連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第35回
世界の様々なジャンルの映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第35回で紹介するのは『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』。
あらゆる映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち」。ついにおとぎ話を題材にした、家族向けファンタジー作品の登場です。この韓国製CGアニメ映画は、国際マーケットを意識し豪華キャストの英語版が作られました。
お馴染みの物語をベースに現代的メッセージを与えた、このコラムには場違いに思える作品の紹介です。これぞ何でもあり、「未体験ゾーンの映画たち」ならではの快挙です!
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CONTENTS
映画『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』の作品情報
【日本公開】
2021年(韓国映画)
【原題】
Red Shoes and the Seven Dwarfs / 레드슈즈
【監督・脚本】
ホン・ソンホ
【英語版キャスト】
クロエ・グレース・モレッツ、サム・クラフリン、ジーナ・ガーション、パトリック・ウォーバートン
【作品概要】
呪いによって緑色の小人に変えられた、7人のイケメン王子たち。彼らは美しい白雪姫に会いますが、彼女もまた訳ありな美女でした。グリム兄弟の「白雪姫」など、様々なおとぎ話をアレンジしたファンタジー・CGアニメ映画です。
監督のホン・ソンホは、韓国のアニメ映画『ワンダフルデイズ』(2003)で視覚効果を担当した人物。キャラクターデザインは『ベイマックス』(2014)や『ズートピア』(2016)、『アナと雪の女王2』(2019)で同じ役割を果たしたキム・ジンです。
英語版の声の主演は、『トムとジェリー』(2021)でアニメキャラクターと共演したクロエ・グレース・モレッツ。おとぎ話の世界を実写映画化した『スノーホワイト 氷の王国』(2016)に出演したサム・クラフリンと共演しています。
映画『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』のあらすじとネタバレ
これはおとぎの国の島で、妖精の王子様やお姫様が登場するお話です。この島で起きた奇妙な事件を解決するのは、イケメン王子で魔法使いのマーリン(サム・クラフリン)をリーダーとする、7人の勇者たち。
島の英雄として活躍する7人ですが、ある日全てが変わります。悪いドラゴンを退治してお姫様を助けたはずが、その醜い顔はどう見ても魔女。マーリンは電撃をくらわして退治します。
ところがそれが大間違い。魔女のような容姿の女の正体は妖精の王女様。いや、どう見ても魔女でしょ!と言い訳しても許されません。妖精の王女様は呪文を唱えました。
イケメン王子たち7人は、魔法で緑色の醜いこびとに姿を変えられます。この呪いを解く方法は、世界で最も美しい女性とキスすること。キスなんて、この顔じゃ絶対無理でしょ!
そんな出来事から幾日経ったのでしょうか。とあるお城では魔法を操るレジーナ王妃(ジーナ・ガーション)が、秘密の部屋に姿を現します。
3匹の木で出来た子グマの召使いが見守る中、彼女は部屋に生えた木に実るリンゴを手に取ります。リンゴは赤い靴に姿を変え、レジーナはそれを履きました。
魔法の力か彼女は若返っていきます。しかしその力は消えレジーナは元の老いた姿に戻ります。企てが失敗に終わったと悟り、部屋から出てゆくレジーナ。
その夜、同じ部屋に窓から白雪姫(クロエ・グレース・モレッツ)が忍び込みます。父親のホワイト国王に似た彼女は、ぽっちゃりした姿をしています。
以前無かった木が生えていると不審を抱きますが、彼女は部屋の中を探し父の日記を見つけます。日記には白雪姫が生まれた喜びと、その後亡くなった美しく聡明な王妃に、もう一度会いたいと書いてありました。
ある日、城に皆が魔女と呼ぶレジーナが現れます。なぜか彼女に魅入られた国王はレジーナと再婚しました。彼女の持つ魔法の鏡だけが気になったと記す国王。
やがて不思議なことに、城の周囲で人々が1人ずつ消えていきます。木や鏡と話すレジーナはやはり魔女だと気付いたホワイト王は、娘の白雪姫を安全な場所に隠します。
これが読まれているなら、自分は行方不明だろうと書いてあります。私は7人の勇士の助けを求めたい、そして疑わしいのはリンゴ。そう記した最後の記述を読む白雪姫。
彼女は行方不明のホワイト王を探しに部屋に忍び込みました。手がかりはありませんが、部屋の木にリンゴがなっていると気付きます。
城の塔の鐘が時を伝える中、部屋に3匹の木の子グマを従えたレジーナが現れます。彼女は何者かが魔法のリンゴを使ったと悟りました。
部屋にはリンゴが姿を変えた赤い靴を履き、美しくなった白雪姫がいました。その靴は私の物だと叫び、魔法で彼女を捕えようとするレジーナ。
白雪姫は子グマの乗っていた魔法のホウキで空を飛び逃れます。リンゴの木は枯れ、自分が若返る企ては潰えたと悟りレジーナは叫びます。
同じ頃、7人のこびとは我が身を呪いながら歩いていました。自分の姿に文句を言うマーリンに副リーダーの戦士アーサーは、もっと前向きになれと叱りつけました。
姿を消すマントを着たキザなジャック、赤毛で料理自慢のハンス、器用で何でも発明する3兄弟ピノ・ノキ・キオたち他の王子も、どうしたものか困っていました。彼らの上空をホウキに乗った白雪姫が、悲鳴を上げ飛んでいきます。
魔女のレジーナは魔法の鏡(パトリック・ウォーバートン)と相談していました。手下は3匹の木の子グマしかいない、と嘆く彼女に誰かを利用すべきだと教える鏡。
見かけは立派なお城に似せた家に戻った7人のこびとは、家の前に魔法のホウキが墜落したと気付きます。魔女が家に忍び込んだと警戒しつつ7人は家に入ります。
中にいたのはつまみ食いしている美しく若い女性です。誤ってブン殴り気絶させた白雪姫の美しさに見とれる7人。
目覚めた白雪姫は自分の行為を謝りますが、デレデレした態度でこびとたちは許します。白雪姫は鏡を見て、自分の容姿が美しく変貌したと初めて気付きました。
驚いた白雪姫は名前を聞かれ、正体がバレないように自分の名は”レッドシューズ”と答えます。
こびとたちの名を聞き、父の探していた英雄の7人の王子の名だと気付く白雪姫。しかし目の前の緑色の小さなこびとが英雄とは思えません。
王子の力を借り、行方不明の父を探したいという白雪姫に、彼女と離れたくないこびとたちは、自分たちは7人の王子を知ってる、いや自分たちがあなたの父親を探すと受け合います。
一方趣味の悪いお城に住んでいるアベレージ王子。彼は態度の悪いボンボンといった人物ですが、おとぎ話のさえない平均的(Average) な王子様とはこんなものかもしれません。
この王子様、自分の誕生パーティーに呼ぶに相応しいお姫様を求めていました。しかし都合が会わないのか、よほど嫌われているのか有名なお姫様からはお断りされました。
そこに魔女レジーナが現れます。誕生日に招くならこの美しい娘が良いと、”レッドシューズ”となった白雪姫の肖像画を見せると、アベレージ王子はその気になりました。レジーナは王子に白雪姫を探させる計画でした。
その夜父を尋ねる手配書を描いた白雪姫。彼女が靴を脱ぐと元の容姿に戻ります。一方の王子たちも、誰も見ていないと元の姿に戻ります。それが彼らにかけられた呪いでした。本来の自分の容姿にほれぼれするマーリン王子。
父の気配を感じ、外に出た白雪姫を追うマーリン。そしてどんな方法で”レッドシューズ”の心を射止め、キスしてもらうかを競う他のこびとたち。アーサーはマーリンがいないと気付き、抜け駆けしたと後を追いました。
父を探す白雪姫の前に、どこか間抜けな木で出来た巨大ウサギが現れます。彼女をウサギから救おうとするマーリンとアーサー。誰も見ていなければカッコ良く退治できるのですが、彼女に見られるとこびとの姿に戻って大変です。
ジャックにハンス、そして自作のロボットを操縦したピノ・ノキ・キオも駆けつけます。倒れたウサギの下敷きになったアーサーは、白雪姫の同情を引いてキスを求めますが、上手くいきません。
結局誰も彼女とキスできません。気絶したウサギを引きつれ、白雪姫とこびとは家に戻りました。彼女の父親捜しの計画を立てながら、誰が彼女と一緒になるかで大いにモメるこびとたち。
翌朝、白雪姫はこびとたちに自ら描いた父の手配書を渡しました。彼女を手助けしつつ好かれるチャンスを掴みたい彼らですが、白雪姫が抜ける聖剣エクスカリバーが抜けず、彼女にいい所が見せられぬアーサー。
それは力持ちではなく、謙虚な心の持ち主なら抜くことができる聖剣でした。
街に向かったアーサーと白雪姫を、巨大ウサギを手なずけて乗るマーリンが追います。手配書を住人に見せ父を見たか尋ねて回る白雪姫。
ところが街には、美しい”レッドシューズ”を探す手配書が貼られていました。アベレージ王子の部下が白雪姫を探していたのです。王子の腹心、巨漢で双子の護衛に追われますが、白雪姫は赤い靴を脱いで元の姿になって逃げのびます。
しかし元の姿の白雪姫は兵士たちにからかわれます。マーリンとアーサーはその姿を見ますが、”レッドシューズ”と気付かず通り過ぎます。トラブルが大きくなった時、マーリンが魔法で兵士たちを倒しました。
マーリンに礼を言う白雪姫。”レッドシューズ”を探すため立ち去るものの、彼女とどこかで会った気がしたマーリン。
赤い靴を履いた白雪姫はマーリンとアーサーに声をかけますが、その姿に双子の護衛が気付きます。白雪姫は巨大ウサギに乗り街から逃げました。
追いついたマーリンに、今の自分の姿は履いている赤い靴の魔法で作られたものだと説明します。その話の最中に、アーサーが”レッドシューズ”の手配書を持って現れます。
アベレージ王子が”レッドシューズ”姿の白雪姫を探しており、彼女の父親捜しは難しくなりました。そこで高い場所から誰にも見えるように、美しい花畑に大きく彼女の父の手配書を描いたマーリン。
お礼に彼女がマーリンにキスをする…と見えましたが、白雪姫は彼の顔に着いた花びらを吹いて飛ばしただけでした。
白雪姫とマーリンとアーサーは家に帰ります。花畑に描いた手配書は、双子の護衛や3匹の子グマが目撃します。
どちらが”レッドシューズの心を射止め、キスによって呪いから解放されるか言い争うマーリンとアーサー。ところが2人は何者かに捕らえられます。
帰宅した美しい姿の白雪姫に手作りのドーナツを出すハンス。彼は料理で彼女の心を射止めようとします。それに対し白雪姫に宝石をプレゼントしたキザなジャック。
その最中に家の外に部下を引き連れた、マーリンとアーサーを捕らえたアベレージ王子が現れます。美しい白雪姫が出てこなければ実力行使も辞さない、と脅すアベレージ王子。
白雪姫は姿を現し、その姿に王子と部下は見とれました。マーリンとアーサーの解放を条件に王子に従う白雪姫。王子は自分の誕生パーティーに彼女を招きますが、その態度にマーリンたちは怒ります。
マーリンとアーサー、ジャックとハンスはそれぞれの武器で王子が率いる兵士たちに挑みます。こびとの姿ながらも巨大ウサギの力も借りて奮戦しますが、双子の護衛は手強く追い詰められます。
そこに改良したロボットに乗ったピノ・ノキ・キオが登場します。ローテクで木製のロボットの活躍で双子の護衛も打ち負かします。すると大砲を持ち出すアベレージ王子。
白雪姫は倒されたロボットからピノたちを助けました。続いて発射された砲弾が彼女に向かった時、身を投げ出して救ったのはマーリンでした。
アベレージとの対決の覚悟を決めた7人のこびとですが、家に命中した砲弾をマーリンが抜くと、お城に見せかけたハリボテの壁は崩れます。部下が皆下敷きになり、アベレージ王子は棄てセリフを残し去って行きます。
皆が勝利に沸く中、白雪姫は思わずマーリンを抱きしめました。
映画『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』の感想と評価
韓国のCGアニメーション映画ですが、そのクオリティの高さには驚いたでしょう。そして海外マーケットを意識した英語版は、クロエ・グレース・モレッツほか豪華キャストの作品です。
本作は韓国の自国のコンテンツ産業を育成する準行政機関、韓国コンテンツ振興院主催の「2019大韓民国コンテンツ大賞」の、アニメーション部門最高賞大統領賞を受賞しました。
韓国映画や韓流ドラマを目にする機会が多い昨今、何か事情があると勘繰る声をよく聞きますが、韓国は自国産業育成の一環として映像・エンターテインメントに力を注いでいます。
それは製作や輸出の支援だけでなく人材育成など様々な分野に及び、ハリウッドでのアカデミー賞受賞や”BTS(防弾少年団)”に代表されるK-POP人気など、大きな成果を出しています。
国策として行われる活動には負の面も存在しますが、対する日本のコンテンツ産業に対する姿勢は、製作現場や人材育成の環境への支援体制を比較すれば、韓国から学ぶべき点もあるかと思います。
少なくとも日本の知的財産戦略推進事務局が唱える、「クールジャパン戦略」は本当に機能しているのか検証も必要です。実際映画など日本製コンテンツは海外で売れないものも多く、ガラパゴス化が進行しているとも言われ続けています。
そんな中で、世界的ヒットを記録し躍進中の作品が『鬼滅の刃 無限列車編』(2020)。これが必然の結果が偶然の現象にすぎないのか、冷静に判断する姿勢も必要でしょう。
国際市場を意識したCGアニメ映画
堅い話になりましたが、ハリウッド映画にしか見えない韓国CGアニメ映画が誕生した背景として解説させて頂きました。
そんな映画を作ろう、と企画してもスキルを持つ人物が必要です。韓国で実績を積んだホン・ソンホ監督と、ディズニー&ピクサー映画のキャラクターデザインを行ったキム・ジンの参加がそれを可能にしました。
本作はおとぎ話をベースにした、ディズニーが得意とするお話です。7人のこびとは「アーサー王伝説」からマーリンとアーサー、「ジャックと豆の木」からジャック、「ピノキオ」からピノ・ノキ・キオが登場しています。
料理自慢のハンスは、お菓子の家が登場する「ヘンゼルとグレーテル」由来でしょうか(ハンスの愛称がヘンゼル)。童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの名に由来している説もありますが、彼のキャラは他の王子に比べ弱いように感じられます。
ジーナ・ガーションが演じた魔女レジーナは、本作と同じくおとぎ話の世界をごった煮に描いたドラマ『ワンス・アポン・ア・タイム』(2011~)のメインキャラクターの悪い女王、レジーナから頂いたのかもしれません。
『ワンス・アポン・ア・タイム』のレジーナは白雪姫の継母役です。このキャラクターが元ネタと考えて間違いない、と睨んでいますがどうでしょうか?
“容姿イジリ”は難しい時代になりました
世界的ヒットを目指し作られた、ファミリー向けCGファンタジー映画である本作は、実は大きなつまづきを経験しています。
2017年カンヌ国際映画祭の”ショーケース”でキャンペーンが開始された本作。ところがここで紹介された「太った白雪姫」の姿と宣伝コピーが物議を呼びました。
「太った白雪姫」は、子供たちに太っていることは醜いとのイメージを与えるものだ、との反発が巻き起こります。ディズニー映画のパロディとの印象も、悪い印象を与える方向に作用します。
クロエ・グレース・モレッツは、当初本作は外見にもとづく差別=ルッキズムをテーマにしていると声明し、本作擁護の姿勢を取ります。しかしこの段階では世間に映画の具体的内容を伝える術はありません。逆にルッキズムを助長するものだとSNSを中心に激しく炎上します。
こうなっては誰も、どうする事もできません。クロエ・グレース・モレッツもこの広告に関しては知らなかった、実際に見て愕然としたと語り、その内容には怒りを覚えたと表明し批判の姿勢に転じました。
結局製作会社はこの広告キャンペーンを中止しました。本作はルッキズムを風刺し、内面の美しさの重要性を伝えるファミリー映画だと説明しつつ、誤解を招いた宣伝展開を深く後悔していると謝罪します。
その後2019年7月の韓国公開を皮切りに全世界で公開されましたが、宣伝初期の段階での失敗、それどころが悪い印象を与えた結果、興行をは厳しい結果になった事実は否めません。
まとめ
おとぎ話の世界を現代的にアレンジし、ディズニー&ピクサー映画に負けない内容のCGアニメ映画にした『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』。
子供に安心して見せれる、そして親も楽しめる映画だと安心してお奨め出来ます。なのに宣伝でその真逆のイメージで受け取られたのは、痛恨のミスだったと言わざるを得ないでしょう。
韓国映画界が世界市場に通用する作品として製作したと紹介しましたが、現実には厳しい結果を招きました。国際市場をターゲットにした作品の宣伝展開の難しさを語る、一つの事例と言って良いでしょう。
日本でも女性芸人の容姿イジリの是非が話題となりました。ルッキズムは問題ですが、意識するあまり表現が委縮する、また炎上を恐れ微妙なテーマは取り上げない姿勢は、かえって差別的状況を生む事態も生みかねません。
映画に限らず、人の暗い面を描くことで語れる物語があり、それに触れることで人は成長の機会を得るものです。ジャンル映画を愛する者として、表現者に対しては可能な限り寛容でありたい、自身の正当性アピール目的での批判は避けたいと考えます。
そういう意味では「未体験ゾーンの映画たち」をご覧になる方は、様々な映画に対し恐ろしく広い心の持ち主でしょう。ゾンビ映画にモンド映画、そして『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』まで鑑賞できる寛容な私を、誰かホメて下さい。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回第36回は西洋おとぎ話に続いて「未体験ゾーンの映画たち」に、東洋を代表する偉大なファンタジー作品が登場!『孫悟空vs猪八戒』を紹介します。お楽しみに。
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