サスペンスの神様の鼓動43
映画『屋敷女 ノーカット完全版』は2021年7月30日(金)より全国公開。
夫を失った妊婦が、正体不明の女に襲われる、クリスマス・イブの惨劇を描いた映画『屋敷女』。
2007年に製作され、日本でも公開された本作ですが、あまりにも衝撃的な場面が多く、R-18指定にも関わらず、大幅な修正とカットが余儀なくされた作品です。
問題作とも呼べる『屋敷女』ですが、今回ノーカット完全版が日本でも公開されることになりました。
残酷描写が容赦なく描かれ、カルト的な人気を誇る本作が、いよいよ本当の姿を見せます。
2000年代前半「バイオレンス・ショッカー・ブーム」に沸いたフランスで、ジュリアン・モーリとアレクサンドル・バスティロのコンビにより製作された、映画『屋敷女』。
奈落の底に落とされるような、絶望的な状況と恐怖を描き、世界に衝撃を与えた本作は、2016年に『インサイド』というタイトルで、ハリウッド・リメイクされた作品です。
ジュリアン・モーリとアレクサンドル・バスティロは、『屋敷女』が高く評価され、2017年に『レザーフェイス 悪魔のいけにえ』を監督するなど、活躍の場を広げました。
世界に戦慄を与えた『屋敷女』とは、どんな作品なのでしょうか?
CONTENTS
映画『屋敷女 ノーカット完全版』のあらすじ
自動車の衝突事故により、夫を失った妊婦のサラ。
しかし、お腹の赤ん坊は順調に育っており、翌日に出産を控えたサラは、クリスマス・イヴの夜も、1人で静かに過ごすことを決めます。
サラを心配し、一緒に過ごそうとする母親や、上司のジャン=ピエールの誘いも断り、サラは自宅で、1人で編み物をしていました。
編み物の途中で、うたた寝をし、悪夢を見て目覚めたサラは、玄関に誰かが訪ねて来たことに気付きます。
真夜中の訪問者をサラは警戒し、覗き穴から外を見ますが、相手の顔が見えません。
訪問者は女性で「車が壊れたから、電話を貸してほしい」とサラに伝えます。
警戒したサラは「旦那が寝ているから駄目だ」と伝えると、女は「旦那はもういない、嘘をつくなサラ」と脅すような口調になります。
恐怖を感じたサラは「警察を呼ぶ」と言うと、女は立ち去ったようでした。
不安を感じながらも、サラがリビングに戻ると、女は庭先に忍び込んでおり、窓を壊して中に入ろうとします。
サラが、カメラで女の顔を撮影すると、女は姿を消したようでした。
サラは警察を呼び、周囲を捜索してもらいましたが、女は見つかりません。
警察は「パトロール係に、見回りをさせる」と約束し、サラの自宅から立ち去ります。
恐怖を感じながらもサラが眠りにつくと、寝室に黒いロングドレス姿の女が侵入してきます。
目を覚ましたサラは逃げ出し、バスルームに閉じこもりますが、女は扉をこじ開けようとします。
それは、恐怖の一夜の始まりでした。
サスペンスを構築する要素①「妊婦サラの不安と孤独」
出産を控えた妊婦のサラが、自宅に侵入してきた正体不明の女に襲われる恐怖を描いた、映画『屋敷女 ノーカット完全版』。
手加減抜きの残酷描写が話題になることの多い本作ですが、実は序盤では、最愛の夫を失った状態で初めて子供を出産する、サラの不安と孤独を丁寧に描いています。
まず冒頭の病院の場面で「明日には出産だ」と、笑顔でサラに伝える医者が「陣痛が起きても1人で来れる? クリスマスだから救急車出さないよ」と、サラの不安を煽るようなことを言います。
サラも「自分で来るから大丈夫」と淡々と伝えますが、その強張った表情からは不安が読み取れます。
そして、待合室にいたサラの隣にベテランの看護師が座り「私は最初の出産は死産だった」という話をわざわざした後に、妊婦のサラの横で煙草を吸い始めます。
この時のサラのうんざりした表情から、初めての出産を控え、周囲からプレッシャーをかけられ続けていたことが分かります。
その後、サラは母親や上司のジャン=ピエールの誘いを断り、1人で過ごすことを決めますが、誰かといることで不安が強くなる可能性がある為、1人で静かに過ごすことを決めたのでしょう。
その決断が後の惨劇に繋がってしまうのですが「妊婦が1人で過ごす夜」というシチュエーションを、自然に作り出していますね。
サスペンスを構築する要素②「正体不明の女が巻き起こす惨劇」
1人で静かな夜を過ごすはずだったサラですが、突然自宅に侵入してきた、謎の女により事態が急変します。
謎の女は、黒いロングドレスに身を包んだミステリアスな雰囲気を持っているのですが、何故かサラのことを知っているようです。
謎の女は、最初はハサミだけを持ってサラを襲ってきます。
侵入者は女性1人で武器はハサミ。
これなら撃退できそうですが、サラは出産を翌日に控えた妊婦で、自由に体が動かせず、逃げるのが精一杯です。
そしてバスルームに逃げ来み、内側から鍵をかけます。
そのまま閉じこもっていれば、謎の女をやり過ごすことは出来そうですが、サラを心配した母親やジャン=ピエールなど、サラの知人や警察が訪ねて来ては、女の餌食になっていきます。
謎の女により、希望が次々と消されていく展開は、次第に観客も絶望しか感じなくなるでしょう。
それにしても、執拗にサラを狙う、この女の正体は何者なのでしょうか?
正体が判明した後のラストシーンでは、個人的に悲しさより、やはり異常さしか感じず、鳥肌が立ちました。
サスペンスを構築する要素③「無修正になった『問題の場面』」
今回のノーカット完全版は、無修正となっているのですが、おそらく『屋敷女』を観たことがある人は「あの場面かな?」と思うでしょう。
そうです、クライマックスの、いわゆる「問題の場面」が無修正となっています。
2008年の日本公開時、R-18指定なのに「問題の場面」には黒いモザイクのような修正がされていて「何が起きているか?」が、全く見えないようになっていました。
前後の展開から、何となく「何が起きているか?」は想像できたんですが、ノーカット完全版では、黒いモザイクが消されており、起きていたことが、おもいっきり見えますよ。
ただ、個人的にですが、直視できないぐらい衝撃が強かったですね。
このクライマックスから、前述した異常なラストシーンへと繋がっていくので、やはり『屋敷女』は凄い破壊力の作品だと感じました。
映画『屋敷女 ノーカット完全版』まとめ
『屋敷女』は、前半ではサラの不安で孤独な心情をサスペンス風に描いていますが、中盤以降は、血しぶきが飛び散り、残酷な描写が連続する凄まじいホラー映画となります。
特に後半へ進むにつれて、いきなりゾンビ要素が入ってくるなど、奇妙な作風になっていくことも特徴です。
『屋敷女』は、2016年に『インサイド』というタイトルでリメイクされていますが、『インサイド』はホラー要素よりも、苦難を乗り越えたサラが、母親として成長する内面に重点を置いた作品です。
『屋敷女』のクライマックスは、黒いモザイクが入るほど衝撃的でしたが、『インサイド』のクライマックスは「母親となったサラの誕生」を表現しており、かなり美しい場面になっています。
『屋敷女』と『インサイド』、2つを見比べても面白いと思いますが、『屋敷女』は今回のノーカット完全版の上映を逃すと、観賞するタイミングも少ないのではないでしょうか。
興味のある方は、この機会を逃さないで下さいね。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに!