連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第27回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。
第27回は、2021年12月3日(金)よりグランドシネマサンシャイン池袋ほかにて全国公開の『ナチス・バスターズ』。
第2次世界大戦下、極寒のソ連。「赤い亡霊」と称される謎のソ連兵スナイパーとナチスドイツ軍部隊の死闘を描いたロシア製戦争映画です。
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映画『ナチス・バスターズ』の作品情報
【日本公開】
2021年(ロシア映画)
【原題】
Krasnyy prizrak(英題:The Red Ghost)
【監督・製作・脚本】
アンドレイ・ボガティレフ
【共同製作】
コンスタンティン・ヨルキン
【共同脚本】
ブヤチェスラフ・シクハリフ、パベル・アブラメンコフ
【キャスト】
アレクセイ・シェフチェンコフ、ウラディミール・ゴスチューキン、ユーリー・ボリソフ、オレグ・バシリコフ、ポリーナ・チェルニショワ、ウォルフガング・セルニー、ミクハイル・ゴレボイ、パベル・アブラメンコフ、コンスタンティン・シモノフ、ブヤチェスラフ・シクハリフ、ポール・オルリヤンスキー、ミクハイル・メリン
【作品概要】
第2次世界大戦下の極寒のソ連を舞台に、「赤い亡霊」と呼ばれるソ連の狙撃兵とナチスドイツ軍との戦いを描いたロシア製戦争映画。小さな村を舞台に、赤い亡霊と5人のはぐれロシア兵が、ナチスドイツ軍部隊と死闘を繰り広げます。
『パトリオット・ウォー』(2016)、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2019)、『ワールドエンド』(2019)といった、近年のロシア・エンタメ映画を代表するスタッフ・キャスト陣が集結。アカデミー賞受賞の巨匠ニキータ・ミハルコフも絶賛した、サスペンスフルなガンアクションが見どころです。
映画『ナチス・バスターズ』のあらすじ
1941年の冬。ソ連に侵攻したナチスドイツ軍兵士の間で、ある噂が広がっていました。
その噂とは、謎のソ連兵がドイツ兵を次々と射殺しているらしい、というもので、彼らはその人物を「赤い亡霊」と呼び、いつ狙撃されるか分からない恐怖に怯えるのでした。
一方その頃、本隊とはぐれて、一刻も早く戦線に戻るため敵地を進むソ連兵たちの姿が。
途中、彼らは誰もいない寒村で休息をとることに。しかし周辺を偵察中、冷酷なブラウン大尉率いるナチスドイツ軍部隊が村に現れ、同行していた看護師で妊婦のベラが捕らわれてしまいます。
ベラ救出のため、戦闘を決意する5人のソ連兵ですが、多勢に無勢で全滅の危機に。
その時、どこからともなく飛来した銃弾が次々とドイツ兵を撃ち抜きます。それはあの「赤い亡霊」が放ったものでした……。
エンタメ度MAXのロシア製戦争アクション
軍事大国にして、”戦争映画大国”と呼ばれるロシア。
トルストイ原作を4部作に渡って映像化した『戦争と平和』(1965~1967)や、5部作構成でトータル約8時間にも及ぶ『ヨーロッパの解放』(1970~72)など、その多くは第一次~第二次世界大戦が舞台の、オーソドックスかつ重厚な内容となっています。
ただ近年は、ある意味「今までのロシアっぽくない」、エンタメ度の高い戦争映画も増えているのをご存知でしょうか。
たとえば、ソ連の最強戦車「T-34」によるドリフト走行や炸裂する砲弾、爆炎といったド迫力の戦闘シーンが満載の『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』は、日本でもヒットしたことで記憶に新しいかと思います。
ほかにも、第一次大戦時に実在した女性軍隊が活躍する『バタリオン ロシア婦人決死隊VSドイツ軍』(2017)や、モスクワ攻防戦での知られざる真実を壮大なスケールで描いた『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』(2021)など、本物の戦車やVFXを駆使した作品が量産されています。
こうした背景には、ソ連邦の崩壊でロシアでもアメリカ映画と続々と上陸し、それらを観て育った世代がフィルムメーカーとなったことや、ロシアを強国としてアピールしたいプーチン政権の意向が少なからず関わっているなどの制作要因があるようですが、本作『ナチス・バスターズ』もまた、近年のロシア・エンタメ映画を象徴する話題作を手がけたスタッフ・キャスト陣が集結しています。
戦争映画なのに西部劇テイスト?
本作の最大の見どころは、「赤い亡霊」と呼ばれるロシア人スナイパーの存在です。
どこからともなく現れ、ロシア民に銃を向けるドイツ兵を次々と射殺したかと思えば、またすぐに次の獲物を求めてさまよう……この謎の人物がスパイスとなっています。
監督のアンドレイ・ボガティレフによると、「赤い亡霊」とは、ソ連軍兵士がドイツ軍の包囲を突破しようと戦っていた際に実在したとされる人物とのこと。確実にドイツ兵を仕留める謎のスナイパーとして、数多くの元兵士やその子孫たちの証言を元に、自ら脚本を手がけました。
『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』(2019)で重厚な演技を見せ、スティーヴ・マックイーンやダニエル・クレイグを彷彿としたマスクを持つアレクセイ・シェフチェンコフが、「赤い亡霊」を無骨かつミステリアスに演じます。
もう1つ特筆したいのが、作品全体の雰囲気です。
『ナチス・バスターズ』は戦車も戦闘機も大砲も登場しないばかりか、メイン舞台が小さな村という限られた空間な上に、主要人物もごく少数と、近年のロシア製戦争映画では異色の内容となっています。
というのも本作からは、アメリカ映画の興隆を担った西部劇、またはそれに影響を受けたマカロニ・ウエスタン(イタリア製西部劇)の影響が見受けられます。
作品全体を覆う牧歌的な状況の中、独ソの兵士たちによる他愛もない対話描写や、遠距離での緊迫感たっぷりな射撃の応酬など、荒野が雪原へと変わっているものの、繰り広げられるのは西部劇そのもの。
そもそも、「少数の主人公たちが小屋に立てこもり大勢の敵と戦う」というシチュエーションが『ワイルドバンチ』(1969)と重なりますし、登場人物たちの無言の表情にクローズアップしたショットの多用は、『夕陽のガンマン』(1965)などの一連のセルジオ・レオーネ監督作を思わせます。
そして何よりも、随所で流れる劇伴が、そのレオーネとコンビを組んでいたエンニオ・モリコーネへのオマージュにあふれている点からも、疑いようがないでしょう(もっとも、モリコーネが音楽提供した、雪山の小屋が舞台の『ヘイトフル・エイト』の影響もありそう)。
「赤い亡霊」の伝説は語り継がれる
ロシアで英雄として伝えられる「赤い亡霊」とは、はたして何者だったのか?それこそ1人ではなく、何人も存在したのではないか?
もしかしたら「赤い亡霊」とは、「ナチス・バスターズ」となってナチスドイツ軍と戦った、数多くのロシア兵たちの象徴なのかもしれません。
死せる英雄の仕事は、生きている英雄が受け継いでゆく。それがロシア兵士の伝承であり、これはその希望についての物語なのです。
(映画公式サイトより)
ボガティレフ監督がこう語るように、英雄伝説は語り継がれます。
祖国を守るべく戦う「ナチス・バスターズ」の結末や如何に?キレの良いサスペンスフルな攻防戦に、ご期待ください。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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