連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第41回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第41回の映画『箪笥』は、韓国ホラーの定番ともいえる、古典怪談「薔花紅蓮伝(そうかこうれんでん)」がベースになっている作品です。
「薔花紅蓮伝」は容姿端麗、頭脳明晰な姉妹が、性悪な継母からの虐待の末に死亡し、亡霊となって恨みをはらしていく話です。
さて、深夜にふと押し入れやクローゼット、箪笥(たんす)に気配を感じて、怖くなったことはありませんか? 本作はタイトル通り、“箪笥”がキーワードのホラー映画です。
ストーリーはソウル郊外の古い洋風な豪邸に、長期療養を終えた姉妹とその父親が帰ってきます。姉はスミ、妹はスヨンといい、父親の再婚相手との生活が始まるところからスタートします。
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映画『箪笥』の作品情報
【公開】
2003年(韓国映画)
【原題】
A Tale of Two Sisters
【監督/脚本】
キム・ジウン
【キャスト】
イム・スジョン、ムン・グニョン、ヨム・ジョンア、キム・ガプス
【作品概要】
映画『箪笥』は2003年韓国で公開されると、ハリウッドの巨匠スティーブン・スピルバーグが、当時の史上最高額でリメイク権を獲得し話題となりました。
監督を務めたキム・ジウンは、アーノルド・シュワルツェネッガーの俳優復帰作『ラストスタンド』(2013)で、ハリウッドデビューも果たし、韓国の名優ソン・ガンホ主演の映画『密偵』(2016)など、話題作を手がけています。
継母役は映画『完璧な他人』のヨム・ジョンアが務め、その強烈な演技は本編から、衝撃的なラストに重要な意味を与えます。
映画『箪笥』のあらすじとネタバレ
「あの日あったことを話してくれないか?」と医師が語りかけると、ずっとうつむいたままだった少女は静かに顔をあげ、白い光の射す窓に目を向けます。
ソウル郊外の古い屋敷に到着したムヒョンは後部座席で眠る娘に、家に着いたと声をかけます。
しばらくして車を降りた2人の娘は屋敷を見上げますが、懐かしみ喜ぶわけでもなく、すぐには中に入らずに近くの湖の桟橋で素足を水にさらしていました。
スミとスヨンの姉妹は仲が良く、強気で利発的な姉スミは、気弱でおどおどしてる妹スヨンをいつも気にかけています。
姉妹はムヒョンに呼ばれ家に帰ると、2人を出迎えたのは若くて美しい継母ウンジュです。彼女は退院してきた姉妹を歓迎するため、掃除や料理の下ごしらえをしたと、テンション高く語ります。
ウンジュはスヨンの顔を見ると「体調はよさそう……ママに似てきた」と言います。そんなウンジュを快く思わないスミは、スヨンの手をぎゅっと握り、彼女をにらみつけ2階へ上がっていきます。
スミは自分の部屋に行き持参した本と日記帳、ペンをライティングデスクにしまうため、天板をおろすと中には全く同じセットが置いてありました。
さらに箪笥の扉を開けると中には、同じ服が何着も下がっていて驚きます。一方、ウンジュはムヒョンの着替えをもって、浴室へ行くと奇麗に畳まれた着替えがすでに用意されています。
ムヒョンは書斎で誰かと電話で「あまりいい状態ではない」と話し、ウギョン夫婦が来ることになっていると言います。
夕食時、ウンジュは週末に弟ウギョン夫妻を呼ぶと提案します。ムヒョンは何も言わず食事を終え席を離れました。
彼がいなくなるとウンジュは、パパの下着を用意したのはスミかと聞くと、スミは何十着もの同じ服をそろえたのは、ウンジュかと聞きます。
そこへ“薬”を持ってきたムヒョンが、それをウンジュの目の前に置きます。
スミは週末の件は同席しないと告げ、席を離れるとウンジュは残ったスヨンに「お前は行かないの?」と聞き、スヨンは後を追いました。
スミはスヨンに“あの女”に何か言われたかと聞きます。スヨンは首を振りスミは何か言われたら、黙っていないで全部自分に伝えるよう言います。
ウンジュは小鳥を2羽飼い、可愛がっています。鳥籠に布をかぶせると就寝の準備をし、寝床に入ります。
寝室に来たムヒョンはウンジュを見ると、少し戸惑うように彼女の隣りで横になりますが、しばらくすると寝室を出て、書斎のカウチベッドで横になりました。
ウンジュは2階を走る足音を聞いて目覚め、スヨンも物音で目が覚めると、部屋のドアが開き誰かの手が忍び出てくるのを見ます。
スヨンは怖くなり布団をかぶって寝てしまいますが、今度はその布団をひっぱられます。驚き起き上がりますが誰の姿もなく、廊下から走り去る音だけが聞こえました。
スヨンがスミの寝床に入り込むと、スミは目を覚まし、怖がるスヨンをなだめます。スヨンは「誰かが私の部屋に入ってきた」というとスミの表情が険しくなります。
スミが階下へ行くと居間のテレビが砂嵐のまま点き、書斎で寝ている父親の毛布を掛け直していると、無表情のウンジュが現れます。
スミは冷蔵庫の水を飲んでいると、異臭を放つ魚の残骸が出てきて驚き、居間の方を見ると、ソファに座るウンジュは一瞥し、砂嵐のテレビを黙って眺めていました。
寝室に戻ったスミにスヨンは「私の部屋に来たのは誰?」と聞くと、“あの女”と答えますが、「どうも変なの・・・あの女もこの家も」と、つぶやきます。
映画『箪笥』の感想と評価
映画『箪笥』は思春期の少女に突きつけられた、“大人の事情”や配慮に欠けた思いやりが、“誤解”を生み深い傷となって、主人公スミを苦しめる話しでした。
複雑に入り組んだスミの精神状態を映像で表現すると、本作のように“唐突”に転調したり、人が急に消えたり現れたりとなるのです。
現実に見えているのは、スミと父親のムヒョンだけで、スミは見えないスヨンと話し、ウンジュと争っていました。
精神的な病と彷徨う霊
つまり、姉のスミは「解離性同一性障害」と「統合失調症」の2つを発症していたと、考えるのがシンプルな見方です。
妹の死を受け入れられなかったスミは、その死が自分の意固地のせいだという“後悔”と、好意のないウンジュへの悪意から、妹の死は彼女のイジメによるものと記憶を変換します。
そして、ウンジュがスミに言い放った「この瞬間を一生、後悔する」という言葉は、人の心に巣くった呪いの言葉として、スミを呪縛しました。
そして、スミが考えるウンジュのイメージが、人格となって彼女の心に誕生させたのです。
一方、妹のスヨンは自分が死んでいたことにも気づかず、現存している感覚でした。
したがって、スミが優しい姉だったり、ウンジュの人格が出てる時は虐待されたりと、霊でありながら、姉の豹変ぶりに困惑をしていたと想像できます。
その良い例が「スヨンからもパパに話して!」と言われても、スヨンからみたら虐待は、スミの行動だったので言い出すこともできません。
しかも父親からは「スヨンは死んでいる」と、告げられ本当に浮かばれませんでした。
つまり、スヨンがおどおどしていたのは、そういう理由です。霊であることにも気づかず、姉の心の病を案じ、虐待されながらも、自から気づいてくれることを願っていたのでしょう。
母の霊も宿っていた?
スミとスヨンの母は病弱のため、都会から離れた郊外の屋敷で暮していたのでは?と連想させます。
しかし、仕事で多忙な夫は仕事を優先し、妻に寂しい思いをさせたでしょう。そして、時々家を訪れる若くて美しい同僚の存在で、夫への不信感、疑心暗鬼から、心も病んでしまったのではないかと想像させます。
もし、持病で苦しんでいる時に心身共に健康で、若く美しい女性が現れたら・・・例えそれが妄想で誤解であったとしても、生きている意味を見いだせなくなり、自死へと追い込まれてしまうでしょう。
母の死は絶望の末と考えるのが自然ですが、逆に子供たちにとっては若くて健康な母親の方が・・・という、母親の想いが込められた「死」と、とらえらることもできます。
ムヒョンはスミに「おまえは誤解している」と言っていますが、子供には理解できない、大人の事情や思い込みの愛情から選んだ再婚が、悲劇に導いたともいえるでしょう。
スミに母の霊が憑りついていたら、夫の下着を用意したり、書斎で眠っていれば毛布をかけ直すこともします。
スミにウンジュの人格が出ているときは、現妻としての躍起になる気持ちとなり、母の霊が憑依した時には、かつて健全だった時の夫婦のまま、接していたと見れます。
夫への変わらぬ愛はスミの身体を介しながら、ウンジュと競っていたのではないでしょうか?
そして、ウンジュの犯した罪で、スミが苦しむことになったことは明白で、母として彼女の行為は許されません。最後は母の霊によってウンジュは……。
まとめ
映画『箪笥』は母が自死したショックと、妹の命を守れなかった自責の念に苦しむ姉の精神に迫ったホラー映画でした。
大切な家族の死はそれだけでも精神的なダメージを与えます。それに加えて身近な人間を敵に回したがために、大切な家族を守れなかったという後悔を生みました。
本作のベースとなった「薔花紅蓮伝」は継母の虐待によって、姉妹が死に追いやられますが、この作品は継母が義理の子供から、意地悪や悪態をされその恨みから、不幸へ向かう話でした。
姉妹の母は自死したことで、2人の娘を不幸にしてしまいました。そして、ウジョンは自分だけでなくスミをも病にしました。妻として母として彼女のことは許せずにいたはずです。
最後に本物のウジョンが体験した心霊現象は、母の怨念が招いたものでしょう。
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