Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/05/24
Update

映画『インヘリタンス』感想評価と解説レビュー。本格ミステリーにリリー・コリンズ扮する女性検事の“正義”が揺らぐ|サスペンスの神様の鼓動42

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

サスペンスの神様の鼓動42

映画『インヘリタンス』は2021年6月11日より全国公開予定!

財政界に巨大な影響力を持つ父親から、1本の鍵を託された娘のローレン。

その鍵で地下室の扉を開いたことで明かされる、忌まわしき秘密を巡るミステリー『インヘリタンス』。

「託された鍵」「謎の地下室」「幽閉された男」など、さまざまな謎が交差するだけでなく「良心」「正義」という人間の本質にも迫る、本作の魅力をご紹介します。

地方検事であるローレンが、亡くなった父親から1本の鍵を託され、地下に幽閉された男と出会うことで始まる、さまざまな謎と、解き明かされる真実を描いたミステリー。

主人公のローレンを演じるリリー・コリンズは、『白雪姫と鏡の女王』(2012)で白雪姫役に抜てきされて以降『シャドウハンター』(2013)や『あと1センチの恋』(2014)など、さまざまな作品で主演を務めている注目の女優です。

地下に幽閉された謎の男を演じるのは、『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)で世界的に注目されて以降、「ミッション:インポッシブル」シリーズの人気キャラ、ベンジー役で大ブレイクしたサイモン・ペッグが演じます。

監督は、マーゴット・ロビー主演で話題になった『アニー・イン・ザ・ターミナル』(2018)で長編デビューを果たしたヴォーン・スタイン。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『インヘリタンス』のあらすじ

(C)2020. 1483, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

地方検事として活躍するローレン・モンロー。

ローレンの父親は、ニューヨークの政財界に絶大な影響力を持つ銀行家アーチャー・モンローです。

しかし、アーチャーは謎の発作を起こし急逝します。

ローレンは顧問弁護士ハロルドから、アーチャーの遺言を聞かされ、弟で政治家のウィリアム、母親のキャサリンと、アーチャーの遺産を分割する事になります。

ですが、アーチャーはローレンだけに「特別な遺産」を残していました。

ローレンは、ハロルドから1本の鍵を渡されますが、アーチャーの遺言で「真実は掘り起こすな…」と伝えられます。

ローレンは、幼少期からアーチャーに「近づくな」と伝えられていた、自宅の庭へと向かいます。

ハロルドから渡された鍵で、地下室に通じる扉を開けたローレンは、鎖に繋がれた謎の男と遭遇します。

「モーガン」と名乗るその男は「アーチャーに30年間、監禁されていた」とローレンに伝え「助けてほしい」と懇願します。

当初は戸惑っていたローレンですが、モーガンからある真実を聞いた事で、自身の「良心」が揺らぎ始めます。

果たして、モーガンの正体は? アーチャーが隠していた真実とは?

さまざまな謎が交錯する中、ローレンはある決断を下しますが……。

サスペンスを構築する要素①「地下に幽閉された男の謎」

(C)2020. 1483, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

亡くなった父親から、地下室の鍵を託されたローレンが、衝撃的な事実に直面するスリラー『インヘリタンス』。

本作最大の謎は、屋敷の地下に幽閉されていた男の正体です。

自身を「モーガン」と名乗るこの男は、ローレンの父親であるアーチャーにより「30年間地下に閉じ込められていた」と語ります。

モーガンはローレンに、自分が地下に閉じ込められた理由を語りますが、もし、これが事実なら、父親のアーチャーは自身の地位を守る為、モーガンを幽閉したことになります。

本来であれば「父親が、そんな事をするはずはない」とモーガンの話を否定するところですが、ローレンが抱いているアーチャー像は、権力と財産に固執する、かなり欲深い男で、自身の保身の為に、人ひとりの人生を壊すぐらい、やりかねないのです。

さらに、家族間ですら知らなかった、アーチャーが隠していた女性関係をモーガンが知っていたことで、徐々にローレンはモーガンを信じるようになります。

モーガンが望むのは、地下室から解放され自由になること。ですが、本当にモーガンを信用して、自由にしてしまっていいのでしょうか?

本作の前半では、父親であるアーチャーとモーガンの間で、ローレンの良心が揺らいでいく様子が、詳細に描かれています。

サスペンスを構築する要素②「男と家族の間で揺らぐ正義」

(C)2020. 1483, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

モーガンと出会ったことで、自身の良心が揺らぎ始めたローレン。

ローレンは正義感の強い性格で、地方検事として活躍しています。次第に、ローレンの揺らぐ良心は、地方検事としての「正義」へと変わっていきます。

そもそも、1人の人間を地下室に30年間も幽閉し続けることが異常な行為なので、本来であれば、すぐに開放することが正義でしょう。

しかし、ローレンの弟であるウィリアムは政治家で、次の選挙を控えた大事な時期となっています。

さらにアーチャーは、財政界に多大な影響を及ぼす人物でした。

もし、ローレンの信じる正義により、モーガンを開放した後に、モーガンが全てを世間に暴露してしまうと、ローレンの一族は終わりです。

地方検事として、人間としての正義と、守らなければならない家族との間で、ローレンは苦しむようになります。

悩んだ末に、ローレンが最後に下す決断とは?

サスペンスを構築する要素③「ローレンに託された遺産の真実とは?」


(C)2020. 1483, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

地下室に幽閉されていたモーガンとの遭遇により、自身の正義が揺らぎ始めるローレン。

いわばモーガンの存在は、アーチャーがローレンに残した遺産とも言えますが、何故アーチャーはローレンだけに、この事実を明かしたのでしょうか?

さらに、アーチャーが残したメッセージ「真実は掘り起こすな」の真意とは?

モーガンの話が全て事実だったとすれば、モーガンはアーチャーの秘密を知っている唯一の人間です。

アーチャーほどの権力者であれば、秘密裏にモーガンを消すことも簡単だったはずですが、何故アーチャーはモーガンを生かしたまま、地下に30年も閉じ込めていたのでしょうか?

これらの謎が全て繋がった時に、ローレンに関する「ある秘密」が明かされます。

衝撃の事実を目の当たりにした、ローレンの運命とは?

映画『インヘリタンス』まとめ

(C)2020. 1483, INC. ALL RIGHTS RESERVED.s

本作の物語の主軸は「謎の男であるモーガンの正体が何者か?」という部分です。

モーガンは一見すると、権力者に運命を翻弄された被害者ですが、情緒不安定な部分があり、常に独り言のように、お菓子のレシピを呟いているという、不気味な部分があります。

このモーガンを演じるサイモン・ペッグは、6ヵ月に渡る肉体改造で大幅な減量を行い、筋肉質な身体を作り上げ本作に挑んでいます。

モーガンが最初に登場した時の無気力な状態から、ローレンと出会い、解放される可能性を感じて以降の喜々とした様子など、大きく揺れ動くモーガンの心理状態を見事に表現しています。

さらに、クライマックスでは、ほとんどサイモン・ペッグの独壇場になっていますので、そこも注目してください。

ローレンを演じるリリー・コリンズは、サイモン・ペッグとは逆に、抑えた演技で対峙しており、ローレンが自身の中で揺らぐ正義を、静かな演技で表現しています。

ローレンとモーガンの駆け引きが描かれている地下室の場面では、リリー・コリンズとサイモン・ペッグの演技がぶつかり合い、かなり見応えのある場面になっています。

作品全体に仕掛けられた謎と共に、リリー・コリンズとサイモン・ペッグの静と動の演技という、真逆のアプローチで挑んだ、キャラクター同士のぶつかり合いも本作の見どころですよ。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに!





関連記事

連載コラム

映画『空白』ネタバレ考察。怒りの被害者が加害者ともなる古田新太演じる‟怖い父の心情”|映画という星空を知るひとよ74

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第74回 『ヒメアノ~ル』(2016)の吉田恵輔監督による、主演・古田新太×共演・松坂桃李の映画『空白』が、2021年9月23日(木・祝)より全国公開! ある日 …

連載コラム

『よだかの片想い』あらすじ感想と評価解説。松井玲奈・中島歩が紡ぐ“受け入れる”愛に気づく物語|山田あゆみのあしたも映画日和6

連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第6回 今回ご紹介するのは、顔にあるアザで悩み続けてきた女性が、とある出会いを通して自身のコンプレックスと人生を見つめ直そうとする姿を描いた映画『よだかの片想 …

連載コラム

『おらおらでひとりいぐも』原作小説ネタバレと結末までのあらすじ。75歳のヒロインが“心の声たち”と過ごす1年を追う|永遠の未完成これ完成である18

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第18回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは『おらおらでひとりいぐも』です。第158回芥川賞と第5 …

連載コラム

映画『スタントウーマン』ネタバレ感想と考察解説。 ハリウッドの知られざるヒーローたちの“プロフェッショナルとプライド”|だからドキュメンタリー映画は面白い57

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第57回 今回取り上げるのは、2021年01月08日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開の『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーロ …

連載コラム

映画ネタバレ『チタンTITANE』感想評価とあらすじ結末の考察解説。パルムドール受賞作にみる肉体の脆弱性と想像力の限界|タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』11

連載コラム『タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」』第11回 2022年4月1日(金)より日本公開されたフランス映画『TITANE/チタン』。 幼い頃の交通事故により頭蓋骨にチタンプレー …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学