伝説の反逆者ネッド・ケリーの新たな実像に迫る
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』が、2021年6月18日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開予定です。
19世紀のオーストラリアに実在した犯罪者で、伝説的英雄として称えられるネッド・ケリーを新たな切り口で描き、イギリスで最高権威の文学賞とされるブッカー賞を受賞した同名原作を映画化。
不当な権力と差別に抗った、史上最もパンクな男の生涯に迫ります。
CONTENTS
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』の作品情報
【日本公開】
2021年(オーストラリア・イギリス・フランス合作映画)
【原題】
True History of the Kelly Gang
【原作】
ピーター・ケアリー著『ケリー・ギャングの真実の歴史』(早川書房)
【監督】
ジャスティン・カーゼル
【脚本】
ショーン・グラント
【製作】
ポール・ランフォード、ジャスティン・カーゼル、リズ・ワッツ、ハル・ボーゲル
【撮影】
アリ・ウェグナー
【編集】
ニック・フェントン
【キャスト】
ジョージ・マッケイ、ニコラス・ホルト、ラッセル・クロウ、チャーリー・ハナム、エシー・デイヴィス、ショーン・キーナン、アール・ケイヴ、トーマシン・マッケンジー
【作品概要】
19世紀のオーストラリアに実在したネッド(エドワード)・ケリーの生涯を綴り、イギリスで最高権威の文学賞とされるブッカー賞を受賞した同名原作を映画化。
腐敗した権力に屈することなく兄弟や仲間たちと“ケリー・ギャング”を結成、国中にその名を轟かす英雄としてのみ語られていたネッドの、等身大の姿が明かされます。
ネッド役に、『1917 命をかけた伝令』(2019)の主演で注目を集めたジョージ・マッケイ。そのほか、ブッシュレンジャー(盗賊)のハリー・パワー役にラッセル・クロウ、ネッドを執拗に追い詰める警官フィッツパトリック役にニコラス・ホルト、横暴を尽くす警官役にチャーリー・ハナムらが扮します。
マイケル・ファスベンダー主演の『マクベス』(2015)、『アサシン クリード』(2016)の2作を続けて手がけたジャスティン・カーゼルが監督を務めます。
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』のあらすじ
19世紀、オーストラリアビクトリア州の東部。貧しいアイルランド移民の家庭に育ったネッド・ケリーは、元罪人の父レッドの代わりに、幼い頃から母エレンと6人の姉弟妹を支えてきました。
しかしレッドの死後、生活のためにエレンは、ネッドを山賊のハリー・パワーに売りとばしてしまいます。
ネッドはハリーの共犯として、10代にして逮捕・投獄されてしまうことに。
出所したネッドは、娼館で暮らすメアリーと恋に落ち、家族の元に帰るものの、横暴なオニール巡査部長、警官のフィッツパトリックらが、難癖をつけては投獄しようとします。
権力者の貧しい者への横暴、家族や仲間への理不尽な扱い。自らの正義、家族と仲間への愛から、ネッドは弟らや仲間たちと共に“ケリー・ギャング”として決起し、国中にその名を轟かす反逆者となっていきます……。
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』の感想と評価
オリンピック開会式にも登場した“ならず者”
本作『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』は、19世紀のイギリス植民地下のオーストラリアに実在した人物、ネッド(エドワード)・ケリーが主人公です。
不当な権力に反旗を翻すべく、弟のダンやジョー・バイアン、スティーブ・ハートら友人と、通称“ケリー・ギャング”と呼ばれるブッシュレンジャー(強盗団)を結成。
女性用ドレスを着て全身を甲冑で包み、銀行や富裕層を襲撃する一方で、貧しい民衆には手を出さず、殺人も極力行わなかったとして、ならず者でありながら、“オーストラリアのロビン・フッド”として義賊・英雄扱いされてきました。
彼らが最後に捕まったメルボルンにある町グレンロアンが人気の観光地となっていたり、2000年のシドニー・オリンピックの開会セレモニーでは、ケリー・ギャングを模した四角い黒鉄兜を被ったパフォーマーが登場したことからも、オーストラリアでの認知度の高さが伺えるというもの。
当然のごとく、ケリー・ギャングを描いた映画もこれまでに11本作られており、その中にはザ・ローリング・ストーンズのミック・ジャガーが『太陽の果てに青春を』(1970)で、ヒース・レジャーが『ケリー・ザ・ギャング』(2003)でネッドを演じています。
シドニーオリンピック開会セレモニーでのケリー・ギャング(45分頃から)
二面性とアナーキーさを纏った新たなギャング像
そして今回、日本公開されるネッドが主人公の12作目『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』は、過去の映画化作品とは異なるアプローチで描かれています。
前科のある父レッドとアイルランド系流刑民の母エレンのもとで育った12歳のネッドは、その境遇から周囲からの差別や虐待に耐える日々を送っていた――という設定は過去作にも共通していますが、本作が着目するのが、登場人物たちが抱える二面性です。
所在のない夫への愛情が枯渇してしまったエレンは、息子ネッドに「立派な男になれ」と説き続け、家長になるよう強要します。
しかし夫の死を機に生活が困窮するあまり、ネッドを山賊のハリー・パワーに、金で売り飛ばしてしまうのです。
あまりにも非情なのは確かですが、一方では息子を立派な男にするため故の親心、と見えなくもありません。
原作である、ネッドと同じビクトリア州生まれの作家ピーター・ケアリーによる『ケリー・ギャングの真実の歴史』でも中心となっていた優しくも歪んだ母子関係を、映画版ではより強めて描いています。
誰も信用できない弱肉強食の世界を“男らしく”生き抜くため、ハリーによって徹底したマッチョイズムを叩き込まれて成長するネッド。
青年となった彼はやがて、刑務所で出会ったジョー・バーンズと行動を共にしますが、その関係はホモセクシュアルなニュアンスを漂わせます。
もう1人、ネッドの前に現れるのが悪徳警官のフィッツパトリック。
ジャン・バルジャンを追い続けるジャヴェール警部のように、ビリー・ザ・キッドと対峙するパット・ギャレットのように、ならず者のネッドに執拗な嫌がらせをするフィッツパトリックですが、その行動原理には明らかにネッドの“男らしさ”への陶酔があります。
この、マッチョイズムとホモセクシュアルの二面性を備えたネッド率いるケリー・ギャングは、英雄の要素や義賊的な行いも描かれないばかりか、若者たちの成長譚にもなっていません。
そもそもギャングたちが纏う女性用ドレスは、ネッドの父レッドの服装倒錯に想を得ています。
女性を象徴するドレスに男性らしさを誇示する甲冑という、まさに二面性を纏った若者たちがアナーキーかつパンクに暴れる――この点でも、本作が異色であることがお分かりになると思います。
パンクといえば、監督のジャスティン・カーゼルは、残されている実際のケリー・ギャングの写真を見て「初期のACDCやザ・セインツ、ザ・バースデイ・パーティのような雰囲気」を感じ取り、ネッド役のジョージ・マッケイを筆頭とするギャング役の俳優4人に、役作りとしてなんとパンクロック・バンドを結成させ、実際に観客の前で演奏させたそう。
この点からは、ロックミュージシャンのミック・ジャガーもネッド役を演じていたという奇縁を感じるも、いずれにせよ、バンド経験を経て身も心も一体となったジョージら4人は、演奏翌日から始まった撮影も自然に行うことができたといいます。
まとめ
「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング」というタイトルを冠しながら、冒頭で「この物語に真実は含まれていない」とテロップが出る本作。
過去の映画化作品で構築されたネッド・ケリー像にクエスチョンを投げかけ、史上最もパンクな犯罪者という新たなネッド・ケリー像を創造。
しかし、本作のネッドが、本当に真実のネッドなのかは分かりません。
彼は伝説的英雄か? それとも狂った殺人犯か? 見極めるのはあなたです。
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』は、2021年6月18日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、新宿シネマカリテほか、全国順次公開予定。