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映画『ビューティフル・カップル 』ネタバレ感想とレビュー評価。復讐の心理に潜む被害者の尽きない苦しみ|未体験ゾーンの映画たち2020見破録27

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第27回

世界各国の様々なジャンルの映画を集めた、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて実施され、一部作品は青山シアターにて、期間限定でオンライン上映で紹介されます。

2019年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。

今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第27回で紹介するのは、強姦事件の被害者の葛藤を描いた作品『ビューティフル・カップル 復讐の心理』

B級映画ファンなら、”レイプリベンジもの”という映画ジャンルの名を、聞いたことがあるかもしれません。性暴力の被害者が逆襲に転じ、卑劣な加害者に制裁を加える、勧善懲悪の形を借りてエロスとバイオレンス要素満載した、悪趣味娯楽映画の代表と言えるジャンルです。

しかし現実は、映画のように単純ではありません。かつて被害に遭い、時間をかけて傷を癒したかに夫婦が、ある日突然犯人と再会してしまう。そんなリアルな設定の基に、人間の心の動きを描いたドイツ映画が誕生しました。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

映画『ビューティフル・カップル 復讐の心理』の作品情報


(C)ONE TWO FILMS / ARSAM INTERNATIONAL / WESTDEUTSCHER RUNDFUNK KOLN / ARTE 2018

【日本公開】
2020年(ドイツ映画)

【原題】
Das schonste Paar

【監督・脚本】
スベン・タディッケン

【キャスト】
マクシミリアン・ブルックナー、ルイーゼ・ハイヤー、ヤスナ・フリッツィ・バウアー

【作品概要】
バカンス先で、強姦事件の被害者となった夫婦が、2年後に偶然犯人と再会し、復讐と忘却の間で揺れる姿を描くサスペンス映画。監督・脚本は、『パイレーツ・オブ・バルティック 12人の呪われた海賊』のスベン・タディッケン。前作『熟れた快楽』で、中年男女の性的な問題を取り上げた彼が、今回も微妙な問題にあえて挑み、完成させた作品です。

主演はドイツ映画祭2008で上映された、日本を舞台にした映画『HANAMI』に出演、以降数々の映画・ドラマで主演を務めるマクシミリアン・ブルックナー。そして『ぼくらの家路』のルイーゼ・ハイヤーは、本作の演技でドイツにアカデミー賞にあたる、ドイツ映画賞主演女優賞にノミネート、そしてドイツで最も古いメディア関連の賞、バンビ賞の最優秀女優賞を獲得しました。

ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。

映画『ビューティフル・カップル 復讐の心理』のあらすじとネタバレ


(C)ONE TWO FILMS / ARSAM INTERNATIONAL / WESTDEUTSCHER RUNDFUNK KOLN / ARTE 2018

スペイン・マヨルカ島の保養地でバカンスを過ごす、マルテ(マクシミリアン・ブルックナー)とリヴ(ルイーゼ・ハイヤー)夫婦。開放的な気分になった2人は、人気のない夜の海辺の岩場で、裸になって戯れて楽しみました。

しかし崖の上に人影が現れたことに気付き、笑って衣服を身に付けます。その後他のバカンス客と同様にレストランで食事をし、夜が更けると夫婦は宿泊しているコテージに戻ります。

突然そこに3人の若者が押し入ります。マルテは現地の言葉で財布とカメラを渡すから、すぐに大人しく出て行けと説得します。するとドイツ語で話せと言ってきた乱入者たち。おそらく若者たちも、ドイツからの観光客でしょうか。

妻リヴを庇おうとするマルテの行動を反抗的と受け取り、より威圧的になる侵入者たち。中でも1人の若者はナイフを手に、危害を加えかねない態度で振る舞い、緊迫した空気が流れます。

その若者は夫婦に、さっきの続きをやれと命じます。彼らは2人の海辺での行為を目撃していました。屈辱的な指示に従い、裸になって抱き合うマルテとリヴ。

脅され怯え抱き合う2人の姿に、気まずい空気が流れます。すると指示した男は思ったより面白くないと言い放つと、マルテを引き離しその目前で妻をレイプします。

事が終わると彼は仲間と共に逃げ去ります。後には恐怖と屈辱に震える夫婦が残されていました。

2年後。同じ学校でマルテとリヴは、それぞれ生徒を指導していました。2人は同僚として、この学校で教師を務めていました。マルテは生徒に音楽を指導しています。

リヴはあの体験の後、専門家にカウンセリングを受けていましたが、今回で終了となります。専門家は最後に彼女の克服の努力を讃え、6週間後にその後の経過を報告するよう告げました。

一方マルテは仕事を終えると、ボクシンクジムで汗を流します。彼もまた過去の出来事に、自分なりに向きあっていました。

2人は帰宅すると、共にパソコンで仕事をします。それが落ち着くとリヴは、夫にセラピーが終了したと告げました。今後も一緒に支え合おう約束し、ぎこちなくもベットで愛し合う2人。

別の日、マルテは仲間と組んだバンドの一員として、ライブハウスで演奏していました。ステージを終え仲間と談笑ていたマルテは、1人外に出るとライブハウスの向かい側で営業する、ケバブ屋に入ります。

注文をした彼は、店内に若いカップルがいることに気付きます。その男がリヴを犯した人物に見えたのです。愕然とするマルテですが、カップルは全く気付いた様子がありません。

品物を受け取り店を出て行く2人。マルテは衝動的にその後をつけます。カップルは彼に全く気付きません。駅のホームまで2人を追ったものの、2人の乗りこんだ電車が動き出し、それ以上追うすべを失ってしまったマルテ。

ライブハウスに戻ったマルテは、バンドの仲間にたった今、妻をレイプした男を見たと話します。事件を知るバンドの仲間ベンは、そいつを叩きのめそうと言いいますが、無論今となっては何も出来ません。

その日帰宅した彼は、男を見たとはリヴに告げず、ただ激しく愛し合います。

次の日も夫婦は出勤し学校で授業を行いますが、マルテは授業が終わるとケバブ店に向かいます。昨日のカップルの特徴を伝え、彼らについて訊ねますが、身元に関する情報は得られませんでした。そこで駅のホームに座り、あてもなく男が現れないかと見張るマルテ。

それからもマルテは学校で授業を終えると、駅のホームを張り込む日々を続けます。帰宅した夫にリヴはどこにいたのか尋ねますが、彼は飲みに行ったと告げ誤魔化します。

友人宅の庭で開かれたバーベキューに招かれたリヴとマルテ。友人たちも夫婦を襲った事件を知っており、その後の苦悩を理解していました。

リヴは皆に事件とその後の心境について語り、夫は決して悪くないと話します。しかしその話題を持ち出されると、つい渋い表情を隠すことが出来ないマルテ。

妻に対して、他人にそこまで事件を語る必要はないと告げる夫に、カウンセリングをうけたリヴは、起きてしまった出来事に向き合い、受け入れることが大切だと語ります。しかしあの男を目撃して以来、マルテは平静な気持ちではいられなくなっていました。

この日も授業を終えると駅に向かい、ホームのベンチで採点していたマルテ。リヴから連絡が入り、荷物をまとめ引き上げようとします。

ところが目の前に、あの男が現れたのです。なんとか男が入った電車に乗り込み、気付かれないよう尾行を開始するマルテ。

マルテは電車を降りた男の後を追います。彼はマーケットで買い物を済ますと、とあるアパートに入りました。オートロックの玄関をどうにかすり抜け、男がエレベーターで4階に向かったと確認すると、マルテは必死に階段をかけ上がります。

手がかりを得ようと、4階にある部屋の表札をスマホで撮影し始めるマルテ。すると部屋からあのカップルが姿を現します。

2人をやりすごしたマルテは、強引にその部屋に入ります。中にはカップルの写真が飾られていましたが、そこに写った人物は、間違いなく妻を犯した男でした。悩んだ末に、その部屋に留まることを選んだマルテ。

やがて男だけが帰ってきましたが、マルテの顔を見て事態を悟った男は逃げ出します。その後を追い駆け出すマルテは、男に追いつくと殴りましたが、相手もマルテを殴り返すと公園のフェンスの向こうに逃れます。

男はマルテに、俺の人生を破滅させたら殺してやると叫びます。相手を捕まえられないと悟ったマルテは、やむなく家へと引き返します。そのマルテの後を、男が尾行していました。

帰宅した夫の傷付いた顔を見て、驚いたリヴにボクシングをした誤魔したすマルテ。連絡して現れなかった理由を聞かれ、バンド仲間のベンと会っていた嘘をつきますが、リヴはそのベンと会っていたのです。

当然リヴは夫の態度を疑い、女が出来たのかと詰問しますが、マルテは今は聞くなと告げます。妻に意見されても沈黙を守っていた彼は、意を決しレイプ犯を目撃したと妻に告げます。夫の口から経緯を聞かされると、セラピーで平静を取り戻したはずのリヴも大いに動揺します。

以下、『ビューティフル・カップル 復讐の心理』のネタバレ・結末の記載がございます。『ビューティフル・カップル 復讐の心理』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)ONE TWO FILMS / ARSAM INTERNATIONAL / WESTDEUTSCHER RUNDFUNK KOLN / ARTE 2018

夫婦は車に乗り、カップルの住むアパートに向かいます。車を玄関に止め見張っていると、あの男が現れました。車で後を付けた2人は問題の男サシャが、今はホームセンターで働いていると知りました。

リヴもサシャこそ、間違いなく自分をレイプした男だと確認しました。そして夫婦はその場を離れると、今後の対応について相談し、リヴの意見で警察に相談することにします。

しかしマヨルカ島の事件から月日がたち、証拠も少なく相手を逮捕できる可能性か僅かでした。仮に罪に問えたとしても、相手は事件当時少年だと扱われれば、重罪とはならないと聞かされ、警察を後にし帰宅した2人。

リヴは事件の後望んだ通りに、やはり忘れましょうと夫に告げますが、マルテは激しく拒絶します。奴は怖くないと言い対決を望む彼に、リヴは関わらないで欲しいと説得します。

翌日から夫婦は日常に戻りますが、心中穏やかでないのか、マルテの学校での指導は荒れたものになり、普段の彼を知る生徒を困惑させます。

一方リヴも専門家に再度会うと、改めてカウンセリグを受けます。この2年思い悩み、ようやく馬鹿な若い男が、旅先でハメを外しただけと考えることで、ようやく相手を許すことが出来たと語ったリヴ。

しかし犯人であるサシャと再会した後、平穏を取り戻したかにみえた彼女の心も、大いに乱されていました。カウンセラーも彼女に具体的な対応を聞かれても、警察の任せるしかないと答えるしかありません。

サシャをの存在を知ってから、夫婦の関係はギクシャクし始め、今後どうすべきか結論は出せません。ボクシングジムでマルテは思わず、リングで相手に怒りをぶつけてしまいます。

そんな折勤務先で、リヴは男から声をかけられます。彼は学校のホールの音響測定に現れた技師でした。男はリヴに測定作業を手伝って欲しいと頼み、彼女の銃を渡します。

彼女をホールのステージに立たせ、技師は空砲を撃たせて音を機器で計測します。銃を撃つ行為に奇妙な開放感を覚えるリヴ。

作業を終えた技師はリヴを誘いますが、彼女はそれを断ります。しかし彼にキスをしてからリヴは別れます。戸惑う男を後に残して去ったリヴは、自分の振る舞いが実に馬鹿げていたと自覚していました。

一方マルテはサシャの家を監視しを続け、共に暮らす若い女がカラオケバーに務めていると知ります。まだ明るい時間で客のいない店に入ったマルテは。カウンターにいたその女、ジェニー(ヤスナ・フリッツィ・バウアー)に話しかけます。

音楽劇「三文オペラ」を話題にして、ジェニーに付き合っている相手はいるかと、マルテは世間話を装い話しかけます。彼女はサシャについて話し出すと、同棲している彼が勤務地を理由に、急に引っ越したがっていて困っていると打ち明けました。

それを聞おて怒りが噴き出したのか、マルテは彼女に同棲相手は妻を強姦した男だと告白します。過去として割り切ろうとしたが、再びサシャに会って怒りを覚えたと訴える彼に、突然の話に動揺して、店から出て行くよう叫ぶジェニー。

別の日マルテとリヴは、満員のホールでオペラを鑑賞していました。しかしリヴは観劇の途中で席を立ち、会場を抜け出しました。

後を追ってマルテもホールに出ます。夫に対し自分たち夫婦以外の全ての観客が、劇を楽しんでいる姿に、つい耐えられなくなったと打ち明けます。

2人でロビーで話すうちに、マルテは強姦犯の同棲相手、ジェニーに会ったと告白します。予定外の行動だったと釈明しますが、それを軽率な行動だと責めるリヴ。

平穏を取り戻すことを願うリヴと、もはや何もなかったふりは出来ないと考えるマルテ。2人の異なる考えは平行線のままでした。リヴは夫を残し1人で帰宅します。

ところが家にはサシャがいました。彼もまたマルテを付けて夫婦の自宅を知っていました。悲鳴を上げようとするリヴを、サシャは落ち着けと脅します。あんたの夫がジェニーに話したおかげで、自分はもう終わりだと言い、二度と関わるなと告げ去ったサシャ。

夫が帰宅したとき、リヴは荷物をまとめて出て行こうとしていました。驚くマルテに彼女は、なぜあいつがこの家を知っているの、と訴えます。

話を聞かされたマルテは怒り、直接相手と対決しようと考えて、妻と車に乗り込みます。サシャの姿を探し求めたあげく、夫婦はジェニーが働くカラオケバーに乗り込みます。

そこでマルテとリヴは、サシャとジェニーを見つけました。こうして2組の男女は直接対決することになります。自首するよう夫婦に追求されるサシャに対し、なぜレイプのような愚かしい行為を行ったのかと責め立てるジェニー。

あの時は酔っていた、何となくしただけだと告白したサシャ。怒ったマルテは彼に掴みかかり、2人の男は殺気立ち、パートナーの前で乱闘を始めます。このままではどちらかが殺されかねない争いとなり、やがてサシャはマルテに馬乗りになって首を絞めます。

店にあったナイフを掴み、思わずサシャの肩口付近に刺したリヴ。体に突き刺さったナイフを見て、一同は呆気にとられます。ジェニーはサシャに駆け寄り、マルテとリヴは無理にナイフを抜かず、このまま病院に向かうべきだと判断します。

後部席にサシャと寄り添うジェニーを乗せ、夫婦は車を走らせます。4人の乗る車の中は、奇妙な雰囲気に包まれていました。

病院に到着すると、夫婦はサシャを医師に引き渡します。治療室に運ばれる彼にジェニーが付き添い、残された2人は看護師から、適切な対応をしてくれたと告げられました。

患者のためにも連絡先を教えて欲しい、と語る看護師に対して、何も告げることなく病院を後にしたマルテとリヴ。

車の中でも、自宅に着いてからも夫婦は沈黙したままでした。突然コップを手にとり、壁に叩きつけて割るマルテ。リヴもビンを掴むと、同じようにして砕き割ります。

順番に次々と家具を壊してゆくうちに、何故か大きな声で笑い始める夫婦。大きな家具も壊し始め、部屋の中は無惨な姿になっていきました。

あらゆるものを壊し、吹っ切れたかのように笑い続ける夫婦。2人は笑ったまま、乱れた部屋の中で抱き合いました…。

映画『ビューティフル・カップル 復讐の心理』の感想と評価


(C)ONE TWO FILMS / ARSAM INTERNATIONAL / WESTDEUTSCHER RUNDFUNK KOLN / ARTE 2018

際どいテーマをあえて取り上げる

参考映像:『熟れた快楽』予告編(2016年製作)

何とも重い、困惑すら覚えるテーマに踏み込んだ作品です。監督・脚本のスベン・タディッケンの前作、『熟れた快楽』は日本では劇場未公開ですが、DVDや配信動画で鑑賞可能な作品です。

いかにもエロ映画、どちらかと言えば文芸エロ映画?、を思わせる邦題を与えられた『熟れた快楽』ですが、中高年の性への渇望や虚無感を歪んだ形で描き、神への信仰と重ね、悩める現代人の姿として捉えた意欲作です。

DVやポルノ中毒といった、様々な男女間に横たわる問題を描く監督が、今回本作でテーマに選んだのが性暴力の被害者でした。この映画は実際の事件や被害者の告白を基にした物語ではなく、あくまで創作した物語であると、監督はインタビューに答えています。

そして監督が描きたかったものは、事件の記憶というトラウマへの対処であり、男女における向き合い方の違いでした。冒頭の忌まわしい事件から2年が経過し、平穏を取り戻したかに見えてから、映画のタイトルが表示されるのは、テーマを明確に示すための方法でした。

リサーチを重ねた上で創作


(C)ONE TWO FILMS / ARSAM INTERNATIONAL / WESTDEUTSCHER RUNDFUNK KOLN / ARTE 2018

映画の製作の前に、性犯罪被害者のカウンセリングセンターを訊ね、またこの件に関する様々な文献に触れ、リサーチを重ねたタディッケン監督。

事件で大きな傷を受けた後、恐る恐る関係を修復していた夫婦。リヴは何とか人生を取り戻し、これからの人生に価値を見出そうとします。しかし妻を守れなかった自責の念から、逃れられないでいたマルテの衝動は、強姦犯と出会ったことで爆発します。

映画は男性の「マッチョイズム」の負の側面を、シビアに描いています。マルテの反応だけでなく、酔った上で強盗を行ったサシャが、衝動的に強姦を行う姿にも現れています。監督はそれを描写することに、大きな関心をもっていたと語っています。

そんな男の愚かな行動を本作は否定せず、共感と問題提起を与える形で描いています。この映画は描きたかったものは、経緯の説明でも贖罪でもないと語るタディッケン監督。事件の記憶が引き起こす登場人物の、人間的な反応を鋭く表現しています。

監督は演技を引き出す為に、脚本を読んだ俳優にアイデアを出させて、人物描写の微妙な部分を高めていきました。リヴのセラピーシーンに満足していなかったルイーゼ・ハイヤーには、彼女自身にセリフを書かせ、それを生かす形で撮影をしています。

冒頭のシーンやラストシーンなどは最少人数のスタッフで臨み、俳優が演技に専念できる環境を用意し、緊密な関係を保ちながら難しいシーンを撮影したと語っています。

まとめ


(C)ONE TWO FILMS / ARSAM INTERNATIONAL / WESTDEUTSCHER RUNDFUNK KOLN / ARTE 2018

深刻なテーマに臆することなく、正面から向き合った映画が『ビューティフル・カップル 復讐の心理』です。いわゆる”レイプリベンジもの”との違いが、お判りいただけたでしょうか。

ラストシーン、映画が見せた問題への決着の付け方を、「文芸的」だと感じる方もいるかもしれません。しかし勧善懲悪敵に加害者に制裁を加える物語こそ、いかにもフィクション的な解決法と言うべきでしょう。

登場人物を苦しめたものは恨みではなく、事件が残したトラウマです。それに心をかき乱され、苦しんだあげく、衝動に駆り立てられつき動かされていきます。

そして同時に、過去に向き合うという困難を経て、それでも成就を目指すラブストーリーでもある本作。監督自身も登場人物が、愛のために闘う姿は美しいと語っています。

スベン・タディッケン監督は深刻かつ過激、さらに変態的なテーマを扱っているようで、実は相当なロマンチストです。この映画に登場する、”ビューティフル・カップル”の揺れ動く姿に注目してご覧下さい。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…


(C)Live Stock Films Ltd MMVI

次回の第28回はニュージーランドが産んだ、伝説の珍作アニマルパニック映画『ブラックシープ』を紹介いたします。

お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

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