連載コラム「インディーズ映画発見伝」第27回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第27回目では、韓国の学生映画作品からヨ・ソンファ監督の映画『星はささやく』をご紹介いたします。
聴覚障害者であるヨンヒが転校先で出会ったヨンジュン。
聴覚障害者とミュージカルという斬新さと、子供たちの温かく微笑ましい交流を描く感動作。
映画『星はささやく』の作品情報
【公開】
2019年(韓国映画)
【監督・脚本】
ヨ・ソンファ
【キャスト】
ジョン・ボミ、リュ・ソクホ、ソル・ジェヨン
【作品概要】
監督を務めたのは1992年生まれのヨ・ソンファ監督。韓国芸術総合学校で映画を専攻し、『戦争だ』(2012)、『サヨナラ』(2015)、『最後まで3分』(2020)などの短編を製作しました。
映画『星はささやく』のあらすじ
都会から傷を抱えて田舎に転向してきたヨンヒ。聴覚障害者であるヨンヒはそのことを隠したいと思っています。
隣の席になったヨンジュンは無表情なヨンヒが気になりちょっかいを出しますが、ヨンヒは無反応です。
オナラをしてしまい、クラスメートにからかわれたヨンジュンはヨンヒがオナラをしたと嘘をついてしまいますが、それにも無反応なヨンヒにヨンジュンは気になり放課後ヨンヒの後を追いかけます。
校舎の裏で迎えにきた父親と手話で話していたヨンヒは、ヨンジュンが見ていることに気づき慌てて車に乗り込みます。
手話で話していることを見られてしまったヨンヒは明日学校に行かなくていいかと両親に聞きますが……
映画『星はささやく』の感想と評価
冒頭、学校に向かうヨンジュンが映し出されます。そしてポップな音楽と共に歌が始まります。いつもと同じ日が始まることを歌う生徒たち。
しかし、そこにやってきたのは聴覚障害者であるヨンヒです。
転校生がやってきたと湧き立つ生徒の前に立ったヨンヒは言葉を発することなくお辞儀をしただけです。そんなヨンヒの隣の席になったヨンジュンはヨンヒが気になってちょっかいを出すも相手にされません。
他のことは違う無表情なヨンヒが気になるヨンジュン。
一方でヨンヒは引っ越しの車の中で今度は大丈夫だよと両親に言われるも不安そうな顔をしています。
ヨンヒがどのような傷を負い、田舎の学校に転校してきたのかは劇中で語られることはありませんが、手話をしているところを見られたくないとヨンヒが感じていることから、聴覚障害と無関係ではないことが推測されます。
ヨンジュンとヨンヒ。ヨンジュンが話しかけてもヨンヒは答えません。しかし、無邪気に遊ぶ2人の様子は心が通じ合っており、マジカルな時間が流れています。
ヨンジュンがヨンヒの手に書いた言葉にはっとしたヨンヒ。自身の傷からどこか臆病になっていたヨンヒが無邪気なヨンジュンとの交流を通して前に進もうとします。
優しい子供の交流を描くだけではなく、ミュージカルとして描くことで誰しもが経験したことのあるような子供時代のマジカルな瞬間、優しい煌めきをみずみずしく映し出します。
子供を主役にしたミュージカル映画は『ANNIE アニー』(2015)、『オリバー!』(1968)、『オズの魔法使』(1954)など多くの映画が作られてきました。
しかし本作は聴覚障害者であるヨンヒが登場し、他のミュージカル映画とは違う斬新な映画になっています。
ポップでファンタジック。そして子供たちの微笑ましい世界を音楽にのせてみずみずしく映し出すことでヨンジュンとヨンヒの交流、お互いに会話がなくても心が通じ合える優しい世界を映し出す感動作。
まとめ
聴覚障害者とミュージカルという斬新さと、子供たちの温かく微笑ましい交流を描く映画『星はささやく』。
脚本家の坂元裕二が好きだというヨ・ソンファ監督。
坂元裕二作品に出てくるような平凡でいながら、ジレンマが強烈な人物を描きたいと意識していると言います。
最初無表情で心の傷から心を開けずにいましたが、ヨンジュンと遊ぶと次第に年相応の朗らかな表情へと移り変わっていきます。平凡な人間ドラマの中にある葛藤とファンタジックな演出が感動を呼ぶ映画になっています。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第28回は、松浦本監督の『眉村ちあきのすべて』を紹介します。
次回もお楽しみに!