岩手県を舞台に震災と伝承を組み合わせたアニメ映画
2011年3月11日、宮城県牡鹿半島沖で発生した最大震度7の地震は多くの犠牲者を出し、日本だけでなく世界を悲しみに包みました。
10年が経過してもなおその痛みは人々の心の中に深く残ってはいますが、進み続ける時間の中を強く生きています。
今回は東日本大震災を題材とし、被災した地で強く生き続ける3人の「家族」の物語を描いた最新アニメ映画『岬のマヨイガ』(2021)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
アニメ映画『岬のマヨイガ』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
川面真也
【脚本】
吉田玲子
【キャスト】
芦田愛菜、大竹しのぶ、粟野咲莉、伊達みきお、富澤たけし、宇野祥平、達増拓也、天城サリー
【作品概要】
1975年に児童文学作家としてデビュー後、数多くの児童小説を手掛けてきた柏葉幸子による同名小説を映像化した作品。
映画『パシフィック・リム』(2013)などに出演し話題となった芦田愛菜が主人公の声を担当し、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2020)などのアニメ映画を手掛けた吉田玲子が脚本を務めました。
アニメ映画『岬のマヨイガ』のあらすじとネタバレ
東日本大震災で多くの犠牲者が出た岩手の狐崎、家出少女のユイは避難所付近の神社で少女ひよりと出会います。
両親を交通事故で失い、身を寄せた親戚の家で震災に巻き込まれまたも家族を失ったひよりはショックから声を出すことが出来なくなっており、ユイは彼女のことを心配していました。
身を寄せる場がないのはユイも同じでしたが、避難所で出会った老女キワがユイとひよりを孫と偽り引き取ることを決め、岬に立つ古民家で3人は共同生活を行うことになります。
キワは2人に親切に振る舞いますが、ユイは彼女の強引とも言える親切心を信じきることが出来ず、有事の際はひよりを連れ逃げ出すことを決意。
ユイは自身の疑問を正直にキワにぶつけると、キワは2人に道に迷い紛れ込んだ人間をもてなし幸福を届ける「マヨイガ」の昔話を聞かせます。
ユイはなぜキワが昔話をするのかを疑問に思いますが、やがてこの古民家そのものが不思議な力を持っていることを感じ始めます。
水が欲しいと呟くと水が用意され、氷を入れて欲しいと言うと氷が入るこの家は至れり尽くせりの環境でしたが、ユイは自身に暴力的にあたる父の記憶をフラッシュバックさせてしまい、反射的にひよりを連れて家を飛び出してしまいます。
ひよりが転んでしまい、うな垂れるユイは追いかけてきたキワも家も、自分たちを受け入れてくれる人であることを思い知り、家へと戻ることになりました。
数日が経ち、ひよりは小学校に通い始め、友人から子狐岬で毎年行われる「狐踊り」の練習の見学を誘われついて行きます。
狐踊りの見学中にひよりは両親の死を思い出し、その場から逃げてしまいます。
一方、ユイは町で蕎麦屋を営む男性から原付を貰い、スーパーでバイトを始めることにしました。
家に戻ったユイはショックを受けるひよりを見つけ彼女に寄り添うと、キワはこの地に伝わる狐にまつわる昔話を聞かせます。
かつて「アガメ」と呼ばれる化け蛇が、人々に幻覚を見せこの地から人々を追い払い支配しようとしていました。
しかし、地元に住む漁師の男性が狐から受け取った魔を払う刀「マギリ」を使い、命を代償としてアガメを打倒したのでした。
3人の暮らしは楽しく経過し、ひよりは狐踊りの練習をする地元民から笛を教わり上達していきます。
ある日、キワが家にある目的から地元の水源を守る「河童」を招待します。
ユイとひよりは常識外のものを目の当たりにし動揺しますが、河童たちが優しく彼女たちに接するため2人の警戒は溶けます。
キワは河童のようなこの世のものではない存在を「ふしぎっと」と呼び、他の人には内緒にすることを2人に誓わせました。
キワは河童たちに震災によって壊れてしまった祠のある海中の調査を依頼すると、河童たちは祠の破壊によって「何か」の封印が解け逃げだしてしまった形跡があるとキワに話し帰って行きました。
アニメ映画『岬のマヨイガ』の感想と評価
「いま」を強く生きる人々を描いた最新アニメ
自身に非のない理不尽なトラブルに巻き込まれたとき、「なんで自分ばかりがこんな目に」と言う気持ちが沸くことがあります。
しかし、すべてを投げ出したくなるような悲しみやトラウマを抱えるのは世界に自分ひとりではありません。
東日本大震災を題材とした児童小説をアニメ化した『岬のマヨイガ』は、そんなトラウマを抱える2人の少女が「いま」を強く生きるために崩れた自分の心を再起させる物語が展開されます。
震災は理不尽に多くのものを奪っていきました。
その痛みが残る東北の地で「いま」を生きる人々の強さに目を向ける、感情を揺さぶられる物語に引き込まれる作品でした。
「遠野物語」を主軸としたファンタジー
柳田国男が岩手県の遠野地方に伝わる伝承をまとめた説話集『遠野物語』は、民間伝承を書いた本として高い評価を受け続けています。
映画『岬のマヨイガ』は岩手県を舞台とし現地の民間伝承を取り入れた作品となっているため、「天狗」や「河童」、「座敷わらし」などの著名な妖怪(ふしぎっと)が登場します。
本作に登場するふしぎっとや魔を払う刀の「マギリ」などは全て「遠野物語」内の民間伝承に登場するため、本作が岩手県の伝承を調べ抜きとことん寄り添った物語であることが分かります。
遠野地方に伝わる「デンデラ野」のように暗く辛い伝承がある一方で、本作の主軸である「マヨヒガ」の伝承のように暖かい物語もある『遠野物語』。
本作で興味を持った人、もしくはより『岬のマヨイガ』についてを知りたい方は『遠野物語』も合わせてオススメします。
まとめ
宮城県気仙沼市で東日本大震災に被災し、義援金を設立し10年で5億円にも及ぶ寄付を行ったお笑いコンビ「サンドウィッチマン」。
これからも東北と共に歩んでいくことを宣言する2人は、東日本大震災を題材とした本作にも声優として参加しています。
東日本大震災を題材としどこまでも地元に寄り添った映画作りを感じることができる『岬のマヨイガ』は、岩手の民間伝承に興味のある方にも被災地で生きる人間たちを描いた作品を観たい人にもオススメの作品です。