超過保護な過程で育った孤独な少女が出会ったのは、好きなバンドのボーカルだった!?
俳優としても活躍するベン・スティラーがプロデュースを務め、アダム・レーマイヤーが監督を務めた異色のラブストーリー。
過保護に育てられた孤独な少女パティは、ひょんなことから警察に追われるサイモンを匿うことに。
しかし、サイモンはパティが好きなパンクバンドのボーカルであり、パティの“心の恋人”だった!出会うはずのない2人の運命的な出会い。
現代社会の偏見をむき出しにし、直球のメッセージを突きつけるパンクでパワフルな映画をご紹介します。
映画『ディナー・イン・アメリカ』の作品情報
【日本公開】
2021年公開(アメリカ映画)
【原題】
Dinner in America
【監督・脚本】
アダム・レーマイヤー
【製作】
ベン・スティラー、ニコラス・ワインストック、ロス・プットマン、デビッド・ハンター、ジョン・コバート、サム・スレイター
【キャスト】
エミリー・スケッグズ、カイル・ガルナー、グリフィン・グラック、パット・ヒーリー、メアリー・リン・ライスカブ、ハンナ・マークス、リー・トンプソン、デビッド・ヨウ、ニック・チンランド
【作品概要】
『ズーランダー』(2001)、『LIFE!』(2013)など俳優、監督として活躍するベン・スティラーがプロデューサーを務め、監督・脚本は『バニーゲーム』(2010)でデビューしたアダム・レーマイヤーが務めました。
パティを演じたエミリー・スケッグズは、ミュージカル『ファン・ホーム』で主人公アリソンの学生時代役を演じ、高評価を受け、シアターワールド賞を受賞しました。『ミスエデュケーション』(2018)、 『マイル 22』(2018)に出演、本作が長編映画初主演作。
サイモン役には『ウェット・ホット・アメリカン・サマー』(2001)で映画初主演、『エルム街の悪夢』(2010)、『アメリカン・スナイパー』(2014)、『ビューティフル・ボーイ』(2018)など多数出演する新鋭の若手俳優カイル・ガルナー。
映画『ディナー・イン・アメリカ』のあらすじとネタバレ
サイモン(カイル・ガルナー)は治験のアルバイトに来ていましたが、途中で帰されてしまい、報酬ももらえませんでした。
仕方なく帰ろうとバス停に向かうと、もう一人途中で帰された女性がいました。その女性に食事に誘われます。突如やってきたサイモンに対し女性の家族は怪訝な顔をしますが……、何故か女性の母親に気に入られ誘われます。
誘いに乗ろうとしたサイモンでしたが、その様子を他の家族に見られてしまいます。サイモンを誘ったはずの母親はサイモンに襲われたと嘘をつき、サイモンは悪者にされてしまいます。逆上したサイモンは窓ガラスを割り、植木に放火して逃亡します。
一方パティ(エミリー・スケッグズ)は短大を卒業し、親に勧められるままペットショップで働いています。通勤中のバスでは2人組の男にからかわれ下品な言葉を浴びせられます。「負け犬」と馬鹿にされても黙って耐えるパティ。
夕食の際にパティはライブに行きたいと両親に言いますが、両親は過激な音楽は好きじゃないと反対し、友達とパジャマパーティをしたらどうかと提案します。もう子供じゃないとパティは怒ります。
感情が昂ったパティは自室で大ファンであるパンクバンド「サイオプス」の曲を大音量で流し、感情のままに踊ります。そして自慰行為をし、自身の下着を写真に撮りファンレターと共に封筒にいれ、覆面ボーカルのジョンQに送ります。
ある日、仕事の休憩中のパティの前にサイモンが現れます。パティとサイモンは短大で同じ授業をとっていたことがあり、顔見知りでした。
サイモンはパティに隠れる場所はないか、と聞きます。パティはサイモンを家に連れていきます。
借りは返すというサイモンにパティはサイコプスが前座で出るアライアンスのライブに連れて行ってくれと頼みます。
サイオプスのレコードもカセットも全部持っていると興奮気味にパティは言い、ジョンQは自分の心の恋人であり、毎週愛の詩を書いていると言います。
パティの言葉にサイモンは動揺し、トイレに駆け込みます。サイモンのリュックの中には沢山の手紙が。サイモンこそがサイオプスの覆面ボーカル、ジョンQだったのです!
映画『ディナー・イン・アメリカ』感想と評価
パンクでピュアな恋
星条旗のマークのインパクトが強いワンピースを着たパティはお世辞にもイケてる女の子ではなく、鈍くて冴えない残念な女の子です。ビールと煙草アレルギーの父、健康志向なのか変わった食事を作る母親。
パンクバンドのライブに行きたいと言うパティに、刺激の強い音楽は好きじゃないと反対されます。しかしパティ自身もそんな両親に反抗しようとはせず、言いつけを守って一週間分の薬もちゃんと飲み、同世代の男達にからかわれてもやられっぱなしでいます。
そんな彼女の唯一ストレス発散であり、彼女のアナーキーな気持ちを爆発させるのは、パンクバンド「サイオプス」でした。
覆面のボーカリスト、ジョンQに恋をし、思いの丈を詩にして自身の下着の写真と共に送っています。
そんな心の恋人であるジョンQが目の前に現れ、冴えない少女であったパティがサイモンに出会うことで、今までの自分を脱却していく展開はまるで少女漫画のようにロマンティックです。
一方サイモンは、麻薬中毒、放火犯と家族の中でも問題児扱いされ、厄介もの扱いされるサイモン。自分の感情をぶつけられるバンドでさえ、メンバーとうまくいっていません。
そんなサイモンにとって心の拠り所であり、密かに特別な思いを抱いていたのがパティのファンレターでした。
しかし単なるロマンティックなラブストーリーで終わらないのが、本作の魅力です。
家族と食事
“ディナー・イン・アメリカ”のタイトルの通り、本作では家族で食事をする場面が出てきます。
治験のアルバイトの後サイモンが誘われて女性の家族と食事、パティの家族とサイモンの食事、サイモンの家族とパティの食事の3つの家庭が出てきます。
サイモンは髪型など外見で受け入れられず、問題児扱いされます。パティもサイモンと出会う前は弟に馬鹿にされ、両親にはライブを却下され、サイモンの家族には馬鹿だと言われてしまいます。
刑務所に入ったサイモンは、パティへの手紙の中で“ムショはアメリカの中で唯一まともな食事ができる”と言っています。刑務所の食事というと一般的に不味いというイメージがあります。
不味いイメージのある刑務所の食事を唯一まともと皮肉って言うところがサイモンのアナーキーな部分であり、社会に巣食う様々な偏見をぶっ飛ばすこの映画のメッセージがありありと浮かび上がってくるのです。
サイモンやパティに対して偏見で決めつけ、自分はまともな側だと信じて疑わない人々。その構図がまさに食事シーンに現れています。確かに2人はぶっ飛んでいるかもしれませんが、彼らを偏見の目で見る人々は“まとも”と言い切れるのでしょうか。
まとめ
超過保護な過程で育った孤独な少女が、好きなバンドのボーカルと出会い恋に落ちる異色なラブストーリー。
パティとサイモンのパンクでピュアな恋愛もさることながら、本作で注目して欲しいのは音楽です。
特にパティが自身の思いを綴った曲を歌う場面は過保護に育てられ、全てをノーと禁じられてきたパティが自身を解放するような印象的な場面になっています。
音楽を手がけたのは、映画『ナポレオン・ダイナマイト』(2004)など数多く映画やTVドラマの楽曲を手がけてきたジョン・スウィハートです。
社会への痛烈な皮肉も込めたパンクでアナーキーな映画でありながら、“推し”との運命的なラブストーリーは多くの人に愛されるでしょう。