アボット・Jr。
監督は、2008年に『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』で長編監督デビューを果たし『ザ・モンスター』(2016)などの作品で知られる、ブライアン・ベルティノ。
映画『ダーク・アンド・ウィケッド』のあらすじとネタバレ
父親の病状が悪化した知らせを受けて、最後を看取る為に、生家であるテキサスの農場に戻ったルイーズとマイケル姉弟。
しかし、母親はルイーズとマイケルに「来るなと言ったのに」「早く帰れ」と、突き放した態度を取ります。
長い間、電話もしなかったことにルイーズは罪悪感を抱き、母親は怒っていると感じます。
逆にマイケルは「忙しかったから仕方ない」と、何も感じていない様子でした。
しかし、ルイーズとマイケルが帰郷した次の日に、母親は農場で首を吊って、自ら命を絶ちます。
突然のことに動揺するルイーズとマイケルは、父親の病状を診ていた看護師に「母親は、誰かと話をしているようだった」と聞かされます。
さらに、無神論者だったはずの母親が教会に通うようなっており、生前母親が書いた日記には、悪魔に怯えていたような、日々の恐怖が記されていました。
母親の死後も、父親の最後を看取る為に、家に残ったルイーズとマイケル。
ですが、寝たきりのはずの父親が、突然バスルームに現れたり、死んだ母親から電話がかかってきたり、母親の亡霊が現れたりと、恐ろしい現象が次々に置きます。
疲弊したルイーズとマイケルの前に、生前の母親を知る、ソーン神父が訪ねて来ます。
マイケルは、ソーン神父が母親を惑わせ、悪魔を信じるようにさせたと疑いますが、ソーン神父は「信じる、信じないは関係無い。奴はすでに家の中にいる」と言い残し、立ち去ります。
その次の日、家畜の羊が無残な殺され方をして、全滅している光景が牧場に広がっていました。
映画『ダーク・アンド・ウィケッド』感想と評価
久しぶりに故郷へ戻った、姉弟のルイーズとマイケルが遭遇する、恐怖の1週間を描いた映画『ダーク・アンド・ウィケッド』。
ルイーズとマイケルに冷たい態度を取る母親が、料理中に自分の指を切断し、その後に首を吊るなど、とにかく嫌な場面が続く作品です。
全体的に淡々としており、静かに物語が進んでいく作品なので、突然始まる恐怖演出が実に効果的です。
母親の亡霊や、白目の状態でシャワールームに現れる、寝たきりのはずの父親、家畜の無残な死体など、目を覆いたくなるような場面の連続で「一体この物語は、どこに行き着くのか?」と、終始目が離せませんでした。
従来のホラー映画だと、ルイーズとマイケルに恐怖をもたらす存在の正体を暴き、戦っていくという展開になるでしょう。
ですが『ダーク・アンド・ウィケッド』では、恐怖をもたらす存在の正体について、何も分からないまま終わります。
最後の一瞬に何か映ったような気もしますが、その正体について何も語られません。
本作における恐怖の重要な点は「悪魔や悪霊の正体」ではなく「久しぶりに故郷に戻ったら、両親と生家が怖いぐらいに変わり果てていた」という部分です。
ルイーズは、しばらく両親に電話すらしておらず、そのことを悔やんでいました。
その間に、無神論者だったはずの母親は、悪魔に怯えるようになっていました。
実際に、悪魔が母親の前に現れたのかは分かりませんが、1人で父親の介護をしていく中で、母親が精神的に疲弊していたことは確かです。
疲弊した精神の中で、母親が神や悪魔の存在を、信じるようになっても不思議ではありません。
もし、ルイーズとマイケルが、もっと早く母親に寄り添っていたら、また違っていたのではないでしょうか?
作中で、マイケルは母親を「俺の全てだった」と泣きながら語る場面がありますが、昔は優しい母親だったのでしょう。
だからこそ、マイケルは母親に寄り添うことが出来なかった罪悪感から、母親の亡霊を見るようになり、耐えられなくて逃げ出したのです。
残されたルイーズも、寝たきりの父親の幻覚に怯えるようになります。
ルイーズとマイケルの中には、間違いなく両親への罪悪感があり、その罪悪感から、両親が怪物に見えてきたのでしょう。
生まれ育った生家も、何年も帰らなかったことにより、ルイーズとマイケルにとって居心地の悪い、恐ろしい場所になってしまいました。
『ダーク・アンド・ウィケッド』で描かれている恐怖、それは家族と言えど希薄になってしまう、現代社会の人間関係です。
2021年は『レリック -遺物-』という、老いていく母親が怪物に見えてしまう恐怖を描いた作品がありましたが、『ダーク・アンド・ウィケッド』とテーマは似ており、現代社会の希薄な家族関係が『レリック -遺物-』でも描かれています。
両親でなくても、何年も会っていない親族に久しぶりに会うと、恐ろしいことになっているかもしれませんね。
まとめ
『ダーク・アンド・ウィケッド』は、長年両親に会うどころか、連絡すらも怠っていた、ルイーズとマイケルの罪悪感が作品全体に充満しています。
では、母親が恐れた悪魔は存在しなかったのか?と言うと、そうでは無く、家畜を全滅させたり、看護師に憑依してルイーズを襲ったのは、間違いなく悪魔と呼ばれる存在でしょう。
危篤状態の父親を1人で介護し、精神的に疲弊した母親を、悪魔は狙って来たのです。
『ダーク・アンド・ウィケッド』は、終始静かに物語が展開しますが、悪魔による「嫌な予兆」が連続する演出で、精神的に疲弊してくる作品です。
嫌な予兆は続きますが、恐怖の正体に関して、あえて描いていないので、人によって悪魔に関する解釈が異なるかもしれませんね。