映画『愛のくだらない』が、2021年8月27日(金)より田辺・弁慶映画祭セレクション 2021、テアトル新宿にて1週間限定公開、他全国順次公開されます。
『横道世之介』の沖田修一監督や『あのこは貴族』(2021)の岨手由貴子監督ら、数々の才能を輩出する新人監督の登竜門「田辺・弁慶映画祭」にて、弁慶グランプリ・映画 .com 賞をダブル受賞した映画『愛のくだらない』。
「生きづらさ」を感じている人々を描き続けてきた新鋭・野本梢監督が、自身のリアルな体験をもとに描いた渾身の一作です。
CONTENTS
映画『愛のくだらない』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【脚本・監督・編集】
野本梢
【キャスト】
藤原麻希、岡安章介(ななめ 45°)、村上由規乃、橋本紗也加、長尾卓磨、手島実優、根矢涼香
【作品概要】
ひとりの30代の人間が、忙しさや意地の張り合いから、仕事でもプライベートでも失敗しながら成長する姿を描きます。
野本監督の処女作から共にする藤原麻希に加え、お笑い芸人トリオ「ななめ 45°」の岡安章介が、誰にも言えない秘密を抱えた恋人役を好演しています。
映画『愛のくだらない』のあらすじ
テレビ局で働く玉井景(藤原麻希)は、芸人を辞めてスーパーで働く彼氏のヨシ(岡安章介)と同棲しています。
体調不良で仕事をすぐ休み、結婚に対してはっきりしない、そんな頼りないヨシを置いて景はついにある嘘を隠したまま家を出ます。
番組制作に意気込む景でしたが、出演をオファーしたトランスジェンダーの金井(村上由規乃)を取り巻くトラブル、やけに気になるヨシの存在……と、多忙を極める中で次第に周囲と歯車が狂い始めます。
そんな時、ヨシからある事実を告げられるのですが……。
映画『愛のくだらない』の感想と評価
眉間にしわを寄せっぱなしの主人公
主人公の玉井景(藤原麻希)は、テレビ局で働くキャリア女性です。そこそこ順調に仕事をこなしていますが、プライベートでは、交際5年になろうとしている恋人・ヨシ(岡安章介)と同棲しながらも、彼に不満を抱いています。
ご飯を作ったり、景の仕事に理解を示す心優しいヨシですが、芸人を辞めてスーパーで働きながらも体調不良ですぐに仕事を休んだりするどこか軟弱なところがあります。
そして何よりも、結婚に対してはっきりした態度をとらず、「子どもができたら結婚をする」というヨシに景のイライラは募るばかり。そんなヨシとの間に子どもを作る気にもなれず、ヨシに内緒で避妊のための薬を飲む景。
いつの間にかヨシに対して、景はそっけない態度をとるのが日常になってしまいました。実際にヨシと話している景は、眉間にしわを寄せ、不愉快そうな顔をしています。
物語では、いわゆる30代の女性が直面する結婚、出産、子育て…といった問題が盛り込まれていますが、実はこの作品の肝はそこではありません。
景の友人・椿(橋本紗也加)が景に向かって「忙しいからって、他人に適当になったらあかんで」と投げかける言葉がすべてを物語っているように、自分の仕事や置かれている境遇しか目に入らない景が、大切なものを見失い、失って初めて大切さに気付いていく話なのです。
他人事ではない悩みを抱えるヨシ
いつもイライラしている景に、どうしていいのか分からないヨシですが、実は彼も現代男性にとって、決して無関係ではない大きな悩みを抱えていました。
何度も景にその悩みを打ち明けようとしていたヨシですが、冷たい態度が日常となっていた景に対して、なかなか言い出すことができません。
一人でその悩みをクリアできないかと頑張っていたのですが、ある日、景がヨシに内緒で避妊していることを知り、張り詰めていた糸がプツンと切れてしまいます。
そしてそれまで打ち明けることができなかった自身の悩みを吐き出し、「もう疲れた。別れたい」と景に迫ります。
それまで「別れる!」と言っていた景は、突然のヨシの告白に茫然とするばかり。「そんな悩み、聞いていない……」とボソッと声に出すのがやっとでした。
意地を張ったり、変なプライドがあったりして、お互いに一番大切なことを言えていなかった景とヨシ。そんな二人のやり取りをみて、「私たちにもこういうところがあるかも……」と自らの行動を振り返ってしまうカップルも少なくないかもしれません。
景を取り巻く不器用な人たち
プライベートに問題を抱えながらも、景はプロデューサーとして、自身の番組を持つという大きなチャンスをつかみます。
その話を持ってきた金城(長尾卓磨)は最初、景に対してとても良い顔をするのですが、景にヨシという恋人がいると分かった瞬間、手のひらを返したように冷たくなります。
そして、新しい番組に対して景が持ってきた企画に、よい顔をしないばかりか、何かと癇癪を起すようになります。
そして、景が自身の番組に出演交渉をした、トランスジェンダーの金井栞(村上由規乃)との間もこじれていきます。最初はかっこいい男性と思っていた金井が、実はトランスジェンダーと知り、思わず「今、流行りだし」と金井に対して口走ってしまいます。
景は、仕事上は決して癇癪を起こしたりするタイプではないのですが、まわりにいる人間が金城のような癖のあるタイプが多いせいか、我慢をし、ストレスを抱えてしまうところがあります。そうしたストレスを無意識のうちに、仕事とは関係ない人に向けてしまうところがありました。
その最たるものが金井に対して放った「今、流行りだし」という無神経極まりない言葉でした。その言葉がいかに金井を傷つけたか、景は後日、さまざまな形で思い知るのです。
景をはじめとして、この物語に登場する彼女を取り巻く人々のなんと不器用なこと。現代に生きづらさを感じている人の多さを目の当たりにする作品でもあります。
まとめ
生きづらさを感じている人たちを描き続けてきた野本梢監督だからこそ、作ることができたと感じる本作。言葉を選ばずに言ってしまうと、ウンザリするような嫌な人たちが登場してきます。
しかしその一方で、じっくりとまわりを見渡せば、身近に自分を大切に思ってくれている人がいるということを知ることができるのも本作の魅力です。
作品を観たあと、思わず眉間にしわを寄せていないか、鏡に映る自分を見つめてしまいます。そして『愛のくだらない』というタイトルにあるように、自分自身のくだらなさを反省する人も少なくないかもしれません。
本作は、まわりにいる大切な人への感謝の気持ちを改めて思い出させてくれる作品でもあるのです。
映画『愛のくだらない』は2021年8月27日(金)より田辺・弁慶映画祭セレクション 2021、テアトル新宿にて1週間限定公開、他全国順次公開。