連載コラム「B級コラム映画 ザ・虎の穴ロードショー」第36回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第36回は、監督が演出を務めた、映画『ウィッシュ・ルーム』です。
願いを叶える部屋を手に入れた夫婦が、次々に望むものを手に入れていきますが実はその部屋で手に入れたものは外に持ち出せないということが分かり、次第に追い詰められていくというサスペンススリラー作品です。
国内劇場未公開作品ですが、設定を生かしたスリルと後味の悪さが好きな人には楽しめるだろう映画となっています。
『007 慰めの報酬』のオルガ・キュリレンコが美貌を披露するシーンもあるので大注目です。
それでは、サスペンススリラー映画『ウィッシュ・ルーム』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介いたします。
【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら
映画『ウィッシュ・ルーム』の作品情報
【公開】
2019年(フランス、ルクセンブルグ、ベルギー合作映画)
【監督】
クリスチャン・ヴォルクマン
【キャスト】
オルガ・キュリレンコ、ケヴィン・ヤンセンス、ジョシュア・ウィルソン、ジョン・ブラインダーズ、フランシス・チャップマン
【作品概要】
監督のクリスチャン・ヴォルクマンはフランスの映画監督で、過去作品にモーションキャプチャーアニメーション映画『ルネッサンス』(2006)で注目を集めた人物です。
声優にダニエル・クレイグやトニー賞俳優であるジョナサン・プライス等が出演し、フランスで行われる最大規模のアニメの祭典である、アヌシー国際アニメーション映画祭で長編映画作品賞を受賞した作品です。
本作の妻ケイト役を務めたのは、『007 慰めの報酬』(2008)に、ボンドガールとして出演したオルガ・キュリレンコです。
夫のマット役を務めたケヴィン・ヤンセンスは、ベルギー出身の俳優で、『REVENGE リベンジ』(2017)やオリヴィエ・グルメ主演の『ビヨンド・ザ・ロウ』(2017)などに出演しています。
映画『ウィッシュ・ルーム』のあらすじとネタバレ
ニューヨーク州の北部スプリングウェル郊外に引っ越してきた夫婦のケイト(オルガ・キュリレンコ)とマット(ケヴィン・ヤンセンス)。
古い大きな家を購入した2人は、前の居住者がそのままにしていた家具や荷物を片付けていたところ、大きな鍵の着いた部屋を見つけます。
その部屋に入ると、電気が点滅したり部屋中にコードが張り巡らされていてとても不気味な雰囲気が漂っていました。
電気会社の作業員が見に来てくれたものの、その部屋には触らない方がいいと言われてしまいます。しかも、その家では前の所有者が殺されたのだと教えられます。
マットが昔のニュースを調べると、前の所有者夫婦はその家でとある男に殺されていました。しかもその男は逮捕されたもののいまだ身元が判明していないといいます。
マットは例の隠し部屋で「もう1本ほしい(酒を)」と呟くと、目の前に酒のボトルが出現します。その部屋は願ったものが手に入る不思議な力を持った部屋だったのです。
マットは本物のゴッホやセザンヌの絵画を願い、手に入れます。ケイトが1,000ドル欲しいと願うとその部屋から紙幣が出現します。
今度は100万ドルを願うと、札束が目の前に現われました。はじめは不気味がっていた2人でしたがせっかくだから楽しもうと開き直り、豪華な食事やドレスなど次から次へと手に入れます。
すっかりセレブ気分を味わうケイトとマット。部屋で大金や宝石にまみれてお酒を飲みセレブ気分を楽しみました。
しかし、ひとしきり楽しむとケイトは虚しさを感じるようになります。そんなケイトにまた子作りをしようと持ち掛けるマット。2人は過去に子作りに失敗していたのでした。
2度の流産を経験したケイトは傷つくのを恐れて拒否します。そして、マットがいない間に例の部屋に赤ん坊が欲しいと願ってしまったのです。
紛れもない本物の赤ん坊を目の当たりにしたマットは、どうかしてると怒り、元に戻すようにケイトに言いますが、赤ん坊の姿を見て思いとどまりました。
マットは部屋のからくりを知るために、前の居住者を殺して逮捕されている男ジョン・ドゥ(身元不明人)に会いに施設へ行きます。
ジョン・ドゥは、会いに来たマットに「待っていた」と告げ、手遅れになる前にその家から早く出るようにと忠告しました。
なぜ夫婦を殺したのかという問いには「仕方なかった」と話します。
さらに、ジョン・ドゥは「満たされない人間より危険なのは、満たされすぎた人間だ」とマットに告げたのでした。
帰り道でガソリンスタンドに寄ったマットは、例の部屋で手に入れたお金で支払おうとしますが、紙幣は灰になって消えてしまいます。
例の部屋で作られた物は、家の外に出すと消えてしまうのです。
ケイトが散歩に行くと言って赤ん坊を外へと連れて行ってしまいました。泣きだす赤ん坊の体は、成長しながら焼けただれていきます。
家に連れ戻した頃には、赤ん坊の体は成長して少年の体になっていました。
シェーンと名付けた赤ん坊を外に出さずに教育するケイトでしたが、外に出ることができない苛立ちをぶつけるシェーンの反抗的な態度に手を焼いていました。
マットは部屋にこもり、例の部屋に描かれた模様を紙に描いたり、外で銃の練習をして何かに備えている様子です。
外に出れない鬱憤から、シェーンは例の部屋の中に外の空間を作り出します。危険だと言って恐れたマットはシェーンを自由にさせないようにケイトに言います。
そんな時、家にジョン・ドゥから電話がかかってきます。マットとケイトは、「人間が自由になるには、創造主を殺すのだ」と聞かされます。
つまり、ケイトを殺すことでシェーンは外の世界で普通の人間として生きていくことが出来るのです。
その事実を知ったケイトは動揺して車で家を飛び出します。
マットはシェーンに対して、お前は虚構で、人間ではないと責め立てます。しかし、情がわいているのも事実で落ち込むシェーンに対して謝るのでした。
一方ケイトは車で事故を起こそうとしたものの思いとどまり、帰宅します。
自分の命とシェーンの人生を天秤にかけ苦しむケイトをマットは慰めます。昔のように体を重ねる2人の様子をシェーンは部屋の扉の陰から覗いていたのでした。
映画『ウィッシュ・ルーム』の感想と評価
願いを叶える部屋という設定を生かした、ハラハラ感と薄気味悪さを楽しめる作品でした。
作中でも、謎の男ジョン・ドゥが言っていたように一番恐ろしいのは満たされない人間よりも、満たされすぎた人間ということが感じられます。
本作の物語のポイントは、シェーンが願いを叶える部屋の中に別の空間を作り上げたことといえます。
新たな空間を作ることが可能になったことで、一軒家の中だけで巻き起こるワンシチュエーションスのストーリーに広がりをもたせることに成功したのです。
この設定でいうと、望めば空想の世界や世界中のどんな国に行くことも可能ということではないでしょうか。しかし、本作の肝は夫婦がなによりも最も望んだものが、子どもだったという点でしょう。
映画の前半で、二度の流産を経験しているというのもこの夫婦にとっていかに子どもを持つことが、待望だったのかわかります。
だからこそ、部屋が作り出した赤ん坊を簡単に消すことはできずに苦しんでいたのでしょう。
そして、ラストシーンで妊娠が発覚した恐ろしさが、倍増するのです。
ようやく授かった子どもですが、生まれてくるのはシェーンなのかもしれないと考えることができます。
シェーンはあの部屋が作り出した存在とはいえ、2人の子どもがほしいと願ったことによって現われたからです。
また、ケイトはマットとセックスした次の日にシェーンに襲われました。身籠ったのはどちらの子なのか、という疑問も沸き起こります。
しかし、2度の流産を経て授かった子をおろすのもケイトにとってはきっと苦しい決断のはずです。そうなると、マットにあの家でシェーンに襲われた事実を伝えなければいけません。
決して考えたくないおぞましい想像を残して終わるところが本作の面白いところで、続編やスピンオフ作品も作れそうです。
まとめ
本作は、ワンシチュエーションスリラーや、後味の悪い映画が好きな人にはもってこいといえる作品だと言えます。
そして、なんでも手に入るとしたら何をする?という誰もが一度は考えるテーマをリアルに映像化して観ることができるのも、本作の面白いところでしょう。
はじめは望んだ「物」ならなんでも作れると言っていたのに、ほかの人物に化けることが出来るという設定が突然出てきたことで少し混乱しますが、その展開があることでハラハラ感は増します。
こういったシチュエーションスリラーには細かいことは置いておいたほうがきっと楽しめるのではないでしょうか。
【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら