連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第71回
ベルリン国際映画祭銀熊賞、サンダンス映画祭2020ネオリアリズム賞を獲得した『17歳の瞳に映る世界』が、2021年7月16日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー!
監督は前作『ブルックリンの片隅で』(2017)で、サンダンスの監督賞を受賞したエリザ・ヒットマン。本作が日本で劇場初公開となります。
本作は、望まぬ妊娠をして中絶をするための旅に出る少女たちの姿を描きました。新星シドニー・フラニガン、そのいとこを演じるタリア・ライダーといった注目株のキャストたちの瑞々しい演技が光ります。
世界が絶賛した、17歳の少女たちが向き合う世界を鮮やかに活写した物語のご紹介をいたします。
映画『17歳の瞳に映る世界』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原作・英題】
Never Rarely Sometimes Always
【監督・脚本】
エリザ・ヒットマン
【プロデューサー】
アデル・ロマンスキー、サラ・マーフィー
【出演】
シドニー・フラニガン タリア・ライダー セオドア・ペレリン ライアン・エッゴールド シャロン・ヴァン・エッテン
【作品情報】
『17歳の瞳に映る世界』は、少女2人の数日間を描いたロードムービー。どの国にも通じる、思春期の感情と普遍的な問題をあぶり出し、ベルリン国際映画祭銀熊賞、サンダンス映画祭2020ネオリアリズム賞を獲得するなど世界中の映画賞を席巻しました。
主人公オータムに扮する新星シドニー・フラニガン、そのいとこを演じる注目株のタリア・ライダーといったフレッシュなキャストも集結。
『ブルックリンの片隅で』で2017年サンダンス映画祭監督賞を受賞したエリザ・ヒットマン監督の長編3作目。『ムーンライト』(2016)のバリー・ジェンキンスが製作総指揮に名を連ねています。
映画『17歳の瞳に映る世界』のあらすじ
オータム(シドニー・フラニガン)は17歳。アメリカのペンシルベニア州ノーサンバーランド郡に住んでいます。
家族は母(シャロン・ヴァン・エッテン)と義理の父(ライアン・エッゴールド)と妹ふたりと犬。
友人は一人だけ。同じ学校に通い、同じスーパーでレジ打ちのアルバイトをしているいとこのスカイラー(タリア・ライダー)です。
義父がオータムによそよそしいせいかもしれませんが、なんとなく自宅にいても窮屈なおもいをし、オータムは、睡眠改善薬を飲んでも、眠れない日々を送っていました。
友達も少なく、目立たない17歳の高校生のオータム。ある日気持ちが悪くなり、おそるおそる訪れたウィメンズ・クリニックで、妊娠していることを知ります。
彼女の住むペンシルベニア州では、未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができません。
オータムは途方にくれました。ビタミンCを過剰摂取したり、お腹を拳で叩いたりと、嘘のよう堕胎方法を試しますが、思うような結果はでません。
同じスーパーでアルバイトをしている親友でもあるいとこのスカイラーは、オータムの異変に気付きました。
お金を工面した2人は長距離バスに乗って、中絶に両親の同意が必要ないニューヨークに向かいます。
映画『17歳の瞳に映る世界』の感想と評価
17歳の苦悩と友情
本作では、17歳の少女オータムとスカイラーが、ニューヨークへ向かいます。一見小旅行に見えますが、少女たちの目的は「妊娠中絶」をするためであり、決して浮ついた遊び目的で出かけたのではありません。
各州ごとに法律が異なるアメリカにおいて、少女たちの住むペンシルベニア州では、未成年の妊娠中絶には親の同意が必要でした。
しかし、ニューヨークでは、親の同意は不必要。そのことを知った彼女たちは、バイト先のお金を拝借し、こっそりとバスに乗ってニューヨークへ。
妊娠が発覚して以来、一人で悩んでいたオータム。まだぺしゃんこのお腹をさすり、小さな胎児の心音を聞いてほんの少し母性を感じます。
ですが、現実社会を見つめたとき、母親になる自信がなくなりました。
オータムは自分の母にも相談できず、自己流の堕胎を試みてもうまく行かずに、泣いてしまいます。
困り果てた様子のオータムに気がついて、スカイラーは彼女を助けるべく、ニューヨーク行の妊娠中絶旅行に同行したのです。
友達が少ない不器用なオータムに比べ、明るいスカイラーはオータムにとって親友と呼べる存在でした。
慣れない大都会のニューヨークで、お金が無ければ受診も手術も出来ない妊娠中絶という大きな試練を受けるには、17歳の少女一人では荷が重すぎます。
スカイラーがいてくれたからこそ、オータムも妊娠中絶ということを実行できたのでしょう。正反対の性格といえる2人ですが、実に良いコンビです。
‟4択回答の質問”が与えるリアリティ
ニューヨークでやっと中絶手術ができる病院を見つけたオータム。未成年者の中絶とあってか、診察室でカウンセラーの女性から優しく声を掛けられました。
そして、病歴や性経験に関する質問が投げかけられ、さらに立ち入った質問が続きます。
回答は4択で答えますが、それにしても深く立ち入った質問の数々に、観客もドキリとすることでしょう。
実はこの4択の質問シーンは、実際にウィメンズ・クリニックで使用されているものだといいます。
本作の製作にあたって、エリザ・ヒットマン監督自身がウィメンズ・クリニックや中絶施術業者を訪れ、どのようなサービスを提供し、どんな考え方を持っているのかをリサーチをしました。
彼女は、ウィメンズ・クリニックの雰囲気ばかりでなく、そこで働く女性たちが来院者に対して、どう思い、どう話し合っているのかを理解し、描くことを大切にしたそうです。
それゆえに、このシーンは、詳細なリサーチの成果が十分に発揮されました。わが身のことのように感じられるリアリティが、この映画に信憑性を与えています。
まとめ
2012年にアイルランドで中絶が違法だったために女性が亡くなったという記事をエリザ・ヒットマン監督が読んで、『17歳の瞳に映る世界』の構想が生まれました。
アイルランドの女性は中絶手術のためイギリスへ渡るといいます。これはまさに、女性たちの語られざる旅の物語!
新鋭女優の2人が揺れ動く少女の姿をリアルに表現していますので、細かい表情の一つずつが見ごたえあります。
また、主題歌の『Staring at a Mountain』を歌っているミュージシャン兼女優のシャロン・ヴァン・エッテンが、オータムの母役として出演しているのも見逃せません。
本作では、17歳という大人になり切っていない少女が直面する、ある意味罪深い「妊娠中絶」を通して、少女の瑞々しい感性が描き出されています。
この冒険は少女たちにとって、大人になる大きな試練となったのにちがいありません。けれども、17歳の彼女たちが未成年者として位置づけられている社会は、当事者の眼にどう映ったのでしょう。
少女たちの勇気あふれる旅路の果てに待ち受けている現実が気になり、それが明るいものであることを願わずにいられません。