サスペンスの神様の鼓動46
リゾートホテルにバカンスへ来た4人家族が、ホテルのマネージャーに勧められた、プライベートビーチを訪れたことで遭遇する、不可解な恐怖を描いた映画『オールド』。
本作で監督と脚本を手掛けたM・ナイト・シャマランと言えば、『シックス・センス』(1999)や『スプリット』(2016)など、一筋縄ではいかないスリラー映画を得意とする監督で、「シャマラニスト」と呼ばれる、熱狂的なファンも多くいます。
時間の経過が異常に早い謎のビーチで、年老いていく家族が遭遇する不可解な現象。
かなり特殊な設定ですが、脱出不可能と思われるビーチで、目を覆うような衝撃の展開が続きます。
M・ナイト・シャマラン作品と言えば、理解不能な展開と、それらを一気にひっくり返す、ラストに待ち受ける衝撃の事実が魅力の作品です。
「ラストに判明する衝撃の事実で、どれだけ驚けるか?」が、シャマラン作品において最も重要な部分ではあるのですが、『オールド』ではどうでしょうか?
今回は『オールド』を、ラストの展開まで明かしながら、ご紹介します。
CONTENTS
映画『オールド』のあらすじ
インターネットで偶然見つけた、格安のリゾートホテルへ遊びに来た、カッパ一家。
ホテルに到着すると、父親のガイと母親のプリスカには、歓迎のカクテルが振る舞われます。
長女のマドックスと弟のトレントはホテル内を散策します。
トレントには、人の名前と職業を聞いて全て覚えるという特技があり、ホテル内のお客さんに、名前と職業を聞いて回ります。
ホテル内には、医者やダンサー、警察官など、さまざまな人がいました。
トレントは、ホテルのマネージャーの甥である、イドリブと仲良くなります。
トレントは、イドリブから特殊な暗号で書かれた手紙を渡され、その暗号を解く遊びに夢中になっていました。
プリスカはこの旅行を最後に、ガイと離婚することを決めていました。
プリスカは、病を患いお腹に腫瘍ができていた為、心配したガイは離婚を考え直すように提案しますが、プリスカは応じません。
マドックスとトレントは、旅先で喧嘩をしているガイとプリスカに、呆れた様子を見せます。
次の日、カッパ一家が食事をしていると、ホテルのマネージャーから「この近くにプライベートビーチがある」と教えてもらいます。
マネージャーから「限られた人にしか教えていない」と聞かされたカッパ一家は、そのプライベートビーチへ行くことを決めます。
その瞬間、1人の女性が発作を起こして倒れます。
女性の名はパトリシアで、看護師の夫ジャリンと、近くにいた医者のチャールズが看護をします。
カッパ一家が、プライベートビーチに向かう車に乗ると、チャールズと妻のクリスタル、娘のカラ、祖母のアグネスも乗り込んで来ます。
プライベートビーチに到着すると、運転手から大量の食糧を持たされ「17時に迎えに来る」と伝えられます。
岩で作られた渓谷を抜け、教えられたプライベートビーチに到着します。
そこには、マドックスが大好きなラッパーの、ミッド=サイズド・セダンが座っていました。
マドックスとトレントは、カラと一緒にビーチで遊び、かくれんぼを始めます。
トレントが岩場に隠れていると、そこに女性の死体が流れて来たことで、楽しく穏やかな雰囲気は一変します。
サスペンスを構築する要素①「1日で50年の時が流れる謎のビーチ」
バカンスで訪れたビーチで、不可解な現象に遭遇する家族の恐怖を描いたサバイバル・スリラー『オールド』。
本作最大の特徴は、1日で50年の時間が流れるという、ビーチの存在です。
成長が終わっている大人たちは、見た目がなかなか変化しないのですが、子供達はどんどん成長していきます。
特に最初は6歳だったトレントが、成長しカラとの恋愛を経て、子供の出産を経験し、最後は両親の死を看取るという、本来なら長い人生で経験する出来事が、たった1日で起きる訳です。
本作のラストでは、トレントは50代になってしまっていますが、ビーチを出ても元に戻れないあたり、怖いですね。
ただ、このビーチだけ、時間の流れが早いというよりも、ビーチの周辺で渓谷を構成している岩が、人の老化を進める要素を持っています。
この岩がかなり厄介で、深海から突き出た岩の為、無理に渓谷を進もうとすると、酸素不足になり激しい頭痛に襲われ、気絶してしまいます。
それは、岩を登ろうが海を泳ごうが同じことで、このビーチにいる限り、老化がどんどん進行していくのですが、ハッキリ言って脱出する方法が無いという、絶望的な状況となります。
また、ビーチでの様子を見張っている、謎の人影が何度も映る為「いったい、誰が何の為にこんなことをしているのか?」という恐怖もありますね。
ビーチの謎、それを利用する存在、そしてビーチに集められた人達の共通点など、さまざまな謎が渦巻くのが、前半の主な展開となっています。
サスペンスを構築する要素②「錯乱した外科医、チャールズの恐怖」
1日で50年が経過するだけでなく、一度入ると脱出不能となってしまうプライベートビーチ。
これだけも絶望的なのですが、同じくビーチへと入った外科医のチャールズが、精神に異常をきたし錯乱を始めるという、さらに恐ろしい展開となっていきます。
チャールズは、最初に登場した時は、冷静で頭のいい男に見えます。
ですが、老化が進むビーチの影響で、チャールズ自身も精神の疲弊が加速し、どんどん壊れていきます。
この壊れ方も、急に「マーロンブランドとジャックニコルソンが共演した映画って何だっけ?」と関係の無い話を始め、次第にミッド=サイズド・セダンを「近所の泥棒」と言い始め、持っていたナイフを振り回すようになります。
チャールズは医者で、切れ者のように見えた為、この壊れ方には恐怖しか感じません。
映画『CUBE』(1997)でも、本来なら頼りになるべき人間が、実は一番の敵だったという展開がありますが、不可解な事態に団結すらもできないという状況は、観客に不安と恐怖を生み出しますね。
サスペンスを構築する要素③「プライベートビーチに隠された陰謀」
『オールド』では、クライマックスまで、ビーチから脱出する方法が見えません。
ですが、ホテルのマネージャーの甥っ子、イドリブのメモから状況が一変し、これまで不明だった、全ての謎が明かされます。
ここから、シャマラン作品の本領発揮ですね。
『オールド』のラストでは、カッパ一家たちをプライベートビーチに誘い込んだのは、製薬会社の陰謀だったことが判明します。
老化が加速するビーチは、自然と作られた場所ですが、このビーチを見つけた製薬会社が、治験の為に、このビーチに病気を持っている人と、その家族を誘い込んでいたのです。
ラストでは、製薬会社の研究員たちが登場するのですが「我々は、今から百万人の命を救う使命がある」という大義名分を掲げ、プライベートビーチでの犠牲者たちには、形だけの黙祷を行うのみです。
かなりタチの悪い、嫌悪すべき人間として描かれています。
シャマラン作品は、後味の悪い作品もあるので「『オールド』も、このまま終わるのか?」と思いましたが、最後にトレントとマドックスがキッチリと復讐してくれますね。
ただ、トレントとマドックスからすると、両親や年齢を失っているので、決してハッピーエンドとは言えません。
通常、治験は10年単位で進められるようなので、実際に1日で50年が経過するビーチがあれば、本当に治験に利用する製薬会社が現れそうですね。
ただ、作中の製薬会社は、ホテルに来た観光客に、歓迎のカクテルと騙して、試験用の薬を飲ませていました。
研究データの為に、何も知らない一般市民を犠牲にすることはあってはなりません。
あくまでフィクションの世界の出来事ですが、現実に製薬会社が研究データの為に、もし一般の人を騙していたらと思うと、恐ろしいですね。
映画『オールド』まとめ
映画『オールド』は、閉鎖された空間で、脱出不可能な恐怖を味わえる作品ですが、同時に「家族の温かさ」も描いています。
序盤では、6歳のトレントと11歳のマドックスは、両親に守られる立場でしたが、後半では老人になった両親を逆に励ますようになっています。
成長したトレントとマドックスが、老人となった両親と夜の海を眺めるのは「家族の温かさ」を象徴する場面となっています。
ただ『オールド』は、設定が荒い部分も目立つ作品で、それぞれの老化のスピードがあまりにも違ったり、プリスカを長年悩ませていた腫瘍が簡易的な手術で治療されたり、成長した子供達が大人の知識を急に身に着けていたり、気になる部分もあるにはあります。
ですが、それら「詰めの甘さ」も含めてのシャマラン作品なので、シャマラン監督のファンはもちろん、これまでシャマラン監督の作品を、あまり知らなかったという人にも、おススメしたい作品です。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに!