連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第60回
2021年10月15日(金)にNetflixで配信された、オランダ・リトアニア・ベルギー合作の戦争アクション・アドベンチャー映画『スヘルデの戦い』。
第二次世界大戦時のスヘルデの戦いで、グライダーパイロットやナチス兵士、レジスタンスに仕方なく加担した女性たち3人の悲しく交錯する運命とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
マティス・バン・ヘイニンゲン・Jr.が監督を、ヘイス・ブロムが主演を務めた、オランダ・リトアニア・ベルギー合作の戦争アクション・アドベンチャー映画『スヘルデの戦い』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
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CONTENTS
映画『スヘルデの戦い』の作品情報
【配信】
2021年(オランダ・リトアニア・ベルギー合作映画)
【脚本】
パウラ・ファン・デル・ウースト
【監督】
マティス・バン・ヘイニンゲン・Jr.
【キャスト】
ヘイス・ブロム、ジェイミー・フラタース、スーザン・ラデル、テオ・バークレム=ビッグス、ヤン・ベイヴート、マルテ・シュナイダー、スコット・リード、ロバート・ネイラー、トム・フェルトン、ロナルド・カルター、ユストゥス・フォン・ドナーニー、クーン・ブリル
【作品概要】
『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(2012)のマティス・バン・ヘイニンゲン・Jr.が監督を務めた、オランダ・リトアニア・ベルギー合作の戦争アクション・アドベンチャー作品です。
ファンタジーなテレビドラマシリーズ「王への手紙」のヘイス・ブロムが主演を務めています。
映画『スヘルデの戦い』のあらすじとネタバレ
第二次世界大戦中の1944年6月6日。連合軍(アメリカ・イギリス・カナダ)が、フランス・ノルマンディーに上陸。
敵対するナチス・ドイツ軍(以後、ドイツ軍と表記)との2ヵ月にわたる攻防戦の末、ドイツ軍は算を乱して後退していきました。
1944年8月11日。フィンランドと東プロイセンの侵略に有利な拠点として、エストニアを再占領することを目的としたソ連軍は、エストニア・ナルヴァ攻勢により、ナルヴァ奪取に成功。
ナルヴァにいたドイツ軍は、ナルヴァから16キロ南のブルーマウンテンにある3つの丘に構築した、タンネンベルク線へ撤退せざるを得ませんでした。
ドイツ海軍のオランダ人兵士マリヌス・ファン・スタベレンは、このナルヴァでの戦いで左半身を負傷してしまいます。
後日、搬送先の病院で目を覚ましたスタベレンは、両足を失ったドイツ軍の将校と会い、彼と親睦を深めていきました。
一方、連合軍は物資供給のために、早急に港を押さえる必要がありました。ドイツ占領下のフランス・パリやベルギー・ブリュッセル、ベルギー・アントウェルペンを次々と奪還し、連合軍はアントウェルペン港を解放。
アントウェルペン港の港湾施設は、従来の状態を保っていました。しかし港に通ずる、フランス・ベルギー・オランダを流れる国際河川、「スヘルデ川」の河口をドイツ軍が支配しているため、連合軍は港まで到達できませんでした。
1944年9月5日、ドイツ軍の一部が、スヘルデ川の南岸からオランダ・ゼーラント州フリッシンゲンへ退却。
ドイツに占領されたオランダの人々は、解放は目前であると考えていました。
9月16日、オランダ・ワルヘレン。しかし、連合軍はまだオランダに来ておらず、退却したドイツ軍が戻ってきてしまいました。
ワルヘレンを防衛するドイツ軍のベルクホーフ大佐は、ナチスの旗を掲げた市役所を訪問。
市長のオストヴェーンに、先日ドイツ兵とトラブルを起こした青年を見つけ出し、拘束するよう命じます。
オストヴェーンのもとで働いていたオランダ人女性トゥン・ヴィッサーは、職場内である噂を耳にします。
「犯人と疑われた無実の青年ウィムら3人が逮捕され、処刑されそうになっている」
ドイツ兵とオランダ人青年のトラブルの一部始終を見ていたトゥンは、帰宅後、地下室にいる弟ディルクに、ドイツ軍が犯人探しをしていることを伝えました。
ドイツ兵とトラブルになったオランダ人青年とは、ディルクのことだからです。
退却するドイツ軍の姿をカメラで撮影していたことがバレて、ディルクはドイツ兵とトラブルになり、カメラを壊された腹いせに、ドイツ軍の車に石をぶつけました。
ディルクはトゥンに、パン屋で働くトゥンの友人ヤンナへの伝言を頼みます。
「レジスタンス(対ドイツ抵抗組織のこと)に聞いて、隠れ家を手配して欲しい」
ヤンナはパン屋で働く裏で、レジスタンスと繋がっていました。トゥンはヤンナに、ディルクが捕まるかもしれないことを伝え、隠れ家を手配してもらうよう頼みます。
一方連合軍は、ドイツ軍が占領する地域へ一挙に進攻する計画、「マーケット・ガーデン作戦」を決行することにしました。
このマーケット・ガーデン作戦の内容は、ドイツへの進撃で大きな障害となる、オランダ国内の複数の河川を超えるために、空挺部隊を使用して同時に多くの橋を奪取するということでした。
この作戦を成功させ、オランダの港湾施設を使用可能状態にすれば、連合軍が抱える兵站問題を解決することができます。
イギリス人グライダーパイロットのウィリアム・シンクレアは、空挺部隊に加わって一緒に戦いたいと思い、指揮官である父親のシンクレア大尉にその許可を求めます。
シンクレア大尉は幼少期から十分な訓練を訓練を積んでいるとはいえ、危なっかしい操縦をする息子の身を案じて、地上に残るよう命じました。
しかしウィリアムは諦めきれず、上官であるトニー・ターナー中尉に「許可をとった」と嘘をつき、作戦に参加するイギリス軍の空挺部隊に加わります。
一方、すっかり傷が癒えたスタベレンは、戦線復帰しようと強襲部隊へ志願し、連合軍が侵攻してきているオランダへ派遣されることになりました。
そのことを知ったドイツ軍の将校は、未来ある彼の身を案じてコネを使い、ゼーラントにあるドイツ軍司令部の事務職に配属させます。
その日の夜。ドイツ軍の将校は、明日オランダへ旅立つスタベレンにそのことを伝えた後、病室の外で拳銃自殺しました。
9月17日、連合軍はマーケット・ガーデン作戦を決行。空挺部隊は24の飛行場から、軍機やグライダーに乗ってそれぞれ出発。
敵戦線の100キロ後方に上陸し、オランダ・アーネムを奪還しようとします。
しかし、ターナーとウィリアムが操縦するグライダーは、敵襲を受け左翼が破壊されてしまい、ドイツ軍によって水没させられたオランダの南西部にあるスハウウェン島へ墜落。
しかも墜落したところを敵に見られてしまったため、急いでその場から離れなければなりません。
ウィリアムは空挺部隊のヘンク・シュナイダーと、ナイジェルとジョンと協力し、重傷を負ったターナーを乗せたボートを引っ張り、近くの陸地にあった小屋に避難します。
一方、病院から帰ってきたヴィッサー博士は、突然家に訪ねてきたベルクホーフの左足に応急処置を施した際、ドイツ軍司令部に息子を連れて来るよう命じられました。
実は、ディルクが投げた石によって起きた事故で死んだのは、ベルクホーフが率いる部隊の兵士たちだったのです。
その後ディルクとトゥンは、今まで黙っていたドイツ兵とのトラブルについてヴィッサー博士に告白。親子3人で話し合った結果、ヴィッサー博士はディルクが自首したとしても、実刑判決ではなく、最悪終身刑にとどめてもらうよう、ベルクホーフに掛け合ってみることにしました。
トゥンを連れて、司令部へ足を運んだヴィッサー博士は、ベルクホーフにこう言いました。
「息子はテロリストではないし、不注意でやってしまったと反省している。息子には自首させるから、その代わり、逮捕された少年の釈放と、息子の処罰を最悪でも終身刑にとどめてほしい」
これに対しベルクホーフは、ドイツ兵や自分を治療してくれたヴィッサー博士への恩返しとして、「軽い刑に済むよう取り計らおう」と言いました。
映画『スヘルデの戦い』の感想と評価
葛藤するスタベレン
ドイツ兵としてこれまで戦ってきたスタベレンでしたが、ドイツ人ではなくオランダ人であるが故の葛藤がありました。
スヘルデの戦いでは、スタベレンは容赦なく機関銃の装填を手伝っており、相対したウィリアムにも、最初は本気で殺そうと銃口を突きつけています。
その一方で、スタベレンは捕まったディルクやレジスタンスに対し、同じオランダ人である彼らの処刑を聞いて激しく動揺していました。
そこでスタベレンは、他のドイツ兵のようにディルクたちを反逆者と思うのではなく、同じオランダ人だから助けなければと思ったのでしょう。
だからこそスタベレンは、こっそりトゥンにディルクの処刑のことを伝えに行きます。しかしドイツ兵に見られ、ベルクホーフにバレたことにより、ディルクたちの処刑を止めることは出来ませんでした。
同じオランダ人であるディルクたちを助けられなかった悔しさと懺悔、ドイツ兵としての使命や責務に抗えず、彼らを殺してしまった自分への怒りが入り混じった、スタベレンの葛藤が痛いほど伝わってきて辛いです。
1人になってしまったウィリアム
父親に反対されても諦めきれず、上官のターナーと一緒に、イギリス軍空挺部隊としてドイツ軍と戦うことを決めたウィリアム。そんな彼の戦いは、敵地である島への墜落から始まるのです。
それでもウィリアムとターナーは諦めず、「敵に殺されるぐらいなら溺死した方がマシ」「俺は死なない」と思って、ゼーラントへ行ってカナダ兵と合流する気満々でした。
そんな彼らとは対照的に、ヘンクたち3人は「そんなの無茶だ、敵に見つかって殺される運命しかない」という、諦めにも似た絶望を拭うことは出来ず、先に進むことを止めてしまいます。
ターナー亡き後、本当に1人になってしまったウィリアム。敵に殺された仲間の死と同じくらい、仲間が戦いを諦めて自分の元から去っていくことは、とても辛く悲しいのです。
孤独感を拭うかのように前へ進み、無事カナダ兵と合流できたウィリアム。そこで得た新たな友を失わずにすんだ彼の安堵の表情を見て、涙が出てくるほど感動します。
弟のためにレジスタンスに加担するトゥン
トゥンは、ドイツ兵とトラブルを起こした弟ディルクを救うため、父親と一緒にベルクホーフに彼の助命を懇願しました。
ディルクが自首し逮捕された後も、危険を冒してレジスタンスに協力してでも、彼を救おうとするトゥンの姉弟愛は感動します。
市役所で働くただの民間人が、連合軍とドイツ軍が睨み合う最前線へ行くなんて、足が竦んでしまうほど怖いはずです。それなのに、弟への愛だけでズンズン前へ突き進むトゥンは尊敬します。
まとめ
イギリス軍のグライダーパイロットとオランダ人ドイツ兵、弟のためにレジスタンスに加担したオランダ人女性、この3人の運命が悲しく交錯するオランダ・リトアニア・ベルギー合作の戦争アクション・アドベンチャー作品でした。
本作の見どころは、スタベレンとウィリアム、トゥンのそれぞれの視点で描かれた物語と、激戦が繰り広げられたスヘルデの戦いです。
スヘルデの戦いでは最初、ウィリアムたち連合軍は、ドイツ軍の塹壕やスヘルデ川河口要塞の位置を知らなかったため、湿地で足元が悪く遮蔽物もない場所での戦いで多くの犠牲が出てしまいます。
カナダ兵たちがドイツ軍の対空砲による砲弾や機関銃による銃撃で次々と殺されたり、体のどこかが欠損するほどの重傷を負っていく場面は、阿鼻叫喚な地獄図そのものです。
本作ではグロテスクな描写があるため、15歳未満の未成年者の視聴は推奨できません。さらに、15歳以上でも鑑賞する際は心の準備が必要でしょう。
恋愛関係にはならず、違う立場の3人の運命が悲しく交錯していく、スリリングな戦争アクション・アドベンチャー映画が観たい人に、特にオススメな作品です。